Sightsong

自縄自縛日記

沖至『夜の眼』

2019-10-12 11:34:20 | アヴァンギャルド・ジャズ

沖至『夜の眼』(off note、2015年)を聴く。

Itaru Oki 沖至 (tp, 横笛, 縦笛)
Naohiro Kawashita 川下直広 (ts, vln)
Miki Tsukamoto 塚本美樹 (p)
Takayuki Hatae 波多江崇行 (g)
Kiyoshi Mamura 間村清 (b)
Keiichiro Uemura 上村計一郎 (ds)

まずは川下直広のテナーが悶える。川下さんリーダーのワンホーンでの演奏とはまた違ったように悶える。とは言え聴くたびに予想を超えてくる濃淡の大きさ、呼吸そのものを音楽にした感覚、ああこれだこれだと納得する。

沖さんの過去の作品は割と聴いているはずだが、それらの華やかさから一度も二度も爛熟し、腐敗し、またさまざまな色の花を咲かせたように聴こえる。強烈な香りも周りの草や泥や落ちて腐っている花の匂いも漂ってくる音。3曲目「My One and Only Love」が終わり、そのまま「Darn That Dream」に入っていったあとのトランペットなんて沁みる(それに限らず)。

「My One and Only Love」や「Soul Eyes」での波多江さんのソロは小さな空間のむんとした空気に音が混ざっていくようであり、とても良い。「The Girl from Ipanema」で皆と絡み溶けていくギターにも惹かれる。「Misty」での川下さんの濁りを受けての濁ったギターも良い(そしてピアノが入ると見事にギターの音を変える)。

「Ipanema」は、川下さんは『いぱねま』(2000年)でも演奏しており、それが不破さんらとのトリオであるためかテナーをより狂わせてゆくのに対し、本盤では共演者とともにじわじわと味を積み重ねていく。どちらも好きである。それにしても両盤とも福岡のニューコンボでの録音なのか。行ってみたい場所だ。

2枚目の「I Remember Clifford」ではピアノのコードを開いて受け止め、やはり有機生物の艶をもつトランペット。アンコールに応えての「Lush Life」ではトランペットが震えながらはじまるが、それはさらに深く震え続けて静かに驚かされる。静かに受け止める波多江さんのギターの歪みや和音、静かに音を重ねていくピアノがその場の空気を伝えてくれるようである。

 

Naohiro Kawashita 川下直広 (ts)
Kazuhiko Okumura 奥村和彦 (p)
Daisuke Fuwa 不破大輔 (b)

●沖至
詩×音楽(JAZZ ART せんがわ2018)(JazzTokyo)(2018年)
沖至+井野信義+崔善培『KAMI FUSEN』(1996年)

●川下直広
波多江崇行+川下直広+小山彰太(Parhelic Circles)@阿佐ヶ谷Yellow Vision(2018年)
原田依幸+川下直広『東京挽歌』(2017年)
川下直広カルテット@なってるハウス(2017年)
波多江崇行+川下直広+小山彰太『Parhelic Circles』(2017年)
川下直広@ナベサン(2016年)
川下直広カルテット@なってるハウス(2016年)
渡辺勝+川下直広@なってるハウス(2015年)
川下直広『Only You』(2006年)
川下直広『漂浪者の肖像』(2005年)
川下直広+山崎弘一『I Guess Everything Reminds You of Something』(1997年)
『RAdIO』(1996, 99年)
『RAdIO』カセットテープ版(1994年)
のなか悟空&元祖・人間国宝オールスターズ『伝説の「アフリカ探検前夜」/ピットインライブ生録画』(1988年) 

●波多江崇行
波多江崇行+加藤一平@なってるハウス(2018年)
波多江崇行+川下直広+小山彰太(Parhelic Circles)@阿佐ヶ谷Yellow Vision(2018年)
波多江崇行+川下直広+小山彰太『Parhelic Circles』
(2017年)


李世揚+瀬尾高志+かみむら泰一+田嶋真佐雄@下北沢Apollo

2019-10-12 08:59:54 | アヴァンギャルド・ジャズ

下北沢のApollo(2019/10/11)。

Shih-Yang Lee 李世揚 (p, melodica)
Takashi Seo 瀬尾高志 (b)
Taiichi Kamimura かみむら泰一 (ts, ss)
Masao Tajima 田嶋真佐雄 (b)

