鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

肥後菊図鐔 甚吾

2009-09-18 | 




 肥後金工志水甚吾(じんご)も、細川三斎の求めた美意識を実践した金工だが、さらに独創を加えているところ身新たな魅力が見出せよう。図柄は鐔の造形を意匠に活かした肥後菊。鉄地に銀象嵌を施すことにより生じた、作意を超越して感じられる美の要素が最大の魅力となっている。
 石目地が施された鉄肌は色黒く渋い光沢に包まれており、所々に加えられた虫喰状の彫り込みも美観の要素。肥後菊(ひごぎく)の花は鋤下彫でわずかに透かされ陰影が際立ち、花弁の様子を想像させるように施されているのが銀線による彫込象嵌(ほりこみぞうがん)。この銀線から滲み出した銀黒は、鉄の錆肌と一体となって地に広がり、黒く強い光沢を放っている。所々銀線が脱落しているも、むしろ景色となって視覚を刺激する。この銀の自然な経年変化こそ作意を超越した美の要素なのである。

唐草文図鐔 西垣

2009-09-18 | 




 わずかに鎚の痕跡が残された色合い黒く光沢のある地鉄と、変化の加えられた蔓唐草文の妙味ある調和が美の要とされた、肥後西垣(にしがき)の特徴がよく現われている作。なんと優れた肉取りであろうか、緊密に叩き締められた鉄地を切り込み浅い木瓜形に造り込み、左右に大胆な餌畚形の透かしを切り施し、耳際の肉をなだらかに落として独特の風情を漂わせている。鉄地に金の唐草文が活きており、拵に装着して栄える鐔である。
 鉄地に唐草文を金布目象嵌で表わした装飾は正阿弥派などにも見られるが、萌え出るような、生命感に満ちた唐草文、その装飾性は肥後に適わないだろう。

唐草文図鐔 西垣勘四郎

2009-09-18 | 






 千利休に茶を学んだ細川三斎は、刀装を通じて茶の美意識を追求した。そのための金具を製作したのが林又七であり、平田彦三であり、その門流の西垣勘四郎(にしがきかんしろう)であった。
 ここに紹介するのは、萌え出る若葉の如く、あるいは水中に揺れる藻草の如く変化に富んだ唐草文に魅力横溢の鐔で、勘四郎の個性が楽しめる作品。造り込みは、渋く落ち着いた真鍮地を耳際が薄手の碁石形に仕立てた、繊細で微妙な曲線構成に美しさのある御多福(おたふく)木瓜形(もっこうがた)。表面を平滑に仕上げ、唐草文を褐色味の強い山銅で平象嵌している。平象嵌は時を経て変質し、地面かがごくわずかに盛り上がって量感があることが光の加減で分かる。また、唐草の近傍に赤褐色の素銅と思しき斑金(むらがね)が見られ、意図せぬ景色となっている。

松皮菱透図鐔 埋忠派

2009-09-18 | 



 色金の種類や彫刻技法に装飾の主体を求めず、大胆に切り施した櫃穴を装うように帯状に金銀布目象嵌を配し、しかも銀の色使いを巧みに(黒化)して、素材である真鍮の魅力を最大限に高めた鐔。
 古風な色合いの真鍮地を木瓜形に造り込み、表面には微細な鑢目を施して地の表情とし、耳際と櫃穴の周囲のみに古風な綾杉(あやすぎ)模様を表わした、簡潔な意匠が魅力。総体は平滑な仕上げで、耳はわずかに土手耳状に仕立てられ、いずれの文様部分も布目による平象嵌ながら、光忠や明壽など時代の上がる埋忠(うめただ)派独特の、地面に比してごくわずかに盛り上がる風があり、殊に銀地から流れ出たような銀黒の働きが味わい深い。

唐草文図鐔 平戸國重

2009-09-18 | 


 時代の上がる太刀師鐔を想わせる、無銘ながら平戸國重(ひらどくにしげ)の特徴が示された鐔。真鍮地を五ツ木瓜形に造り込み、地面には石目地を、肉厚の耳際には唐草文を廻らし、耳は額状に鋤き下げた部分に松、蘭、龍などの文様を浮彫表現している。時を重ねて独特の錆が生じ、漆処理も加わっているのであろうか渋い色合いとなって味わい格別である。
 鎖国の江戸時代とはいえ、肥前国平戸は海外の文化に容易に接することのできた地域であり、西洋の文様を手本とした金工が多々知られている。その中でも國重は、南蛮と汎称される西洋風の意匠と造り込みを得意とし、時にアルファベットをデザインした鐔を製作している。
 南蛮鐔と汎称される作中には、南蛮様式の剣に装着されていた鐔を手本とした複雑に入り組んだ彫刻が施された例がある。それらは名品と呼ぶに相応しい高級なものから、安易に製作したと想像されるものまで多々あり、遺例の異様なまでの多さから江戸時代を通じて広く流行していたことが想像される。