明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(1151)SEALDs奥田愛基さんの発言が素晴らしい!戦争法案は廃棄すべきだ!

2015年09月15日 17時30分00秒 | 明日に向けて(1101~1200)

守田です。(20150915 17:30)

戦争法案反対の声が全国に鳴り響いています。
にもかかわらず、安倍政権と与党自民党・公明党はこれだけの反対の声を無視して採決に走ろうとしています。
まったく許しがたい暴挙です。

これに対し、この間の民衆的うねりの最先頭で奮闘してきたSEALDsの奥田愛基さんが国会で意見陳述を行いました。素晴らしいの一言です。全国でデモに立っている多くの人々の声を代弁するものです。
ぜひこの発言を広げたいと思い、全文を掲載することにしました。なお書き起こしをしてくださったのはIWJです。貴重な活動に感謝しつつ転載させていただきます。みなさんぜひお読み下さい。戦争への道を食い止めるため、さらに頑張りましょう!

*****

9月15日中央公聴会、奥田愛基さん意見陳述全文
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/264668

「ご紹介に預かりました、大学生の奥田愛基といいます。

 『SEALDs』という学生団体で活動しております。

 すみません、こんなことを言うのは非常に申し訳ないのですが、先ほどから寝ている方が沢山おられるので、もしよろしければお話を聞いていただければと思います。僕も二日間くらい緊張して寝られなかったので、僕も帰って早く寝たいと思っているので、よろしくお願いします。

 初めに『SEALDs』とは、”Student Emergency Action for Liberal Democracy”。日本語で言うと、自由と民主主義のための学生緊急行動です。

 私たちは特定の支持政党を持っていません。無党派の集まりで、保守、革新、改憲、護憲の垣根を超えて繋がっています。最初はたった数十人で立憲主義の危機や民主主義の問題を真剣に考え、5月に活動を開始しました。

 その後、デモや勉強会、街宣活動などの行動を通じて、私たちが考える国のあるべき姿や未来について、日本社会に問いかけてきたつもりです。

 こうした活動を通して、今日、貴重な機会をいただきました。今日、私が話したいことは3つあります。1つは、今、全国各地でどのようなことが起こっているか。人々がこの安保法制に対してどのように声を上げているか。

 2つ目はこの安保法制に関して現在の国会はまともな議論の運営をしているとは言いがたく、あまりにも説明不足だということです。端的に言って、このままでは私たちはこの法案に関して、到底納得することができません。

 3つ目は政治家の方々への、私からのお願いです。

 まず第一にお伝えしたいのは、私たち国民が感じている、安保法制に関する大きな危機感です。この安保法制に対する疑問や反対の声は、現在でも日本中で止みません。つい先日も国会前では10万人を超える人が、集まりました。

 しかし、この行動はなにも東京の、しかも国会前(だけ)で行われているわけではありません。

 私たちが独自にインターネットや新聞などで調査した結果、日本全国2000ヶ所以上、数千回を超える抗議が行わわれています。累計して130万人以上の人が路上に出て声をあげています。

 この私たちが調査したものやメディアに流れているもの以外にも、沢山の集会があの町でもこの町でも行われています。まさに、全国各地で声があがり人々が立ち上がっているのです。

 また、声を上げずとも、疑問に思っている人はその数十倍もいるでしょう。

 強調しておきたいことがあります。それは、私たちを含め、これまで、政治的無関心と言われてきた若い世代が動き始めているということです。これは誰かに言われたからとか、どこかの政治団体に所属しているからとか、いわゆる動員的な発想ではありません。

 私たちはこの国の在り方について、この国の未来について、主体的に一人ひとり、個人として考え、立ち上がっているのです。

 SEALDsとして活動を始めてから、誹謗中傷に近いものを含む、さまざまな批判の言葉を投げかけられました。

 例えば『騒ぎたいだけだ』とか、『若気の至り』だとか、そういった声があります。他にも『一般市民のくせにして、何を一生懸命になっているのか』というものもあります。つまり、『お前は専門家でもなく学生なのに、もしくは主婦なのに、お前はサラリーマンなのに、フリーターなのに、なぜ声をあげるのか』ということです。

 しかし、先ほどもご説明させていただきましたように、私たちは一人一人、個人として声をあげています。不断の努力なくして、この国の憲法や民主主義、それらが機能しないことを自覚しているからです。

 『政治のことは選挙で選ばれた政治家に任せておけばいい』。この国にはどこか、そういう空気感があったように思います。

 それに対し私、私たちこそがこの国の当事者、つまり主権者であること、私たちが政治について考え、声をあげることは当たり前なんだということ、そう考えています。

 その当たり前のことを当たり前にするために、これまでも声を上げてきました。そして2015年9月現在、今やデモなんてものは珍しいものではありません。路上に出た人々がこの社会の空気を変えていったのです。

 デモや至るところで行われた集会こそが『不断の努力』です。そうした行動の積み重ねが基本的人権の尊重、平和主義、国民主権といった、この国の憲法の理念を体現するものだと私は信じています。

 私は、私たち一人ひとりが思考し、何が正しいのかを判断し、声をあげることは、間違っていないと確信しています。また、それこそが民主主義だと考えています。

 安保法制に賛成している議員の方々も含め、戦争を好んでしたい人など誰もいないはずです。

 私は先日、予科練で特攻隊の通信兵だった方と会ってきました。70年前の夏、あの終戦の日、20歳だった方々は、今では90歳です。ちょうど今の私やSEALDsのメンバーの年齢で戦争を経験し、そして、その後の混乱を生きてきた方々です。

 そうした世代の方々も、この安保法制に対し、強い危惧を抱かれています。私はその声をしっかりと受け止めたいと思います。そして議員の方々も、どうかそうした危惧や不安をしっかり受け止めてほしいと思います。

 今、これだけ不安や反対の声が広がり、説明不足が叫ばれる中での採決は、そうした思いを軽んじるものではないでしょうか。70年の不戦の誓いを裏切るものではないでしょうか。

 今の反対のうねりは、世代を超えたものです。70年間、この国の平和主義の歩みを、先の大戦で犠牲になった方々の思いを引き継ぎ、守りたい。その思いが私たちを繋げています。

 私は今日、そのうちのたった一人として、ここで話をしています。つまり、国会前の巨大な群像の中の一人として、国会にきています。

 第二に、この法案の審議に関してです。

 各世論調査の平均値を見たとき、初めから過半数近い人々は反対していました。そして、月を追うごと、反対世論は拡大しています。『理解してもらうためにきちんと説明していく』と現政府の方はおっしゃられておりました。

 しかし説明した結果、内閣支持率は落ち、反対世論は盛り上がり、この法案への賛成の意見は減りました。

 選挙の時に集団的自衛権に関してすでに説明した、とおっしゃる方々もいます。しかしながら自民党が出している重要政策集では、アベノミクスに関しては26ページ中8ページ近く説明されていましたが、それに対して、安全保障関連法案に関してはたった数行でしか書かれていません。

 昨年の選挙でも、菅官房長官は『集団的自衛権は争点ではない』と言っています。さらに言えば、選挙の時に国民投票もせず、解釈で改憲するような違憲で法的安定性もない、そして国会の答弁をきちんとできないような法案を作るなど、私たちは聞かされていません。

 私には、政府は法的安定性の説明することを途中から放棄してしまったようにも思えます。憲法とは国民の権利であり、それを無視することは国民を無視するのと同義です。

 また、本当に与党の方々は、この法律が通ったらどんなことが起こるのか、理解しているのでしょうか、想定しているのでしょうか。先日言っていた答弁とはまったく違う説明を翌日に平然とし、野党からの質問に対しても国会の審議は何度も何度も速記が止まるような状況です。

 このような状況で一体、どうやって国民は納得したらいいのでしょうか。

 SEALDsは確かに注目を集めていますが、現在の安保法制に対して、その国民的な世論を私たちが作り出したのではありません。もし、そう考えていられるのでしたら、それは残念ながら過大評価だと思います。

 私の考えでは、この状況を作っているのは紛れもなく、現在の与党のみなさんです。つまり、安保法制に関する国会答弁を見て、首相のテレビでの理解し難い例え話を見て、不安を感じた人が国会前に足を運び、また、全国各地で声を上げ始めたのです。

 ある金沢の主婦の方がFacebookに書いた国会答弁の文字起こしは、瞬く間に1万人もの人にシェアされました。ただの国会答弁です。普段なら見ないようなその書き起こしを、みんなが読みたがりました。

 なぜなら、不安だったからです。

 今年の夏までに武力行使の拡大や集団的自衛権の行使の容認を、なぜしなければならなかったのか。それは、人の生き死にに関わる法案でこれまで70年間、日本が行ってこなかったことでもあります。

 一体なぜ、11個の法案を2つにまとめて審議したか、その理由もよく分かりません。一つひとつ審議しては駄目だったのでしょうか。まったく納得が行きません。

 結局、説明をした結果、しかも国会の審議としては異例の9月末まで延ばした結果、国民の理解を得られなかったのですから、もう、この議論の結論は出ています。

 今国会での可決は無理です。廃案にするしかありません。

 私は毎週、国会前に立ち、この安保法制に対して抗議活動を行ってきました。そして沢山の人々に出会ってきました。その中には自分のおじいちゃんやおばあちゃん世代の人や、親世代の人、そして最近では自分の妹や弟のような人たちもいます。

 確かに若者は政治的に無関心だといわれています。しかしながら、現在の政治状況に対して、どうやって彼らが希望を持つことができるというのでしょうか。関心が持てるというのでしょうか。

 私は彼らがこれから生きていく世界は、相対的貧困が5人に1人といわれる、超格差社会です。親の世代のような経済成長も、これからは期待できないでしょう。今こそ、政治の力が必要なのです。

 どうかこれ以上、政治に対して絶望をしてしまうような仕方で議会を運営するのはやめてください。

 何も賛成からすべて反対に回れと言うのではありません。私たちも安全保障上の議論は非常に大切なことを理解しています。その点について異論はありません。しかし、指摘されたこともまともに答えることができないその態度に、強い不信感を抱いているのです。

 政治生命をかけた争いだとおっしゃいますが、政治生命と国民一人ひとりの生命を比べてはなりません。与野党の皆さん、どうか若者に希望を与える政治家でいてください。国民の声に耳を傾けてください。まさに、『義を見てせざるは勇なきなり』です。

 政治のことをまともに考えることが馬鹿らしいことだと思わせないでください。現在の国会の状況を冷静に把握し、今国会での成立を断念することはできないのでしょうか。

 世論の過半数を超える意見は、明確にこの法案に対し、今国会中の成立に反対しているのです。自由と民主主義のためにこの国の未来のために、どうかもう一度考えなおしてはいただけないでしょうか。

