goo blog サービス終了のお知らせ 

鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

鳥尽図鐔 直義 Naoyoshi Tsuba

2013-11-20 | 
鳥尽図鐔 直義


鳥尽図鐔 銘直義

 表に雌雄の鴛鴦を、裏に波千鳥を描いている。表が銀次で裏が鉄地。いずれも高彫の昼夜の表現。写実的な描写で、添景である岩や芦も丁寧に彫り描いている。鴛鴦の色使いも色の種類が少ない中で巧みに再現している。千鳥ももちろん動きがある。寒々とした風景であり、打ち返す波の様子が一際冬の海辺の様子を印象付けている。67ミリ。


波千鳥図鐔 赤文 Sekibun Tsuba

2013-11-16 | 
波千鳥図鐔 赤文


波千鳥図鐔 銘赤文

 波は具体的には描かれていないのだが、確かに波が見える。波に反射した陽の光を意図したものであろう、三つの小丸を透かしており、櫃穴と連続させて動きのある背景に仕立てているのだ。赤文は安親に私淑した一人だが、この優れた図案は赤文独自のもの。千鳥も安親風であるが、本作を見ても、さすが独自の作風を展開した人気の高い金工であったことが分る。78ミリ。

千鳥図鐔 秀興 Hideoki Tsuba

2013-11-16 | 
千鳥図鐔 川原林秀興


千鳥図鐔 銘川秀興

 安親の作風を手本として製作した、大月派の川原林秀興の鐔。千鳥は奈良派の安親を想わせるし、先の政随を参考にしてもいいだろう。ここでの波は岸辺を流れるそれであり、簡潔な表現ながら、月、雲、芦の葉とのバランスからも素敵な空間演出とされている。68.6ミリ。

波千鳥図鐔 政随 Masayuki Tsuba

2013-11-15 | 
波千鳥図鐔 政随


波千鳥図鐔 銘政随行年六十七

 奈良三作というと、利壽、安親、乗意の三名人を指す。これに次代の政随を加えて奈良四天王と評価している。政随は前三工に比較して浜野派という人気の高い巨大な流派を構築して江戸金工の幅の広さを世に知らしめた感がある。
 この鐔は、安親が文様化を極めた千鳥図を手本としたもので、松樹に掛かる太陽も、千鳥も文様表現が進んでいる。波も簡潔な片切彫の手法であり、これも文様風。千鳥の表情には、江戸に流行したであろう文様表現というだけでなく、政随独特の厳しさも感じられる。鉄地高彫金銀朧銀象嵌。72.8ミリ。


千鳥図鐔 銘政随行年六十又六

 同じ政随の、赤銅地に千鳥のみを描いた作。72.4ミリ。□

浜千鳥図鐔 奈良利治 Toshiharu Tsuba

2013-11-14 | 
浜千鳥図鐔 奈良利治


浜千鳥図鐔 銘奈良利治作

 先に紹介した安親の先達という位置付けにあるのがこの利治。同じ鉄地高彫金銀象嵌の手法で、風合いは似ている。描いているのは松原に千鳥、ここでは樹の間にわずかに見える程度に大海原の波を描いている。これに銀の点象嵌を加えて陽に波の輝いている様を表現したものか。千鳥の表情は安親のような文様化は進んでいない。むしろ写実味があり、群れ飛ぶ様子にも動きがある。79ミリ。

浜千鳥図鐔 東雨 Yasuchika Tsuba

2013-11-13 | 
浜千鳥図鐔 安親


浜千鳥図鐔 銘東雨

波に太陽という取り合わせから思い浮かぶのが千鳥。我が国の海辺における自然観の代表ともいうべき風景であろう。この鐔の作者は、江戸金工の画題や作域において大変な幅の広さを示した、言わば金工の祖の一人、土屋安親であり、東雨はその号。古典的主題や新趣の題を採り、さほど彫り出しを高くするわけではないものの、遠近の風景としては頗る自然な景色に仕上げて小さな鐔の画面に広大な世界を展開した。
 この鐔も、まさに安親の表現域。松原を近景に遠く広がる海原に波と岩場を描き、棚引く雲のさらに遠くには銀布目象嵌で夕日を配している。裏面はそのまま連続した景色であろう、小山から目前に広がる海原を眺める作者の前に千鳥が飛び交っている。鉄地高彫金銀象嵌。安親には、この千鳥の他、後に紹介する政随の鐔のような千鳥の文様も生み出している。81.2ミリ。

初日の出図鐔 青龍堂秀明 Hideaki Tsuba

2013-11-12 | 
初日の出図鐔 青龍堂秀明


初日の出図鐔 銘因州住駿河卓置

 雲間に太陽。海の中から眺めているかのような巧みな構成。雲の流れる様子は穏やかだが、波は高く激しい。正月らしい、爽やかさと強さが感じられる作となっている。



初日の出図鐔 銘青龍堂秀明

 青龍堂秀明は大森英秀の門人。この鐔は、実は椀形である。椀形鐔とは鞘口を覆うような構造で、鞘の内部にほこりや雨水が入らないよう工夫されたもの。構造は図柄の意味とは全く無関係。真鍮地をふっくらとさせ、総体に穏やかな印象があるも、図柄は冬の海原らしく波が高い。この波の激しさ、高さ、力強さが生命の源と考えられていたのであろう。90ミリ。

