とりがら時事放談『コラム新喜劇』

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Ray

2005年02月08日 05時54分52秒 | 映画評論
とりがら映画評

レイ・チャールズの歌う姿を始めて見たのは1980年公開の映画「ブルースブラザーズ」の一シーンでだった。
再結成したブルースブラザーズバンドがシカゴの街中にある楽器屋に楽器を仕入れに行くシーンがそれで、この楽器屋の店主役がレイ・チャールズなのだった。
盲目の店主が、コソッとはいってきた万引きの少年に向けてピストルを2発発射。
「少年犯罪が増えてることがやるせない。ホントに俺の胸を痛めるぜ」
などという台詞を吐いて観客を笑わせたのはご愛嬌。
「オヤジ、このオルガン、音狂ってるよ」
というバンドのメンバーのクレームに、
「そんなことないさ、ちょっとかしてごらん」
と、おもむろにそのハモンドオルガンを弾き始めるのだ。
巧みなキーボードテクニックと迫力あるボーカルに映画を見ている観客は一瞬にして魅了され、やがて始まるブルースブラザーズバンドとのコラボレーションのリズムに乗って画面の中に登場するダンサーたちに混じって心が踊り出すのだ。

アカデミー賞の呼び声が高い映画「Ray」はそのレイ・チャールズの伝記映画だ。
レイ・チャールズが故郷を離れ、本格的に音楽活動を開始した頃から、アーティストとして大成した1970年代初頭頃までが描かれている。
盲目というハンディキャップを抱えながらも、バイタリティー溢れた精神力で頂点へ昇り詰めていく姿はサクセスストーリーの一つといえるだろう。
しかしこの映画が単純なサクセスストーリーと言ってしまうことができないのは、そのドラマの壮絶さだ。
映画解説者の故淀川長治氏の言葉を借りれば「怖い、怖い、怖いですね。」といった壮絶さがこの映画にはあるのだ。
レイを食い物にしようとした酒場の女主人。素晴らしい家族を得ながらもどろどろとした女性遍歴を繰り返す主人公。そして、麻薬に溺れていく退廃的な姿など。
人間のどろどろとした嫌らしさを包み隠さず描いている厳しさがある。
そしてなによりもこの映画で最も印象に残ったのは、時折挿入されるレイの子供時代のシーンだ。
7歳の時に視力を失ったレイが、天性のものであろう鋭い音感に目覚め、母親の愛情に満ちた厳しいしつけの中、成長していく様は、涙なくしてみることのできない素晴らしいドラマなのだ。
もちろん、各所で自然に流れてくるレイ・チャールズのヒットナンバーも魅力的だ。
初めて聴く曲ではないはずなのに、どれもこれも新鮮に聞こえてくるのは、きっとレイ・チャールズの音楽というもは、世代や時代を超えた腐食しない魅力を持ち続けているからだろう。
また、ちょっとしか触れられていないがジャズの大御所クインシー・ジョーンズとの親交が描かれていて、音楽ファンにも堪えられないエッセンスが詰まっているのだった。
この映画は伝記映画で、ミュージカル映画ではない。しかし、レイのミュージックのリズムに乗って、いつの間にか自分の足も心もが軽くステップ踏んでいることに気がつくことになるのだ。

レイ・チャールズを演じるのはジェイミー・フォックス。先頃、この映画でゴールデングローブ賞を受賞した。きっとアカデミー賞もものにすることだろう。
あえて言えば「黒人映画」というハンディキャップを除いて、この映画が作品賞を逃すことなど考えられないのではないか、と思えるほどの感動をくれる秀作であった。

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