うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

にわか大根~猿若町捕物帳~

2012年10月09日 | ほか作家、アンソロジーなど
近藤史恵

 2008年3月発行

 「巴之丞鹿の子」、「ほおずき地獄」に続く「猿若町捕物帳」シリーズ第3弾。堅物の同心・玉島千蔭が事件の真相に迫る。

吉原雀
にわか大根
片蔭 計3編の短編集

吉原雀
 吉原で人気の遊女が立て続けに死亡。死因はそれぞれだが、この偶然性に玉島千蔭が動く。すると遊女のひとりは雀を飼い。ひとりは雀柄を身に付けていたと言う。
 んんん…。どうして吉原の遊女が「ありんす」や「ざます」といった廓言葉を使わないのか、気になって気になって(「片蔭」の章で、梅が枝は廓言葉も京言葉も使わないと記してあったが…ほかの遊女も使っていない)。
 また、結末は…んんん。

にわか大根
 上方巡業から江戸に戻った、市村座の人気女形・村山達之助を観に、千蔭一家は繰り出すが、それが噂と違いとんだ大根役者。数日後、その達之助の幼い息子が不審な死を遂げる。
 推理の筋立ては面白い。

片蔭
 天水桶の中から死体が発見された。折しも、巴之丞から谷与四郎という男の探索を頼まれてた千蔭は、嫌な予感を覚えるが、死体はその与四郎の船芝居の相方・片岡円蔵だった。誰からも好感を持たれる善良な円蔵を殺めたのは…。
 これは痛みを感じる話であった。「持てないものまで抱え込む。…結局最期には持てなくて、全部落として壊してしまう」。切ないが胸に詰まる言葉である。
 おふくと義母の件は、ありきたり感が否めず。だって、好いてもいない男と噂され、それが嫌で逃げ出すなら、その男とは一緒に行かないでしょう。普通。そして結末も、どこかで読んだような…残念。このエピソードもないほうがすっきりしたのではないだろうか。

 主人公は玉島千蔭だが、物語は、八十吉の視線から描かれている。
 サイドに、おふくが義母から虐められ、居場所を失ってい、千蔭の嫁になって、仲良しのお駒の傍に居たいといった話が。また、千蔭を慕う梅が枝との奇妙な縁が描かれている。
 シリーズを最初から読んでいないので不明だが、梅が枝と巴之丞の関係も霞が掛かったままで、明確さが欲しいが…第4弾では明かされているのだろうか。
 この作者、時代考証にかなり精通している面と、わざとなのか、首を傾げる表現とが交錯しているように感じた。
 本作品を読む限りでは、特に玉島千蔭が男前である必然性も感じず、梅が枝の存在をこれ程大きく扱う必要もないと思われるのだが、八十吉の心情が如何にも人間臭く、面白い。話も分かり易く読み易い作品。
 同シリーズを、どうしても手に入れたいとは思わないが、目の前にあったら手に取る事は間違いない。

主要登場人物
 玉島千蔭...南町奉行所定町廻り同心
 千次郎...千蔭の父親、元南町奉行所定町廻り同心、隠居
 お駒...千次郎の後妻、千蔭の義母
 八十吉...千蔭の小者
 お梶...玉島家の下女
 梅が枝...吉原京町置屋青柳屋の花魁
 水木巴之丞...猿若町中村座の女形
 桜田利吉...中村座の戯作者
 歌川国克...相生町の絵師
 惣太...吾妻橋の目明かし(※時代から、岡っ引きと思われるが、作者が目明かしと記しているため)
 おふく...日本橋木綿問屋平野屋の娘、お駒の従姉妹




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