A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

未読日記623 『ニューヨーク』

2012-07-09 05:37:01 | 書物
タイトル:ニューヨーク : 芸術家と共存する街
著者:塩谷陽子
デザイン:日本情報デザインセンター+薬師神親彦
イラストレーション:石山博司
発行:東京 : 丸善(丸善ライブラリー, 277)
発行日:1998.9
形態:viii, 195p : 18cm
内容:
助成金の額でもなく文化施設の数でもない、ニューヨークの芸術援助の底力は、まず「プロの芸術家」の生きる権利を認めたところからはじまった。その社会のコンセンサスが、今の時代を生きる世界中の芸術家たちを引きつけ、彼らはこの街に住みつき、キャリアを積み上げていく。はたして、「プロの芸術家」とは?「芸術家の生きる権利」とは?――日本がまだ気づかない芸術援助のあり方を、芸術家のナマの声を紹介しながら解き明かす。

序章―芸術家として生きる権利
第1章―プロの芸術家
第2章―デモクラシーとプロの芸術家
第3章―芸術家が芸術家を助ける
第4章―キャリア建設
第5章 成功した芸術家たち

頂いた日:2012年7月8日
場所:京都市内
 某ギャラリーのディレクターの方よりオススメ頂いた本の1冊。読んで納得、目から鱗の1冊だった。刊行からだいぶ年月が経過しているが、本質的なことは変わっていない。芸術政策に興味・関心がある人だけでなく、すべての芸術家、芸術関係者に読んでもらいたい1冊だ。

 例えば、ニューヨーク市が規定する芸術家の定義がおもしろい。
芸術家とは、「絵画や彫刻など美術への従事、振付・映像などの制作や上演への従事、音楽の作曲への従事等を、不断に継続し、それを専門の職業(プロフェッショナル)としている個人のことを指し」ている。さらに、「専門の職業(プロフェッショナル)」とは、「その者が生涯その表現形態に従事するという、その専心そのものを意味するのであって、その創造行為や努力が金銭的にどれくらいの報酬をもたらしたかという額高の問題ではない」というのだ。つまり、「専門の職業(プロフェッショナル)」とは、「プロ=稼ぐ」人ではなく、「その専門職に対する傾倒・関わり合いのことのみを意味している」のである。
 なんでも金銭や収入を判断軸にして、プロ/アマチュアを定義してしまう日本と較べると、この職業定義はニューヨークの芸術家に対するレベルの高いデモクラシー文化を示しているといえる。いや、芸術家だけではない。この定義には職業選択に対する人権、敬意や尊重が伺えることからも、文化が根底から違うことに気づかされる。どちらがいい悪いという話ではないが、文化に対する成熟さという点では、まだまだ学ぶべき点がたくさんある。