みちのくの山野草

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『本統の賢治と本当の露』はじめに

2023-12-05 16:00:00 | 本統の賢治と本当の露
《『本統の賢治と本当の露』(鈴木 守著、ツーワンライフ社)














********************************** なお、以下は今回投稿分のテキスト形式版である。**************************
〈註〉宮澤賢治は、例えば「本統の百姓になります」とか「本統の勉強はねえ」というように、一般には「本当」が使われるところを「本統」を用いている場合が多い。そこで、賢治に敬意を表してタイトルは「本統の賢治と本当の露」とした。

   〈表表紙〉羅須地人協会跡地の朝(平成28年12月8日撮影)
  〈裏表紙〉下根子桜の白花露草 (平成28年8月24日撮影)

   本統の賢治と本当の露
          鈴木 守
           目    次
 はじめに 1
 第一章 本統の宮澤賢治 2
  1.「修訂 宮澤賢治年譜」 3
  2.「賢治神話」検証七点 7
 ㈠ 「独居自炊」とは言い切れない 7
 ㈡ 「羅須地人協会時代」の上京について 25
 ㈢ 「ヒデリノトキニ涙ヲ流サナカッタ」賢治 43
 ㈣ 誤認「昭和二年は非常な寒い氣候…ひどい凶作」 65
 ㈤ 賢治の稲作指導法の限界と実態 69
 ㈥ 「下根子桜」撤退と「陸軍大演習」 84
 ㈦ 「聖女のさまして近づけるもの」は露に非ず 91
 3.「賢治研究」の更なる発展のために 106
 第二章 本当の高瀬露 111
 1.あやかし〈悪女・高瀬露〉 111
 2.風聞や虚構の可能性 114
 3.「ライスカレー事件」 118
 4.「一九二八年の秋の日」の「下根子桜訪問」 122
 5.捏造だった森の「下根子桜訪問」 125
 6.「新発見」と嘯いたことの責め 129
 7.冤罪とも言える〈悪女・高瀬露〉の流布 133
 おわりに 138
資料一 「羅須地人協会時代」の花巻の天候(稲作期間) 143
資料二 賢治に関連して新たにわかったこと 146
資料三 あまり世に知られていない証言等 152
《註》 159
《参考図書等》  168
《さくいん》  175

《用語について》
・「下根子桜」≡下根子桜の「宮澤家別宅」のあった場所
・「羅須地人協会時代」≡宮澤賢治が「下根子桜」に住んでいた二年四ヶ月
・「旧校本年譜」≡『校本宮澤賢治全集第十四巻』(筑摩書房)所収の「賢治年譜」
・『新校本年譜』≡『新校本宮澤賢治全集第十六巻(下)補遺・資料 年譜篇』(筑摩書房)
・帰花≡花巻に帰ること。また、来花≡花巻に来ること。
・【仮説】自然科学その他で、一定の現象を統一的に説明しうるように設けた仮定。ここから理論的に導きだした結果が観察や実験で検証されると、仮説の域を脱して一定の限界内で妥当する真理となる。〈『広辞苑 第二版』(岩波書店)〉
《仮説検証型研究》
 本書では、次のような手法で限定付きの「真実」を明らかにしてゆく研究のことを「仮説検証型研究」と称している(なお、この限定付きの「真実」のことを、略して単に真実と表記することもある)。
定立した仮説の根拠がある一方で、その反例が一切ない場合にその仮説は検証されたということにし、爾後、検証されたその仮説は反例が提示されない限りという限定付きの「真実」である、とする手法(なお、「定説」も「通説」も所詮仮説。それ故、「賢治年譜」はほぼ仮説でできている)。
《引用文について》
 基本的にはゴシック体にしてある。
  はじめに
 しばらく前のことになるが、声優で歌手でもあり、第19回イーハトーブ賞奨励賞受賞者でもある桑島法子の父の葬儀に私は参列していた。その際、彼女は宮澤賢治の詩を朗詠して父を送った。なぜか。それは、法子の父桑島正彦は賢治が大好きだったからだ。また、法子が賢治作品の「朗読夜」をしばしば開いていることなども、その父の影響があったからだ。
 さて、どうして私がこのようなことを知っているのかというと、父正彦は私の中学時代の同級生だからだ。今でも目をつぶれば、かつて何度か私たちの前で身振り手振りよろしく朗々と「原体剣舞連」を歌い上げた彼の姿がまざまざと眼裏に蘇る。時に、現在活躍中の作品朗読者の同作品の朗読を聴くこともあるが、正彦のそれに誰もかなわないと私は思っている。
 その同級生の影響もあったからだったのだろうか、私も早い時点から賢治が好きで、賢治のことも賢治の作品も共によくわかってもいないのに賢治を尊敬していた。そこで若い頃の私は、尊敬する人物は誰ですかと問われると、「破滅的で微分的な啄木と違って、積分的で求道的な生き方をして、貧しい農民たちのために献身した賢治です」などと粋がって答えていたものだ。
 しかし私は、相も変わらず『春と修羅』がよくわかっていない。ただ例えば、勇壮というよりは逆におとなしいとさえも言えるような「雛子剣舞」(「子供念仏剣舞」とか「稚児剣舞」とも呼ばれる)を元にして、よくぞここまで勇猛果敢で、圧倒的迫力のある心象スケッチ「原体剣舞連」に創り上げたものよと、賢治のそのずば抜けた創造力に感心する。あるいは、私から見れば「第四次」の特異な感覚がなければ書けないだろうと思われる童話「やまなし」や「おきなぐさ」、そしてあの「星の王子さま」に勝るとも劣らないと私は信じている「なめとこ山の熊」はとりわけ、何度読んでも感動が薄れない。もちろんそこにも、賢治の類い稀なる天賦の才を見る。
******************************************************* 以上 *********************************************************
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《新刊案内》
 この度、拙著『このままでいいのですか 『校本宮澤賢治全集』の杜撰』

