鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

枝菊図目貫 後藤正房 Masahusa-Goto(Eijo) Kozuka

2012-06-29 | 鍔の歴史
枝菊図目貫 (鍔の歴史)



枝菊図目貫 銘 後藤正房(花押)

 栄乗の自身銘である。これまで後藤家の作例を紹介してきたが、自身銘はなかった。時代の下がった作ではみかけるのだが、十一代より古い作は少なく、初、二、三代には在銘作はない。それ故に在銘作は頗る貴重である。後に紹介するが、十三代光孝の極め銘の刻された栄乗作品がある。江戸時代後期には後藤の作品が尊ばれ、極めが必要とされたことは良く知られている。
 菊花図は古美濃や古金工でみかけるように、あるいは古い甲冑金具にも菊の文様があるように、伝統的な図柄の一つである。この菊を古典的な高彫で表わし、短冊を図の大きな要素として添えている。頗る雅な素材を武家の装飾の要としているところなどはさすがである。伝統を重んじる後藤栄乗の意識が窺い取れる作である。
 因みに、植物の枝に和歌を認めた短冊を添えるのは歌のお遣いとも呼ばれる伝統的な行事。宮中から出された御題に従って詠んだ和歌を短冊にして枝に結び、遣いを通じて宮中に贈るもの。七夕の頃の風習、あるいは流行といったほうが良いだろうか。この良い例が古美術雑誌『目の眼』の昨年(2011年)の8月号で紹介した「七夕と花による空間演出 花の遣い図小柄 後藤光文」である。