ジュディ・ガーランドの伝記映画『ジュディ 虹の彼方に』を楽しみにしている。
『オズの魔法使』で歌われた「Over The Rainbow」(→こちら)を代表曲とする、ハリウッドで一時代を築いた女優であり歌手。ライザ・ミネリのお母さんとしても有名。
それを、『シカゴ』ですばらしく困った女であるロキシー・ハートを演じたレネー・ゼルウィガーで映画化となれば、これが期待するなという方が無理である。
ジュディ・ガーランドを知ったのは、まだ浪人生だったころ。
そのころから本格的に映画へとのめりこんでいた私は、ヒマがあればというか、予備校に行ってなかったのでヒマだらけだったのだが、せっせと近所のレンタルビデオ屋に通って様々な作品を浴びるように鑑賞していた。
当時から私も好みがかたよっていたというか、どちらかといえば最新ヒット作よりも古い作品の方が好みであって、周囲が『スピード』や『ダイ・ハード』シリーズを楽しむ中、ヒッチコックやビリー・ワイルダーを堪能し、
「おお! 梅田のACTシネマヴェリテではエルンスト・ルビッチ特集がやってるやん!」
「よっしゃ! プレストン・スタージェスの『レディ・イヴ』と『パームビーチ・ストーリー』のVHS(!)見つけた!」
なんて一喜一憂していたのだから、なんとも独自がすぎる映画ライフであった。
そういった渋好みのラインアップにもうひとつ、「古いミュージカル映画」というのもあった。
ミュージカルというと日本では宝塚か劇団四季の『ライオンキング』『オペラ座の怪人』あたりが思い浮かぶかもしれないが、私が好んだのはコニー・ウィリスの『リメイク』に出てくるような、もっと能天気な方。
「アステア&ロジャース」のシリーズとか『雨に唄えば』に代表されるMGMのとか、いかにもアメリカ的楽天性があらわれている作品だ。
そのひとつである『イースター・パレード』が、ジュディとのファーストコンタクト。
映画の内容としては、まあたわいないっちゃあたわいないんだが(MGMのミュージカルにそれを求めてはいけません)、そこで初めて見たジュディ・ガーランドの歌声に、すっかり魅了されてしまったのである。
彼女の声は一言でいえば伸びる、張りがある、一本芯の通った太さがあり、それでいて耳に心地よい。
私はいわゆる「歌のうまい」歌手には興味がないのだが、この人だけは別格だったなあ。ハマっちゃったよ。
「Over The Rainbow」のような静かな曲もいいんだけど、やはり彼女の伸びやかな声は明るい曲調やコメディーソングこそある気がする。「スワニー」(→こちら)とか「サンフランシスコ」(→こちら)とか。
『イースター・パレード』でも、フレッド・アステアとボードビルの劇場に出ているシーンがいい(→これとか→これとか)。喜劇もできる女優って、ただの美人より何倍も魅力的に見えるものなのだ。
これですっかりジュディにまいってしまった私は、彼女の他の作品を次々と観た……かったのだが、これがなかなか見つからずに苦労した。
もともと、日本で有名になってる作品にあまり出ていないため、そもそもソフトが少ないのだ。『オズの魔法使』『若草の頃』くらい。
晩年の傑作『スタア誕生』はちょっと重いし、『ニュルンベルク裁判』に関しては歌もダンスもないし。
そんな渇望感を満たしてくれたのが、『ザッツ・エンタテインメント』シリーズだった。
伝説ともいえるディアナ・ダービンに競り勝ったオーディション映画の模様や(→こちら)、「雨に唄えば」(→こちら)「アイ・ガット・リズム」(→こちら)など当時の名曲に「バックヤード(裏庭)・ミュージカル」シリーズの名シーンなど、お腹いっぱい堪能できます。
そんな才能あふれまくりの彼女だが、私生活の方は残念ながら幸福とは言えず、体形維持のために飲まされていた覚醒剤(!)をはじめ、仕事のストレスなどもあって薬とアルコールにおぼれていく。
精神的にも不安定になり、遅刻や無断欠勤が重なりスタッフにもうとまれ始める。
ついには『アニーよ銃をとれ』の主役を降ろされ解雇の憂き目にあい、夫だったヴィンセント・ミネリともうまくいかず離婚と、すべてを失うハメに。
このあたりのことは、ラジオ「たまむすび」での町山智浩さんの解説にくわしいけど(→こちら)、とにもかくにも彼女はその実力はだれしも認めるところだったが、「ハリウッド・バビロン」の犠牲者でもあり、ついに幸せにはなれなかった。
ただそれでも、私は彼女の歌声を、演技とダンスも愛している。
輸入盤に入っていた「ザッツ・エンタテインメント」(→こちら)「アレキサンダーズ・ラグタイムバンド」(→こちら)はもう英語版で歌えるほど聴いたもの。
虎は死して皮を残すが、エンターテイナーはたとえ不幸でボロボロになっても、すばらしい歌や感動や笑いを残す。
その壮絶な人生を知ったあと、「Over The Rainbow」を聴き直すと、また別の味わいがあって胸にくる。「There's No Place Like Home」と唱えながら、最後まで「Home」に恵まれなかった。
そんな彼女を、レネー・ゼルウィガーは渾身の力で演じたという。歌も吹替えなしというのだから、すごいもの。
『ジュディ 虹の彼方に』。久しぶりに、映画館に行こうかと思わせてくれる作品であり、今回はまあ私のヨタ話なんかよりも、ジュディ・ガーランドの曲をたくさん紹介したいがために書いてみました。
にしても、音楽といえば周囲がGLAYだミスチルだスピッツだと言ってるときに、ひとりこういうのばっかり聴いてたんだから、われながら変な若者だったなあ。