梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

恐るべき力で

2006年07月17日 | 芝居
写真の物体、六助のお家の<庭石>です。
微塵弾正にだまされたことを知り、あまりの悔しさ腹立たしさに、
?胸もはり裂く怒りの歯がみ 庭の青石三尺ばかり 思わず踏ん込む金剛力」
の浄瑠璃の通り、この石を踏みますと、踏んだところがメリメリと沈み、反対側は持ち上がってしまいます。六助の怪力ぶりを表現する見せ場の一つです。
この仕掛けはいたってシンプル。石の中心を固定軸として、シーソーのように上下に動くようにしてあり、足で踏む部分は、一定の深さに沈んだら、逆戻りしないようにストッパーがつけられています。力を入れなくても簡単に沈むようになっているのですが、舞台上での演技では、力一杯踏み込んでいるように見えますね。
このお芝居では舞台全面に<所作舞台>を敷き詰めます。この仕掛けも当然所作舞台に仕込むため、石の形に所作舞台を切らなければなりません。当国立大劇場はもとより、歌舞伎座などの大きな劇場には、この仕掛けのためだけの、「穴の開いた所作舞台」が用意されているそうです。
今回の演出では、<踏んだ部分がめりこみ、反対側は持ち上がる>という変化を見せますが、<全体がすっかり埋まってしまう>という場合もございます。演者によってかわるわけですが、当然仕掛けもかわり、予め折り癖をつけたブリキの板に石を取り付け、踏んだ力でブリキを潰すことで、それらしく見せるのだそうです。

また、庭石ではなく二重屋体の昇り降りに使う踏み段を石造りにして(普通なら丸太を組んだ形)、これを踏みつぶすという演出(というか<型>)もあるそうです。

掲載写真で、石の端からひょろっと出ているものがありますが、これはうっかり開演前に踏んでも沈まないようにするための留め具です。全ての所作舞台を敷いてから、もし誤って石を沈めてしまったら、いったん所作舞台を上げてセットし直さなくてはなりませんからね。

いつかこの石を踏んでみたいと思っているのですが…。