梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

アラ怪しやな

2006年01月21日 | 芝居
今月六日の記事への、ウエノッチ様からのコメントに、「『先代萩・床下』のネズミは、誰が演じているのか?」というご質問がございました。
歌舞伎では様々な動物が登場し、そのほとんどは名題下俳優が勤めるわけですが、基本的に動物は<役>ではないという考え方があって、そのため筋書きの配役欄にも記載されない(例外もありますが)ので、皆様も『誰がやっているのかな?』とお思いになったことがあるかと存じます。
『床下』のネズミは、<三徳>や<後(あと)返り>というトンボを返る難役。誰しもができるというわけではございません。今月は、成駒屋(翫雀)さんのお弟子さんの、中村翫祐さんが勤めていらっしゃいます。この記事を書くにあたり、ご本人に色々とお話をうかがうことができましたので、ご紹介いたしましょう(写真もご本人です)。
翫祐さんが初めてこのネズミを勤めたのは、平成八年七月、国立劇場での『歌舞伎鑑賞教室』だそうです。この公演での「歌舞伎の見方」で、歌舞伎に出てくる動物を紹介する件があり、そのなかで、『床下』の一部分が実演されたわけです。その時の男之助は、名題俳優の坂東橘太郎さんだったそうですが、橘太郎さん自身も、名題下時代に度々このネズミを演じた経験がおありですので、翫祐さんが初めて演じるにあたっては、この橘太郎さんをはじめ、今までのネズミ経験者の方々から色々と教わったそうです。それ以来、松島屋(我當)さん、成駒屋(橋之助)さん、高麗屋(染五郎)さん、大和屋(弥十郎)さんといった方々での男之助でネズミを演じてこられました。
やはり相手が変われば少しずつやり方も変わるそうですが、“ネズミらしさ“を出す身体の形や動き方などは、初役時の教えを守りながら、自分でも色々工夫なすっていらっしゃるとのこと。着ぐるみを身につけての動きやトンボは、それほど普段とは変わらないそうですが、常にかがんだ姿勢でいるのが大変だとおっしゃっておりました。
ちなみに、ネズミの首元には舞台を見るための覗き穴があるのですが、お客様に、ここから中に入っている役者の顔が見えてしまうと具合が悪いので、顔を黒く塗って目立たないようにするのだそうです。

これからご覧になる方は、是非是非ネズミの演技にもご注目下さいね。もっとも、改めて申すまでもなく、目立つお役ではございますが。
…翫祐さんは私の一期上の十三期生。はじめ大和屋(故 坂東吉弥)さんのお弟子さんでいらっしゃいましたが、師匠の没後、成駒屋(翫雀)さんのところに移られました。とっても優しい先輩です!