思惟石

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ディミトリ・フェルフルスト『残念な日々』下品なのにノスタルジック

2018-06-26 12:19:13 | 日記
ベルギーの作家による自伝的短編集です。

フランダース地方・オランダ語圏の貧しい村に住む
貧しくも愉快な家庭で暮らした少年時代の思い出話しです。

まず、フランダース地方と言われても
ハウス名作劇場ぽい牧歌的なものは何一つありません。
主人公の家は、巷で有名な飲んだくれ一家フルフェルスト家。
良い歳して実家暮らしの飲んだくれ叔父3人と、
妻に逃げられ出戻った飲んだくれ実父、
10代の半ばから夫と息子の世話に追われ続けた祖母と、
12歳の僕の「残念な日々」。

残念なのはさておき、飲みすぎですよ……!!

ついでに、清々しいくらい汚物まみれで下品です。

それでも愛しい思い出の数々として、
前半は様々なエピソードが語られます。

個人的には主人公に歳の近い叔父が
「大酒のみコンテスト」をツール・ド・フランスに見立てて
生き生きと飲んだくれた挙句に昏睡するお話しが好きです。
(その前段で、やっぱり飲んだくれた兄叔父が
 カーラジオから流れるロイ・オービソンを聴きながら
 強盗のクルマに突っ込んで昏睡するとこも好き)

回想録ですので、もちろん現在があります。
現在の「僕」は、文筆家としてそこそこ成功していて
村からも一家からも離れています。
その、今も相変わらずの叔父たちとのぎこちない会話や
かつて暮らした場へのうしろめたさみたいなものが
後半になるにつれて表面化してきて、
なんだか色々考えさせられます。

自分は今でも故郷を愛しているというスタンスを表明しつつ、
まったく望まずに生まれたと言ってはばからない5歳の息子に
叔父がアルコールを与えようとすると断固否定したり。
(自分は5歳くらいから喜んで飲んでいたし、
そういった環境で育ったことを誇らしく思うと言っているのに!)

私はこの本を読んで、貧乏で愉快だった「あの頃」への
ノスタルジックな愛しさだけでない、
過去への愛憎みたいなものが感じられました。
全肯定も全否定もできないジレンマというか。

味わい深い小説だと思います。

とはいえ、前半の飲んだくれっぷりが強烈だけどね!
コメント
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