みちのくの山野草

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定性的段階であり、残念ながら定量的ではなかった

2024-05-04 12:00:00 | 菲才でも賢治研究は出来る
《コマクサ》(平成27年7月7日、岩手山)

 では今度は、『宮澤賢治科学の世界 教材絵図の研究』(高村毅一、宮城一男編、筑摩書房)に載っている下図、

          〈『新校本宮澤賢治全集 第十四巻 雑纂 本文篇』(筑摩書房)口絵14p〉
の〔教材用絵図 四九〕についてある。というのは、この絵図の意味するところはあまりにも意外であり、驚くべきものであったことを思い出したからだ。というのは、この棒グラフからは、
 Ⅰ区~Ⅵ区(賢治はⅣと書くべき箇所をⅥと書き間違えている)の中では、完全肥料区Ⅵ区が最も収量が多く、それに石灰を十五貫加えたⅦ区では稲の収量が減少し、石灰を三十貫加えたⅧ区でやっと完全肥料区と同程度の収量であった。
ということが導かれるからである。私はこのことを知って天と地がひっくり返った。
 なんと、石灰を加用するとかえって稲の収量は減収したり、加用してもそうしない場合と同程度だったりする。
という予想だにしていなかった結論が導かれるのだ。
 しかも、『宮澤賢治科学の世界 教材絵図の研究』(筑摩書房)も、この棒グラフは、稗貫郡の十三ヶ町村のそれぞれの選定された圃場における四年間にわたる施肥標準試験結果を図示したものであることを紹介した上で、
 石灰加用区では、十五貫を加えた区Ⅶが反って減収となり、三十貫を加えた区Ⅷで、漸く、完全肥料区Ⅵと同様な効果しか得られなかった。〈『宮澤賢治科学の世界 教材絵図の研究』(高村毅一、宮城一男編、筑摩書房)96p〉
というように、同様な指摘をしていた。
 しかしながら、私にはこのことがどうしても信じられなかった。そこで、先に触れた『農業科学博物館』を訪ねた際にこのことも館員の方に訊ねた。
 この棒グラフからは、
    石灰を施与することはかえって害になるとか、せいぜい加えないことと同じだったということがある。………③
ということが導かれると思うのですが。
と。すると館員の方は、
 この施肥標準試験結果が正しいかどうかについては不安ですが、〔教材用絵図 四九〕に従えばそのような理解の仕方はOKです。
と教えてくれた。
 そこで私はもう観念するしかなかった。この絵図に従えば、前掲の〝③〟はもはや疑いようがない事実なのだ、と。しかもこの絵図は賢治自身が作ったものだから、羅須地人協会時代の賢治がこの石灰施与のリスク〝③〟を知らなかったはずがない、と判断せざるを得ない(もし知らなかったならば、賢治の目は節穴だということになってしまう)。しかしこうなると新たな問題が生ずる。それは、賢治の石灰岩抹施用の理論は不完全であり、賢治自身もそのことに気付いていたはずだという問題がである。
 言い方を変えれば、「賢治精神」を実践したといわれている松田甚次郎は、
 最近までは石灰の過用によつてかへつて種々の弊害を來してゐるやうな有樣であつた。過ぎたるは及ばざるが如しで、肥料にしても適量が大切であることはいふまでもない。
             〈『續 土に叫ぶ』(松田甚次郎著、羽田書店、昭和17年12月)44p〉
ということを後に指摘しているし、一方で、あの23枚の施肥表も含めて、賢治自身が水稲の土壌のpHやその数値について言及していた資料等を私は未だ一つも見つけられずにいるから、
 当時の賢治の石灰岩抹施用の理論は定性的な段階に留まっていて、残念ながら定量的ではなかったので不完全なものあった。
という問題がである。ちなみに、地元の著名な賢治研究家が、「賢治の言うとおりにやったならば稲が皆倒れてしまった、と語っている人も少なくない」ということを私に教えてくれたからなおさらにだ。

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            〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木守  ☎ 0198-24-9813
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