思惟石

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『小さなことばたちの辞書』 OED編集室に暮らした女性の物語

2023-08-16 18:58:54 | 日記
『小さなことばたちの辞書』
ピップ・ウィリアムズ
最所篤子:訳


『オックスフォード英語大辞典』編纂室で育った
少女エズメの生涯を描く物語。
※史実に則った小説です。

19世紀前後、ヴィクトリア女王統治下の大英帝国時代。
イギリスでは女性参政権運動が盛んだった時代でもある。

オックスフォードの辞書編纂者の娘として
「中の中の上」くらいのエズメの視点で、
当時の社会が描かれているのがおもしろポイントかと。

エズメの世話を何かと焼いてくれる
マレー博士の家の女中リジー(身分的には下層側)と、
当時のインテリ女性最高峰にいる
エズメの名付け親ディータ(分かりやすい上流)が、
とても良いバランス。
この二人を描くことで、
当時の女性の両極とその生活が垣間見える仕組み。
エズメも、読者も、視野を広く持って処世を眺められるというか。

なかなか面白くよみました。

が。
この本、ちょっと予習が必要じゃないか?
当時の社会情勢や男女格差の空気感みたいなものが
与件とされていて、あまりにも説明がないのよ。
そういう小説です、でもアリだとは思うけど。
うーん、邦訳だから注釈つけよっか、とかなかったのかな?

さらには、OED編纂事業の特徴的な部分
(マレー博士は絶対的編集長ではないとか、
ボランティアから郵便で語釈や用例を集めるシステムとか、
出版計画が「途方もなく間違っていた(編纂開始から
最初の分冊出版まで27年かかっている。
2年くらいでできるっしょ、とか思ってたのに)とか)
は予備知識として知らないと、
「?」な部分が多い小説になっていないだろうか。

まあ、英語圏の人にはOEDあるあるは基礎常識なのかもしれません。

日本人は『博士と狂人』(OED編集主席のマレー博士と、
超優秀ボランティアスタッフのマイナーの物語)を読むか
「ゆる言語学ラジオ」のOED回を聴いてから
読むと良い一冊かもしれません。

テイストがぜんぜん違うというか、
求めてる読者層がぜんぜん違う気もするけど…。

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