映画『野良犬』(1949年10月 122分 新東宝)
『野良犬(のらいぬ)』は、新東宝・映画芸術協会製作、東宝配給の日本映画である。モノクロ、スタンダード。
太平洋戦争終戦直後の東京を舞台に、拳銃を盗まれた若い刑事がベテラン刑事と共に犯人を追い求める姿を描いた、黒澤監督初のクライムサスペンス映画である。東宝争議の影響で東宝を離れていた黒澤が他社で撮った作品のひとつである。第23回キネマ旬報ベストテン第3位、昭和24年度第4回芸術祭賞、シナリオ作家協会シナリオ賞受賞。
日本映画において、ドキュメンタリータッチで描く刑事ものという新しいジャンルを開拓した画期的な作品として、その後の同系作品に影響を与えた。また過去作『醉いどれ天使』(1948年)同様、戦後の街並みや風俗とその中で生きている諸々の登場人物が生き生きと描写されている。当時、黒澤は東宝争議の余波で東宝での映画製作を断念し、師の山本嘉次郎や本木荘二郎らと映画芸術協会に参加して他社で映画を撮っていた。本作は、大映で撮った前作『静かなる決闘』(1949年)に続いて他社で撮った2本目の作品で、映画芸術協会と新東宝の提携により製作した。
推理小説の愛読者でもあった黒澤は、『メグレ警部』シリーズの作家ジョルジュ=シムノンを意識したサスペンス映画を作ろうと企画し、当時新人の脚本家・菊島隆三を共作に抜擢し、彼を警視庁に通わせて題材を集めさせた。そこで捜査一課の係長から、警官が拳銃を紛失することがあるというエピソードを聞き、それを採用して熱海で脚本を作り上げた。
撮影のほとんどは、東映東京撮影所内の貸しスタジオの太泉スタジオで行われた。予算が少ない中、警察の鑑識課からどじょう屋、ホテルやヒロインのアパートまで、オープンセットを含めて実に30数杯のセットが造られた。警察の鑑識課のセットは実際に警察署を見学し、引き出しのネームプレート一つに至るまで忠実に再現された。美術助手を務めた村木与四郎によると、どじょう屋のシーンでは生簀に本物のどじょうを入れたが、画面には全く映らなかったと語っている。
本作は、淡路恵子の映画デビュー作である。淡路は当時、松竹歌劇団の研究生であり、本作に出演した時はまだ16歳だった。並木役の最終候補には淡路ともう一人が残ったが、黒澤が「淡路君の方が意地っ張りで面白そうだ」と決めたという。また、後の黒澤映画の常連俳優である千秋実の黒澤作品初出演作でもある。
復員服姿の村上刑事が闇市を歩く場面では、助監督の本多猪四郎と撮影助手の山田一夫が2人で上野の本物の闇市で隠し撮りを敢行し、本多は三船敏郎のスタンドインを務め、山田がアイモカメラを箱の包みに入れて撮影した。黒澤は後に「この作品で戦後風俗がよく描けていると言われるが、それは本多に負うところが大きい。」と語り称賛している。
後楽園球場で刑事2人が拳銃の闇ブローカーを捕まえるシーンでは、実際の巨人対南海の試合映像が使われており、川上哲治・青田昇・千葉茂・武末悉昌ら当時の選手の姿も見られる。
緊迫したシーンにあえて穏やかで明るい曲を流し、わざと音と映像を調和させない「音と画の対位法」という手法が、本作でも用いられている。例としては、佐藤刑事がホテルで撃たれるシーンで、ラジオからキューバの民族舞曲『ラ・パロマ』が流れ、ラストの村上と遊佐が対決するシーンでは、主婦が弾く穏やかなクーラウのピアノ曲『ソナチネ第1番ハ長調作品20−1』と、最後に子ども達が歌う童謡『ちょうちょう』が流れる。なお、本作では既成曲が多用されており、村上が復員兵に変装し闇市でピストル屋を探すシーンでは『夜来香』、『東京ブギウギ』、『ブンガワンソロ』などの流行歌が使われ、根負けした女スリが情報提供するシーンでは、ヨシフ=イヴァノヴィチの『ドナウ川のさざなみ』がハーモニカで演奏されている。
