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鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

波に一円図鐔 西垣 Nishigaki Tsuba

2013-10-11 | 
波に一円図鐔 西垣


波に一円図鐔 無銘西垣

 肥後独特の波頭の意匠構成。真鍮地を薄く鋤き込んで、地金の経年変化による黒化の風合いを活かしている。なんて素敵なんだろうと、常々感心している。肥後金工に強い創造意識を与えたのは、利休の茶を学んだ細川三斎の美意識に他ならない。その肥後金工が製作した金具を組み合わせて創り出す肥後拵の妙は、言葉にできないような特異な深みであり、それは感動でもある。波に限らず肥後金工の遺した図柄は、一般的な鐔のように様々であるが、独特の風情が立ち込めている。

波に車透図鐔 柳生 Yagyu Tsuba

2013-10-10 | 
波に車透図鐔 柳生


波に車透図鐔 無銘柳生

 以前に紹介した古金工の古典的な波車の文様とは、事物の組み合わせは同じだが、意味はまったく異なっているようだ。…ようだ、というのは波車が柳生厳包の創意になるもので、柳生流剣術の極意を表しているらしいのだが、筆者は剣術を知らないし、もちろん柳生流剣術がいかなる存在であるのかも分からない。そこで想像だが、波のように絶えず違った動きで繰り返し攻撃すること、車のように素早い動きをすること、あるいは波打ち際を車で走る際に波の動きを、いかに自らの利とすべきか…などと考えてみたがどうだろう。
 柳生流剣術については専門家に任せるとして、この鐔の魅力は、図柄の凄みはもちろんだが、色黒くねっとりと詰んで光沢のある鉄地の風合いに他ならない。簡潔なその図の意味を考えさせる。実はそこに作者の意図があったのではなかろうかとも推測した。

立波透図鐔 正阿弥 Shoami Tsuba

2013-10-09 | 
立波透図鐔 正阿弥


立波透図鐔 無銘正阿弥

 簡潔な意匠構成の鐔。透鐔の魅力はこの簡潔な美空間にある。鐔の円形に巧みに構成した波は、大きく寄せて崩れ落ちるその瞬間を捉えているわけだが、単なる陰影ではなく、微妙に地面に抑揚を付けており、円形の小透の周囲も鋤き込んでいる。簡潔ながら丁寧に処理された作でもある。71ミリ。

波車図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2013-10-08 | 
波車図鐔 古金工


波車図鐔 無銘古金工

 山銅地を縦長に仕立て、金色絵を加えた太刀師の作。図柄は遍く知られている、川の流れに牛車の車輪。雅な風景の文様表現である。この古典的な文様をそのまま鐔に活かしたもの。波は川の流れだが、文様の中ではあまり意味を持たない。流れにゆだねたその様子を、わずかに車を歪ませることによって表わしている。桃山時代。88ミリ。


波文図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2013-10-07 | 
波文図鐔 古金工


波文図鐔 無銘古金工

 打刀の鐔だが太刀鐔様式としている。古典的な構成であり、赤銅地高彫に金うっとり色絵を多用して一段と美しく仕立ててある。耳の金覆輪も、四方猪目透も大振りで、いかにも桃山時代という風合い。戦国時代には、刀を太刀のように用いたり打刀拵のように用いたりと、時に応じて腰への装着も変えていた(打刀を太刀のように刃を下にして腰に収めるための用具が腰当)ようだ。

散し絵図鐔 鎌倉 Kamakura Tsuba

2013-10-04 | 
散し絵図鐔 鎌倉


散し絵図鐔 無銘鎌倉

 何度も述べるが、この種の鐔を鎌倉鐔と呼ぶのをやめたいのだが、いかがなものだろうか。単に薄く鋤込んでいる手法が鎌倉彫の手法に似ているというだけのものであり、鎌倉の地域とも鎌倉時代とも関連がない。先生方は考えてくれないものだろうか。
 鎌倉鐔の面白さは、風景の文様化にある。屏風絵のように全体に様々な景色の一場面を散し絵として配し、総体の装飾としている。だから隣り合う文様は何ら関連性がない。それでいて全体の雰囲気がまとまり、妙なる味わいに包まれている。素朴に見えるも、実は洗練味があり、類例なく独創的であり、大きな魅力である。
 この鐔の下方に波が描かれている。表は波に紅葉であり、それは竜田川。裏は菊が流れており、菊水に他ならない。波はいかにも絵に描いたという感じで象徴的であり、面白い。86.8ミリ。

波に貝図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2013-09-30 | 
波に貝図鐔 古金工


波に貝図鐔 無銘古金工

 短刀、小脇差用の鐔。古典的な文様表現であり、拵に装着しては、耳の周囲はわずかに見える程度の小鐔であるにも関わらず風格が感じられる。高彫された波の肉取りがゆったりとしていて、巧みである。もちろん文様としての波だが、波と波の間の太い筋状の彫り込みは古く感じられるが、波頭の崩れ落ちる様子などには微妙に重なる要素を加えており、かなり上手の工の作と推考される。切羽台の茎穴周囲を彫り込んでいるのは、実用において、刀身‐鐔‐柄という構成上、言わば緩衝機能を持たせているものと考えられ、間々見られる構造でもある。

