モノトーンでのときめき

ときめかなくなって久しいことに気づいた私は、ときめきの探検を始める。

フクジュソウ(福寿草)の花

2009-01-19 08:39:33 | その他のハーブ

おめでたい花であり元日草・元日花とも呼ばれ、正月の飾りとして使われる風習が江戸時代から出来上がったという。 もちろん旧暦の正月であるが、松竹梅に福寿草はとてもバランスがよいと言っているのは湯浅浩史の『花の履歴書』だ。

松は裸子植物、竹は単子葉類、梅は双子葉類、そして福寿草が木ではなく草にあたる。
それぞれの代表を選んだ先祖の知恵はすごい。なるほどと思うのは植物学の心得がある人だけだろうか?それとも伝統行事としきたりなどに関心をお持ちの方なのだろうか? 
私は正月のしきたり自体にピンと来ない日本人になってしまったようだ。
だが、フクジュソウの生存戦略は、いまの時代面白い。寒冷という生存しにくい環境を最大限活用して生き残ってきたすばらしい知恵があるということに最後にふれる。


フクジュソウは、いまでは新暦の1月には既に花が咲くようになったが、これは、十分な寒さにあたった株を前年の12月に堀あげて促成栽培化の処理をして鉢物にしたもののようだ。この鉢土の上に明るい黄色色の花が咲いた。
そして徐々に茎が伸び葉がでてくる。この土から芽が出た初期はフキノトウのようでもあり、葉がでた頃はゼンマイのようでもある。山菜とおもって食べると毒性があり中毒を起こしかねないから注意する必要がある。

(写真)福寿草の花


幸せを運ぶアイヌの花
雪を割り新たな息吹きが顔を出し、春を呼ぶ花は心を躍らせるものがある。
雪割草、雪割花とも呼ばれ、アイヌでは、福寿草が咲くと春を呼ぶ魚イトウが川を上ってくることを知らせてくれる。サケ科の淡水魚イトウは、冬場は河口周辺で生息し淡水魚としては1mもある日本最大の大型の魚で、新鮮な食糧に皮は被服などに利用された大事な魚という。今は絶滅危惧の心配がある魚のようだ。

このアイヌにもギリシャ神話的な伝説が残っている。
昔、エゾの国にクノウ或いはクナウという美しい女神がいたという。父の神は大事な一人娘の婿として広い領土を持つ勇ましいモグラの神を選んだ。しかしクノウはこれを断ったので、怒った父の神は娘を野草にしてしまった。この野草をクノウと呼ぶようになったがこれがフクジュソウであるという。(『花の文化史』松田修)
クノウは春を呼ぶ花となり喜びの花となったので、閉じ込められた“苦悩”は捨てるべきモノなのだろう。こんな冗談のための名前ではないようだが・・・

フクジュソウの生存の知恵
植物学的には、フクジュソウの属するキンポウゲ科は、進化的に古い草花といわれており、またフクジュソウは、「春植物」英語では「スプリング・エフェメラル(Spring ephemeral)」と呼ばれる生態を持つ。

どんな生態かというと、冬の間は地中深くに潜って休眠し、春になると茎を伸ばし花を咲かせ、そして葉を伸ばし光合成で栄養を蓄積する。地上にはわずか2ヶ月しか顔を出さず夏には冬眠に入る。
こんな生体を持つ植物をスプリング・エフェメラルと呼んでいる。
カタクリ、イチリンソウなどもこの仲間だ。

フクジュソウも古い植物であり、氷河期など寒冷との戦いが生態にも影響を及ぼしたようで、限られた適地を見つけてそこで生存してきた。落葉広葉樹林の南東の斜面が適地であり、南西方角は夏の西日があるので乾燥過ぎて冬眠に適しないという。
こんな限られたところで、地上に出て来るのは植物にとって寒冷で厳しい2ヶ月だけであり、多くの植物が緑の競演をする温暖で快適な頃には土の中で冬眠に入るというニッチな戦略をとり生き残ってきた。

