三木奎吾の住宅探訪記 2nd

北海道の住宅メディア人が住まいの過去・現在・未来を探索します。
(旧タイトル:性能とデザイン いい家大研究)

【鎌倉時代の建築仕事を伝えるメディア】

2019年08月21日 07時46分51秒 | Weblog


大好きできわめて貴重な民族資産だと思っているものに
「春日権現験記」があります。
1309年(延慶2年)に時の左大臣・西園寺公衡の発案で、
宮廷絵所の長・高階隆兼によって描かれ、春日大社に奉納された。
<最高峰の大和絵で描かれた社寺縁起絵巻の代表作であると同時に、
全巻が揃い、制作者が判明していることや、
当時の風俗が細かく描かれていることなどから、日本の中世を知る
貴重な歴史的資料とみなされている>というものです。その目的は、
<藤原氏一門の繁栄を祈願するために春日明神から受けた加護と霊験を綴った
絵巻物であり、詞書の執筆は鷹司基忠とその息子・冬平、良信(興福寺学僧)
冬基の3兄弟が担当し、編集は興福寺の学僧・覚円(西園寺公衡の弟)>
絹本著色、巻子装、全20巻(他に目録1巻)、三の丸尚蔵館所蔵。
春日大社なので、藤原氏一族の繁栄ぶりを誇るものとして
その当時の最高技術を結集した建築の詳細工事の模様を
かなり克明に「メディア化」した一級資料になっている。
700年前当時の大工職人さんを中心にした人間の生々しい表情が活写される。
絹本という、絹地に着色するという形式で描かれている。
そもそも絹地であり、それ自体が相当に高価なもの。
<絵画史上きわめて貴重な作品であるとして2004年から15か年計画で、
原本の全面的な解体修理と調査が行なわれている。
表紙裂の復元には、一般種の繭から作った絹糸では太すぎて風合いが
出せないため、天皇家が育てている古代種繭の「小石丸」を使用。>
と記述されているように、民族の宝物として現代技術の粋を傾けている。

わたしどもは住宅雑誌・WEBメディアを業としているワケですが
とくに建築が表現されている絵画部分について
そのはるかな先達として、仰ぎ見るような思いを抱く次第です。
大工仕事というのは体技技能としてカラダで伝承させるものであり、
絵画として具体的なイメージをもって「伝えられる」のはまことに稀有。
ここで描かれている大工さんや職人さんたちの体技、表情などから
まことにたくさんの「情報」を受け取ることができます。
デジタル時代になって、こうした情報資産が容易に共有されることは、
本当に素晴らしいことだと思われます。
この700年前の表現者のみなさんは、主に「大和絵」という
ツールを使って現代にまで貴重な情報をくださっているのですが、
現代では基本的には「写真」という媒介をつかって
わたしたちは日々、建築を「伝えよう」としている。
この表現を見ていると藤原氏の氏神礼賛という目的を遙かに超越して、
時代の空気感が直にカラダに伝わってくる思いにうたれる。
先人たちの息づかいに深く目を凝らされております(笑)。
コメント
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