肥後金工志水甚吾(じんご)も、細川三斎の求めた美意識を実践した金工だが、さらに独創を加えているところ身新たな魅力が見出せよう。図柄は鐔の造形を意匠に活かした肥後菊。鉄地に銀象嵌を施すことにより生じた、作意を超越して感じられる美の要素が最大の魅力となっている。
石目地が施された鉄肌は色黒く渋い光沢に包まれており、所々に加えられた虫喰状の彫り込みも美観の要素。肥後菊(ひごぎく)の花は鋤下彫でわずかに透かされ陰影が際立ち、花弁の様子を想像させるように施されているのが銀線による彫込象嵌(ほりこみぞうがん)。この銀線から滲み出した銀黒は、鉄の錆肌と一体となって地に広がり、黒く強い光沢を放っている。所々銀線が脱落しているも、むしろ景色となって視覚を刺激する。この銀の自然な経年変化こそ作意を超越した美の要素なのである。