序盤タイトルバックの野良犬が喘ぐシーンは、野犬狩りで捕まえた犬を貰い受け、撮影所の周りを走らせた後で撮影したものである。しかし、アメリカの動物愛護協会の婦人から「正常な犬に狂犬病の注射をした」と告発された。供述書を出してこの出来事は幕となったが、黒澤は「戦争に負けた悲哀を感じた。」と語っている。
村上刑事が銃弾の線条痕を照合するため鑑識を訪れる場面では、鑑識の担当者が別の拳銃を砂箱の中に撃ち込んでいるが、ここでは本物の九四式拳銃が使われた。村上刑事から盗まれて遊佐の手に渡る拳銃がコルト式という設定であるのに対し、本作のポスターやスチールの写真では九四式拳銃が使われている。
世界三大映画祭における監督賞を制覇したアメリカの映画監督ポール・トーマス=アンダーソンは、本作をお気に入りの一本に挙げており、自作『マグノリア』(1999年)では、本作へのオマージュとして警官が拳銃を紛失するエピソードを描いた。
あらすじ
ある猛暑の日、村上刑事は射撃訓練からの帰途のバス中で隣に立った女性にコルト式自動拳銃を掏られ、追いかけるが見失ってしまう。拳銃の中には7発の銃弾が残っていたため焦り戸惑う村上は、上司の中島係長の助言によりスリ係の市川刑事に相談し、鑑識手口カードを調べるうちに女スリのお銀に目星を付ける。村上はお銀のもとを訪ねるも彼女はシラを切るばかりだったが、執拗に追い回し、せめてヒントだけでもと懇願を続ける村上に観念したお銀は、場末の盛り場で食い詰めた風体でうろついているとピストル屋が袖を引くというヒントを与える。
ピストルを探すため復員兵姿で闇市を歩く村上は、ついにピストルの闇取引の現場を突き止め、ピストル屋のヒモの女を確保するが、先に女を捕まえたためピストルを渡しに来た売人の男に逃げられてしまう。そこへ淀橋で銃を使った強盗傷害事件が発生し、銃弾を調べると村上のコルトが使われたと分かった。責任を感じた村上は辞表を提出するが、中島係長はそれを引き裂き「君の不運は君のチャンスだ。」と叱咤激励する。村上は淀橋署のベテラン刑事・佐藤と組んで捜査を行うことになる。
おもなスタッフ
監督 …… 黒澤 明(39歳)
製作 …… 本木 荘二郎(35歳)
脚本 …… 黒澤 明、菊島 隆三(35歳)
撮影 …… 中井 朝一(48歳)
照明 …… 石井 長四郎(31歳)
録音 …… 矢野口 文雄(32歳)
美術 …… 松山 崇(41歳)
音楽 …… 早坂 文雄(35歳)
助監督 …… 本多 猪四郎(38歳)
B班撮影 …… 山田 一夫(30歳)
美術助手 …… 村木 与四郎(25歳)
音響効果 …… 三縄 一郎(31歳)
おもなキャスティング
村上刑事 …… 三船 敏郎(29歳)
佐藤刑事 …… 志村 喬(44歳)
並木 ハルミ …… 淡路 惠子(16歳)
ハルミの母 …… 三好 栄子(55歳)
ピストル屋のヒモ …… 千石 規子(27歳)
市川刑事 …… 河村 黎吉(52歳)
光月の女将 …… 飯田 蝶子(52歳)
桶屋の親父 …… 東野 英治郎(42歳)
阿部捜査主任 …… 永田 靖(42歳)
呑屋の親父 …… 松本 克平(44歳)
特攻隊あがりの復員兵・遊佐 …… 木村 功(26歳)
遊佐の姉 …… 本間 文子(37歳)
スリのお銀 …… 岸 輝子(44歳)
