梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

松風月稽古場便り <ほ>

2006年05月31日 | 芝居
本日は『荒川の佐吉』の<初日通り舞台稽古>、『藤戸』の<総ざらい>、そして『暗闇の丑松』の<舞台稽古>でした。
『荒川の佐吉』は本番通り衣裳もカツラもつけての稽古。二十人近い群衆は、見た目がひと色にならぬよう、変化をつけた衣裳が用意されますが、自分がどんな着物になるかは今日初めてわかります。羽織に着流しとか、半纏をひっかけたもの、あるいは袖無し羽織に投げ頭巾の物売り風など、立役の格好もさまざまです。さて私はというと、紺の股引、腹掛けに、やはり紺の<寸胴(ずんどう、長袖のシャツ状のように腕をぴっちり包む)>という、いわば職人のこしらえ。こうなりますと、カツラも役柄に合わせて、刷毛先(髷の先端)をちょっと右に曲げて、<いなせ>という形に変わります。小道具としてきていた普通の草履も、ちょいと粋な麻裏草履に変えてもらいました。

肝心の演技はと申せば、やはり広い舞台に場所を移すと、勝手もかわるもの。並び方や出るキッカケ、逃げる速さなどに、今まで気がつかなかった問題が次々とでまして、何度かやり直しとなりました。すべて主演でいらっしゃる松嶋屋(仁左衛門)さんがご覧になってご注意をしてくださるのですが、「こういう気持ちで動くのだから、こうならなくてはいけない」と、私どもの役の気持ちも含めたご指示を下さるのが大変ありがたかったです。一言で騒ぐといっても、起こっている事態に応じて、怖がっているのか、興味本位の野次馬なのか、それが演じている方にはっきり判っていないと、演技が与える印象にメリハリが出ないのですね。目から鱗の思いでした。

一方の『暗闇の丑松』は単なる<舞台稽古>ということで、これは必要に応じて進行を中断して、その都度演技や装置、効果に手直しが入るということです。今日は出演者は<衣裳のみ着用>というかたちとなりました。
成駒屋(福助)さん演ずるお米の亡骸を戸板に乗せて運ぶ役。この前の『藤十郎の恋』では、なるべく早く運ぶようにとのことでしたが、今回はあせらずに、ゆっくりゆっくり運ぶようにとの高麗屋(幸四郎)さんのご指示がございました。つとめて沈んだ気分を出すようにしなくてはなりませんが、これはもう、何かをする、というものでなく、何もしないで表現しないといけないのでしょう。難しいですが…。

『荒川の佐吉』も『暗闇の丑松』も、新歌舞伎ということもあり、音響や効果、照明も細かな作業がございますし、舞台装置も古典演目に比べれば、リアルで具象的なものになります。そのぶん稽古では、演じる役者の注文による変更、手直しが相次ぎますので、かかる時間も長くなります。それでも、大道具さん、小道具さん、照明さん音響さんがフル活動で、迅速的確な対応をしてくださるおかげで、ほぼ一回の舞台稽古で初日を迎えられますのは、見逃してはいけない大事なことだと思います。

さあ、明日は『藤戸』に『二人夕霧』の<初日通り舞台稽古>。後見に徹して、ばりばり働きますよ!

最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
お稽古 (vivian)
2006-06-01 00:57:33
初日前は忙しいですね。

荒川の佐吉はとても好きなお芝居の一つです

暗闇の丑松も楽しみ・・。

私も舞台に立っているので両作品とも自分が

出たことがあり興味深いです。

群集・・いわゆる仕出しの芝居って難しい・・そこでその場の雰囲気をきちんと出さないといけないし重要ですよね。

今月は観にいけるので楽しみにしています。

身体にお気をつけて頑張ってくださいね。

返信する
6月になりましたね (ルンルン)
2006-06-01 13:40:30
今月の舞台もとても楽しみです。



お花のアルバムの赤い実は南天ですね。

難を転じるにかけておめでたに使われます。

お赤飯の折りにのっかってますよね。

返信する