梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

宮中装束にはつきものの…

2006年01月04日 | 芝居
写真の物体、これは何かと申しますと、昼の部『鶴壽千歳』で衣裳の着付けに使われる<石帯(せきたい)>でございます。
<石帯>は、男の宮中装束である“束帯”や“直衣”などを着る際に、着物の一番上に締めることで着崩れを防ぐためのベルトのようなものです。奈良時代には原型が生まれ、平安時代には型が定まったといわれておりますが、黒く塗った牛革の帯を二本つなげ、そのうち一本には、玉石を丸や四角に切ったものを嵌め込み飾りとします。…と書いておりますが、写真をご覧の皆様には、「黒くもないし、玉石なんかついていないじゃないか!」と思われるかと思います。
実は、これが今回だけの特別な工夫でございまして、『鶴壽千歳』は、雌雄の鶴の精が舞い遊ぶという設定。ですので衣裳は鶴の羽をイメージして、全て白を基調として誂えております。そうなりますと、いつも通りの<石帯>を使いますと、白一色の衣裳の中で、<石帯>の黒だけが目立ってしまい、見た目が良くなくなってしまいますので、色々と考えた結果、白地の織物の布で<石帯>全体を覆うことといたしました次第です(写真では鴇色っぽく写ってしまいました)。<石帯>は、着付けに使うものなのですが、管轄は小道具さんのものですので、先月のうちから、小道具さんと打ち合わせをいたしまして、誂えて頂きました。

先ほども申しましたように、着崩れを防ぐ、というのが本来の意味なのですが、歌舞伎の舞台でこういう装束を着る際は、別に腰紐も使いますので、そういった心配はございません。むしろ、着付けの裾から長く垂らした広幅の帯状のもの、いわゆる<裾(きょ)>と呼ばれる部分を、折り畳んで背中の部分で挟んで留めるために、この<石帯>は使われます。
写真をご覧頂ければお分かりかと思いますが、湾曲部分を衣裳をつけ終わった背中に当て、右の端についている二本の紐のうち一本を腹へ回し、反対側の端にある輪っかに通してから折り返し、それをもう一本の紐と蝶結びにして締めます。そして、上の方の帯(上手、うわてと呼びます)に、裾からたくし上げた<裾>を挟むというわけです。
本来二本の帯は左の端でつながっただけで、曲げずに真っすぐな状態にしておくものなのですが、そうなりますと着付け時に、<上手>を固定する手間がかかってしまいますので、その手間を省くために、写真のように、あらかじめ曲がったままになるよう両端を固定することが多いです。<上手>の方が、下の<本帯(もとおび)>よりも長いので、両端をつなげると自然と湾曲いたします。
ちなみに<裾>は、公式の場では、位が高くなるにつれて、丈が長くなったそうですが、今回は踊りということもあり、さばきが良いように短めになっております。衣裳は直衣、指貫袴ともに白地で地紋に浮線綾模様散らし。直衣の下に着る大下(おおした)と、<裾>の裏地のみ赤となっております。