波文図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2013-09-28 | 
波文図鐔 古金工


波文図鐔 無銘古金工

 山銅地、奇抜な八木瓜形で、切込み深く異様な印象がある。桃山頃の婆娑羅好みの武将の需であったと思われる。文様は古風な青海波に似た文様を毛彫で描き、所々に立波を配している。さらに加えているのが銀の点象嵌。波しぶきを意味しているのであろうが、これが時を経て銀の滲みとなっている。

波文図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2013-09-27 | 
波文図鐔 古金工


波文図鐔 無銘古金工

 表裏の波の意匠を違えた作。先に紹介した真鍮地の波文鐔も表裏の意匠が違っていた。赤銅一色の高彫で、綺麗に揃った線が魅力。表裏の違いは波の重なりの様子に現れており、違いによって騒がしさが一生際立っているように感じられる。巧みだと思う。櫃穴も大きくとり、常とは異なる形状であり、桃山頃の異風好みの武将の注文であろうか。

唐花波紋図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2013-09-24 | 
唐花波紋図鐔 古金工


唐花波紋図鐔 古金工

 耳のみに波文を施した鐔も比較的多い。この鐔では、平地部分の異風な唐草唐花と波との関連性は全くないのだろうか、単に波を装飾として捉えているだけだろうか、騒がしいほどに動きのある唐花の文様と波とが調和しており、違和感がない。そこで仔細に観察すると、唐花は水草の菱の意匠ではなかろうかと思える。ならば波も頷ける。高彫金色絵。天地に渦巻く波を意匠しており、そのせめぎ合う表現も巧み。

波文図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2013-09-20 | 
波文図鐔 古金工


波文図鐔 古金工

 丸形の真鍮地の切羽あたりを方形に仕立て、その周囲に高彫と鋤彫で波文を廻らした構図。自らが立つ大地の周囲すべてが荒海であるかのような印象。しかも激しく波立つ様子は嵐のそれであり、目が廻りそうなほどに動的であり、面白い。もう一つ興味深いのは、表裏の波の構図が違っている点。表は比較的ゆったりとした構成だが、裏面は波頭も次々と寄せ来るようだ。78.6ミリ。

波に枝菊図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2013-09-18 | 
波に枝菊図鐔 古金工


波に枝菊図鐔 古金工

 枝菊を主題として菊水を想わせる意匠構成だが、背後の波を見てほしい。先に紹介した波図鐔と同じような手法で高彫し、波には金色絵を加えずに菊の背景、地文としての立場を徹底している。全面に施された波の間に立つ波は、ここでは連続した構成。波頭が右から左へ、あるいは左から右へと、続いている様子が文様表現されているのである。波の表面にさらに細い毛彫で波と渦巻きを施しているのも先の波図と同じで、この点は波文の基礎とも言えようか。77ミリ。

波文図鐔 古金工 Tsuba

2013-09-17 | 
波文図鐔 古金工


波文図鐔 古金工

 赤銅地全面に渦巻く波と崩れ落ちる波頭を描き、文様としながらも波のみで装飾としている。波そのものが主題であり、特に動感豊かな空間演出は好まれるところである。各々の波の境界部分に深い筋彫りを加えて波を際立たせている。全体に散らし配されている飛沫は丸状の高彫に金色絵、立波部分も金の色絵。


波に壷透図鐔 Tsuba

2013-09-14 | 
波に壷透図鐔 


波に壷透図鐔 無銘平田

 製作は江戸時代初期、肥後国平田と極められている。山銅地を質朴な技法で処理し、耳には小田原覆輪を廻らしていることからの極め。ところがこの毛彫の処方を見ると、時代の遡る工法を採り入れていることが想像される。拡大写真を見てもらうと判るように、線描写は決して線ではないのである。奈良時代の仏具などに見られる、蹴り跡を連続させたような点線描法。波の文様は青海波とは異なるものの整っており、波頭の崩れ落ちる様子もなく、大海原を印象付けている。上部には雲。透の壷が意味するところは、目出度い席で演じられることもある謡曲「猩々」、その留守模様。この画題の意味を背景とすると、波は穏やかである方が合っている。73ミリ。□

小督と仲国図鐔 Tsuba

2013-09-06 | 
小督と仲国図鐔


小督と仲国図鐔

 平安時代の雅なる世界観を表現している作で比較的多いのがこの図。『平家物語』に取材したもの。傀儡のごとく平家の管理下にあった高倉天皇。その天皇に寵愛されていた小督は、自らの存在が天皇の不利となると考えて出奔した。その行く先を探し出すよう命じられたのが仲国であった。行く当てもなく途方に暮れ、一人得意の笛を奏でる仲国。