疲れたときには奥崎謙三を見なさい。
というのが、落ちこんでいる人と接したときの、私のアドバイスである。
人は時に人生に疲れてしまうことがある。そういうときは酒をあおったり、やけ食いをしたり、カラオケで歌いまくったりと、その心身のリフレッシュ方法は様ざまだが、私がオススメするのがコレ。
とりあえず、「奥崎謙三の政見放送」を見てみたらよい。
政見放送とはみなさまもご存じであろう、選挙に立候補した候補者の主張や公約などを、国営放送を通じて日本中に伝えることができるという制度のこと。
基本的にはNHKから全国に、出された素材そのまま放送しなければいけないと公職選挙法に定められているため、時に無法地帯になりがちなイベントだ。
そこに登場したのが、歌だけ歌って「シェケナベイベー」とオンエア中なのに途中で帰ってしまった内田裕也さん、
「体にいいんです。国民の皆さん、オシッコを飲みましょう」
と尿療法のすばらしさをうったえた東郷健さんと並ぶ
「日本3大おもしろ政見放送」
といわれる我らが奥崎謙三さんの政見放送。これが実にキクのである。
放送が始まる。
まずNHKのナレーターが、読み上げる
「奥崎謙三。兵庫県第3区。無所属。暴行、傷害、獄中生活13年、前科3犯」
いきなり犯罪者だ。
このプロフィールを機械的に淡々と読み上げるあたり、NHKもさすが国営放送、無駄に律儀だ。
画面に奥崎氏が映る。その第一声が、
「どうも、落選確実の奥崎です」
以下、奥崎氏の主張が繰り広げられるわけだが、よく聴いてみると氏がいいたいのは。
「この日本を悪くしているのは、政治家と警察です」
極論だが、まあいいたいこともわからないでもない。
「そこで私が当選したあかつきには、政治家と警察を日本からなくします」
すごいマニフェストだ。なにかこう、紛々と「昭和のニオイ」がする展開である。
奥崎氏はさらに続ける。
「だが、無知蒙昧な大衆はそれを理解できないため、あえて私が借金をして立候補したのです」
なぜ氏が借金をしてまで立候補したのかといえば、
「無知蒙昧な大衆は、選挙の度に政治家に投票をしているが、それは大衆が政治家が日本を悪くしているということを理解していない重度のキチガイであり」
天下のNHKで堂々の放送禁止用語。
「しかし、私は生まれてから一度も選挙で投票したことがない、軽度のキチガイであるため、この度立候補したわけです」
奥崎氏の暴走は止まりません。ここまで上記の主張を、原稿めくりめくり繰り返していただけだったのが、突然、
「先日、天皇と田中角栄を殺しに行ってきました」
過去完了形だ。
「当選したら殺しに行きます」ではなく、「行ってきました」。
不言実行の男である。なんてカッコイイ。事後報告。それでいいのか。
「しかし、無念にも公安当局の手によって捕らわれてしまい」
当たり前である。
「その結果、獄中生活13年を強いられたのです」
奥崎氏はその後も、政治家、警察が日本を悪くしていると主張し続け、最後に、
「というわけで、兵庫県に住む軽度のキチガイの皆さん、ぜひともわたしに投票してください」
と話を締めくくり放送は終了。
トンデモな内容なのに、「落選確実」やら、「軽度」とはいえ自らの事も「キチガイ」という辺り妙なところで客観的なのがいい味わいだ。
わずか5分程度の映像だが、これを見ると、そのあまりの迫力と奥崎さんのそこはかとない人間力に圧倒される。
同時に、それに当てられて、なんだか日常の些末なことでウジウジ悩んでいる自分がアホらしく思えてくる。なんかもう、笑うしかないという感じだし。
なので私は、悩みがあったりちょっと疲れている人には、奥崎さんの政見放送を見ることを、わりとまじめに勧めている。
山際淳司さんは
「かすり傷にはマーキュロクロム、心の傷にはホームランがよく効く」
そう書いたが、疲れた心には軽度のキチガイの政見放送がよく効く。
だまされたと思って、ぜひ一度おためしあれ。
※そんな奥崎さんの勇姿はこちら(→こちら)
※奥崎さん主演のドキュメンタリー映画『ゆきゆきて神軍』についてはこちらを参照してください(→こちら)