梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

『外郎売』あれこれ

2006年05月05日 | 芝居
本日は端午の節句ということで、楽屋風呂も菖蒲湯でございました。なんだか嬉しくなりますね。

さて、『外郎売』は言わずとしれた<歌舞伎十八番>の一つでございますが、現行台本による演出が定まったのは昭和五十五年五月の歌舞伎座、当代成田屋(團十郎)さんが復活上演なすってからということで、意外に歴史は新しいものでございます。このふた月後に私がこの世に生を受けることになりますから、このお芝居、私と同い年ですね。
今回の上演では、いつもは登場しない<曽我十郎>が後半に出てまいりまして、このお役を師匠がお勤めでございます。今回だけの特別演出、というわけではなく、資料をひもときますと、初演から七ヶ月後の十二月、京都南座での再演時に初めてこのお役が登場し、紀伊国屋(澤村藤十郎)さんが演じられました。その後昭和五十七年歌舞伎座上演時には師匠が(つまり師匠にとっては、今回が二回目の出演なのですね)、平成元年国立劇場上演時には音羽屋(菊五郎)さんがお勤めになっており、今回はそれ以来、十八年ぶり四回目の演出となるわけです。
どちらにしても珍しい演り方ですが、工藤祐経、五郎、十郎と三人が並びますと、より舞台は華やかなものになりますね。

さてこのお芝居、舞台上左右に二本の柱を建て、屋根までついておりますが、これは江戸時代初期の芝居小屋の舞台を模して、古風さを出す工夫です。屋根のようなものは<破風(はふ)>柱は<大臣柱(だいじんばしら)>と申します。大臣柱の上手側には「歌舞伎十八番の内 外郎売」、下手側には「十二代目市川團十郎 相勤め申し候」と書かれた額が掲げられておりましてなおさら古劇の趣きが醸し出されております。

幕開きに浅葱幕前での渡り台詞がある<奴>は総勢十人。<むきみ>の隈に<鎌髭>を描き、白地に紫の六弥太格子の地に、鴇色で牡丹の花(市川家ゆかりの花)を散らした衣裳を<捻切り>に端折るという着方は、この役の定番です。手にするものは紅白の梅の花がついた<花槍>で、これも様式的な得物です。幕切れは全員で<富士山>の形を作るのがお決まりとなっております。

写真は幕切れ近く、工藤が十郎五郎に投げ与える<狩り場の絵図面>です。工藤が持っているので、工藤役の(音羽屋)さんの小道具とお思いになるかもしれませんが、実は師匠預かりの小道具なんです。というのも、投げた拍子に包みがほどけてはいけませんから、ひと針縫って留めておかなくてはならないのですが、そうなりますと、包みを開ける人、つまり十郎役の師匠の手勝手にあわせてセッティングする必要があるわけなのです。今月は弟弟子の仕事なので、袱紗をどういう風に包むか、どこをどう留めるか、全て師匠のやりよいようにいたしております。なお絵図面は袱紗に貼付けて、固定させております。

…このお芝居、なんといっても<早口弁舌>が見せ場でございます。明日はその辺りのお話を。