 私は単なる学生であり、政治家の先生方に比べ、このようなところで話すような立派な人間ではありません。もっと言えば、この場でスピーチすることも、昨日から寝られないくらい緊張してきました。政治家の先生方は毎回このようなプレッシャーに立ち向かっているのだと思うと、本当に頭が下がる思いです。

 一票一票から国民の思いを受け、それを代表し、この国会という場所で毎回答弁をし、最後には投票により法案を審議する。本当に本当に、大事なことであり、誰にでもできることではありません。それは貴方たちにしかできないことなのです。

 では、なぜ私はここで話しているのか。どうしても勇気をふり絞り、ここにこなくてはならないと思ったのか。それには理由があります。

 参考人としてここにきてもいい人材なのか分かりませんが、参考にしてほしいことがあります。

 ひとつ、仮にこの法案が強行に採決されるようなことがあれば、全国各地でこれまで以上に声が上がるでしょう。連日、国会前は人で溢れかえるでしょう。次の選挙にも、もちろん影響を与えるでしょう。

 当然、この法案に関する野党の方々の態度も見ています。本当にできることはすべてやったのでしょうか。私たちは決して、今の政治家の方の発言や態度を忘れません。

 『三連休を挟めば忘れる』だなんて、国民を馬鹿にしないでください。むしろ、そこからまた始まっていくのです。新しい時代はもう始まっています。もう止まらない。すでに私たちの日常の一部になっているのです。

 私たちは学び、働き、食べて、寝て、そしてまた路上で声を上げます。できる範囲で、できることを、日常の中で。

 私にとって政治のことを考えるのは仕事ではありません。この国に生きる個人としての不断の、そして当たり前の努力です。私は困難なこの4ヶ月の中でそのことを実感することができました。それが私にとっての希望です。

 最後に、私からのお願いです。SEALDsの一員ではなく、個人としての、一人の人間としてのお願いです。

 どうか、どうか政治家の先生たちも、個人でいてください。政治家である前に、派閥に属する前に、グループに属する前に、たった一人の『個』であってください。自分の信じる正しさに向かい、勇気を持って孤独に思考し、判断し、行動してください。

 みなさんには一人ひとり考える力があります。権利があります。政治家になった動機は人それぞれ様々あるでしょうが、どうか、政治家とはどうあるべきなのかを考え、この国の民の意見を聞いてください。

 勇気を振り絞り、ある種、賭けかもしれない、あなたにしかできないその尊い行動を取ってください。日本国憲法はそれを保障し、何より日本国に生きる民、一人ひとり、そして私はそのことを支持します。

 困難な時代にこそ希望があることを信じて、私は自由で民主的な社会を望み、この安全保障関連法案に反対します。

 2015年9月15日、奥田愛基。ありがとうございました」

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明日に向けて(1150)【再掲】東京は世界一危ない都市・・・警鐘「首都沈没」(東京新聞より)-2

2015年09月12日 12時00分00秒 | 明日に向けて(1101~1200)

守田です。(20150912 12:00)

前回からの続きです。

江戸時代に日本でユニークで地域の自主性を尊重した河川管理方法がとられていたことに対して、西洋のテクノロジーは、中央の一元管理のもとに自然を制覇する志向性を持っていました。
その多くは日本と条件がまったく異なるヨーロッパで生まれたものであり、ライン川などのように傾斜がずっと緩い中での技術体系であったにもかかわらず直輸入されました。
そのために起こったのは、洪水に対して、適度に越流させて、エネルギーを分散させて凌いでいくという発想から、巨大な堤防を築いて、洪水をおしとどめる方向性への大転換でした。
そのことでどうなったのか。洪水を抑え込む堤防を作ることでやがて「想定外」の洪水に襲われ、堤防決壊という大惨事が起きました。
すると堤防をさらに巨大化させて洪水を抑え込む方法がとられました。その結果、利根川はよりたくさんの流量を抱え込み、決壊したときの洪水の規模が大きくなるばかりでした。

これを促進してしまったのが、鉄道輸送の発達による菱垣廻船で作られていた輸送システムの後退でした。川を菱垣廻船が遡行していくためには、流量の安定が必要で、そのためにも巨大堤防を作ることは江戸時代には考えられもしなかったからでした。
ところが水路としての川の位置性が落ちてしまったため、ますます利根川は大きな流量を抱え込むことになり、一度決壊したらとんでもない災害をもたらす連続堤防を作り出すに至ってしまったのです。
このためかつてない規模の水が利根川を流れており、しかもテクノロジーそのものが「決壊はあってはならない」とする封じ込め型の発想なので、堤防が破堤したときの対策がないのです。
破堤は「あってはならないこと」になっており、だから一度発生すれば大惨事に発展するのです。

さらに昭和にいたって工業化が始まり、膨大な地下水が汲み上げられて、東京湾岸の広い地域の地盤が沈下し、ゼロメートル地帯が拡大したことも危険性を広げてきました。
ところがこうした近代テクノロジーの採用の下での新たなリスクの発生は、常に何時しかテクノロジー自身が進化し、乗り越えられるものとしてのみ想定され、リスクを考慮しない開発に拍車がかけられてきてしまいました。

これが放射能汚染をまったく考えなくても、東京が世界で一番危険な都市であるとされる所以です。問題は自然災害の多いこの国において、災害のすべてをテクノロジーで抑え込もうとしてきた近代主義的な発想の限界にあります。
あるいはこの間の自然条件の変異、異常気象の多発が、このテクノロジーの限界を浮き彫りにさせているとも言えます。
これを加速させてきたのがテクノロジーへの過信であり、リスクはいつかは越えられるとする安易な発想であり、その結末としての、巨大事故の発生のリスクを見据えようとせず、自らに都合のいいことばかりしか考えなくなってしまった昨今の風潮です。

その最も顕著な例が原子力における安全神話です。自らに都合の悪いことは全て無視し、他者に対していやおそらくは己に対してすら平気で大嘘をついて事態を乗り越えようとする、モラルを著しく欠いた安倍政権の存在がこの危険性を著しく拡大しています。
だからこそ私たちは、近代の末期において出現しているこのモラルを失った安全神話、危険から目をそらして都合のいい未来ばかりを考えていく発想とこそ対決しなければなりません。

そのために私たちは、自ら主体的に私たちを取り囲む危機と対峙し、いざというときの身構えを作り出すとともに、社会のあり方をさまざまなところで論議し直し、私たちの命と平和、未来世代の安全と可能性を守っていく努力を払い続けるべきです。
土屋さんの提言から引用すれば、まずは次のような対処から始めるのが大切です。いわく「防災グッズの中にライフジャケットを一つ入れるだけでいい。なければポットボトルや発泡スチロールでもいい。それが命を繋げる」。

それらからも世界一危険な都市での東京オリンピックの開催などはやめて、東京の安全や東北・関東の安全を、水害からも原子力災害からも放射能からも守っていくことに全力を集中させるべきだし、同じ発想で全国で安全確保の取り組みを強化すべきです。
さしあたっての原発の再稼働を止める取り組みも、こうした総体としての社会方向の転換の中に位置づけていくことが問われています。

以下、東京新聞の記事を貼り付けますのでご覧下さい。

*****


「東京は世界一危ない都市 警鐘『首都沈没』」
東京新聞2014/09/07 (なおブログ「大友涼介です」での書き起こしより転載させていただきました。大友さんに感謝いたします)
http://ameblo.jp/heiwabokenosanbutsu/entry-11921408895.html

東京を壊滅させるには堤防を一カ所壊すだけで十分。こんな恐ろしい警告を発している人がいる。元東京都職員の土木専門家、土屋信行(64)。
「洪水対策は国家の安全保障」と主張する。いったいどういうことなのか。(沢田千秋記者)

土屋氏は一九七五年、都庁に入庁・江戸川区土木部長や本庁の道路建設部街路部長などを務めた。二〇一一年の退職まで、区画整理や道路建設を手掛け、東京の地形的特徴を知り尽くした人物だ。そんな土屋氏が「東京は世界一危ない都市だ」と断言する。
土屋氏は、スイスの保険会社がまとめた「自然災害リスクが高い都市ランキング」を引用。世界六百十六都市のうち、世界一危険な地域は、東京、横浜の首都圏だった。
首都圏は、洪水、嵐、高潮、地震、津波で、五千七百万人が影響を受けると想定している。土屋氏は「このままでは、首都は必ず水没する。今は運がいいだけ」と話す。

関東平野は山に囲まれ、北西の山裾から南東方向に緩く傾斜し、東京湾に向かっている。「つまり、洪水が起きたら水が集まる場所に首都東京がある」。
最大の危険地域は海抜ゼロメートル地帯。明治以降、工業用水の確保と地下の天然ガス採取のため、大量の地下水が汲み上げられ、猛烈な勢いで地盤が沈下。
干潮時のゼロメートル地帯は江戸川区、葛飾区、江東区、墨田区、満潮時は足立、北区、荒川区、台東区にまで及ぶ。

江東区南砂や江戸川区松島の海抜は、干潮時でも川の水面より低い。浸水を防いでいる荒川や隅田川堤防も、一部は厚さが三十センチ程度しかない「かみそり堤防」で、土屋氏は「非常に脆い」と指摘する。
東京では昨年、大阪の三倍にあたる百十六回のゲリラ豪雨が発生したといい、「土の堤防は多量の雨を含んだら壊れる。洪水は今、たまたま起きていないだけで、もういつ起こってもおかしくない」という。

加えて、都市ならではの脅威が地下の存在。政府の中央防災会議のシミュレーションによると、北区志茂で荒川の堤防が午前零時に決壊した場合、洪水は十一分後に東京メトロ南北線の赤羽岩淵駅に到達し、地下トンネルを流れ始める。
六時間で西日暮里駅、九時間で上野駅、十二時間で東京駅、十五時間で霞が関や六本木駅に達し、最終的に十七路線九一七駅が水没する。
電力や通信網が走るトンネルも網の目のように、地価に張り巡らされている。「地下の大動脈の水没は日本経済に多大な損害を与える」
土屋氏は、「日本を攻撃するのに、軍隊も核兵器も必要ない。無人機が一機、大潮の満潮時にゼロメートル地帯の堤防を一カ所破壊すれば、日本は機能を失う」と警告する。

土屋氏の祖父は昭和初期、新潟県で信濃川の治水作業中に倒れ、死の間際「われ郷のために死す」と遺言した。
土屋氏自身、五十歳の時に進行性の肝炎を発症。常に死を意識する中、「水害で人命が奪われない都市にしたい」と、首都の水害研究に傾注。著書「首都水没」(文春新書)にまとめた。
「脅すようなことを言うのも、耳を傾けてもらうため。水害は地方の災害と思ってる東京の人があまりに多い。危ない場所に住んでいることを自覚して欲しい」

