浪漫亭随想録「SPレコードの60年」

主に20世紀前半に活躍した演奏家の名演等を掘り起こし、現代に伝える

アンリ・ラボーによる「露西亜民謡による喜遊曲」

2009年10月04日 | 忘れられた作品作曲家
フォーレの後を受けて巴里音楽院の院長に就任したのがアンリ・ラボーである。サンサーンスと同様、近代音楽への反発からより古い音楽への回帰を試みたが、当時、時流を作りつつあったドビュッシーやラヴェルらの新しい動きには勝てず、暫くして完全に忘れ去られた作曲家である。

現在でもラボー作品を収めたCD盤は殆ど見かけない。前回、自作自演で取り上げた「カイロの靴修理屋」が少し知られてゐるくらいだ。今日聴いてゐるCDは、そのやうな中、ぜーゲルスタムが頑張って作成したラボーの管絃樂作品集で、「露西亜民謡による喜遊曲」の出来栄えがなかなか古臭くて良かった。どのくらい古臭いかと言ふと、冷蔵庫の底に忘れられてゐた半分とろけた糠漬けのきゅうりくらい古臭い。

明確な調性と民謡を基にした極めて古典的な旋律を用い、18世紀後半から19世紀初頭の古典派音楽の様式と語法に則って作曲されてゐて、聴いた感じは浪漫派真っ只中といった風体(ふうてい)である。題名のとおり露西亜の香ほりが濃厚に漂ふせいかもしれないが、仏蘭西のエスプリといった雰囲気は無く、田舎の愉しい土着音楽と言った方が的を射ている。チャイコフスキーよりも30年ほど遡った時代の音楽のやうに聴こえる。

さらに、同じCDに収められた「英國風組曲」第2番と第3番にいたっては16世紀のヴァージナル音楽の編曲もので、時代から取り残されて逝く原因が少し理解できる。そこには、ストラヴィンスキーのやうな独創性やレスピーギのやうに世界中で親しまれるほどの美しさは感じられない。

しかし、そうは言ってもこのCD自体は満足できる作品集で、ひとときの楽しみを得るには十分である。作曲家でもあるゼーゲルスタムのサービス精神に感謝したい。

盤は、独逸NaxosによるCD 8.550983。ラインラントフィルハーモニー管絃團、指揮はレイフ・ぜーゲルスタムの演奏。


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