そしてこの花は、明るい黄色で陽光を受けて開花し、寒さに凍えて活動が鈍っている昆虫類が暖を取る場として機能しているという。普通は蜜で昆虫をひきつけるが、フクジュソウは蜜がなく、あの大きな花の中で温もりをとるように設計されている。
陽だまり温泉に浸った昆虫が活動的になり花粉を一杯つけるので受粉の確率を高めるという。植物と昆虫の共存関係にはこんな意外な例もあるのだ。

“蜜”という利益誘導型の生産物を作らないで、 “温もり”を提供することで低コスト・省エネ型の社会生活を実現している。そして、体内に毒をもっているので、食べられるということをも防いでいる。
パターン化した一つの生き方だけが正解ではなく厳しい極限のところでも生きられるという見本でもあり、厳しい氷河時代に必要な生き方のようでもある。

低コスト・省エネで生きなければならない時代に大事にしたいものは、“甘い蜜”ではなく“温もり”なのだということを教えてくれる。
これが福寿=幸福で長寿に結びつくのだろう。

(写真)温もりを与えてくれるプラットフォーム


フクジュソウ(福寿草)
・キンポウゲ科フクジュソウ属の多年草。毒草なので注意を要する。
・学名はAdonis amurensis Regel & Radde。英名Far East Amur adonis、和名別名はガンジツソウ(元日草)、ユキワリソウ(雪割草)。
・属名のアドニスは、ギリ神話で女神Aphrodite (ローマ神話ではVenus)の愛を受けた美青年で、猪の牙にかかり死んでしまったがこのときの血から出来たのが真っ赤な花を咲かせるアドニスといわれる。
・原産地は東アジア・満州・アムール川流域。小種名のamurensisは、アムール川流域を指す。
・日本では、東北地方以北に自生し、落葉樹林の南東斜面で育つ。南西方面は西日が当たるためか生育しない。
・雪解けした地面から3cm程度の茎が出て直ぐ花を咲かせ、その後茎・葉が伸びいくつかの花を咲かせる。花は3―5cmの大きさで鮮やかな黄色。陽が当たると開きかげると閉じる。葉はニンジンの葉に似ている。
・自家受粉しないように雌しべが先に熟成し、昆虫により他花の雄しべの花粉を受粉する。
・開花期は、東北地方が3月頃、北海道が4月頃。園芸品は1月。
・6月頃には枯れて休眠に入り春まで地下で過す。このような特徴を持つ植物をスプリング・エフェメラル(Spring ephemeral)と呼ぶ。
・江戸時代初期から正月に飾る花としての習慣が進み元日草とも呼ばれる。江戸時代後期の『本草要正(ほんぞうようしょう)』(泉本儀左衛門著 1862)では品種改良が進み131品種が記載されている。この品種改良はヨーロッパではなされていず日本独特のようだ。
・民間療法で強心剤として使用されていたが、アドニンという毒性成分を含むので要注意。

・夏場は半日陰で育て、地上部が何もなくとも根に水分を補給する。
・鉢で買ったものは、開花が終わったら深い鉢に植え替えるか地植えとして根を育てるようにする。


フクジュソウの命名者リゲル(Eduard August von Regel1815-1892)は、ドイツの植物学者だが、ロシアのペテルスブルグ植物園の園長で、3,000以上もの新しい植物に名前をつける。
もう一人の命名者ラッデ(Radde, Gustav Ferdinand Richard Johannes von 1831-1903) は、ドイツのプラントハンターで探検家。黒海からシベリアなどを探検し、独学で好きな博物学を修める。

この学名Adonis amurensis Regel & Raddeは、ロシアの偉大な植物学者でプラントハンターであるマキシモヴィッチがアムール河流域で1855年に採取したものと、ラッデがブレヤ山地で採取したものとを比較検討して1861年にレゲルとラッデが発表した。


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