レビュー劇場の演出家 …… 千秋 実(32歳)
レビュー劇場の支配人 …… 伊藤 雄之助(30歳)
ホテル弥生の支配人 …… 菅井 一郎(42歳)
支配人の妻 …… 三條 利喜江(37歳)
中島係長 …… 清水 元(42歳)
水撒きをする巡査 …… 柳谷 寛(37歳)
拳銃の闇ブローカー・本多 …… 山本 礼三郎(47歳)
鑑識課員 …… 伊豆 肇(32歳)
被害者・中村の夫 …… 清水 将夫(41歳)
アパートの管理人 …… 高堂 国典(62歳)
若い警察医 …… 生方 明(32歳)
さくらホテルの支配人 …… 長浜 藤夫(38歳)
老いた町医者 …… 田中 栄三(62歳)
あづまホテルのマダム …… 戸田 春子(41歳)
レビュー劇場の客 …… 堺 左千夫(24歳)
ピアノを弾く主婦 …… 辻 伊万里(28歳)
スリの男 …… 宇野 晃司(25歳)
新聞記者 …… 松尾 文人(33歳)
ナレーション …… 本木 荘二郎(35歳)
≪さぁて、本文はいつになるのやら……気長にお待ちを!!≫
『野良犬(のらいぬ)』は、新東宝・映画芸術協会製作、東宝配給の日本映画である。モノクロ、スタンダード。
太平洋戦争終戦直後の東京を舞台に、拳銃を盗まれた若い刑事がベテラン刑事と共に犯人を追い求める姿を描いた、黒澤監督初のクライムサスペンス映画である。東宝争議の影響で東宝を離れていた黒澤が他社で撮った作品のひとつである。第23回キネマ旬報ベストテン第3位、昭和24年度第4回芸術祭賞、シナリオ作家協会シナリオ賞受賞。
日本映画において、ドキュメンタリータッチで描く刑事ものという新しいジャンルを開拓した画期的な作品として、その後の同系作品に影響を与えた。また過去作『醉いどれ天使』(1948年)同様、戦後の街並みや風俗とその中で生きている諸々の登場人物が生き生きと描写されている。当時、黒澤は東宝争議の余波で東宝での映画製作を断念し、師の山本嘉次郎や本木荘二郎らと映画芸術協会に参加して他社で映画を撮っていた。本作は、大映で撮った前作『静かなる決闘』(1949年)に続いて他社で撮った2本目の作品で、映画芸術協会と新東宝の提携により製作した。
推理小説の愛読者でもあった黒澤は、『メグレ警部』シリーズの作家ジョルジュ=シムノンを意識したサスペンス映画を作ろうと企画し、当時新人の脚本家・菊島隆三を共作に抜擢し、彼を警視庁に通わせて題材を集めさせた。そこで捜査一課の係長から、警官が拳銃を紛失することがあるというエピソードを聞き、それを採用して熱海で脚本を作り上げた。
撮影のほとんどは、東映東京撮影所内の貸しスタジオの太泉スタジオで行われた。予算が少ない中、警察の鑑識課からどじょう屋、ホテルやヒロインのアパートまで、オープンセットを含めて実に30数杯のセットが造られた。警察の鑑識課のセットは実際に警察署を見学し、引き出しのネームプレート一つに至るまで忠実に再現された。美術助手を務めた村木与四郎によると、どじょう屋のシーンでは生簀に本物のどじょうを入れたが、画面には全く映らなかったと語っている。
本作は、淡路恵子の映画デビュー作である。淡路は当時、松竹歌劇団の研究生であり、本作に出演した時はまだ16歳だった。並木役の最終候補には淡路ともう一人が残ったが、黒澤が「淡路君の方が意地っ張りで面白そうだ」と決めたという。また、後の黒澤映画の常連俳優である千秋実の黒澤作品初出演作でもある。
