梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

梅之名古屋日記・8

2008年04月10日 | 芝居
昨日の『与話情浮名横櫛』「見染め」の場でちょっとしたアクシデントが。
与三郎と鳶頭金五郎が、客席を浜づたいの道に見立てての道中をしている間に、舞台転換をいたします。それまで飾られていた茶店や松の木の書割り等を下手へ移動させ、かわって上手からは新たな書き割りを出し、場所が移動したことを表現します。
お富や与三郎たちが座っていた<床几(しょうぎ)>も、同じように下手へ移動されるのですが、これは床几の脚の部分に、目立たないように取り付けられた縄を、下手舞台袖から人力で引くことによって“回収”されているのですが…。

昨日に限って、床几の脚が、回り舞台の隙間にできていたわずかな段差に引っ掛かり、あとちょっとというところで、いくら引っぱっても動かなくなってしまったのでした。
私は浜の娘として舞台に出ておりましたから、スタッフさんが袖で必死になっている現場に遭遇してしまいました。非常事態ですから理屈は関係ありません。なるべく目立たないようにくだんの床几のところに回り込んで、そっと持ち上げて動かしました。
段差からは外れたものの、それまでいろいろあがいたからでしょうか、結局床几が横に倒れてしまいはいたしましたが、なんとか回収は成功したという次第。
こういうこともあるのですね。

ちなみにこういう<道具替わり>の作業で面白いのは、茶店や松の木は大道具方が移動させるのですが、床几は小道具さんが受け持つのです。これは以前にも申しましたが、「不動産は大道具」「動産は小道具」というきまりに基づいているのです。
さらにいえば、歌舞伎座の場合ですと、床几は<楽屋番>の管理なので、楽屋係が勤めるというのですからね。不思議な役割分担ではございます。