「スーパーあつし君」の詰将棋と終盤 宮田敦史vs北島忠雄 2006年 第64期C級1組順位戦 その2

2021年04月19日 | 将棋・名局

 前回(→こちら)の続き。

 2006年の、第64期C級1組順位戦

 北島忠雄六段宮田敦史五段の一戦は、終盤の千日手模様を宮田が鋭手で打開し、超難解なバトルが続いている。

 

 

 

 

 ▲89桂なら千日手だが、ここで▲73金が控室の検討陣も悲鳴をあげた、すごい手で、△同玉、▲85桂打△同飛▲同歩

 前回書いたように、ここで△77桂成▲同飛に、△同角成は、最後に手順に開けておいた▲86の地点に逃げこんで詰まない。

 北島は△77桂成、▲同飛に、△67金打とへばりついていく。

 ここで▲65桂などと反撃したいが、後手玉は上部が厚く、なかなか詰ますのは大変。

 そこで、一回▲69桂と受ける。

 

 

 これがまた、あぶないようながら最善の受けで、先手玉に詰みはない。

 今度、後手玉は上部に逃げ出したとき、桂馬△57の地点を押さえられているため、ここでゆるむと一気に寄せられてしまうかもしれない。

 つまり、▲69桂はただ受けただけのように見えて、なんと攻防の一手だったのだ!

 かといって、△77金飛車を取っても、▲同桂がやはり、を渡しながら△65の地点を押さえられることになり、自分の首を絞めるだけ。

 △58飛のような王手には、▲78銀打と合駒するくらいで、なんでもない。

 必死の北島は△78金打と、こちらから強引に王手する。

 これがまた、メチャクチャに危険ラッシュで、▲同銀は、△同金、▲同玉、△77角成

 そこで▲同玉△67飛▲86玉で、▲69がいるから、△77銀が打てず不詰。

 

 △77同角成に▲同桂も、△86桂と打って、▲69玉と▲87玉は詰むから、▲88玉とよろける。

 △78飛には、▲87玉、△98銀、▲同香、△95桂、▲同歩、△98飛成、▲86玉、△95竜、▲87玉、△86香、▲78玉、△98竜▲69玉で、ギリギリ詰まない。

 

 

 とはいえ、とんでもなく怖い形で、なにか読み抜けがあったらお陀仏だ。

 そこで宮田は▲97玉とかわす。

 これなら、△88の地点にを打たせなければ絶対に詰まない

 

 「ななめゼット」

 

 という形で、「銀冠の小部屋」が最大限に働いた形だ。

 今度こそ決まったようだが、北島は△77角成と取る。

 ここを金で取らなかったのは、を除去して△55の地点を空け、あわよくばそこから、ヌルヌルと逃げだそうというわけだ。

 ▲同桂に、△同金引

 

 

 

 

 秒読みでこんなことをされては、またもあわてまくるところで、事実、ここで上手の手から水が漏れたようなのだ。

 本譜は△同金引に、▲86角と打つ。

 

 

 

 これがまた、いかにも妙手っぽい手で、△87金、▲同玉、△78銀、▲98玉に△86桂と打つ筋を消しながら、△64の逃げ道を封鎖する、見事な、

 

 「詰めろのがれの詰めろ」

 

 になっているのだ。

 この超難解な終盤でに追われながら、よくもまあ、こんな美技を次々と繰り出せるものだが、実はこれが宮田のミスだったようだから、わからないもの。

 ここでは▲83飛と打って、△同玉は▲84銀から。

 △64玉には、▲82角からピッタリ詰んでいたのだ

 さほどむずかしい手順でもなく、落ち着いて考えれば、アマ初段クラスでも見つけられそう。

 激ムズなやりとりが長く続いたせいか、このシンプルな詰み筋が、意外な盲点になったか。

 一方の北島のしぶとさも、さるもので、必殺の角打ちに△87金と取って、▲同玉に、△77飛とせまる。

 ▲同角と手順に詰めろをほどいて、△同金

 そこで▲同玉△66角で詰みだから、▲86玉と、やはりこの生命線となったスペースに逃げこむ。 

 

 

 

 さあ、ここである。

 首の皮一枚で助かった北島だが、ここでどう指すか、また難解すぎる局面。

 攻めるなら一目は△66金だが、▲82角と打って、△同玉に▲83飛から物量にモノを言わせて詰まされる。

 また、△64角の攻防手も、▲75桂とか、いろいろ切り返しがありそうとか、もうわけがわからない。

 北島は一縷の望みをたくして、△64玉から大脱走を試みるが、すかさず▲82角の王手。

 これには△73桂とでも合駒すれば、まだ激戦は続いていたが(もう勘弁してぇ!)、北島はここで力尽き、△65玉と逃げてしまう。

 

 

 

 ここで宮田の目が、キラリと光った。

 そう、今度こそ、後手玉の詰みが見えたのだ。

 まず、▲75金から入る。

 △同歩と取るが、そこで▲74銀が、詰将棋の名手らしい、カッコイイ手。

 

 

 

 △同銀▲64飛から。

 △同玉▲73飛から簡単だから、△66玉しかないが、▲65飛と打って、△57玉に▲59飛で詰み。

 

 


 最後は飛車の形がきれいで、カオスな終盤戦の締めくくりがこうなるのが、また将棋の不思議なところ。

 以下、△58金とでもするが、▲49桂、△48玉に、▲37角成がピッタリ。

 

 

 

 これまた、馬の利きで▲59飛車取れない形が、詰将棋っぽくて美しい。

 ここがおもしろいところで、さっきの簡単な詰みは逃しながら、この妙手が必要となる長手数の問題は、あざやかに解き切ってしまう。

 変な言い方だが、その矛盾が一回転して、逆にすごみを感じさせる。

 水面下で、信じられないくらい深く読んでるからこその、ウッカリなのだろうから。

 この終盤の戦いぶりは、▲73金から、その読みと踏みこみの良さにおいて、

 「宮田敦史おそるべし

 との評価を、確固たるものにした。

 これほどの男が、いまだタイトル戦にも出られず、Cクラスにいるのは、体調をくずしてしまった時期があったから。

 あの羽生善治九段も、インタビューで、

 

 「体が万全の状態なら、もっと上に行ける棋士のはず」

 

 といった内容のことをおっしゃって、太鼓判を押したほどなのだ。

 この超絶技巧。久しぶりに、思い出させていただきました。

 「スーパーあつし君」。まだまだ健在やないですか。

 

 (羽生が王将戦で見せた大ポカ編に続く→こちら

 

  


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