モンテカルロ・マスターズ2018決勝 土の王者ラファエル・ナダルvs錦織圭の展望

2018年04月22日 | テニス
 「おい、このラファエル・ナダルとかいうヤツなんや! 独禁法違反で逮捕やろ!」

 昨日の夜中、そんな電話をかけてきたのは友人ヒシエ君であった。

 ラファエル・ナダル。いうまでもなく、テニスの世界ナンバーワンとして君臨し、もうすぐ開催されるフレンチ・オープンでも優勝候補の筆頭としてあげられる、スペインのスーパースターだ。

 それを「逮捕」などおだやかではない話だが、友の言いたいことというのはもちろんのこと、現在行われているテニスのモンテカルロ・マスターズの件だ。

 昨日の試合で、われらが錦織圭が、ドイツ若手のホープであるアレクサンダー・ズベレフをフルセットの末破って、見事決勝に進出したのだパチパチパチ。

 昨年から、ケガで長らく戦列を離れていた錦織選手だが、クレーシーズンに入って見事な復活を遂げた。

 ここ数年、安定したトップ10プレーヤーとして君臨した彼だが、いまだマスターズのタイトルがないというのが課題のひとつであり(準優勝が3回)、このたび2016年のカナダ以来、ひさしぶりにチャンスが巡ってきたのだ。

 と、そこは日本人ファンとしては気合が入ろうというものだが、ここにひとつ、その気持ちに水を、それもコップではなくナイアガラの瀑布レベルで大いにさしまくってくる男がいるのである。

 そう、反対の山から決勝にあがってきた、ラファエル・ナダルのことだ。

 まあ、テニスファンならクレーでのラファといえば、その恐ろしさは身にしみているが、ヒシエ君はそんなにテニスを見る人ではない。

 たまたまテレビをつけたら「錦織、決勝進出」とあって、

 「おお、日本人選手ががんばってるやないか。こら、明日の決勝も見ねばなるまい」

 となり、そこはテニスにくわしくない彼のこと。

 「で、この相手のナダルとかいうのはだれや。なんか強いって聞いたことくらいはあるけど、ま、天下の錦織圭なら勝てるやろうけどな」

 と、温泉気分でグーグル検索したら、世にも恐ろしいものが次々とはじき出され、あたかもジーパン刑事のごとく「なんじゃこりゃあ!」と、テニスファンの私に電話してきたわけだ。

 あー、ラファのすごさを知らずにあれを見たら、そら腰もぬかしますわな(笑)

 ラファといえば、生涯グランドスラム達成やオリンピックの金メダルなど、様々なサーフェスの大会で勝っているが、そのホームはやはりクレーコートにある。

 その勝ちっぷりはすさまじく、いまだに土のコートでの勝率は9割を超えている(!)というし、このクレーシーズンの歴代チャンピオンを見ても、それはハッキリと伝わってくる。

 たとえば、2005年から2012年までの、モンテカルロ・オープンの歴代優勝者を見てみよう。


 2005年 ラファエル・ナダル
 2006年 ラファエル・ナダル
 2007年 ラファエル・ナダル
 2008年 ラファエル・ナダル
 2009年 ラファエル・ナダル
 2010年 ラファエル・ナダル
 2011年 ラファエル・ナダル
 2012年 ラファエル・ナダル



 怒涛の8連覇。この間、無敵時代のロジャー・フェデラーが3度決勝で吹っ飛ばされている。

 このせいで、テニス界のすべての栄誉を手に入れていたはずのロジャーが、いまだモンテカルロのタイトルが取れていない。なんたる不条理。

 2013年以降、ラファはケガと不調に苦しんで、その間にノバク・ジョコビッチとスタン・ワウリンカが「ようやくかよ!」といった感じで優勝者に名を連ねるが、2016年と2017年はまたもラファが優勝。

 決勝の相手は、ガエル・モンフィスにアルベルト・ラモス=ビノラスと曲者ぞろいだったが、試合内容も盤石で、まったく危なげがなかった。

 クレーシーズンの大きな大会といえば、この次は錦織圭も優勝経験のあるバルセロナ・オープンだが、ここでの優勝者も、


 2005年 ラファエル・ナダル
 2006年 ラファエル・ナダル
 2007年 ラファエル・ナダル
 2008年 ラファエル・ナダル
 2009年 ラファエル・ナダル
 2010年 フェルナンド・ベルダスコ
 2011年 ラファエル・ナダル
 2012年 ラファエル・ナダル
 2013年 ラファエル・ナダル


 
 やはりズラリとラファが並んで、2014年と2015年は見事錦織圭が連覇したものの、次からの2年はまたもラファ。

 クレーのマスターズの締めくくりであるローマ国際ではといえば、


 2005年 ラファエル・ナダル
 2006年 ラファエル・ナダル
 2007年 ラファエル・ナダル
 2008年 ノバク・ジョコビッチ
 2009年 ラファエル・ナダル
 2010年 ラファエル・ナダル
 2011年 ラファエル・ナダル
 2012年 ラファエル・ナダル
 2013年 ラファエル・ナダル



 クレーシーズンの総本山ともいえるフレンチ・オープンはといえば、


 2005年 ラファエル・ナダル
 2006年 ラファエル・ナダル
 2007年 ラファエル・ナダル
 2008年 ラファエル・ナダル
 2009年 ロジャー・フェデラー
 2010年 ラファエル・ナダル
 2011年 ラファエル・ナダル
 2012年 ラファエル・ナダル
 2013年 ラファエル・ナダル
 2014年 ラファエル・ナダル

 

 ようやっと、2015と16はスタン・ワウリンカ、ノバク・ジョコビッチが勝ったと思ったら、昨年はまたラファが優勝。しかも、7試合すべてストレート勝ちの完全優勝。

 決勝で戦ったスタンは、まさに「手合い違い」といった差をつけられて負かされた。まさに「おととい来い」といったところであった。

 いかがであろうか。こんなもん見せられたら、クトゥルフ神話のごとく恐怖で発狂するか、銭形のとっつぁんの口調で、「ラファ~、独占禁止法違反で逮捕だぁ!」といいたくなりそうなものではないか。

 昔のソ連や中国なら、まちがいなく処刑か労働キャンプ送りであろう、この富の独り占め状態。それくらい圧倒的な偏り。

 勝ちすぎだよ。よく飽きないなあ。すごすぎて、思わず『あずまんが大王』のともちゃんの口調で、

 「え? これって、ギャグ?

 と、たずねてしまいそうではないか。

 よく、マンガなどで巨大組織をバックにした悪者が、

 「われわれにたてつくなど、アリが象に戦いをいどむようなものだ」

 なんて笑うシーンがあったりするけど、蟻ってことはないにしても、ことクレーでのラファエル・ナダルに関しては、「人が熊にいどむ」くらいの体格差はありそうだ。

 今年の大会でも、伸び盛りのドミニク・ティームが0-6・2-6の鼻息プーで吹き飛ばされたのだから、バケモンである。私だったら、試合なんてしたくないよ。

 でも、上を目指すには、そういう相手に勝たなければならない。それも「いい場所で」だ。

 その意味では、苦しいとはいえ、やはり大きなチャンスであることは間違いない。「勝て」というには大きすぎる相手であるが、ここでどんなテニスを見せられるか、錦織圭の真価が試されるとも言えそうだ。

 恐怖に震えるヒシエ君同様、私も今から決勝戦が楽しみなような、コワイような……。



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