浪漫亭随想録「SPレコードの60年」

主に20世紀前半に活躍した演奏家の名演等を掘り起こし、現代に伝える

ミュンシュのフォーレ「レクイエム」

2007年11月15日 | 指揮者
フォーレのレクイエムについては、アンゲルブレッシュのデュクレテ・トムソン盤を聴くまではクリュイタンス、マルタンらのLPを愛聴してきた。いずれも名演ではあるが、僕がステージで体験した際に感じたものはこれらとは異なったものだった。アンゲルブレッシュのレコヲドで一旦は納得できた僕が、今、ミュンシュの海賊盤を聴いて体が硬直してゐる。

「入祭唱とキリエ」(Introitus et Kyrie)のテンポは、このミュンシュのテンポこそが僕のイメージしてゐたものだ。これほどゆっくりと、しかも緊張感の途切れない演奏は神がかり的だ。続く「奉献唱」(Offertorium)も同じ流れに乗って演奏される。サンクトゥス(Sanctus)の合唱はハープに乗って実に控え目に歌われて感動的である。ここでインターバルを取っており、それまで静まり返ってゐた聴衆が咳払いをするところで、会場録音盤であったことを思い起こす。

「ピエ・イェズ」(Pie Jesu)「アニュス・デイ」(Agnus Dei)「リベラ・メ」(Libera me)と続いていくが、基本的にミュンシュのテンポは遅い目で、非常にしっくりとくる。しかも「アニュス・デイ」の冒頭の弦は美しすぎる。「リベラ・メ」の中間部では「Dies irae, dies illa」と繰り返し激しい表情で歌われる部分があるが、ここでもミュンシュのテンポは上がらない。しかし、その不思議は冒頭の旋律が合唱のユニゾンで戻ってくる場面で理由が分かる。ミュンシュは更にテンポをぐっと落としながら感動的な再現部を用意していたのだ。体じゅうからぞーっと鳥肌が立ち、涙があふれ出るほどの感動だ。レクイエムがこんなに美しいと悲しすぎるではないか。

イン・パラディスム(In paradisum)は一変して、天上の音楽が実に爽やかに演奏され、正に「死の子守歌」と呼ぶに相応しいこの世を超越した世界が表現されてゐるやうに感じられる。

僕は、この海賊盤をアンゲルブレッシュを捨ててでも大切にしたいと思った。何か異常な美しさであり、一種異様な感動体験を味わった。

盤は、米國の海賊盤CD-R TH050。


最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (サンセバスチャン)
2007-11-27 11:51:16
この演奏、素晴らしいです。
私もアンゲルブレシュト、良いと思ってましたがさらに上手のように思いました。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。