を出版した。その最大の切っ掛けは、今から約半世紀以上も前に私の恩師でもあり、賢治の甥(妹シゲの長男)である岩田純蔵教授が目の前で、
 賢治はあまりにも聖人・君子化され過ぎてしまって、実は私はいろいろなことを知っているのだが、そのようなことはおいそれとは喋れなくなってしまった。
と嘆いたことである。そして、私は定年後ここまでの16年間ほどそのことに関して追究してきた結果、それに対する私なりの答が出た。
 延いては、
 小学校の国語教科書で、嘘かも知れない賢治終焉前日の面談をあたかも事実であるかの如くに教えている現実が今でもあるが、純真な子どもたちを騙している虞れのあるこのようなことをこのまま続けていていいのですか。もう止めていただきたい。
という課題があることを知ったので、
『校本宮澤賢治全集』には幾つかの杜撰な点があるから、とりわけ未来の子どもたちのために検証をし直し、どうかそれらの解消をしていただきたい。
と世に訴えたいという想いがふつふつと沸き起こってきたことが、今回の拙著出版の最大の理由である。

 しかしながら、数多おられる才気煥発・博覧強記の宮澤賢治研究者の方々の論考等を何度も目にしてきているので、非才な私にはなおさらにその追究は無謀なことだから諦めようかなという考えが何度か過った。……のだが、方法論としては次のようなことを心掛ければ非才な私でもなんとかなりそうだと直感した。
 まず、周知のようにデカルトは『方法序説』の中で、
 きわめてゆっくりと歩む人でも、つねにまっすぐな道をたどるなら、走りながらも道をそれてしまう人よりも、はるかに前進することができる。
と述べていることを私は思い出した。同時に、石井洋二郎氏が、
 あらゆることを疑い、あらゆる情報の真偽を自分の目で確認してみること、必ず一次情報に立ち返って自分の頭と足で検証してみること
という、研究における方法論を教えてくれていることもである。
 すると、この基本を心掛けて取り組めばなんとかなるだろうという根拠のない自信が生まれ、歩き出すことにした。

 そして歩いていると、ある著名な賢治研究者が私(鈴木守)の研究に関して、私の性格がおかしい(偏屈という意味?)から、その研究結果を受け容れがたいと言っているということを知った。まあ、人間的に至らない点が多々あるはずの私だからおかしいかも知れないが、研究内容やその結果と私の性格とは関係がないはずである。おかしいと仰るのであれば、そもそも、私の研究は基本的には「仮説検証型」研究ですから、たったこれだけで十分です。私の検証結果に対してこのような反例があると、たった一つの反例を突きつけていただけば、私は素直に引き下がります。間違っていましたと。

 そうして粘り強く歩き続けていたならば、私にも自分なりの賢治研究が出来た。しかも、それらは従前の定説や通説に鑑みれば、荒唐無稽だと嗤われそうなものが多かったのだが、そのような私の研究結果について、入沢康夫氏や大内秀明氏そして森義真氏からの支持もあるので、私はその研究結果に対して自信を増している。ちなみに、私が検証出来た仮説に対して、現時点で反例を突きつけて下さった方はまだ誰一人いない。

 そこで、私が今までに辿り着けた事柄を述べたのが、この拙著『このままでいいのですか 『校本宮澤賢治全集』の杜撰』(鈴木 守著、録繙堂出版、1,000円(税込み))であり、その目次は下掲のとおりである。

 現在、岩手県内の書店で販売されております。
 なお、岩手県外にお住まいの方も含め、本書の購入をご希望の場合は葉書か電話にて、入手したい旨のお申し込みを下記宛にしていただければ、まず本書を郵送いたします。到着後、その代金として1,000円分(送料無料)の切手を送って下さい。
            〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木守  ☎ 0198-24-9813
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