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【Tokyo-k】どこかの街を訪ねた際は、なるべく素早く、記憶が新鮮なうちに印象を書き止めるように努めているのだが、どうにも筆が進まないこともある。書きたくなる材料に出会わなかったから、などと自分に言い訳けしながら一日延ばしにしている。千葉県市川市の中山を訪れたのは、紫陽花や菖蒲が咲いていたころだから、もう1年が過ぎたことになる。いくら何でもサボリ過ぎだ。書くべきことが「何もない街」などあるはずがないのだから。
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「中山」といえば、年末恒例の有馬記念が開催される競馬場で知られるけれど、競馬をやらない私のような者にはイメージが希薄だ。ただこの街で暮らした東山魁夷の記念館があることは知っていた。だからお隣りの船橋に出かけるついでに初めて下車してみたのだが、江戸川を挟んで東京と隣接する市川は都心から20キロほどだというから、私が暮らす街とは都心を挟んでほぼ東西に等距離で、総武線一本で繋がっている街でもある。
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東山魁夷記念館についてはあまり書くことがない。つまらなかったのである。画家が後半生の50余年を過ごした地の記念館だから、作品を鑑賞する以上に制作過程に触れる展示を期待していたのだが、かなわなかった。ただ住宅街の坂を登った先の、画家の自宅に隣接して建てられたという洋風の建物はかわいらしく、ボランティアらしい女性たちが丁寧に対応する気持ちのいい文化施設だった。街にとっては有用な記念館なのだろう。
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しかし途中下車してよかったと思ったのは、法華経寺を散歩できたことだ。JR下総中山に降りると、都心からわずか20キロとは思えないほど鄙びた、歩道も満足にない商店街が延びて、間もなく千葉街道を突っ切ることになる。さらに京成線の踏切を渡ると、寿司屋とうなぎ屋に挟まれて「中山参道総門」が建っている。霊地にはほど遠い「探偵調査」「占い」といった看板を抜けて「大本山」に近づいて行く、その乱雑さがたまらない。
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法華経寺は日蓮宗の大本山ということで、広大な寺域を今に保っている。日蓮は、同時代の為政者には過激で騒々しい危険な存在だったのだろうが、それ以上に人々の心に響く魅力的な宗教家であったのだろう。この地を領していた千葉氏の有力者が、鎌倉を追われた日蓮を庇護し、それがこの寺に繋がっている。そんな日本の宗教改革時代に思いを馳せるには、小雨に濡れる祖師堂や五重塔は余りに静か過ぎたけれど、気分は良かった。
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日蓮が生きた13世紀、おそらく湾は内陸まで入り込み、法華経寺や千葉街道から海が望めたことだろう。政治の中心は鎌倉にあり、江戸など存在していただろうか。それから750年ほどの時間が経過すると、国の人口は数十倍に膨れ上がり、日蓮が「内乱・侵略の恐れ」に警鐘を鳴らした安国論は、自民党による集団的自衛権をめぐる解釈改憲論法に入れ替わっている。人や街は、変わったようで実は何も変わっていないのかもしれない。
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首都圏のとらえ方のひとつに東京都市雇用圏という考え方がある。都心への東京・神奈川・埼玉・千葉の「通勤圏」だと見ることもでき、そこに3300万人が暮らしている。そのどの辺りに居を構え、どの方向に通勤したかによって、人の街を観る眼が異なるように思う。私の人生は西に長期間、北と南も短時間あった。そして労働年齢のほとんどは都心に通ったから、東は今もって縁遠い。だから千葉は、近くて遠いのである。(2013.6.11)
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「中山」といえば、年末恒例の有馬記念が開催される競馬場で知られるけれど、競馬をやらない私のような者にはイメージが希薄だ。ただこの街で暮らした東山魁夷の記念館があることは知っていた。だからお隣りの船橋に出かけるついでに初めて下車してみたのだが、江戸川を挟んで東京と隣接する市川は都心から20キロほどだというから、私が暮らす街とは都心を挟んでほぼ東西に等距離で、総武線一本で繋がっている街でもある。
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東山魁夷記念館についてはあまり書くことがない。つまらなかったのである。画家が後半生の50余年を過ごした地の記念館だから、作品を鑑賞する以上に制作過程に触れる展示を期待していたのだが、かなわなかった。ただ住宅街の坂を登った先の、画家の自宅に隣接して建てられたという洋風の建物はかわいらしく、ボランティアらしい女性たちが丁寧に対応する気持ちのいい文化施設だった。街にとっては有用な記念館なのだろう。
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しかし途中下車してよかったと思ったのは、法華経寺を散歩できたことだ。JR下総中山に降りると、都心からわずか20キロとは思えないほど鄙びた、歩道も満足にない商店街が延びて、間もなく千葉街道を突っ切ることになる。さらに京成線の踏切を渡ると、寿司屋とうなぎ屋に挟まれて「中山参道総門」が建っている。霊地にはほど遠い「探偵調査」「占い」といった看板を抜けて「大本山」に近づいて行く、その乱雑さがたまらない。
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法華経寺は日蓮宗の大本山ということで、広大な寺域を今に保っている。日蓮は、同時代の為政者には過激で騒々しい危険な存在だったのだろうが、それ以上に人々の心に響く魅力的な宗教家であったのだろう。この地を領していた千葉氏の有力者が、鎌倉を追われた日蓮を庇護し、それがこの寺に繋がっている。そんな日本の宗教改革時代に思いを馳せるには、小雨に濡れる祖師堂や五重塔は余りに静か過ぎたけれど、気分は良かった。
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日蓮が生きた13世紀、おそらく湾は内陸まで入り込み、法華経寺や千葉街道から海が望めたことだろう。政治の中心は鎌倉にあり、江戸など存在していただろうか。それから750年ほどの時間が経過すると、国の人口は数十倍に膨れ上がり、日蓮が「内乱・侵略の恐れ」に警鐘を鳴らした安国論は、自民党による集団的自衛権をめぐる解釈改憲論法に入れ替わっている。人や街は、変わったようで実は何も変わっていないのかもしれない。
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首都圏のとらえ方のひとつに東京都市雇用圏という考え方がある。都心への東京・神奈川・埼玉・千葉の「通勤圏」だと見ることもでき、そこに3300万人が暮らしている。そのどの辺りに居を構え、どの方向に通勤したかによって、人の街を観る眼が異なるように思う。私の人生は西に長期間、北と南も短時間あった。そして労働年齢のほとんどは都心に通ったから、東は今もって縁遠い。だから千葉は、近くて遠いのである。(2013.6.11)
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