前回(→こちら)の続き。
1995年、第8期竜王戦の挑戦者決定戦3番勝負、第2局。
佐藤康光前竜王と先崎学六段の対決は熱戦になり、むかえたこの局面。
竜が強力で、上部も開けて先手が優勢に見えるが、ここから「勝ち切る」となると、これがなかなか……。
△36桂と、こんなところから吹き矢が飛んできた。
▲同歩には△37銀として、▲同玉なら△28角から、▲55にいる竜を抜いてしまう。
そうなっては中央の制空権を奪われ、攻守所を変えてしまうから、先崎は▲47玉と上がるが、佐藤はかまわず△48金と追撃。
▲56玉に△54歩と打って、先手玉はにわかに危ない。
先崎は▲26香を一本利かして、△23歩に▲43歩成と踏みこむ。
△55歩と竜を取られるも、▲同玉で耐えていると。
先手玉は裸にむかれているが、▲43のと金も強力で、左辺に大宇宙も広がっており詰みはなさそう。
一方、後手玉には受けがないから、ようやっと先手勝ちかと思いきや、勝負はまだ終わらない。
△65金と、ここから迫る筋があった。
▲同玉には△87角と、背後からの一撃。
▲74玉に、△43角成と要のと金をはずされ、これは先手が勝てない。
先崎は▲44玉と逃げるが、佐藤は△62角とさらに王手。
単騎の角打ちだが、これがまた、おそろしいねらいを秘めた一着。
▲53金と合駒するのは、△54飛、▲同玉、△64飛までピッタリ詰み。
▲同玉の一手に、△64飛まで
▲53銀でも、△55銀、▲34玉、△35飛以下、これまたきれいに詰んでしまうのだ!
△35飛、▲同玉に△53角と取って、▲同と、に△46銀打、▲34玉、△44飛と追えばピッタリ。
ここまでがんばって、最後の最後にこんなトン死を喰らったら、泡を吹いて倒れるしかないが、先崎は冷静に▲53桂成。
▲45に逃げるスペースを作って、これで先手玉に詰みはない。
ちなみに、ここでは▲53角と打つのも、△55銀、▲34玉、△35飛に▲同角成と取る手を作って不詰だが、どちらもギリギリだ。
ともかくも、これでようやく先手の勝ちがハッキリした。
といっても、将棋はまだ終わったわけではなく、△64飛と王手して、▲54歩の合駒に△53角と取り、▲同玉に△93飛。
佐藤康光の執念もすさまじく、これでまだ実戦的には相当危ない形。
▲52玉に△61銀、▲51玉。
必死の逃亡劇で、ついに敵の本丸にトライ成功。
ようやっと、ここで佐藤の弾が尽きた。
△43飛と、と金を払ったところに▲53角が落ち着いた手で、ここで後手投了。
▲31角打からの詰めろになって、受けても一手一手の寄り。
切り札である、△49金と質駒を取る手などが回ってこないうえ、△62銀のような手も防いで、△53同飛には▲同歩成で今度こそ盤石。
……というのは後で解説されればわかることだが、われわれのようなアマチュアレベルでは目がチカチカして、こんな手はとても指せそうにない。
そもそもその前の、△36桂、△65金、△62角といった追いこみにも、まず正解手など指せるはずもないわけで、どこかでつかまって尻子玉を抜かれることだろう。
この将棋は先崎の強さが際立っていたから、懸命のラッシュにもすべて正確に対応できたけど、私レベルだと、強い人がくり出してくる、こういう手の数々にはめまいがしまくります。
これがホント、ヒーヒーいうわけですが、それが楽しすぎるのがまた困りもの。
将棋の終盤というのは観るのも指すのも、ほとんど麻薬だよなあと、しみじみ思うわけですね。
(大山康晴の引退をかけた血戦編に続く→こちら)