地球温暖化で海面が上昇し、降雨強度も増している。土屋氏は首都圏の住民に呼び掛ける。「防災グッズの中にライフジャケットを一つ入れるだけでいい。なければポットボトルや発泡スチロールでもいい。それが命を繋げる」。

連載終わり

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明日に向けて(1149)【再掲】東京は世界一危ない都市・・・警鐘「首都沈没」(東京新聞より)-1

2015年09月12日 11時30分00秒 | 明日に向けて(1101~1200)

守田です。(20150912 11:30)

この記事はちょうど一年前、2014年9月11日に僕が「明日に向けて」に書いたものです。この中で僕は以下のように主張しています。

「世界一危険な都市での東京オリンピックの開催などはやめて、東京の安全や東北・関東の安全を、水害からも原子力災害からも放射能からも守っていくことに全力を集中させるべきだし、同じ発想で全国で安全確保の取り組みを強化すべきです。
さしあたっての原発の再稼働を止める取り組みも、こうした総体としての社会方向の転換の中に位置づけていくことが問われています。」

今回の常総市での洪水についても、事前から今回決壊した地点付近での破堤の可能性や、破堤した場合のこの地域の水没の深刻化もかなり的確に予想されていたことが報道されています。
しかし対処がまったく間に合わなかったのです。いやその上にどうもソーラーパネル会社が堤防を勝手に掘削してしまったというひどいことまでが重なっていたようですが、それも含めて、この災害は国による水害対策の遅れこそが原因です。
私たちがつかまなければならないのは、もっとたくさんの地点、広範囲の地域が水害の危機の瀬戸際に立っているということです。中でも東京は世界一、危険な都市とスイスの保険会社から名指しされています。

多くのみなさんにこの点をしっかりとつかんでいただきたいと思い、1年前に投稿した記事をそのままに再掲します。(ただし長いので2回に分けます)

ぜひお読み下さい!

*****

明日に向けて(933)東京は世界一危ない都市・・・警鐘「首都沈没」(東京新聞より)
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/974f310ea1faae553cb23b4ad71496a8

守田です。(20140911 16:30)

東京は世界一危ない都市・・・。僕がこのタイトルで語ると東京の放射能汚染のことを指摘していると思われる方もおられると思いますが、このタイトルは2014年9月7日の東京新聞の記事につけられたもの。東京における水害の絶大な危険性を訴えたものです。
実はこのことは、川の専門家の間では「常識」に類することでもあります。利根川の巨大な連続堤防が大変な量の水を溜めこんでしまったおり、一度、防波堤が決壊した場合に、壊滅的な被害がでることが指摘され続けているからです。

記事で取り上げられているのは元東京都職員の土木専門家の土屋信行(64)さん。
土屋さんはスイスの保険会社がまとめた「自然災害リスクが高い都市ランキング」を引用し、首都圏が「洪水、嵐、高潮、地震、津波で、五千七百万人が影響を受ける」と想定されていることを紹介して警鐘を鳴らしています。
つまりここで取り上げられている危険性は、放射能汚染以外のものだということです。現実にはこれに深刻な汚染が加わります。
もう少し記事を見てみましょう。そこには次のような指摘があります。

***

関東平野は山に囲まれ、北西の山裾から南東方向に緩く傾斜し、東京湾に向かっている。「つまり、洪水が起きたら水が集まる場所に首都東京がある」。
最大の危険地域は海抜ゼロメートル地帯。明治以降、工業用水の確保と地下の天然ガス採取のため、大量の地下水が汲み上げられ、猛烈な勢いで地盤が沈下。
干潮時のゼロメートル地帯は江戸川区、葛飾区、江東区、墨田区、満潮時は足立、北区、荒川区、台東区にまで及ぶ。

***

僕がこの記事を取り上げようと思ったのは、東京だけの危険性を指摘したいからではありません。なぜかと言えばスイスの保険会社がまとめたランキングには、なんと東京・横浜の他、大阪・神戸、名古屋という日本の五大都市が入っているのです。
以下にランキングを示します。(東京・横浜、大阪・神戸は同率ではなく、一つの都市圏として捉えらえている)

1位 東京・横浜(日本)
2位 マニラ(フィリピン)
3位 珠江デルタ(中国)
4位 大阪・神戸(日本)
5位 ジャカルタ(インドネシア)
6位 名古屋(日本)
7位 コルカタ(インド)
8位 上海・黄浦江(中国)
9位 ロサンゼルス(アメリカ)
10位 テヘラン(イラン)

http://news.livedoor.com/article/detail/8709053/
http://media.swissre.com/documents/Swiss_Re_Mind_the_risk.pdf

どうしてこうなってしまうのか。また何を捉え返すべきか。僕は日本の近代化の中での安全性を無視した無理な都市化の矛盾が大きく表れていることをこそ、捉え返すべきだと思います。
しかもそれがこの間の異常気象の中で、何度も表面化してきている。広島土砂災害もそうです。この構造をまずはしっかりと把握しておく必要があります。

東京について再度、考察して行きましょう。紹介した記事の抜粋の中に、東京が「洪水が起きたら水が集まる場所にある」ことが書かれていましたが、実はここに東京ができたことには歴史的背景があります。
というのは記事にあるように、東京はもともと洪水の巣とでも言えるような場所で、巨大都市の構築には向かないところでした。では誰がここに巨大都市を築いたのかと言えば、徳川家による江戸の整備が始まりです。

ご存知のように、徳川家を開いた徳川家康は、豊臣秀吉の一番のライバルでした。戦国時代末期に秀吉と和睦し戦国の終焉を目指しました。この時、秀吉は、愛知県岡崎市や静岡県浜松市にいたる遠江を拠点としていた家康を国替えさせ、関八州に封じました。
実は戦国武将の多くは治水・利水にたけており、中でも秀吉は治水・利水の天才とも言うべき人物でした。織田信長が本能寺で討たれたときには、中国地方で毛利勢と相対しており、敵方の城を水攻めにしていました。
そもそも治水は領土を安定させ、軍事力のベースになる石高をあげることに寄与すると共に、攻城戦にも適用できる当代最新のテクノロジーでした。秀吉はこの知恵を使い、家康が治水に翻弄され秀吉への対抗力が落ちるようにと関八州与えたのでした。

以降、徳川家は、この洪水の巣を度重なる土木工事によって人の住める地に変えていったのですが、最も大規模なものは家臣の伊奈家による何代にも及んだ利根川の大改修工事でした。
というのはそれまでの利根川は、江戸湾に注ぎこんでいたのでした。それを大改修を行って東に方向を変え、銚子岬まで川をひっぱっていったのです。その際、かつての利根川の残りとなったのが荒川でした。

これには幾つもの目的がありました。最も大きいことは江戸を洪水から守ることでした。二つ目に治水とともに利水を発達させ、大規模に新田を開発することでした。
さらに新しくできた川の水路としての活用が目指されました。日本は日本海側が米どころで江戸時代には菱垣廻船で流通させていましたが、銚子岬から利根川に入り、西に遡ったのちに荒川を経て大消費地の江戸に至る安定的なルートが確保されたのです。
その上、江戸時代に大きな勢力を保っていた伊達藩を仮想敵とした江戸城防衛のための大外堀としての位置をも持っていました。

このように利根川の大改修工事は、江戸の町の長きに渡る発展の大きな礎となるものでした。ところがこの利根川の位置性が明治維新以降に大きく変わっていきます。
もっともインパクトが強かったのは西洋近代技術の導入であり、その中での鉄道の発達であり、このために河川管理は二つの点で大変容を被っていきます。

一つには江戸時代まで主流であった自然と調和し、共存していく技術体系が批判され、西洋式の自然を支配する技術体系に置き換えられていったこと。
川についていえば、江戸時代までは川は洪水を起こすものであり、いかに洪水の影響を和らげるのかが目的とされました。そのため防波堤の決壊という最悪の事態を招く前に、あらかじめ決めていた場所から越流させ、威力を削ぐ管理方法がとられていました。
洪水の際、恐ろしいのは水の勢いと泥だと言われます。そのためあらかじめ設けられた越流地点には防水林が設けられ、水の勢いを減じると同時に、林の中に泥が落ちる仕組みが設けられていました。

画期的だったのは、これらの管理が多くの場合、地域に任されていたことでした。地域では庄屋を中心とした寄り合いで、あらかじめ決めた越流地点から生じる被害を、いかに補てんしていくのかの話し合いなども行われていました。
結論が出るまで、寝ずに討論し続けるなどのユニークな仕組みを設けることで、全員一致まで討論が行われているところが多くあり、その結果、河川の地域による管理が可能となっていました。
越流した後にさらにまた防波堤が幾重にも出てきたり、越流した水が上流方向に誘われるようになっているなど、水を溢れさせた上で、徐々に力を削いでいく方法がとられていました。

続く

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明日に向けて(1148)放射線被曝、ヨーロッパ・トルコ訪問、長野・群馬・東京訪問等についてお話します!

2015年09月11日 21時00分00秒 | 講演予定一覧

守田です。(20150911 21:00)

今日は911事件の日ですね。2001年9月11日のツインタワービル襲撃、あの後アメリカを中心としたたくさんの戦争や暴力が起こりました。最も大きなものはアフガニスタン侵略戦争とイラク侵略戦争でした。
これらのむごい戦争の中でアフガンもイラクも激しく傷つき、とくにイラクは社会秩序がガタガタになってしまいました。さまざまな暴力、殺人が頻発しました。その中でIS新たな勢力として出現してきて社会の大混乱が深まるばかりです。
今、安倍内閣が進めようとしている集団的自衛権の行使容認は、このセンテンスの中から出てきたことです。だからアメリカのアーミテージによって素案が作られたのです。

その点でこれらの流れは2001年9月11日から始まっているとも言えます。私たちはその点をおさえ、アフガン戦争やイラク戦争とは何だったのかを考えながら前に進む必要があります。そのことと福島原発事故とは何だったのかを重ね合わせることが大事です。
「覚醒」を進めなくてはなりません。嘘をつくことは安倍首相の専売特許ではありません。自民党はながらくアメリカの非道な戦争を支持してきたのです。そのことでたくさんの経済的恩恵を受けてきたのです。
そのアメリカが押し付けてきた原発を、自然エネルギーが宝庫のこの国で強引に広げてきたのも自民党。これらの歴史を根本から問い直すべき時が今です。
この夏、僕は「戦争と原爆と原発と放射能被曝の太い関係を捉え返す」ことを軸に講演活動を行ってきましたが、9月にも幾つかの場でお話を行います。すでに紹介したものもありますが、再度、講演予定をお知らせしておきます。

【9月12日滋賀県朽木村】

今年も山水人(やまうと)に参加してお話しすることになりました。明日の夜、19時からです。今回も広海ロクローさんと対談します。
タイトルは「いまあらためて放射能被曝を問い直す」です。

