鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

鴨河原図鐔 細野惣左衛門政守

2009-11-04 | 
鴨河原図鐔 細野惣左衛門政守                          


                             




 
鴨河原図鐔 細野惣左衛門政守
 静嘉堂所蔵の『四条河原図屏風』のような、江戸時代前期の京都の河川敷に見られる風景が描かれた鐔。作者は京都金工、細野惣左衛門政守(まさもり)。先に紹介した長義の三条大橋辺りの風景図と重なり合う、江戸時代の風俗を知る上でも貴重な作品。
 表の右上は四条大橋であろう。扇子を手に欄干にもたれながら河原の様子を眺めている人物が描かれている。川辺では田楽らしきものを焼いている店があり、床几に腰をかけた客はそれを眺めているのであろうか、料理が運ばれてくるのを待ちわびているようにも感じられる。
 川中にまで張り出した床几に描かれているのは、横座りの客と酌をする遊女で、床下を流れる水がいかにも涼しげであり、川遊びとも言える風情が漂っている。
 川瀬を渉っているのは天秤棒を担いだ、恐らく立ち食いの物売りで、如何なる食べ物であろうか、立ち食いの歴史を見る思いがする。左上には射的に興じる男と、その矢女が描かれており、灯がともされているところをみると、夕刻の風景か、夕涼みの一景色といったところである。
 裏面もこれに連なる風景。上部には万歳の掛け合いの様子が示されており、立ち止まってこれを見る通りすがりの人物の表情にも笑みが窺いとれる。右下は茶屋であろうか床几に座る男と寝そべる男。両腕を広げて身を動かし何やら説明する姿が、活きいきと描き出されている。
 隣りの床几には、料理を運んで来た女を招く様子が描かれているが、網笠を被る者がおり、また、外には編笠が掛けられている様子もあり、如何なる職の人物であろうか、この点にも興味が広がる。
 地金は朧銀地(おぼろぎんじ)で、毛彫に金銀赤銅素銅の平象嵌(ひらぞうがん)。この手法は後に長常などが完成させてゆくのである。

三条大橋図縁頭 一宮長義

2009-11-04 | その他
三条大橋図縁頭 一宮長義                      


  
三条大橋図縁頭 一宮長義
 一宮長常の門人一宮長義(ながよし)の洛中洛外に題を得た風景図縁頭。元禄頃の京都金工細野惣左衛門政守(まさもり)の作風に似た、毛彫と平象嵌を駆使した作品。縁に描かれているのは肩が触れ合うほどに多くの人が行き交う三条大橋、その下を流れる鴨川に生きる者。頭には京都への入口の一つである粟田口辺りの旅人の様子。東山を馬で越えてきた御大尽らしき人物が、ここでも人の往来の激しい様子と共に描き表わされている。
 線に強弱をつけた片切彫と鮮やかな平象嵌を組み合わせるを得意としたのが長常だが、長義のこの作品にその家伝の技法が覗えないのは、画面の大きさが関連していよう。わずか2センチほどの図幅の中に複数の人物を描き分けるという技術は驚異のもの。題は市井の風景で、長常が求めた現実の世界をスナップ写真のように切り取ることと同じだが、異なるのは、主題に近寄って動きのある瞬間を捉える表現ではなくワイドな視野で捉えているところ。このような現実の街の様子を描いた作品は、風俗史的、あるいは歴史的な視点から興味を抱くものである。
 敦賀市立博物館にて《一宮長常展》が開催されています。古典的作品から、このような市井に題を得た作品まで、広く楽しんでいただきたい。