梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

声に出して読みたい!?『外郎売』

2006年05月07日 | 芝居
昨日は更新できず失礼いたしました。

では改めて『外郎売』から<早口弁舌>のお話。「外郎を飲めばこんなに舌が回る」ということを証明するための長口上、今でもアナウンサー、俳優の滑舌訓練にも使われるくらいなので、皆様にはお馴染みかもしれませんが、ちょっとここにご紹介いたしましょう。最初に、大薩摩節が唄い振り事になる部分もあるのですがそこは割愛、台本では丸2ページ分の長セリフとなる箇所を掲載します。

ひょっと舌が回り出すと矢も盾もたまりませぬ ソリャソリャソリャ回ってきた回ってきた 
そもそも早口の始まりは アカサタナ ハマヤラワ オコソトノ ホモヨロヲっと一寸先のお小仏におけまづきゃるな 細溝に泥鰌にょろり 今日の生鱈奈良生真魚鰹ちょいと四五貫目 来るわ来るわ何が来る 高野の山のおこけら小僧 狸百匹箸百膳天目百杯棒八百本 武具馬具武具馬具三武具馬具 合わせて武具馬具六武具馬具 菊栗菊栗三菊栗 合わせて菊栗六菊栗 あの長押の長長刀は誰が長長刀ぞ 向こうの胡麻がらは荏(え)の胡麻がらか真胡麻がらか あれこそほんの真胡麻がら がらぴいがらぴい風車 おきゃがれおきゃがれ 夕べもこぼしてまたこぼした タッポタッポチリカラチリカラスッタッポ タッポタッポいっひ蛸 落ちたら煮て食うを 煮ても焼いても食われぬものは 五徳鉄弓金熊童子に石熊石持虎熊虎ぎす 中にも東寺の羅生門には茨木童子が腕ぐり五ン合掴んでおむしゃるがの 頼光(らいこう)の膝元去らず 鮒金柑椎茸定めてごだんな蕎麦切り素麺 饂飩か愚鈍なこ新発知(しはっち) こ棚のこ下のこ桶にこ味噌がこあるぞこ杓子こ持ってこすってこ寄せておっと合点だ 心得たんぼの川崎神奈川保土ヶ谷戸塚は走って行けば灸(やいと)を擦りむく 三里ばかりか藤沢平塚大いそがしや 小磯の宿(しゅく)を七つ起きして早天そうそう相州小田原透頂香(とうちんこう) 隠れござらぬ貴賤群集の花のお江戸の花外郎 アレあの花を見てお心をお和らぎやアという 産子(うぶこ)這う子に玉子まで この外郎のご評判ご存じないとは申されまいまいつぶり 角出せ棒出せぼうぼう眉に 臼杵すり鉢ばちばち桑原桑原と はめをはずして 今日おいでのいずれも様に あげねばならぬ売らねばならぬと息せきひっぱり 東方世界の薬の元締め 薬師如来も照覧あれと ホホ 敬って申す

キーボードを打つ指が吊りかけました…。いやはや、長いですね。
意味があるようでないような文章ですが、洒落や地口をふんだんに使いながら、リズムや<音>の面白さにあふれた名台詞ではございませんか? 
私も研修生の時、<発音・発声>の授業で、元NHKアナウンサーの先生のご指導でこの練習をいたしました。実際声に出して読んでみると、言いにくい箇所はそれほど多くはございませんが、『武具馬具~』や『菊栗~』、そして掲載の台詞のあとに出てくる『お茶立ちょ茶立ちょちゃっと立ちょ茶立ちょ 青竹茶筅でお茶ちゃっと立ちょ』は、いかにも早口言葉ですね。

写真は曽我十郎で使う刀の鞘の模様のアップです。昔から歌舞伎では、五郎は<揚羽蝶>、十郎は<千鳥>のデザインを衣裳なり小道具なりに使うのが通例となっておりまして、この鞘にあしらわれた蒔絵や螺鈿も千鳥の柄なんです。いわゆる<曽我もの>と呼ばれる芝居、舞踊では、たいていこの約束事が守られておりますので、チェックしてみて下さいね。