ロクローさんに「どんな風に話したい?」と相談したらこんなこと答えが返ってきました。
「福島原発事故以降、僕はずっと放射能に恐れおののいてた。神経がしんどくなるぐらいに。それでどうしたのかというと自分で放射能が何であるかを知ろうとした。自分から向かい合おうとした。それで恐怖を越えてきたのだと思う。
そんなことを話したい。それであらたな活動を作りたいと思っているのでそのことにも触れたい」と。僕は「ああ、いいな」と思いました。
「それなら僕がまずは放射能被曝の現状を話すよ。群馬県で聞いてきたことなども。まずは恐ろしい現実がある。それを知る必要がある。でも問題はそれに能動的に向かい合っていくこと。その中でこそ展望が切りひらける。
福島原発事故後に起こってきたのはこの『覚醒』だと思う。」「いま起こっている水害のこともそう。行政に対応を任せていてはダメなんだ。自分たちが能動的に立ち向かわなくては。そんなことも話したいな」・・・。

時間が1時間で、いつもロクローさんとは大筋しか決めずにライブで話すのでどんな展開になるのか分かりませんが、この太い軸に沿って行けばかなり面白い対話ができるのではないかと思います。
少々、行きにくい場ですが、興味のある方、ぜひ山水人にご参加下さい。HPをご紹介しておきます。

 山水人2015
 http://yamauto.jp/

【9月13日京都市】

下京区で「明日に向けて ドイツ・トルコ・ベラルーシから学ぶ日本の現状と課題」というタイトルでお話します。
前回(1141)で13日の話の内容を以下のように紹介しました。

「ドイツ・トルコ・ベラスーシから学んだことはたくさんあるのですが、今回は主にチェルノブイリをはさんだベラルーシとウクライナの歴史の問題と、トルコへの原発輸出問題の二つを軸にお話しようと思います。

前者について、ベラルーシやトルコをドイツの方たちと一緒に訪問する中でつかんできたのですが、実はベラルーシやウクライナは、中世はヨーロッパ最強の国、ポーランドの一部で、最もユダヤ人が多く住んでいる地域でもありました。
その後、ポーランドは強国による分割と復活を繰り返し、第二次世界大戦においてはナチス・ドイツとソ連邦に分割されてしまったのですが、そのナチスがソ連に攻め込んだときに主戦場となったのがベラルーシやウクライナでした。
このためこの地域は大変、酷い侵攻に晒されることとなったのですが、とくにユダヤ人は次々とナチスに捕まり、アウシュヴィッツなどに送られ、大虐殺されてしまいました。
こうした歴史があるため、チェルノブイリ事故後、被災者たちの最も大きな救援の拠点になったのがドイツでした。今もドイツからは1000を越える民間団体によるチェルノブイリ被災者支援が行われています。
チェルノブイリに関してあまり語られてこなかったこうした歴史性をお話したいと思います。

トルコについては2014年2回、2015年1回の訪問で得てきたことをお話します。
この過程でつかんだことは一つにはトルコの多くの方たちが積極的な反対運動を行っていることです。とくに日本からの原発輸出予定地のシノップでは町をあげて大きな反対運動が取り組まれています。
美しいシノップを守るために私たちが何をしなければならないのかをお話します。
同時に、実はトルコもまたチェルノブイリ原発事故によって激しい被曝を被ったこと、このことにあまりに光があたってこなかったことについてもお話します。
僕が訪ねたシノップ県のエルフレック市長は「この黒海沿岸の家族の中で、がん患者のいない家族はありません。だから私は命をかけても原発に反対して市民を守ります」とおっしゃってくださいました。
これらの点について豊富なスライドをお見せしながらお話します。」

これはこれで変わらないのですが、これだけでは「~から学ぶ日本の現状と課題」が十分ではないので、その点にも触れたいと思います。
とくにヨーロッパで逞しく展開されてきた脱原発運動の中で、原子力産業全体の展望が相当に暗くなっていること、その上に福島原発事故が巨大な影響を与えていること、その中で東芝の不正会計問題も出てきたこと。
この事件が日本の原子力産業の崩壊の象徴であることなどを突き出していきたいと思います。

以下、企画内容を貼り付けておきます。

明日に向けて ドイツ・トルコ・ベラルーシから学ぶ日本の現状と課題

2014~15年、三度トルコ訪問。ドイツ、ベラルーシさらにポーランドを訪問された守田敏也さんに、ロシア・ヨーロッパの実情をお話して頂ます。
福島そして日本、私たちの今と未来に深くつながるお話をぜひ聞きに来てください。

9月13日14:00開会
 会場 梅小路公園「緑の館」1Fイベント室
 参加費500円

主催 下京原発ゼロネット 代表 寺野哲也
連絡先 TEL 09039931849(寺野)09092897787(森野)

フェイスブックのイベントページをお知らせしておきます。
https://www.facebook.com/events/1650127798564038/


【9月15日京都市】

続いて15日に左京区のキッチンハリーナをお借りして、この夏に行った長野・群馬・東京訪問の報告会を行います。

長野では大鹿村の「お山の上のどんじゃらホイ」に参加してきました。
お祭りの楽しさもご紹介したいと思いますが、大鹿村についてはなんといってもリニア新幹線が赤城山脈を貫通して作られ、その出口にされようとしています。
人口1100人の村に、最大で一日1700台以上のトラックが通るというとんでもない工事が行われようとしています。このことについてもお話します。
また大鹿村をはじめとする伊那谷は満蒙開拓団にもっともたくさんの人を送りだして被害を受けた地でもあります。この点にも触れたいと思います。

群馬では11日から13日の間に玉村町、大崎市、榛東村、渋川市、桐生市とまわり6回の講演を行いました。
これらを通じて知った群馬県の被曝状況とともに、これに対する群馬の人々のさまざま活動をご紹介したいと思います。
これを通じて、京都のみなさんと群馬県の方々とがつながっていただければと思います。

東京にはこの行程の最後に寄り、午後に元東芝の格納容器設計者の後藤政志さんとお会いして対談してくることができました。ここでのエピソードをご紹介します。
また夜には緑の党の東京事務所でお話してきました。
いずれにせよ、たくさんの場をまわってたくさんのことを持ち帰ってきていて、まだ整理できていない面もあるのですが、僕自身、この報告を通じて得てきたものをまとめようと思っています。
なお参加料は1000円、プラスでワンドリンクをご注文ください。

フェイスブックのイベントページをお知らせしておきます。
https://www.facebook.com/events/1710858772484480/


【9月20日京都府宇治市】

宇治市の西小倉めぐみ教会の牧師さんの棚谷さんにお声掛けいただいて、教会でお話することになりました。プロテスタントの教会でのお話は四日市バプティスト教会に続いて2度目です。カソリック教会ではたくさんお話しているのですが。
タイトルはこの夏に語り続けてきた「戦争と原爆と原発と放射線被曝のつながりを内部被曝からとらえ直す」です。
午前中の礼拝のときに僕自身が放射線防護に取り組んだ内面のお話もさせていただきます。前述したタイトルに基づく講演は午後からです。

「戦争と原爆と原発と放射線被曝のつながりを内部被曝からとらえ直す」
お話 守田敏也さん
日時 9月20日(日)
午前の部(教会礼拝にて)午前10時半~11時半 テーマ「いのちを守る」
午後の部(研修センター主催)午後1時半~3時半「被曝と防護」

場所・主催 西小倉めぐみ教会・研修センター 参加費無料
協賛 日本キリスト教団京都教区 南山城伝道協議会


 

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明日に向けて(1147)洪水から命を守るために-能動的対処が問われている!

2015年09月10日 23時30分00秒 | 明日に向けて(1101~1200)

守田です。(20150910 23:30)

栃木県、茨城県に豪雨が降り、大洪水や土砂災害が発生しています。とくに茨城県常総市で鬼怒川が決壊し、およそ7000世帯に被害が及んでいると見積もられています。9月10日22時30分現在で行方不明10人、意識不明1人と報告されています。
両県には大雨特別警報が発令されています。数十年に一度の洪水が起こる可能性があり「ただちに命を守る行動にうつる」ことを求めるものですが、実際、鬼怒川の破堤による大規模氾濫は77年前、1938年の台風による豪雨以来だそうです。
この他、東北の福島県、山形県、宮城県、岩手県と甲信越の長野県に土砂災害警戒情報が発令されており、東京都、神奈川県、千葉県、静岡県、長野県に警報が発令されています。いずれも22時30分の情報です。

とくに福島県をはじめとした東北地方はこれからさらに雨が強まるとされていますので、河川の氾濫や土砂災害の発生に対しての十分な警戒が必要です。
すでに夜半に入っていますが、災害対策の基本は「とっとと逃げる」こと。該当地域の方は事態が深刻化する前に万が一の避難を行っていただきたいと思います。
すでに水が町を覆ってからの避難は危険です。ましてや夜間では視界も悪い。それでも山や崖に近い方は、いつもと違う音、匂いなどがする場合は、土砂災害の危険性が迫っていると考えて、身を守る行動をとってください。
避難所に行くことが危険だと判断した場合は、2階以上にあがるとともに、山側、崖側とは反対側に居るようにすることが大切です。

最新のNHKニュースを貼り付けておきます。

 各地で河川氾濫や浸水 最大級の警戒を
 NHK 9月10日 22時49分
 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150910/k10010226621000.html

このニュースによると栃木県では7日に降り始めてからの雨量が多いところで600ミリを越えているとのこと、平年の9月一月の雨量の倍の量が3日間で降ったことになります。
茨城県でもおよそ300ミリの記録的な雨だそうです。また福島県会津地方でも48時間の雨量が300ミリを超え、50年に一度の記録的な大雨になっているとのこと。
雨はこれから東北の多いところで200ミリ、北海道で150ミリ、関東で100ミリ降ると予測されています。まだまだ危険が続きます。
また23時のNHKニュースによると福島県北部や宮城県南部の筆甫でも400ミリを越えているとのこと。雨雲は大きく宮城県に移動していますが、関東や福島でもまだ雨が続く可能性があります。

今回の災害で特徴的なのは、鬼怒川の堤防が大きく決壊し、常総市に大きな被害が出ていることです。140メートルぐらい破堤していると見られています。
同じ氾濫でも堤防の上を水が越えていく「越流」の場合と、堤防が壊れてしまった場合では水流、水量が圧倒的に違います。決壊は河川災害における最悪の事態です。
このため今後、万が一他の川で破堤が生じた場合は、ハザードマップには水没地帯と記されていないところまでも水がやってくることもありえます。ともあれ土砂災害警戒情報の出ている地域の方は十二分な警戒態勢が必要です。

