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夫婦、兄弟、男と女の深い情と絆を描いた、世話物集。
帰り花
冬隣
風鈴の鳴りやむ時
草青む
いつのまにか
楓日記-窪田城異聞
あんちゃん 計7編の短編集
帰り花
亭主に先立たれ、幼い娘を抱えて暮らすおりょうは、寺子屋の師匠だった上宮荘七郎への思いを蘇らせ、いても立っても居られずに、荘七郎の元へと足を向ける。
女心を切に説いているが、妻よりも母よりも女を選んだ主人公には、同調し兼ねるのだが…。
主要登場人物
おりょう...縫子
上宮荘七郎...佐久間町手跡指南の師匠
おさよ...おりょうの娘
冬隣
14年仲睦まじい夫婦であった忠右衛門とお考。だが、忠右衛門が矢場の女を囲った事で、離縁を口にし、夫の世話から手を引いた、夫婦とは名ばかりの生活が始まる。
激昴が去り、気持ちの中では互いに思いやるが、それを口に出せない大人のプライドが、二人の溝を深める様が切ない。
主要登場人物
日高屋忠右衛門...日本橋通り一丁目紙問屋
お考...忠右衛門の妻
おもん...矢場女
風鈴の鳴りやむ時
国松と所帯を持つのを楽しみにしていたおしんだったが、次第に金子の無心をされるようになり、国松の態度にも変化が現れる。
端から物語なのだが、おしんが岡場所に売られる経緯が、「それはないでしょう」といった作りすぎ感が否めず残念だが、その経緯を差し引けば、切ない女心を奇麗な情景描写に謎った作品である。
主要登場人物
勝之助...旗本の小野寺兵庫の次男
おしん...深川あひるの遊女
国松...大工
草青む
先代に見込まれ、柏店に婿養子に入った吉兵衛だったが、夫婦仲は当時から冷め切っていた。隠居の年になり、残る日々を妾のおつやと過ごしたいと願いも、娘婿の不甲斐なさから侭ならない。
吉兵衛とおつやのたおやかな日常が描かれた、ほっとする一作。締め括りのラストシーンは、やはりこうなるかと先読みが当たりながらも、目頭が熱くなった。
主要登場人物
柏屋吉兵衛...大伝馬町味噌問屋の主
おつや...吉兵衛の妾
幸次郎(佑三郎)...柏屋の手代→小舟町菅笠問屋花垣の番頭
いつのまにか
定職に就かない文次郎が、世話になっているお粂の家を飛び出し、お俊を頼って来た事から、亭主の伊三吉との間にすきま風が吹き始めるのだった。
亭主と弟の間で情に揺れながらも、今の生活を壊したくないお俊。主人公は人一倍優しく、情に厚い人柄だからこそ、最期の最期まで冷酷にはなれず苦しむ様が描かれている。
ただ、怖いのは、こういった人はほどほどの妥協が出来ずに、得てして極端な結果を出すものだ。その辺りも、これまた旨く現している。
主要登場人物
伊三吉...表具師
お俊...伊三吉の女房
文次郎...お俊の弟、遊び人
お粂...お俊の姉、畳職人亮吉の女房
楓日記-窪田城異聞
楓女なる者が綴った日記が、蔵から見付かり、その裏付けをルポライターが調べて行くといった、異色の一編。
やはり史実の割かれた頁は、状況描写が描かれておらず、淡々と登場人物や史実の紹介になってしまうので、北原ファンとしては、読み難かったが、楓女の成した日記を、楓女の視線で描く事で読み手の混乱を払拭している。
ただし、史実を元に書いておられるのだが、武家社会の嫌な話である。
主要登場人物
中里美穂...随筆家
小坂剛...美穂の従兄弟
楓...高倉与次郎の妻、後に小坂家に嫁す
高倉与次郎...久保田藩佐竹家家臣
渋江内膳政光...久保田藩佐竹家家臣、後に家老
あんちゃん
水呑百姓の末っ子捨松は、江戸で一旗揚げると、故郷を出奔し、苦難の末店の主に収まる事が出来た。漸く最も敬愛する次兄の友二の訪いに、感極まる捨松だったが…。
「決してそんなつもりではない」という、人とのすれ違いである。それを成功した弟捨松と、小作の兄友二の間で描いている。
そして移ろい易い江戸での暮らし。成功と失敗は背中合わせ。よくよく考えると怖い内容(ホラーではない)であるが、「渡る世間は鬼ばかりではない」と最後にはほっとひと息付かせていくれる。
主要登場人物
捨松(千寿屋与兵衛)...浅草東仲町炭屋の主
友二...捨松の次兄、下野の百姓
徳右衛門...千寿屋の番頭
清二郎...千寿屋の手代
伊之助...佐久間町の金貸
季節の表現が素晴らしい。例えば、蜘蛛の糸のように粘つく雨など、随所に北原さんの感性が光っている。
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