鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

瓢箪鯰図鐔 宮本武蔵

2009-12-01 | 
瓢箪鯰図鐔 宮本武蔵        


 
瓢箪鯰図鐔 宮本武蔵
 禅画として良く知られているのが瓢箪鯰(ひょうたんなまず)の図。その本歌は、足利家に仕えた如拙の作で三十一人の僧の賛が記された『瓢鮎(鯰)』図である。如拙の『瓢鮎』図については余りにも有名でありところから説明は省く。将軍の提示した公案に対しての各僧の答えも、ストレートなものがあり、捻ったものもあり、無駄なことと切り捨てるようなのもある。これらと同様に、後の武士も答えを導き出そうとしたようで、その一つとして知られるのが宮本武蔵作瓢箪鯰図鐔である。武蔵の思考や心に替わることができないので、想像の範囲だが、武蔵が瓢箪鯰図鐔を製作したことについては、禅に深く学んだという背景は明瞭。決して如拙の描いた図を独創世界で表現したものではなく、三十一人の僧と同じ姿勢で将軍の公案に向かったもの。『鐔Tsuba』で解説しているので参考にされたい。素材は素銅地で、鋤き下げの手法によりわずかに量感を持たせた造り込み。
 以降、江戸時代と通してこの図は描かれることとなる。下の写真は武家金工である後藤宗家六代栄乗(えいじょう)の作と極められている小柄。後藤家の作品の図柄は、武家が備えるべき心構えや戒めなどを明示したもの、あるいはその意識を漂わせる題材が基本。瓢箪鯰の図についても、この組み合わせが意味を持つのではなく、これを思考させるところに意味を見出していたとも思われる。本来、禅とは思考よりも実践に重きが置かれていた。とすれば、この図の装剣具を製作することを通じて思索するという目的があったとも推測される。同図は様々なパターンで、後藤家以外にも多い。赤銅魚子地高彫金色絵。


瓢箪鯰図小柄 後藤栄乗