波文図揃金具 Tsuba Soroikanagu

2013-10-30 | 
波文図揃金具



波文図揃金具

 江戸時代後期に流行した半太刀拵風の装剣金具の一つ。兜金式の頭と鐺、縁、栗形、口金、責金物など総てを同じ意匠とする。しかも波や雲、唐草といった比較的簡素な文様とし、多くは素銅地、朧銀地、赤銅地の片切彫。この金具は波文の高彫仕上げとされていることから、素材は素銅ながら上等。打ち寄せ崩れ落ちる波濤が全面に構成されている。頭と鐺の透かし部分の波頭が巧みである。


荒波図大小鐔 安藤元勝 Motokatsu  Tsuba

2013-10-28 | 
荒波図大小鐔 安藤元勝


荒波図大小鐔 銘延寿軒安藤元勝(花押)

 朧銀地に高彫で荒波のみを描いた作。波飛沫にのみ銀の点象嵌を加えている。繰り返し襲ってくる波の恐怖。波の力強さが全面に漲っている。波の他に事象を描かないところが説明的でなくていい。古金工にも波のみの作があった。大きくゆったりとした波に崩れ落ちる波頭などは古金工のそれと取材している点は同じだが、趣は全く異なる。波頭は立体感があってくっきりとしており、散らされた波飛沫は大小に違えてあり、しかも散らされかたが巧みである。

青海波文図鐔揃金具 加納秀利 Hidetoshi Soroikanagu

2013-10-26 | 
青海波文図鐔揃金具 加納秀利


青海波文図鐔揃金具 銘加納秀利(花押)

 加納秀利については詳らかではない。美しい青海波文を主題とした太刀様式の鐔、縁、兜金式頭、口金、栗形、責金物、鐺すべてが同作。美しい構成線が魅力。拵とされており、目貫は龍図。鐔に宝珠が意匠されていることから、即ち波に珠追龍図として構成したもの。龍を描かなくても、波に宝珠のみで龍を暗示させているのである。鐔77ミリ。

波に錨図鐔 Tsuba

2013-10-25 | 
波に錨図鐔


波に錨図鐔 無銘

 江戸時代の巧みな構成力が示された鐔。程乗の小柄でも紹介したように、波に錨は源平合戦、中でも碇知盛を思い浮かべる。壇ノ浦において、自らの身体に碇を巻きつけて海中へと沈んだ平家の武者である。後に義経が頼朝に追われて九州へ逃れようと試みたものの、瀬戸内の海は知盛の怨霊によって荒れ狂い、逆に押し流されてしまったという、「碇知盛」の他に同じ説話を題材にした「大物浦」、「舟弁慶」などの歌舞伎の演目もある。この鐔も、そのような風情を湛えている。上部の渦巻は印象的である。75.5ミリ。

波千鳥図鐔 忠重 Tadashige Tsuba

2013-10-23 | 
波千鳥図鐔 忠重


波千鳥図鐔 銘忠重作行年八十一才

 簡潔な透かしで千鳥の飛翔する様子を表現した作。忠重は赤坂派の鐔工で、赤坂派に伝統的な洒落た透かしを得意としており、多くは本作のような文様風表現ではない。ところがこのような特異な文様表現などにも挑んで成功している。まさに切り絵のような構成であり、立波の崩れ落ちる様子も面白い。八十一才にして、他の工の真似をすることなく新たな意匠を生み出している、その感性こそ忠重の魅力でもある。

巴透家紋散し図鐔 加賀後藤 Kaga‐Goto Tsuba

2013-10-21 | 
巴透家紋散し図鐔 加賀後藤


巴透家紋散し図鐔 無銘加賀後藤

 程乗など、後藤家の金工で加賀前田家に出仕し、その技術を加賀金工に伝え、しかも加賀独特の風合いを漂わせた作品を遺している工を加賀後藤、またその作品を加賀後藤と呼んでいる。この素敵な構成こそ、後藤風を土台としながらも華麗にして繊細さが窺える作。加賀の風情を感じとることができよう。赤銅地の耳に波文を彫り描いて家紋の背景としている点は、室町初期の波に菊紋図鐔と同じ。平地部分に毛彫で松葉に梅を描いており、これも洒落ている。堂々として存在感に満ち満ちている。83.3ミリ。

波に龍図鐔 國重 Kunishige Tsuba

2013-10-19 | 
波に龍図鐔 國重


1 波に龍図鐔 銘平戸住國重

 表現手法も波の様子も異なるが、平戸金工國重の作例を紹介する。1は古金工や太刀師鐔にもあるような古典的な造り込みとし、切羽台厚を大きく荒波に意匠したもの。裏面はがらりと変えて龍神を描いている。2は切羽台と耳際を雲に意匠し、平地部分の青海波を背景に龍神を彫り描いている。いずれも龍神は南蠻鐔の影響を多分に受けている。波は頗る洗練味があり、この異質な組み合わせが面白い。殊に1の波を良く観察してほしい。まさに生き物のように動く様子が、動いているわけではないにもかかわらず巧みに表現されている。1縦72ミリ。


2 波に龍図鐔 銘平戸住國重


水月図鐔 政随 Masayuki Tsuba

2013-10-18 | 
水月図鐔 政随


水月図鐔 銘政随

 過去に紹介したことのある鐔だが、深い意味が秘められており、しかも波の意匠としても優れている作品であることから、再度眺めてみたい。採られている主題は、表が三日月に波、裏が烏に波。いずれも波が意味を持っている。波に三日月は、柳生流剣術にも採られている「水月」に他ならない。波に烏は、「鵜の真似をする烏」のように己の力量を知らねばならない武士の教訓でもある。二つの意味合いを、巧みに表現している。ここでは真鍮地金が作品として活きている。