鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

秋草図鐔 光中

2009-09-26 | 


 

                         

 幕末の出羽庄内金工界に光彩を放った鷲田派の名工渡辺光中(みつなか)の最も得意とする、片切彫平象嵌(かたきりぼりひらぞうがん)を駆使した瀟洒な仕立と意匠の鐔。
 光中は加賀金工の特徴的な華麗な平象嵌に学んで独自の感性を背景に独創的な平面世界を追及した金工。華やかである点は加賀金工のそれに類似するも地金を漆黒の赤銅から渋い色合いの朧銀地に代え、この鐔では微妙に色合いの異なる金を用い、変色する銀も多用するなど、優れた色彩感を示している。

雪ノ下図鐔 加賀金工

2009-09-26 | 


 

                             

 晩春の木陰にひっそりと白い花を咲かせる雪ノ下(ゆきのした)を平象嵌で華麗に描き表わした加賀金工の鐔。赤銅地を独特の形に造り込んで微細な石目地に仕上げ、極細の金線平象嵌(きんせんひらぞうがん)を軽やかに施し、さらに花弁に鏨を打ち込み、金と朧銀(おぼろぎん)の平象嵌による葉には毛彫を加えて色彩に変化を求め、朝露を意図したものであろう、銀とは質の異なる明るく光沢強い極微細な金属を象嵌している。
 加賀金工の特徴は、写真例のような平坦な地面に平面的な象嵌を用い、鮮やかな色金を的確に施して華やかな画面を創出する点にある。この技法を平象嵌と称し、桃山頃の埋忠明壽などに芸術的な例があるも、華麗さという点では加賀金工に特徴的である。

箒に熊手図目貫 加賀後藤

2009-09-26 | 目貫


 何とも愛らしい図柄とされた目貫であろうか、自らには大きすぎる箒と熊手を持つ幼い子供が主題とされている作品。高砂図の見立てであろうか画題としては珍しく、加賀前田家に出仕して加賀金工の発展に貢献した江戸時代初期の程乗など後藤家の特徴が現われている。金無垢地を肉厚に仕立て、立体的な容彫(かたぼり)で動きと表情を与えている。胴長な身体、尻の丸み、おかっぱ頭の様子など鑑賞の要点は多い。
 加賀前田家は諸大名の中でも特に芸術文化に対する意識が強く、多面的に工芸を発展させている。中でも金工においては、鐙師の技術でもあった平象嵌を様々な器物の装飾技法に採り入れ、華やかな作品を遺した。装剣金工では京都の後藤家を招いてその技術を学び、後藤家の厳格な風合いを遺しつつも華やかな作品を生み出している。このような意味で、加賀の文化を存分に反映して製作された後藤家の作品を加賀後藤と汎称している。