鬼怒川の決壊の最大の要因は何か。またそこから何を学ぶ必要があるのか。一つに南北の伸びる鬼怒川の上に長く雨雲がかかり、流域全体に激しい雨が降り続いたため、水量がかつてないほどに大きくなったことがあげられます。
その点では自然の猛威が原因です。しかし他方で人間がこれらにどう対処してきたのか。またそこから今後、いかに対処することが必要なのかという点で学ぶべき点があります。

この点を、僕が常に災害対策面でその見解に学んできた群馬大学の片田敏孝さんが10日18時の毎日テレビのニュース番組に出演して解説されたのでご紹介しておきたいと思います。片田さんは次のように語りました。
「堤防の整備が国として進めてきているがまだまだおいついてない。国が管理する河川の場合、100年に1回の洪水が来ても防げる堤防作ることになっている。しかし今の投資水準では国が管理する大きな河川だけでむこう1000年ぐらいかかってしまう。
「ここ最近の気象災害は荒々しさを増している。そして仮に堤防が全部できていたとして、例えば100年に1回の洪水なら守られると言うのは、初めからそれ以上のものは守ろうとしていないことだ。
ここ最近の雨はすごい降り方なので堤防がどれだけできてもそれに委ねるのは限界がある。また最近の雨の降り方は局所的だが、市町村の方は合併などして大きくなっている。市役所でその状況が十分につかめていないということもある。
避難指示や避難勧告が適時に出されているという状況でもない。」

「情報に委ねてばかりいると危ういのだということも自覚しておかなくてはならない。状況がまずいとなったり、今夜これからひどくなるぞと把握されたら早目早目に行動をとって欲しい。
また避難勧告などはあるエリアにでる。その中には水位が低いところもあれば高いところもある。木造平屋建てもあれ鉄筋コンクリートの4階に住んでいる方もいる。個人個人にとって最適な行動はみんな違う。
これに対して避難勧告一本で自らの最適な行動になっているかというと必ずしもそうではない。最近、避難勧告が出たけれどもすでに水につかっていれば逆にとどまるという選択もありだということも伝えている。
自分にとっての最適行動は必ずしも避難勧告によって体育館に避難するばかりではない。それぞれにとっての最適行動を自分で考えなくてはいけない。そういう主体性が求められている。」

非常に重要な点です。僕もこの間、原子力災害対策についての講演を行う時、原子力災害に先立って、災害全般への備えを強くすることを提案し続けていますが、その際の最も大事なポイントがこの主体性の問題なのです。
この国の防災システムは行政から避難勧告が出たら避難するとなっています。しかしこの間繰り返している大雨は、地球的規模の気候変動を受けていると思われ、これまでの想定を突破してしまうものが多い。
とても的確に避難勧告や指示が出せる状況ではないのです。また人々の住いの場所やあり方によっても最適行動は違ってくるので、その点でも勧告や指示だけを待っていてはいけない。自主的に判断して行動することが問われているのです。

その点で注意を要するのは「特別警報」の捉え方です。特別警報は数十年に一度の大雨などの水害が予想されるときに出され、「ただちに命を守る行動をとる」ことを求めるものです。
しかしこの「特別警報」が出ていなくても、命が危機に瀕することはあります。昨年8月に起こった広島土砂災害もそうでしたし、その前の年に起こった伊豆大島での土砂災害でもそうでした。
大事なのは特別警報が出なければ「ただちに命を守る行動」をとらなくてよいとはけして考えてはいけないということです。あくまでも特別警報を一つの目安と考え、事態が深刻化しないうちに万が一に備えるのが災害対策としてはベストなのです。
そのためにさまざまな災害を想定してシミュレーションをしておくことこそが重要です。これを基礎に災害に対して能動的に行動することが大事なのです。

同時に今回の災害を見ても、気候変動が生じている中で、この国がいかに水害に弱いのかが浮き彫りになっていることを私たちはしっかりと把握しておく必要があります。
これもこの間指摘してきたことですが、スイスの保険会社(スイスリー)がまとめた危険都市ランキングでは、なんと東京・横浜が1位、大阪・神戸が4位、名古屋が6位に入っています。
「洪水、嵐、高潮、地震、津波」から算出されたものですが、スイスリーは、ワースト10の都市には「移住してはならない」とまで言っています。

洪水や水害の被害は自然災害としてだけ起こるのではないのです。都市の防災体制との兼ね合いで決まるのです。その点でスイスリーはその点で日本の諸都市の防災体制が脆弱であることをこそ指摘しているのです。
実際、国土交通省は、今、この国の中に土砂災害が発生しやすい家屋がなんと53万戸もあるとも発表しています。多くの人々が大雨が起こった際に極めて危険な地域で暮らしているのです。
それだけではありません。この国には関東大震災、南海トラフ地震などが発生する恐れや、桜島や富士山をはじめとした火山の大噴火に見舞われる可能性すらあります。にもかかわらずそれへの備えがまだまだ脆弱なのです。

火山など世界のなんと1割もが日本列島にひしめいているのに、この国の火山学者の数は40数人。ちなみにイタリアは600人だそうです。
このことひとつとってみても、この国が本当の意味での国防=民を守ることをいかにないがしろにしているのかが分かります。私たちはこの国のこの自然災害に対して脆弱なあり方をこそ克服の対象にしなければなりません。

つまり自然災害に対して能動的になるとは、自主的な判断力を養い、災害を想定したシミュレーションを行っておくことだけではなく、この国を、あるいはそれぞれが住まう地域全体を災害に強いもの変えていく努力を発揮していくことでもあります。
その最も有効な手段としてあるのは僕は自衛隊を災害救助隊に変えることだと思います。それが実現不可能だと言うのなら災害救助隊を新たに創設するのでも良い。なにせ水害に弱い国のトップテンの中に主要都市が入っているのですから絶対に必要です。

実際、今回も自衛隊のヘリコプターが救助で活躍してくれましたが、人命救助の合理性から考えれば迷彩塗装などマイナスなのです。救助隊は要救助者に見えなくてはいけないからです。自衛隊は敵に見えないように迷彩塗装しているのです。
それにも顕著なように、人を助ける論理と人と殺し合う論理はまったく違うのです。だから自衛隊のままで災害救助を行うのは合理的ではないのです。もっと人命救助に特化し、もっぱらその装備ばかりを揃え、その訓練ばかりを積んだ部隊を作った方がいい。
そして、これまで一度も使ったことのない戦車や戦闘機をどんどんハイテクの消防車や救急車などに変えてしまえば良いのです。さらにトヨタや日産に粋をつぎ込んでもらって世界中が驚き、歓迎するような災害対策機器を作りだしたらいい。
実際、自衛官の多くが災害救助活動に惹かれて入隊しているとも聞いています。自衛隊自身、積極的にそのような募集も行っています。だから変えてしまえばいいのです。繰り返しますが、水害の世界のワーストテンに主要都市が入っているのですから。

もちろんそこまではすぐには到達できないかもしれません。だとしたらまずはぜひそれぞれの地元で、行政に災害対策の強化を訴え、そこへの市民参加を求めて欲しいと思います。
そのことで市民側の防災意識、命を守り、町を守ることへの参加意識を高めていく必要があります。
そうした本当の意味での能動性の発揮を見据えつつ、たった今は、ともあれこの豪雨をしのぎ、命を守ることに力を注ぎたいです。
関東・東北地方の方々に再度、早目の避難を行うこと、「とっとと逃げる」ことを訴えます。すべての方の安全を心の底から祈っています。


 

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明日に向けて(1146)「とっとと逃げる」ことを軸に対策を構築(原子力災害対策への取組を振り返って-2)

2015年09月08日 06時30分00秒 | 明日に向けて(1101~1200)

守田です。(20150908 06:30)

原子力災害対策への取組を振り返る記事の2回目です。

実は僕にも福島原発事故の直後、事故が進展して大変な破局が起こる可能性があると考えるのは受け入れがたい面もありました。
そんなときたまたま高木仁三郎さんの本を読み返し、目の前で起こっている事態が完全に指摘されていたことを再認識し、刹那に「高木さんごめんなさい」という思いが込み上げてきて、思わず嗚咽してしまいました。駅のプラットフォームでのことでした。
今、思い返せば、そのときに原発事故が起こった直後から、「壊滅的な破局だけは起きて欲しくない」と、何かにすがりついて拝みたくなるほどに思い詰めていた心的エネルギーが爆発し、涙とともに放出されたのだと思います。
そうして涙が止まるともに僕は「どんな破局が来たとしても受け入れよう。そこからできることを考えよう」と腹を決め、覚悟を固めました。それで書いたのが以下の記事でした。

 地震続報(19)最悪な事態になってもまだできることはある!
 2011年3月18日
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/63c3639bb90f919a3a5cdba868d30713

このとき僕は次のように書いています。

 「みなさん。事態が最悪のシナリオをたどれば、炉心がメルトダウンして大気中に出てしまう可能性や、核爆発が起きる可能性があります。
 今、私たちの前にあるのは、4基の原発が深刻な危機の中にあり、さらに2基の原発もコントロールできず、このほかに、これらの使用済み燃料プールの1.4倍のプールがあって、水位も温度も把握できてない状態です。これが現にある事実です。
 ここから言えることは、最悪の場合は、チェルノブイリを上回る事態に発展するということです。それがどれほどのものになるかは全くわかりませんし、それはなったときに事実をとらえた方がよいことだと思います。

 ただそれでも確実なのは、最悪の事態を迎えても、一瞬のうちに日本人が死に絶えてしまうわけでは全くないということです。近くでは強い放射線による急性症状が発生し、亡くなる方がたくさんでます。
 これに対して、放射能を体内に取り込んでの内部被曝では、何年かかかって、ガンになる可能性があり、実際に発症が多数おこるでしょう。
 でも、それもまた確率論的に起きることで、それぞれの人がどうなるかは分かりません。サバイブの可能性はたくさんあります。
 だからその場合でもまだまだできることは山ほどあるのです。けしてこの世が終わるわけではありません。最悪の場合でも、わたしたちには必死でもがくことができるし、道はたくさんある。僕はこれこそが今、確実に言える希望だと思います。」

実際には事態は最悪までは進まず途中で止まりました。干上がりつつあった4号機プールの隣にたまたま水が張ってあり、自重で仕切り版が壊れてプールに入ってくれた。行幸の産物で最悪の破局は回避されました。その後もプールはなんとか持ってくれました。
しかしこれは結果論です。あの事故直後の一週間の中では、最悪化するたくさんのシナリオが残されていました。だからこそそれに備える必要があったのでした。
にもかかわらず世の中には「正常性バイアス」が蔓延していました。それに政府が乗っかる形で安全論を流し続けていました。そのことでほとんどの人が破局に身構えることなく、無防備に過ごし続けていました。
いや破局に身構えなかっただけではありません。実際に原発から漏れ出した放射能に対してすら無防備な生活が続けられていました。そうしてものすごくたくさんの人々が避けられない被曝だけでなく避けられた被曝までしてしまいました。

