梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

梅之名古屋日記・18

2008年04月24日 | 芝居
『与話情浮名横櫛』「見染め」の場の<貝拾いの浜女>は今回で2度目でございます。
大勢出れば出るほど、木更津の浜辺の雰囲気は賑やかになりますが、今回は座組の都合もあり、いつもよりかは少ないかもしれません。そのぶん、めいめい思い思いの芝居で盛り上げてきたつもりですが…。

前回(平成16年4月歌舞伎座)のおりにも書きましたが、ひとくちに浜の女と申しましても、それぞれに衣裳や鬘で年齢の違いをだして、変化を付けるようにしてあります。
衣裳の中に、緋色や鴇色、藤色などを使ったり、大柄な模様や太めの縞をあしらいますと、見た目が派手になり若い印象になりますし、逆に紺や緑、細かい模様や縞、格子になりますと、落ち着いた感じになります。
また、帯の結び方、結ぶ位置(胸高なら若く、下げれば老ける)でも違いを出すことができます。
鬘も、あの場面だけでも<潰し島田><島田崩し><おばこ><銀杏返し>というふうに、幾種類もあるのですが、これもその髪型にふさわしい年頃がございますし、同じ髪型でも、挿物や櫛などの装飾品を変えるだけで印象がだいぶ変わるんです。

舞台稽古で各自衣裳と鬘の具合をみて、頭と体、そして化粧の色みが違和感なく調和するように調整をいたしますが、今回のような地方公演の場合でも、衣裳方さんは予備の衣裳を持ってきていらっしゃいますし、床山さんも、たとえ髪型そのものに変更があっても、すぐ対処できるようご準備下さっております。皆様のお骨折りのお陰で、初日には皆々しっくりした扮装となるのです。

古い女方の先輩に伺いますと、昔(それこそ、11代目の成田屋(團十郎)さんが与三郎をなすっていたころ)の貝拾いの浜女は、若い綺麗な拵えの人が多かったそうで、「近頃はなんだか地味なのよ」とおしゃっていました。その日の食料を採りに来てはいるのでしょうが、遊山、娯楽でもあるわけで、そんなウキウキ楽しい雰囲気は、明るい色みの衣裳や鬘からも醸し出されなくてはならないのかもしれません。
もちろん、現在の舞台に若い拵えの者がまるっきりいないわけではございませんし、同様なアドバイスをして下さった他の先輩のおかげで、“娘率”が増えた例もございます。

浜女がお富より目立っては元も子もないですが、より場面に“風情”がでるように、ということですね。

…舞台で貝を拾うとき、なるべく膝をつかないようにしゃがんで芝居するんですが、これは、浜辺ですから着物が濡れないようにしているのです。先輩から伺った心得ですが、細かいようですけれど大切なことと思います。