浪漫亭随想録「SPレコードの60年」

主に20世紀前半に活躍した演奏家の名演等を掘り起こし、現代に伝える

アンリ・ラボーの「カイロの靴直しマルーフ」

2010年08月29日 | 忘れられた作品作曲家
ラボーといふ巴里音楽院長の手による異国情緒に満ちた謎めいた管絃作品がある。カイロの靴直しマルーフとはたれのことぞ。最近になって此の歌劇の全曲版CDが発売されたと聞く。購入して聞いてみようとは思はないが、其の人の事は気に掛かってしょうがない。

ラボーに関しては、以前にも同曲の自演盤や「露西亜民謡による喜遊曲」を取り上げたことがあった。深い精神性を持ち合わせた音楽家のやうに見えて実は軽くて薄いタッチの作品を書き並べたやうな印象を持ってゐたが、此の曲を聴いて魅力を感じずにはいられなかった。一度聴くと忘れない冒頭のオクターブ跳躍の主題は何を表現してゐるのかさっぱり分からないが、全体を通じて登場する此の主題によって、愉しいひとときを過ごすことができるのは間違い無い。刹那的な生き方をされる人々に支持されるだらう。

ところでマルーフが何者なのか、気になりだしたら眠れない。夜中に芋焼酎「佐藤の黒」(通称、黒砂糖)を取り出して生(き)で飲みながらいろいろと文献を探してゐると、それらしき不思議な文章に辿り着いた。 其処にはラボーが「一千一秒物語」の最後の巻をもとにして作られた作品であることが書かれてあった。焼酎が体の芯に染み渡り左脳が痺れてきた頃、やうやく靴直しマルーフの正体が判明したのだ。

その昔、埃及のカイロに、大戦で名を売ったリー大佐といふ飛行機乗りが居た。此の大佐は不思議な話を耳にし、確かめるべくエチオピア高原を訪れたのだ。実際に話に聞いたとおり天から星を取って持ち帰ったリー大佐は、船旅をしてゐたマルーフに商談を持ちかけ、独逸の更紗商人を通じて、我が街神戸で店頭に並べたのであった。

どうりでターバンを巻いた印度人や水煙草を愉しむ亜剌比亜人などが、曲の中に登場して最後にはジャズを奏でる亜米利加のヤンキーや南京街の支那人も登場する。独り納得して床に就いた。

盤は、独逸NaxosによるCD 8.550983。


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