これらのことから僕の中では、原子力災害対策の中での一番重要なものは「正常性バイアス」の心理的ロックに抗うこと、このバイアスを越えることだという強い信念が形作られました。
誰だって破局的事故なんか起こって欲しくないし、放射線被曝で重篤な病気になどなりたくない。
しかしだから原発を止めることや被曝を防ぐことに一生懸命になるよりも、「原発事故が起こっても深刻化しない、ましてや破局的事故なんて起こらない。放射能を浴びても大した被害はでない」と考えた方が楽なので、そちらに流れやすい面があるのです。
僕はそこから当時、「正常性バイアス」がこの先も働き続けるだろうと強く感じました。これに抗わなくてはいけない。これを崩さなければならない。そうでないと人は放射線防護に向かってくれないと思いました。

現在もそうです。実は「正常性バイアス」は今でも強く働いているのです。このため被曝基準が事故前よりも格段に緩和されてしまったにも関わらず、まだ多くの人がそれを受け入れてしまっています。
それは放射能の危険性を認知すると、防護を始めなければならず、場合によっては避難をしなければならなくなるので、心理的ハードルが高いからです。だからこそ正常性バイアスが働きやすいのです。
これに政府が全面的に乗っかり、たくさんの御用学者を動員して被曝影響は大したことがないと宣伝しています。その上で避難の権利をせばめ、避難指示地域を縮小し、嫌がる人々を強引に帰還させようとしています。
再稼働もそうです。過酷な原発事故が再び起こる可能性を考えて身構え続けることは心的エネルギーが必要なため、正常性バイアスがかかりやすい。そこに付け込む形で原発周辺へのとり込み工作などがなされて、再稼働が強行されています。

これらから僕は一番目に「放射線とは何か、いかに防護するのか」を持ってくるよりも、避難を妨げる心理として「正常性バイアス」があることを自覚し、いざとなったら「とっとと逃げる」心構えを作ることを第一とする原子力災害対策の雛形を作りました。
するとすぐにも見えてきたのは、もともとこの観点は自然災害への対策の中でつかまれてきたものですから、「とっとと逃げる」心構えを作ることがあらゆる災害への対策においてもとても有効なことでした。
「正常性バイアスにかからないようにすることを身につけると命を守る力が増す」のでした。このため冒頭に紹介した同志社大学の松蔭寮での講演でもこの点を強調しました。
当日は学生さんたちの多くが目を輝かして聞いてくれましたが、同時に当日招かれて防火指導をしてくださった京都市消防局のみなさんが非常に共感し、喜んで帰ってくださいました。それらの姿に「ああ、この内容はもっと広げられる」と確信を持ちました。

続く


 

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明日に向けて(1145)「正常性バイアス」を乗り越えるために(原子力災害対策への取組を振り返って-1)

2015年09月07日 21時00分00秒 | 明日に向けて(1101~1200)

守田です。(20150907 21:00)

昨日9月6日午前中に、兵庫県篠山市に赴き、篠山市消防団350人に原子力災害対策についての講演を行ってきました。
神戸新聞に記事が掲載されたのでご紹介します。

 災害に備えを 防災研修会に消防団員340人 篠山市
 神戸新聞 2015/9/7 05:30
 http://www.kobe-np.co.jp/news/tanba/201509/0008372701.shtml

篠山市消防団は団員約1200人。これまで350人規模、500人規模、350人規模と3回の大きな講演を行ってきました。初回は班長級以上でしたが2回目、3回目は一般の隊員の方も参加いただき、団員の大半の方が一度は講演を聞いてくださったことになります。
印象的なのは毎回、参加者がとても熱心なことです。毎回、午前中の開催なのですが、広い会場を見回しても寝ている隊員は一人もいない。さすがに命を守る場に何度も立たれてきた方たちだなと思いました。話のしやすい場でした。

篠山市での取り組みへの参加はこの秋でまる3年になります。第1回篠山市原子力災害対策検討委員会が開かれたのは2012年10月24日のこと。以降、13回の会議を重ねるとともに、二つに分かれた避難計画作成の作業部会を何度も開いてきました。
会議の様子が篠山市ホームページに記載されています。(作業部会は割愛されているので、途中、開催が途切れているように見えますが、もっと多数の取組が維持されてきました。)

 篠山市原子力災害対策検討委員会
 http://www.city.sasayama.hyogo.jp/pc/group/bousai/post-11.html

ここでこの3年間の取組を振り返ってみたいと思います。ぜひ多くの地域での参考にしていただきたいと思ってのことです。

僕自身が原子力災害対策に取り組み始めたのは、2011年の秋に同志社大学女子寮の松蔭寮の防災訓練に招かれたことがきっかでした。友人で寮母の蒔田直子さんから「原発事故が起きたらどうしたら良いか学生たちに教えて」と頼まれたのでした。
このとき僕は福島原発事故以降に学んできた知恵を総動員して原発事故が起こった時に一番必要な知恵とは何かを考え、伝えようとしました。

福島原発事故が起こった時、僕はすぐさま原発情報の発信を始めました。それはNHKディレクターの七沢潔さんが書かれた『原発事故を問う チェルノブイリからもんじゅへ』(岩波新書1996年)という本を読んで以来、決めてきたことでした。
七沢さんは同書の冒頭でこう書いています。「私にはもんじゅ事故の周辺に、チェルノブイリ事故が発していたものとよく似た『におい』が感じられてならないのである」(同書P5,6)
彼は旧ソ連が人々に事故の深刻さを伝えず、迅速な避難措置をとらなかったこと、それと似た体質を日本が持っていることを本書の中で詳述していました。「だとしたら日本でも原発事故の際、同様のことが起きる」と強く思いました。
そのため「大地震などがあったときは近くの原発の状態を確認する」「自分に近いならすぐに避難に移り、遠いなら避難の呼びかけをはじめる」ことを心に決めていたのでした。

このため福島原発事故後にすぐに情報発信を始めました。当初は「東北地方太平洋沖地震について」という題で11本、続いて「地震続報」の題で35本の記事を書き、3月26日からタイトルを「明日に向けて」に変更して発信を続けてきました。
政府や電力会社が的確な情報を出してくれないだろうことはまさに「想定内」でしたが、ところが僕にとって以外だったのは、マスコミをはじめ社会の多くの人々が「事態はそれほど深刻にならずに収まっていく」というトーンを打ちだしたことでした。
この中にはそれまで反原発を唱えて頑張ってきた方もいました。「事故はこれ以上拡大しない」「チェルノブイリと比較にならないほど軽い」というものから「事態が深刻化するという恫喝に屈するな!」などという激しいものまでありました。
新聞もわずか2週間ぐらいで深刻なトーンが薄まりだし、どんどん危機感がトーンダウンしていく。正直なところ驚きました。僕はこの事態を先々歴史家が「何とも奇妙な数週間」と呼ぶのではと考え、以下の記事を書きました。

 明日に向けて(10)「何とも奇妙な数週間」の中を生きる
 2011年3月30日
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/cf1a7be79e64b001de6f0659f0ceed89

実際、このころはまだ福島原発4号機の燃料プールの状態が安定しておらず、大変な危機が起こる可能性が濃厚にあった時期でした。
内閣では3月25日に原子力安全委員会の近藤委員長から、「最悪の場合、福島原発から半径170キロ圏を強制避難にせざるをえず、希望者を含む避難ゾーンが東京を含む半径250キロ圏になる」(近藤シナリオ)という報告が出されたました。
にもかかわらず、マスコミのほとんどが危機を語ろうとせず、そればかりか「放射能が来る」というタイトルを載せた「アエラ」が猛烈なバッシングを受け、編集長が謝罪せざるをえないような事態すら発生していました。
「大変な危機なのに危機をみようとしない。むしろ危機を口にするものをバッシングする。この事態はなんなんだ」と憤りと嘆きの混在した感情に包まれたことをよく覚えています。

このため僕が発した「何とも奇妙な数週間を生きる」という発信に、友人が応えて送ってくれた情報の中に、今の状態は災害心理学に言う「正常性バイアス」に覆われた状態なのではないかという指摘がありました。
友人は2010年5月に中日新聞に載ったスマトラ地震に関する記事を紹介してくれました。迫りくる津波を前にある人々がそれを目撃しながら避難行動をとらずに飲み込まれてしまったことを解説したものでした。
記事には以下のように書かれていました。「現代人は今、危険の少ない社会で生活している。安全だから、危険を感じすぎると、日常生活に支障が出てしまう。だから、危険を感知する能力を下げようとする適応機能が働く。
これまでの経験から「大丈夫だ」と思ってしまいがちだ。これが「正常性バイアス」と呼ばれるものだ。」早速僕はそれを「明日に向けて」に載せました。

 明日に向けて(12)避難を遅らす「正常性バイアス」
 2011年3月31日
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/47e99b860ac0c9fc53a78165a2aa6a2e

この点に気が付いたのはとても大きなことでした。目の前の霧が晴れた思いがしました。「何とも奇妙な」雰囲気の正体が「正常性バイアス」であることが分かったからです。
同時に自分自身が正常性バイアスを知らぬ間に越えて出ていたことも自覚しました。一つには事前に「原発で重大事故があったときに、政府は旧ソ連のように人々を逃がしてくれないだろう。その時は逃げろと叫ぼう」とシミュレーションしていたことでした。
もう一つは事故後に事態がチェルノブイリ事故をも上回るような破局にも発展しうることに対して腹がくくれたからでした。

続く

 

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明日に向けて(1144)川内原発の危険性をしっかりとおさえよう!(過去記事のご紹介)

2015年09月06日 14時00分00秒 | 明日に向けて(1101~1200)

守田です。(20150905 14:00)

川内原発1号機の再稼働を強行した九電は2号機に11日から14日かけて核燃料を装填し、10月中旬に原子炉を起動、11月中旬に営業運転への移行を目指しています。
この安全思想を全く欠いた政府と九電の暴挙をなんとしても食い止めていく必要がありますが、そのためにこの間、矢継ぎ早に記事を出してきました。
今回はその記事をまとめて紹介しておきたいと思います。

原発問題に取り組んでいると、一定の専門的知識がないと的確な批判が行えないため、「良く分からないから」となかなか発言しにくくなってしまう点はないでしょうか。
福島原発事故の現状を追っていても、継続的にフォローしてないと、今、どこで何が起こっているのかが見えなくなってしまいます。
あるいは東電が意図的にそうしたことも狙って、情報を小出しにし続けているので、「汚染水漏れ」と言われても、俄かにどこからどこへどれだけの量が流れているのかなど見えなくなってきてしまいます。

その点を踏まえて、僕は継続的なウォッチと情報の発信を続けています。原発安全神話、放射能安全神話の垂れ流しによって、私たち市民サイドの批判的視点を曇らされてしまわないためです。
今回は短い発信の記事になりますが、この間、発信した記事を並べてみましたので、ぜひお読み下さい。

