鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

揚羽蝶文蒔絵鞘短刀拵

2009-09-19 | 


 



 華麗な短刀拵を楽しんでいただきたい。
 池田家有縁の武家に伝えられたものと推考される、揚羽蝶の紋所を意匠した揃い物の小柄と目貫、鞘にも華やかに揚羽蝶を蒔絵した合口様式の拵。刀身は古名刀鎌倉時代の山城物が収められていたものであろう。
 小柄は漆黒の赤銅地を綺麗な魚子地に仕上げ、これに金無垢地を高彫とした色合い鮮やかな揚羽蝶の紋を据紋している。黒地に金を際立たせる組み合わせは大名道具としての掟。この拵では、深味のある紫灰色を呈する銀粉塗の出鮫柄を背景に、金無垢地の揚羽蝶紋を出目貫とし、ここでも黒地に金が映えるよう考慮している。鞘の表裏に施された蒔絵は、わずかに肉高く仕立てられた盛上蒔絵で、色を微妙に違えた金粉に銀粉を組み合わせ、蝶の向きを違えて紋を複雑に表現しており、華麗であり格の高さが漂いながらも妖艶な趣が充満している。時代の金着台付ハバキが遺されており、これも貴重な資料である。(小柄の背景が魚子地と呼ばれる綺麗に揃った微細な点の連続であるため、モニターによっては叢になり見え難い場合があります)

群鶴図小柄 濱野保随

2009-09-19 | 小柄


 

 奇想の絵師伊藤若冲を想わせる、群鶴を画面一杯に描き表わした小柄。
 濱野保随(やすゆき)は遠山直随の門人。師に影響されたのであろうか、保随もまた関西各地を巡って学び、作品に活かしている。この生命感に満ち溢れた小柄は、朧銀地を石目地にし、量感のある高彫に金銀赤銅素(す)銅(あか)と多彩な色金を施し、鏨の痕跡を強く残す師風とは趣を異にする繊細な鏨を切り込んでいる。生地と俗名を彫銘し、鮮やかな金印をも添えた裏板も個性的である。保随は後に蜂須賀家の抱工となっている。 

虎の児渡し図小柄 味墨

2009-09-19 | 小柄






 禅の公案としても知られる虎の児渡しの場面に題を得た迫力ある小柄。味墨(みぼく)は浜野家各代の当主が用いた号銘で、この小柄はその四代政信(まさのぶ)の作。古くは奈良派の利壽や安親にも同図があるが、それらを手本として独創性を高め、立体感溢れる高彫と、鑑賞者に投げかけるような鋭い目線を作品の要としている。鉄地は利壽の小柄と同様に艶やかで、虎の身体は朧銀地の高彫象嵌に金の色絵、活き活きとした毛彫と片切彫を加えて躍動感に満ちた姿を表現している。
 虎の児渡し図は瓢箪鯰と同様に多くの金工が製作している。また、京都の龍安寺や南禅寺には虎の児渡しを題としたと伝えられる庭がある。

親子鶏図目貫 佐藤東峯

2009-09-19 | 目貫


 佐藤東峯(とうほう)は後藤勘兵衛家八代東乗の門人で、伏見宮家に出入りを許された名工。弟弟子に東明があり、業成って師より東の一字を許され東峯と銘した。親子鶏図は後藤家にも間々みられるが、東峯の作品は後藤のそれとは趣を異にしてより写実的で正確な構成とされ、鏨使いも緻密で細部の表現は驚異的。金無垢地を打ち出し強く立体的な高彫とし、打ち込み鋭く量感を持たせ、殊に雄鶏の顔は、見え難い部分まで地造りを巧みにして肉感表現している。
 目貫とは柄の中程辺りに装着し、手持ちを確かめるための金具。各部の名称参照。

拵金具各部の名称

2009-09-19 | 





基本に戻って拵(刀を収める外装)各部の名称を確認する。
全ての拵が、この例にある全ての金具を備えているわけではない。小柄と笄はないものが多いし、頭を金具とはせずに角製としたものある。また、鞘尻に鐺金具を設けたものもある。

対鶴図鐔 楽壽

2009-09-19 | 


 肥後金工神吉楽壽(かみよしらくじゅ)の魅力は、伝統の肥後の風合いを残しながらも洗練された空間構成を展開している点にある。
 かつて日本航空のマークにも採られていた優雅な趣のある鶴丸紋は、それ故に広く知られているが、鶴を素材とした家紋や文様は頗る多い。二羽の鶴が対とされた文様も間々みられるが、写真の鐔のデザインは、極めて緻密な計算がなされた結果と言えるだろう。鶴は上下対象とするのではなく巴(ともえ)状に配し、その空間を左右の櫃穴(ひつあな)として大胆に透かし去り、巧みな構成で松皮菱(まつかわびし)の文様を陰に施しているのである。鐔の外周は羽の構成線による菊花である。色合い黒々とした質の良い鉄地の表面には微細な石目地を施して毛彫を切り込み、向かい合う鶴を鮮明に浮かび上がらせている。無銘ながら楽壽の特質がよく示されている。