とりがら時事放談『コラム新喜劇』

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オノボリサンの都~京都の旅(10)

2007年09月09日 14時08分46秒 | 旅(海外・国内)
だいたい3~4回の連載で終る筈の「京都の旅」が意外にも長くなってしまった。
これも途中で話が脱線し、余計なことを多く書いてしまうからであろう。

それはそうとて私は嵐山行きの電車に乗るべく、プラットホームの椅子に座って待つことにした。
プラットホームの椅子は三本あるプラットホームの中央に置かれていた。
嵐電なるローカル私鉄のためかどうかは知らないが、使われている椅子もJRや阪急の駅に設置されている鋼鉄とプラスチックの成型品で作られている「立派なもの」ではなく、バス停によくある細いパイプとプラスチックの板を組み合わせた「簡易なもの」なのであった。

椅子に腰かけしばらくボーとしていたのだが、このような「簡易な椅子」では、ズボンの股座が裂けているのが後ろから丸見えである可能性があることに気付き、私は即座に立ち上がり冷房もない駅舎の中、汗を流しながら電車を待つことにした。

私が立ち上がったそのベンチに、学生とおぼしきカップルが代わって腰掛けた。
男はなかなか男前だが、ちょっと水商売の匂いがし、女は悪くはないがキャバクラ嬢的匂いがしたのだった。
尤も、最近の若い女の子は普通の娘であっても多少キャバクラじみた香りがするので、もしかすると気質なのかもわからない。

5分ほど待っていると嵐山行きの電車が入ってきた。
1両編成のワンマンカー。
嵐電は線路のその半分ぐらいが路面電車なのだ。

クーラーの効いた車内へ入り座席に腰を掛けた。
向かい側の席からズボンの裂け目が見破られないように注意しなければならない。
汗を拭って一息つくと、私の隣に先ほどのカップルが腰を降ろした。

「オレ、山科のショットバーでアルバイトしてるんだ」
「へ~、そうなんですか」
「結構良い店だよ」

ん?
なんだなんだ。
このカップルは。
新米カップルのなのか?
男は関西弁交じりの標準語で話し、女は完全に関西の訛りがない。
どうやら男が女ひとり旅で京都を訪れた女の子をナンパしたばかり、というのがこのカップルの状況のようだ。
男は学生だが山科にあるショットバーでバーテンとしてアルバイトしているという。

オモロイやないかい。
京都を旅するオノボリサンを観察することが今回の目的。
隣のカップルはそういう目的にピッタリだ。

地方の読者のために説明すると山科は京都と大津の丁度中間にある「京都でもなければ滋賀でもない。でも住所は京都市だ」という中途半端なところなのだ。
また大石内蔵助が赤穂浅野家お取り潰しの後しばらくここに滞在し、どんちゃん騒ぎしていたことで知られている場所でもある。
京都の中心部へは地下鉄東西線を使うと簡単に出ることができ、市内よりも家賃の安い下宿を探すという面ではビンボー学生には便利なところなのかも知れない。

でも男はビンボーに見えん。
それに関西訛りのある標準語。
なんなんだろう?

「京都にいる間に一度おいでよ。」
「ええ、行きます」
「まだ、カクテル作るのあまり上手じゃないけどね。」

カクテルを作るのは上手じゃないが、ナンパするのは上手なのか。
男は完全にキャバクラ風ネエチャンの心をつかんでいるようだ。

つづく