まず8月14日に東京で行った元東芝の格納容器設計者・後藤政志さんとの対談動画を掲載し、文字起こしも行いました。
ここでは原発の根本問題と言える安全思想を全く無視した稼働についての批判が行われています。

 明日に向けて(1123)福島原発事故からつかむべきこと(後藤政志&守田敏也対談から)-1
 8月18日配信
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/9b5b445e16ed2fa9cbaac7e336870bda

 明日に向けて(1124)川内原発再稼働の危険性と「過酷事故」の曖昧化の問題(後藤&守田対談よりー2)
 8月19日配信
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/6e90c7394a36315234d435aeb267da78

 明日に向けて(1125)ベント後付けの条件設定を無理強いされて(後藤&守田対談から-3)
 8月20日配信
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/b6723e704fd2df6cea3f4b429f55ec80

 明日に向けて(1126)安全についての考え方を身につけることが問われている(後藤&守田対談から-4)
 8月21日配信
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/0643e26193fcc0fd7471b3f25e51ee0f 


稼動直後に起こった復水器のトラブルに関してただちに分析した記事を二つ紹介します。

 明日に向けて(1127)再稼働した川内原発でさっそくトラブル発生!ただちに運転を中止すべきだ!【訂正記事】
 8月22日配信
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/649eafab984d8f08dcb08954f246de2f

 明日に向けて(1128)4年以上停めて再稼働したのは世界で14例。その全てで稼働後にトラブルが起こっている!
 8月23日配信
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/474f1254a9054ea9bbfa3757feb15566


川内原発再稼働の危険性を分析した過去記事をまとめて、ポイントを捉えやすくした記事です。

 明日に向けて(1132)九電が川内原発の危険な出力アップを強行!問題だらけの再稼動をただちにやめるべきだ!
 8月27日配信
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/012c4d279f47dcf2ed78970cb9cb9f64


再稼働強行の背景としてある原子力産業-東芝の原発部門に端を発する経営危機について指摘したのが以下の記事です。

 明日に向けて(1140)沈みゆく原子力産業-東芝上場廃止か?(東芝不正会計問題を問う―2)
 9月2日配信
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/1f5f8b5a15ca9d5c209ffd515e1a3b7f

 明日に向けて(1117)東芝不正会計問題の背景にあるのは原子力産業の瓦解だ!-1
 8月2日配信
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/6aa800a3bbf14bc67022035818f98209


再稼働問題を前に後景化しがちな燃料プールの危険性を指摘したのが以下の記事です。

 明日に向けて(1106)再稼働よりも核燃料をプールから早く降ろすべきだ!
 7月11日配信
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/57302547df308390c84bd3d273118558


なお次回には川内原発をはじめ再稼働が目されているすべての加圧水型原発の製造社である三菱重工が納入した蒸気発生器がアメリカの原発で事故を起こし、修理がおぼつかずに廃炉となったことについて取り上げます。
ここには三菱が製作した最新型の蒸気発生器に大きな欠陥があったこと、要するに三菱はいまだに安全な蒸気発生器の開発に成功していないことが表れています。
このため9300億円の損害賠償訴訟を起こされており、経営の危機にも直面しつつあります。東芝に続いて三菱も苦境に陥りつつあることを押さえたいと思います。

 

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明日に向けて(1143)原発事故の中で救助や避難誘導を行う際の注意は?(原発再稼働の危険性を見据えて-2)

2015年09月05日 00時30分00秒 | 明日に向けて(1101~1200)

守田です。(20150905 00:30)

前回、原発からの命の守り方の基本を書きましたが、今回はこれに加えて、「とっとと逃げる」と言っても、人を抱えていて逃げられない場合、あるいは人々を逃がすための仕事につかなければならない場合について述べたいと思います。
この点は僕が篠山市消防団の方たちにお招きいただいて何回も講演する中で考えてきたことです。実は正直なところ常に僕には悩みがあります。誰にも「とっとと逃げる」ことをお勧めしたいからです。
しかし篠山市の防災訓練に招いていただき、その場で原子力災害対策の講演をしたときに、その日の訓練に参加していた自衛隊のみなさんをみて深々とこの方たちのことを考えなくてはいけないと痛感しました。警察官、消防隊もそうです。

防災訓練の場では自衛官の方お話を聴くこともできましたし、その後も各地の消防署の方などにもお話をうかがってきましたが、僕が見る限り、隊内できちんとした放射線防護教育を受けている方はほとんどいませんでした。
自衛隊には核戦争を想定した部隊もあるのでそれは別格だとは思いますが、ぜひこうした特殊な任務に疲れる方たちやそのご家族の方にも、放射能からの身の守り方を身に着けて欲しいと切実に思うのです。
篠山市を見ていても、火事や水害が起きたときに真っ先に現場に駆けつけるのは消防団の方たちです。そのあとに消防署がやってくる場合が多いですが、原子力災害は自然災害との複合として起こる可能性が高いのその状況でどうするかが問われます。

実は僕は明後日6日に、再び篠山市消防団に呼んでいただいて原発が事故を起きたときのことをお話するのですが、今回は、放射能事故の際の人命救助作業、避難の誘導を行う場合に必要な知恵を話して欲しいと依頼されています。
そこで僕が強調しようと思っているのは事故の初期こそ最も徹底した放射線防護が必要だということです。なぜかと言えば放射能には半減期があるので、事故で原子炉から放射能が飛び出してきた時ほど放射線値が高いからです。
もっとも福島原発事故の場合、だんだんに事故が進行し、後から後から放射能が出てきました。「原子炉から放射能が飛び出してきた」時が続いたわけで、そのように事故が推移することもあり得ますが、ともあれ事故直後ほど徹底した防御が必要なのです。

その上で今回は具体的に消防団での対応に即して以下の点を提案するつもりです。
①ヨウ素剤を飲んで出動。飲んだ時間をメモしておく。
②曇り止め用のゴーグルを着用する。
③精度の高いマスクを使う。(場合によっては上から安いマスクを重ね頻繁に交換する。)
④カッパなどを衣服の上から着用する。
⑤肌の露出を可能な限り抑える。
⑥作業中に水を飲むときは必ずうがいをする。
⑦使ったものは作業終了時に洗うか捨てる。
⑧靴やカッパを絶対に家に持ち込まない。
⑨汚染されたものは躊躇せずに捨てる。
⑩24時間毎にヨウ素剤を追加でのむ。

まずは安定ヨウ素剤を服用することです。安定ヨウ素剤は24時間持つので、人命救助や避難誘導などをされる場合は、とにかくすぐに飲んでしまい、出動することです。効果は24時間あるのでその度に連続で飲みます。
このため篠山市ではすでに市民分の安定ヨウ素剤の備蓄を終えていますが、今後、希望者への事前配布を行う予定です。とくに消防団には優先的に配るとともに消防団分室などにも備蓄することが必要だと考えています。
なお安定ヨウ素剤の効果、飲み方、副作用がほとんどないことなどについては、提言に詳しく書いてありますのでご参照ください。安定ヨウ素剤に関する知識を身につけて置くことは、ときに人に飲むのを進める側に立つ場合もあるのでより重要です。

続いてとにかく被曝防護のためには、放射性微粒子を身体の中にいれないことが大事であり、そのためにゴーグルやマスクなどが必須であることを強調したいと思います。
その際、ゴーグルは曇り止めをしてないと作業ができず、そうなると人は退去できずにゴーグルを外しがちなので、あらゆる天候条件の中で使えるものを用意しておいて欲しいです。ちなみに曇り止め用でもホームセンターで1000円ぐらいで買えます。
マスクもN100仕様などのものを着用した方が良い。これも1枚1000円ぐらいします。そのマスクを頻繁に交換して使うのが原則ですが、1000円のものを潤沢に持てない場合は安いものを上から併用し、その交換を繰り返すのも次善の手です。

カッパなどを着るのも、家や自分の寝処に放射性物質を持ち込まないための処置です。本来はタイベックスーツなどを着るのが理想ですが、自然災害とのセットの状況では、ハードな動きにも強いカッパの方が合理的だとも思います。
行動中はこれを着ていて、終了時に水でできるだけ丁寧に付着物を洗い流し、なおかつそれを家や寝処に持ち込まず、外に干す形で使用することで、作業後に放射性物質と身体を切り離すことを狙います。
なおこのために篠山市消防団はすでにゴアテックス製の赤いカッパを全隊員分購入してあります。このことで少しでも放射性微粒子のとり込みを避けようということです。赤を使用するのは要救助者から見えやすいためです。

さらに肌の露出をできるだけ避けることです。首元などが出ないようにスカーフなどを使用します。手ぬぐいでも良いですが、暑いと外しがちなので、行動中でもつけていられるものを普段から選択しておきます。
また放射能が降る中で飲食をすることは危険ですが、水を飲まねばならないことは必ず生じるので、うがいをしてから飲むことを徹底します。
汚染されたものは可能な限り早く交換する。洗うことよりも躊躇せずに捨てることを選択するなどで、放射性微粒子をとりこまないように徹底します。なお、これらはインフルエンザ対策や花粉症対策などで行われていることをそのまま適用できます。

もちろんこれらでも放射能対策は十分ではありません。可能なら防毒マスクをした方が良いし、タイベックスーツを来て破れたら何度も変えた方が良いですが、これらは予算との相談になります。
またそれでも外部被曝はまったく避けられないので、ガラズバッチをつけて被曝量の管理もした方が良いですが、これも予算がつけられるのかの判断になります。原発事故対策は徹底度を深めればどこまでもお金がかかる終わりのないものです。
ですからどこまで対策を施しても十分にはならないのだけれども、少しでも対策をした方がその分有利と考えて、予算が確保できる最大の範囲での対策をとっていただきたいと思います。

さらに、それでも被曝は避けられないので、さらに身体を守るために以下の点もお話しようと思います。
①放射能下の活動を細かく記録することです。一つは自分の防護の点検のためです。同時に将来の医療保障を得るのに記録が残っていた方が少しでも有利だからです。場合によっては裁判を闘うことになる可能性もあります。
②被曝に対しては免疫力を上げるのがベストなので、抗酸化効果の強いビタミンCを積極的にとるようにするとよいです。また長崎の被爆時の秋月医師の提言「水(汚染水)を飲むな。味噌を食べろ。玄米を食べろ。白砂糖をとるな」を奨励したいです。
これらの点は現代医学では証明できていないことが多いのですが、有効な薬がない中で、マクロビオティクスなどの知恵の援用として行われ、効果をあげたと言われていることをおさえて欲しいと思います。
③さらにできるだけ良質の睡眠をとる、 困難を一人で抱え込まないなども重要です。