美浦さんは台風で誰も来ないかと思ったよと言ったが、いやいや、何人も集まった。シーヤンさんは8月からふた月ほどの間滞日していて、これが最後のギグである。訊いたら25個くらいこなしたらしい。本来最後だったはずの翌日の原田依幸さんとの手合わせは、台風でキャンセルになった(ピアノが2台ある公園通りクラシックスも検討したが、なってるハウスの1台でソロを交代する案になったらしい。観たかったな)。

この日も早めに終えるため、ノンストップで7つの組み合わせ。とはいえ結果的にそんなに早くは終わらなかった。

1. シーヤン+かみむら。いきなり手を伸ばして内部奏法、かみむらさんのテナーは大気とこすれ、また、音の踏み込みだけでなく身体を大きく前後に動かしてフィジカルに踏み込んでくる。シーヤンさんは鍵盤の音を散らし、また内部の弦をしならせた。

2. 田嶋+瀬尾。ふたりとも弓の先で腫れ物に触るかのようにコントラバスの声を引き出してゆく。いきそうでいかないエロチシズム、それはやがて大きく発展した。田嶋さんは端っこの弦をあり得ないくらい緩めていた。瀬尾さんは痛いほどのアタックをみせる。再びマージナルなサウンドに戻ったが、コントラバスとの付き合い方は最初とは違っていた。

3. シーヤン+田嶋。シーヤンさんは壁に飾られた弦楽器を弄び、ピアノに戻ると美しい旋律を奏でた。これに田嶋さんは呼応し、弦のノイズとともに、口笛と、驚いたことに喉歌を混ぜた。裏声で歌うが如き弦の音もある。細やかに円環するコントラバス、繰り返しては戻り発展させ分厚く円環するピアノ。ふたりの円環のコントラストが見事。

4. かみむら+瀬尾。ソプラノのマウスピースに直接口を振れず、息の風によって音を出し始める。それはシームレスに管の共鳴につながり、コントラバスのアルコとじつに艶めかしく絡んだ。ソプラノの音の幅広さがとても印象深い。最後に朝顔の詰め物が落ちて終わった。

5. シーヤン+瀬尾。足元の弦、上の弦、鍵盤と息もつかせぬほど多方面から攻めるシーヤンさんに対し、瀬尾さんも棒も使い柔軟に応じた。速度がこのデュオのテーマになった。

6. かみむら+田嶋。濃霧の中から聴こえてくるようなコントラバス、かみむらさんはキーを動かしてパーカッシヴに踊る。サックスには貝を入れ、濁ったブルースを吹く。田嶋さんの倍音も素晴らしく、その倍音はさらなる複層的な倍音へと発展した。かみむらさんは椅子を脚で動かしてガタガタと騒がせ(椅子が自らそうしているように)、田嶋さんもまた騒乱に一枚噛んだ。

7. 全員。瀬尾さんは底流、田嶋さんも他のふたりも別々の海流を創出する。彼岸に向かってのソプラノ、鍵盤ハーモニカ、ピチカート、アルコ。違う色が混じっての大きく太い濁流。瀬尾さんが演奏前に、齋藤徹さんとの縁で集まったようなものだと言った。ああ気がつかなかったと聴いていると、テツさんへの追悼に思えた。シーヤンさんは足で遠雷の音を発した。

Fuji X-E2、XF35mmF1.4、XF60mmF2.4

●李世揚
李世揚+瀬尾高志+細井徳太郎+レオナ@神保町試聴室(2019年)
謝明諺『上善若水 As Good As Water』(JazzTokyo)(2017年)

●かみむら泰一
かみむら泰一+永武幹子「亡き齋藤徹さんと共に」@本八幡cooljojo(2019年)
クリス・ヴィーゼンダンガー+かみむら泰一+落合康介+則武諒@中野Sweet Rain(2019年)
徹さんとすごす会 -齋藤徹のメメント・モリ-(2019年)
かみむら泰一+齋藤徹@喫茶茶会記(2018年)
かみむら泰一+齋藤徹@本八幡cooljojo(2018年)
かみむら泰一+齋藤徹@本八幡cooljojo(2018年)
かみむら泰一session@喫茶茶会記(2017年)
齋藤徹 plays JAZZ@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
かみむら泰一+齋藤徹@キッド・アイラック・アート・ホール(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
かみむら泰一『A Girl From Mexico』(2004年)
 

●田嶋真佐雄
徹さんとすごす会 -齋藤徹のメメント・モリ-(2019年)