梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

梅之名古屋日記・12

2008年04月14日 | 芝居
『閻魔と政頼』の裃後見は、化粧をし、鬘をかぶるという、本式で古風な拵えです。
鬘はいわゆる<袋付き>と呼ばれる髪型で、髱(たぼ。後頭部)をふっくらとふくらませたもの。世話物の町人等もこの髪型なのですが、後見でかぶる<袋付き>と、芝居でかぶる<袋付き>は微妙に違うのだそうです。
髷の大きさ、鬢(びん。側頭部の毛)の張らせかた、髱の形などをごく<おとなしく>仕上げるのだそうで、これは後見は<役>ではありませんので、舞台上で鬘が“主張しない”ようにするためなのだそうです。毛を植える前の段階、つまり銅板で顔の横の生え際のラインを作るときにも、お芝居で使うものでしたら、役柄によっては部分的に角度をつけて、アクセントをつけたりしますが、後見ではそういうこともいたしません。
その一方で、髷の根元に結わえる<元結(もっとい)>の巻き数は、芝居のときよりも多くなり、所作事の様式的な舞台面にふさわしい格を出しているのだそうです。さきほど<おとなしく>という表現を使いましたが、さりとて貧弱になってはいけないわけでして、そのあたりの兼ね合いを出すのは、世話の袋付きを結い上げるのとくらべると、少々気を遣うと床山さんはおっしゃっておりました。

私は、7、8年くらい前に作った、後見専用の鬘をいつも使っております。女形に移りましても、後見は立役です。『道成寺』や『鷺娘』などで、女形さんの後見が、紫帽子付きの鬘、中振袖の着付という拵えでお勤めになることがございますが、ごくごく古風な演目や舞台面のおりに、ご本人や主演者のご意向でなさるものです。私も、いつかこの拵えをする日が来ないとも限りませんが…。

ちなみに後見の顔の色は、演目やなさる方によって、肌色に近かったり白粉でキレイに塗ったりと色々ですが、顔はどんなにキレイに塗ったとしても、様々な用事をする手は塗らないものなのです。