被爆医師である肥田舜太郎さんは、被爆者に次のように語り続けました。
「被曝したら治す医療はない。治す薬もない。どうするか。腹を決める。覚悟を固める。その上で開き直る。開き直って身体に良いことはなんでもやる。なんでもやって放射能が暴れ出すことを押さえこむ。これを実践せよ!」。
実際にそのことで被爆者に力と勇気を与え、たくさんの方が病を克服して生き延びていくことを支えられました。こうしたことも知っておくと良いと思います。

人命救助や避難誘導、事故対応などに当たる方はこれらのことを頭に入れつつ行動して欲しいです。
もちろん「こんな簡単なことではダメだ」という意見もあるかと思います。それならばどうすれば良いのかを考えだして教えてください。その際、実行可能なことを提言してください。
何度も言いますが、実際に原発は稼働してしまっています。稼動してなくても燃料プールやもんじゅなど、いつ危機に陥るかも分からない核施設がたくさんあります。だからこそ少しでも実のある事故対策を重ねておくことが大事なのです。

以上のことを今、本にもまとめている最中です。『原発からの命の守り方』のタイトルで近いうちに出版に漕ぎ着けたいと思っていますが、ともあれここに書いたことを参考にみなさんそれぞれで原発で事故が起こった際の対応を考えを抜いてください。
何があっても原発から命を守り抜き、生き延びるすべを考えましょう。そのためのリアリティをできるだけ大きくしていきましょう。実はその積み重ねの中では原発に賛成・反対を問わずに、原発事故の恐ろしさへの認識を広げることもできます。
繰り返しますが、リアルに備えることが大事です。またこうした備えを行うことは必ず他の災害への対応力も強化することに繋がります。命を守る術を私たち民衆の側から逞しく育てていきましょう!

連載終わり

 

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明日に向けて(1142)もしも原発事故が起きたらどう命を守るのか(川内原発再稼働の危険性を見据えて-1)

2015年09月04日 23時30分00秒 | 明日に向けて(1101~1200)

守田です。(20150904 23:30)

多くの反対の声を押し切って川内原発再稼働に踏み切った九州電力は8月31日に1号機をフル稼働状態にしました。この日の午前11時20分に原子炉の熱出力を100%に保つ「定格熱出力一定運転」への移行が行われました。
原子力規制委員会の最終検査を経たのちに10日に営業運転に移るとしています。これとともに2号機にも11日にも核燃料を装填し10月中旬に再稼働、11月中旬に営業運転に移るとしています。
この間、明らかにしてきたように、世界で4年以上停まっていた原発を再稼働させたのはわずかに14例。そのすべてで事故がこっています。川内原発1号機自身も再稼働後にすぐに復水器でトラブルが起きました。このまま稼働を続けるのは大変危険です。
私たちは無謀な川内原発の運転を止めること、いわんや2号機を絶対に動かさないことを声を大にして訴えていく必要があります。

同時に危険性をまったくかえりみず、誰が責任主体なのかもはっきりしないままに稼動が強行されている事態をしっかりと直視し、民衆の側から原発災害対策を練り上げていく必要があります。
むろんこれはけして再稼働に手を貸すものではありません。そうではなくて、とにかく再稼働が危険に満ちているために身構える必要があるのです。これ抜きに再稼働の危険性を主張しても、何かが足りない主張になってしまうと僕は思います。
繰り返しますが、川内原発の再稼働は危険です。すぐにもトラブルが発生する可能性があります。また復水器など冷却系統でおこるトラブルは、冷却材喪失⇒メルトダウン=過酷事故の発生にただちにつながる可能性があります。
もともと加圧水型原発は一次冷却水の熱を二次冷却水に伝える「蒸気発生器」に弱点があり、繰り返し深刻な事故が起こっています。日本の加圧水型原発の製造者は三菱工業ですが、同社の蒸気発生器は2012年にもアメリカで深刻な事故を起こしています。

これらから私たちは、再稼働を強行してしまった川内原発の事故への備えを進めていく必要がありますが、その際に、ぜひ参考にして欲しいのが、僕も参加する兵庫県篠山市原子力災害対策検討委員会が6月に市長と市民に対して発した提言です。

 原子力災害対策計画にむけての提言
 http://www.city.sasayama.hyogo.jp/pc/group/bousai/assets/2015/06/teigensyo.pdf

 以下の記事により詳しく提言のことに触れましたのでこちらも参考にしてください。

 明日に向けて(1098)篠山市への「原子力災害対策計画にむけての提言」が公開されました!ぜひお読み下さい。
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/f9fc4d8144b29e54944c1237c9bc3188

篠山市原子力災害対策委員会が市長と市民に求めたのは以下の4点です。主に市長に施策の実行を求めていますが、同時に市民にも原子力災害に対応する力を身につけることを求めています。
(1)市民が避難する計画の策定
(2)安定ヨウ素剤の事前配布
(3)事故の際の対策本部の設置による市民への情報提供や勧告
(4)日頃からの災害全般に対する備えの強化

これら提言の精神として私たちは以下のことを強調しました。
「原子力災害が起こった時の対処として一番大事なのは「とっとと逃げる」ことです。いったん安全地に逃れてから危険の度合いを判断し、安全が確認されれば戻ってくるという対応をすることが、早期の対応として最も合理的です。」
「事故に遭遇した時に、理想的にすべての被害を防ぐことは困難であることを前提としつつ、少しでも被害を減らすこと、減災の観点に立って原子力災害対策の計画を練り上げることをこの提言は目的としています。」

原発事故に対する対策として一番、大事なのは、福島原発事故の例を見てもあきらかなように一度事故が始まってしまうと事故の進展具合を把握することはほとんど不可能に近いということです。
そのために最も合理的なのは「とっとと逃げる」ことです。この点が何よりも重要です。
事故の進展を確かめたりしていてはいけません。情報が隠される面もありますが、それ以上に政府も電力会社も何が起こっているか分からなくなっていたのが実情だったからです。

同時にみておかなければならないのは、事故はどこまで発展するか分からないということです。福島原発事故とても対応にあたった方たちの努力に大きな偶然も加わってあの段階でとまっているのであって、もっと厳しい状態になることも十分にあり得ました。
その点からするならば、最悪の場合を想定した避難対策は建てようがありません。最も恐ろしいのは格納容器が壊れてしまい、いっぺんに膨大な放射能が飛び出してくることですが、そうなったら近隣を中心にたくさんの急性死も出てしまいます。
その意味で万全な対策など建てようがないのが原発事故なのだということを肝に銘じておく必要があります。そのため被害は免れないかもしれないけれども、せめても少しでも被害を減らすという観点からのみ、よりリアルで有効な対策が建てられます。

原子力規制庁が各自治体に事実上採用を強制している「原子力災害対策指針」の根本的矛盾はこの点にあります。この指針は起こりうる事故を非常に軽く見積もってこの根本矛盾を無視しています。
災害対策としてそれではまったくだめなのです。規制庁の指針は「嘘と建前」が前提になっているからです。そんなものは現実によって消し飛んでしまい、たちまち役に立たなくなるどころか、かえって人を危険においやるので犯罪的ですらあります。
そのような「ウソ」の避難計画など作っても仕方がありません。そうではなくて、最悪の場合でもせめても少しでも被曝を減らす、生き延びる人を増やす、そのように考えたリアリティのある対策こそが必要なのです。

そのために提言で主張しているのは、災害対策に対する市民の能動性をアップすることです。これは原子力災害に対してだけでなく、他のあらゆる災害にも適用できることであり、町を強くする性格を持っています。
一番大事なのは、災害心理学、災害社会工学などに学び、いざというときの心構えと準備を行っておくこと、そのことで災害心理学に言う「正常性バイアス」「同調性バイアス」「パニック過大評価バイアス」に陥らないようにすることです。
「正常性バイアス」にかからないようにするとは、現代人は命が危機に瀕する経験が少ないために、実際に直面すると危機的状況を心が認めず「事態は正常になっていく」とバイアス(偏見)をかけてしまうことを知り、この心のロックを回避することです。

この心理が働くと、避難すべき事実が認知できなくなって避難が遅れてしまいます。例えば火災報知器がなったときに「これは誤報ではないのか」などと思い、命を守る行動に移ることをためらってしまうなどです。
この点で恐ろしいのは、放射能は目に見えないし身体に感じない場合が多いので、危険性がより認知しずらいことです。さらに福島原発事故以降、政府が「放射能が怖くないキャンペーン」を繰り返しはってきているのでそれによっても危険が把握されずらい。
私たちがしっかりと見据えておかなくてはならないことは、実は福島原発事故以降、放射能被曝に対してはこの「正常性バイアス」が働き続け、政府によって強化すらされていることです。この呪縛をこそ断ちきらなくてはいけません。

「同調性バイアス」は危機に直面して能動性を失い周りに合わせてしまうことです。多くの場合、周りは「正常性バイアス」にかかっていますから、これに同調し、増幅してしまう結果をももたらします。
「パニック過大評価バイアス」は実際には現代人は危機を前に認知ができないことの方が多いにも関わらず、「危機に直面すると人はパニックになる」という言辞が実態を離れて一人歩きしてしまうため、危機の伝達を躊躇してしまうことです。
これら両者ともに正常性バイアスをより強めることに結果し、危機を前に退避行動をとらないうちに逃げる機会を逸してしまうことにつながります。これらは実際の災害でしばしば起こっていることです。

この心理的ロックを打ち破るために有効なのは何か。災害心理学ではあらかじめの「避難訓練」こそが正常性バイアスによる心理的ロックにかからない一番大事なことだと教えています。
ところが原発災害対策においてはよりリアルな避難訓練をすると、その分だけ住民が原発の危険性を知ってしまう構造にあります。だから政府も電力会社もこれまで避難訓練をサボタージュしてきたし、今回もまともな避難計画なしに再稼働しているのです。
これに対する最も有効な手段、政府の再稼働と放射能の安全神話を打ち破るものこそ避難訓練です。避難訓練は放射能の危険性を主に防護の観点から学ぶことと、事故時にどうするのかのパーソナルシュミレーションを重ねることを気軸としています。

どうか川内原発だけでなく燃料プールという大変危険な存在が日本中にあることをも踏まえて、それぞれで事故が起こったら自分はどうするのかのパーソナルシュミレーションを重ねて下さい。
その場合、家族や親しい友人と逃げ方、逃げ先を決めておくことが大切です。事故時は互いの連絡がとれなくなることを踏まえ、集合地点や避難で向かう先を決めておくのです。可能な限り遠くの知人、親戚などと防災協定を結んでおくことをお勧めします。
また放射線被曝のメカニズムを学びとくに避けるべきは内部被曝であること、そのためには放射性微粒子を体内に摂りこまないようにすること。そのためにマスク、うがい、手洗いを徹底し、衣服などへの付着を防ぎ、払うことなどを準備しておいてください。

続く

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