とりがら時事放談『コラム新喜劇』

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ビビリアン・ナイト~やっぱり不肖は面白い!

2007年09月15日 19時58分11秒 | 書評
日本では新聞やテレビなどがそのジャーナリズムとしての機能を失ってからずいぶんと久しくなった。
例えば、今、世間が大騒ぎしている安倍首相の突然の辞任劇や新総裁選びもその下地には軽薄なマスメディアが作り出した中身のない世界が広がっている。
従ってオピニオン無き「下ネタ」「悪言雑言」「無知低能」のみが目立つばかりで愚民政治を益々煽っているのが現状だ。。

一見このような一般的なマスメディアよりランクが下のように見えて、その実中身があり、マンガのような独特のふざけた文章に笑いながらも時に感動までさせてくれるドキュメントエッセイがフリー写真ジャーナリストの宮嶋茂樹の一連の著作品だ。

処女作である「嗚呼、堂々の自衛隊」に始まった宮嶋茂樹のその体当たり的な取材に基づくノンフィクション作品は、娯楽と報道という二つの顔を持ち続け、私のようなノホホーン読者の好奇心を魅了して止むことがない。
カンボジアの自衛隊基地の門前にニッパヤシの小屋を建てクメールリュージュの残党や夜盗などにおびえながら、そこに小さな日の丸を掲げて取材するする姿は、当時、自衛隊の海外派兵に反対した朝日新聞やNHKを始めとする「革新派報道機関」の報道に対する一般国民の言い知れぬ苛立たしさを綺麗サッパリ吹き飛ばしてくれるほどの爽快感を与えてくれたのだ。

以来、南極取材や金正日のモスクワ行き追いかけ取材、北朝鮮潜入取材、阪神淡路大震災、アフガニスタンなど、世界を駆け巡りる独特の視線で世界情勢を伝える著作の数々はいつまでも輝きを失うことはない。

フォトジャーナリズムに興味を持つ場合、普通の人は「ロバート・キャパ」や「マーガレット・ホワイト」「沢田教一」などとを先に知り、「ちょっとピンボケ(キャパ著)」あたりから入るものだ。
ところが私の場合は宮嶋茂樹の著作からフォトジャーナリズムに興味を持ちはじめたと言っても過言ではないくらい、すべての作品で楽しませていただいているのだ。
(ホントはマグナムの展覧会をデパートで観たのがきっかけですが)

ただ残念なのは、フォトジャーナリストという本業の写真には有名な作品がほとんどなく、文章による著作品の方が圧倒的に有名であることが、この宮嶋茂樹が「不肖宮嶋」と言われる所以なのかもわかならい。

ところで先月と先々月に刊行された「ビビリアン・ナイト上下巻」はイラク戦争を扱った最新作だ。
米軍によるバクダット陥落のその瞬間が採上げられ、これまた新聞やテレビでは知ることのなかった事実が多く記され今回もまた笑いの中に多くの驚きと感動が溢れていた。
しかも本作では、なぜイラク戦争で崩壊したイラク社会が現在もなおテロが頻繁に起こり軍隊ばかりでなく市民までが巻き込まれるという混とんとした状態が続いているのか。
その理由が新聞の論説やテレビのドキュメンタリーを見るよりも、とてもよく理解できる凄みまで持つに至った。

いずれにせよ、毎回新刊が出版されるたびにワクワクしながらページを捲る。
そんな楽しみがある作品だ。

~「ビビリアン・ナイト 上・下巻」宮嶋茂樹著 祥伝社刊~