鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

虎の児渡し図小柄 後藤程乗・利壽・浜野政信

2009-12-13 | 小柄
虎の児渡し図小柄 後藤程乗・利壽・浜野政信          







虎の児渡し図小柄 利壽(花押)








虎の児渡し図小柄 紋程乗 光美(花押)


 瓢箪鯰図と同様、禅に関わる図として広く知られ、装剣小道具にも採られているのが虎の児渡し図である。二匹の温厚な児虎と、一匹の凶暴な児虎を連れた母虎が、川を渡る際にどのような順で運んだら、児虎が児虎に襲われずにすむであろうか、というような、現代のゲームにあるような話が題材となっている。一休禅師の頓知話でも知られるように、言葉を介した遊びやゲームが、古くから我が国において流行していたことの証しでもある。この問いに答えようとしたわけではないだろうが、図柄としての面白さを第一として、子を思う親のあり方、あるいは戦場における速やかな判断が、この画面から読み取れると思う。武士の戒めの一つと考えて良いだろう。
 さて作品をご覧いただきたい。作者は、将軍家の御用を勤めた後藤宗家九代程乗(ていじょう1603~1673)と、市井にあって武家だけでなく町人の需要にも広く応じていた利壽(としなが1667~1736)。程乗の虎は後藤家らしい彫口で、武家の美意識にも通じる風格がある。虎は現実に存在する動物ではあるが、獅子や龍と同様に霊獣としても捉えられていた。その古典的な見方が感じられよう。対して利壽の虎は視線鋭く迫力に満ち、まさに獲物を狩る猛獣の姿。対岸で待つのは凶暴な児虎に他ならないが、親にも牙をむけかねない恐ろしさがある。
 程乗作は赤銅魚子地を高彫にし、金銀の色絵平象嵌で華やかに表現し、金の縁取りで装具としての美観を考慮している。利壽作は鎚の痕跡を残した鉄地を高彫とし、金銀の象嵌をし、さらにその表面に鏨を切り込むことによって激しい動きと表情を浮かび上がらせている。利壽の門流の乙柳軒味墨(みぼく)政信の同図小柄を紹介したことがある。これも合わせて参考にされたい。





虎の児渡し図小柄 乙柳軒味墨(花押)