すずめ通信

すずめの街の舌切雀。Tokyo,Nagano,Mie, Chiba & Niigata Sparrows

第1604号 輪島にてフグの卵巣漬けを買う

2018-11-15 16:52:55 | Tokyo-k Report
【Tokyo-k】考えてみれば「あって当然」なのだろうが、朝市に「定休日」があるとは思いがけないことだった。輪島の朝市は正月3が日と、月々の第2、第4水曜日が休業なのだということを、第4火曜日の夜に輪島入りした我々は、暗い通りで細々と灯を灯す商店に立ち寄って知ったのだった。「翌日はまず一番に朝市に出向き」と考えていた私は、案内役失格である。急遽計画を変更し、半島の旅を先に済ませて再び輪島に戻る。



私にとっては7年ぶりになる輪島の朝市は、平安時代から続くという、気が遠くなる歴史を持っているらしい。360メートルほどの商店街に200を超す露店が並び、朝市組合が全てを取り仕切っているようだ。人口27000人に過ぎないこの街に、観光客が次々とやってくる。朝市が消えたら街にはどんな風景が残るだろう。露店の営業権は代々受け継がれ、この地域ではかけがえのない生活の縁になっているのだろう。



この日はカニ漁解禁を目前に控えた時節柄であろうか、生鮮魚介類はいささか品薄で、それに合わせるかのように人出も少ないようにみえる。それでも金沢の近江町市場といい勝負で、地方の商店街でこれだけの人波を見ることはまずない。私は密かに買いたいものがあった。自分で買うものを「密かに」と言うのはヘンだけれど、どうしても声が小さくなってしまう。「フグの卵巣粕漬け」である。あの猛毒部分なのだ。



日本海側では「へしこ」と呼ばれる魚の塩漬けが郷土食として多く見られるようだが、フグの卵巣を食べようという猛者は輪島など石川県の一部の地域にしか存在しない。猛毒のテトロドトキシンによって、縄文時代以来多くの食通の命を奪ってきた卵巣だが、3年間ほど塩と粕に漬け込むと、なぜかその毒が消え、旨味の濃い食材になるのだという。その理由は今もって解明できておらず、「奇跡の食品」なのである。



では味はどうなのか。興味津々だから買ってきたわけだが、旅から帰ってほぼ1ヶ月になるというのに未だ食していない。決して怖がっているわけではないし、毒性検査をする石川県予防医学協会を信用していないわけでもないのだが、食事になるとつい忘れてしまうのだ。それほど意識から遠い食べ物だということなのだろう。食べた感想は、いずれこの部分を差し替えることで紹介することにし、輪島の旅を続ける。



輪島といえば漆器である。加賀国には山中塗などの漆器産地があるけれど、能登国の輪島塗は、呆れるほどに細分化された分業から産み出される、恐ろしいほど綿密な工芸品である。したがって価格は高くなるわけで、漆器を使う生活が遠のいている今日、この産地がよくぞ存続していると感心する。県立の漆芸美術館で沈金加飾の泰斗・三谷吾一の没後1年展が開かれている。よくぞここまでと、その技に呆然となる。



前回の訪問時より、輪島市の人口は4000人減っている。7年間で12%という激しい減少ぶりである。海岸に広がっていた埋立地に「キリコ会館」という観光施設やサッカー場が整備されたが、人口は流出していく。観光客で賑わう朝市に、ちびっ子の行列が分け入ってきた。隣の門前町の小学生だという。子供を見ると買い物客も店の人たちもみんな笑顔になる。人口減を退治する希望を見ているのだ。(2018.10.23-24)




















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