飛び出せ! 北の宇宙基地

北の地である北海道で、人工衛星の開発などを行っている 北海道工業大学 佐鳥研究室の活動日記です。

読書メモ(レーザー冷却とボーズ凝縮)と昔話

2007-02-11 19:33:51 | 佐鳥新の教授&社長日記
私がレーザー冷却と出会ったのは1989年の修士論文を書いている時期だった。その頃、指導教官の栗木恭一先生が「佐鳥君、博士課程で反物質推進の研究をやってみないか」と言われ、その時に渡された論文の束がW.D.Philips、S.Chu、C.Cohen-Tannoudjiらのレーザー冷却に関する最新の論文とR.L.Forwardらの反物質推進の論文であった。

歴史的背景としてアメリカ空軍による原子力推進の研究が1960年代後半で終了し、その次の推進原理として反物質推進とその貯蔵法が検討され始めた時期でもあった。反物質、正確には反水素を非接触で移送および貯蔵する手法としてレーザー冷却を使ってはどうかというのが栗木先生の提案であった。もちろん反水素は簡単には入手できないので、別の原子に置き換えたシミュレーション実験にはなるのだが。

面白そうなので私はすぐに飛びついたのだが、実際にやってみると、装置作りとレーザー(自作)への要求精度が非常に高く、かなり苦戦したのを思い出す。原理こそ単純だが、それを実現する為の装置作りに高い能力を要求され、学生時代の私は鍛えられ、この経験が現在の北海道衛星プロジェクトの基礎になっていると思う。

当時のW.D.Philips、S.Chu、C.Cohen-Tannoudjiの3氏は1997年にレーザー冷却を開発した功績によりノーベル賞を受賞した。今になって思うと、学生だった当事の私にはレーザー冷却がこれほど世界最先端の研究だったことを認識できなかったのだが、恩師のお蔭で貴重な経験をさせて頂けたことに感謝している。



図1 学生時代のレーザー冷却装置の構成



図2 学生時代に作ったレーザー冷却実験装置(写真)


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書 名:レーザー冷却とボーズ凝縮
著 書:久我 隆弘
出版社:岩波書店

第1章  常識への挑戦

第2章  レーザー冷却の原理

第3章  いろいろなレーザー冷却法

第4章  気体原子のボーズ・アインシュタイン凝縮

第5章  ボーズ・アインシュタイン凝縮の応用
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たとえば、常温のルビジウム原子をD2線(λ=780nm、385THz)を用いて減速することを考える。常温(300K)のルビジウム原子は約200m/sで運動しているので、レーザー周波数をドップラーシフト分(約300MHz)だけ低周波側にシフトさせる必要がある。D2線の光子1個の吸収による速度変化は約6mm/sであるため、初速度200m/sの原子を停止させる為には約3万回の吸収・放出サイクルを繰り返す必要がある。
原子線の減速のイメージを図3に、D2線を使った吸収・放出サイクルに用いる遷移図を図4に示す。



図3 レーザー冷却の原理



図4 レーザー冷却のサイクル



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