すずめ通信

すずめの街の舌切雀。Tokyo,Nagano,Mie, Chiba & Niigata Sparrows

第1470号 「飛騨の家具」の故郷を訪ねる

2016-07-19 04:56:46 | Tokyo-k Report
【Tokyo-k】わが家に古い木製の椅子がある。私が仕事に就いて間もないころ、前橋市の家具店で買ったのだから、もう45年は使い続けていることになる。店で「飛騨の椅子」だと聞いた記憶がある。まだ飛騨が家具の産地であることも知らず、木組みのバランスがとてもいいと感じて衝動買いしたのだった。当時の私にとっては高い買い物だったけれど、私や、受験期の息子が酷使してきたにもかかわらず、故障は全く見られない。



椅子は一見、華奢な作りである。さすがに塗りはだいぶ剥げて来たものの、組み合わされた木々が少しも緩んでいないことは感動的なほどだ。いったいどうやったら、これほどしっかり木と木を組み合わせることができるのだろう。飛騨に足を延ばす機会に、家具作りの現場を見たいと思う。高山市が送ってくれた観光パンフレットの中に、見学を受け入れている家具工場が掲載されている。柏木工という会社を選んだ。



郊外になるのだろうが、駅からさほど遠くない高台に、工業団地らしき街が広がって、柏木工の真新しいショールームが建っている。看板代わりに巨大な椅子が鎮座していて、私はその椅子を見て驚いた。吉祥寺の家具ショップが店頭に飾っている、私がいつも「いいなぁ」と座ってみては買えないでいる椅子ではないか。「あぐらもかけます」と書いてあるその椅子は、ゆったりとした座面で、デザインが実にいいのだ。



私の憧れの椅子は、この会社のヒット商品だった。その偶然にプッシュされて、工場見学を申し込む。私達2人だけにも関わらず、班長さんのような職員さんがやって来て、材料は全て北米産、乾燥済みの用材を輸入し、パーツは注文に応じてすぐに組み立てられるようカンバン方式で補充し、背もたれの厚い板は左右上下に湾曲させるプレス機で成形するーーなどと説明してくれる。魔法のカーブがプレスで生まれる。



感心したのは社員の働く姿勢だ。私達が通りかかると、必ずこちらの眼を見て「こんにちは」と挨拶する。工場のあちこちからその声が響く。しかし私語は一切ない。プレス、削り、成形、塗装と、流れるように家具が出来上がって行く。毎年秋に開かれる飛騨の家具の発表会に向け、新作デザインを練っている部隊もどこかにいるのだろう。半世紀を経てもびくともしない木製家具は、流れ作業と手仕事の結晶だった。



飛騨には「匠」と呼ばれる木工集団の技が受け継がれている。飛騨の家具も、その伝統の中で語られることが多い。だが流通がグローバル化した現代、飛騨の家具業界は伝統を磨きながらも、いたずらに伝統に頼ることなく、切磋琢磨しているのだろう。わが家の椅子が飛騨のどこで作られたかはわからない。ただ木片一つ落ちていない柏木工の工場敷地を見て、こうした企業風土の中で作られたのだと嬉しくなった。



東美濃から尾張—奥美濃—飛騨を巡った今回の旅は、いつも清流の瀬音と一緒だったように思う。長良川を遡り、中央分水嶺あたりをうろついていたからなのだろうが、そのことが心地よく、街の清潔さを引き立ててくれていたように思う。東京から4日間の走行距離は975キロになった。帰宅すると、新潟から小学校の同級会の案内が届いていた。古希を祝おうというわけだ。思い出せる名がわずかにあった。(2016.6.23-24)













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