復員服姿の村上刑事が闇市を歩く場面では、助監督の本多猪四郎と撮影助手の山田一夫が2人で上野の本物の闇市で隠し撮りを敢行し、本多は三船敏郎のスタンドインを務め、山田がアイモカメラを箱の包みに入れて撮影した。黒澤は後に「この作品で戦後風俗がよく描けていると言われるが、それは本多に負うところが大きい。」と語り称賛している。
後楽園球場で刑事2人が拳銃の闇ブローカーを捕まえるシーンでは、実際の巨人対南海の試合映像が使われており、川上哲治・青田昇・千葉茂・武末悉昌ら当時の選手の姿も見られる。
緊迫したシーンにあえて穏やかで明るい曲を流し、わざと音と映像を調和させない「音と画の対位法」という手法が、本作でも用いられている。例としては、佐藤刑事がホテルで撃たれるシーンで、ラジオからキューバの民族舞曲『ラ・パロマ』が流れ、ラストの村上と遊佐が対決するシーンでは、主婦が弾く穏やかなクーラウのピアノ曲『ソナチネ第1番ハ長調作品20−1』と、最後に子ども達が歌う童謡『ちょうちょう』が流れる。なお、本作では既成曲が多用されており、村上が復員兵に変装し闇市でピストル屋を探すシーンでは『夜来香』、『東京ブギウギ』、『ブンガワンソロ』などの流行歌が使われ、根負けした女スリが情報提供するシーンでは、ヨシフ=イヴァノヴィチの『ドナウ川のさざなみ』がハーモニカで演奏されている。
序盤タイトルバックの野良犬が喘ぐシーンは、野犬狩りで捕まえた犬を貰い受け、撮影所の周りを走らせた後で撮影したものである。しかし、アメリカの動物愛護協会の婦人から「正常な犬に狂犬病の注射をした」と告発された。供述書を出してこの出来事は幕となったが、黒澤は「戦争に負けた悲哀を感じた。」と語っている。
村上刑事が銃弾の線条痕を照合するため鑑識を訪れる場面では、鑑識の担当者が別の拳銃を砂箱の中に撃ち込んでいるが、ここでは本物の九四式拳銃が使われた。村上刑事から盗まれて遊佐の手に渡る拳銃がコルト式という設定であるのに対し、本作のポスターやスチールの写真では九四式拳銃が使われている。
世界三大映画祭における監督賞を制覇したアメリカの映画監督ポール・トーマス=アンダーソンは、本作をお気に入りの一本に挙げており、自作『マグノリア』(1999年)では、本作へのオマージュとして警官が拳銃を紛失するエピソードを描いた。
あらすじ
ある猛暑の日、村上刑事は射撃訓練からの帰途のバス中で隣に立った女性にコルト式自動拳銃を掏られ、追いかけるが見失ってしまう。拳銃の中には7発の銃弾が残っていたため焦り戸惑う村上は、上司の中島係長の助言によりスリ係の市川刑事に相談し、鑑識手口カードを調べるうちに女スリのお銀に目星を付ける。村上はお銀のもとを訪ねるも彼女はシラを切るばかりだったが、執拗に追い回し、せめてヒントだけでもと懇願を続ける村上に観念したお銀は、場末の盛り場で食い詰めた風体でうろついているとピストル屋が袖を引くというヒントを与える。
ピストルを探すため復員兵姿で闇市を歩く村上は、ついにピストルの闇取引の現場を突き止め、ピストル屋のヒモの女を確保するが、先に女を捕まえたためピストルを渡しに来た売人の男に逃げられてしまう。そこへ淀橋で銃を使った強盗傷害事件が発生し、銃弾を調べると村上のコルトが使われたと分かった。責任を感じた村上は辞表を提出するが、中島係長はそれを引き裂き「君の不運は君のチャンスだ。」と叱咤激励する。村上は淀橋署のベテラン刑事・佐藤と組んで捜査を行うことになる。
おもなスタッフ
監督 …… 黒澤 明(39歳)
製作 …… 本木 荘二郎(35歳)
脚本 …… 黒澤 明、菊島 隆三(35歳)
撮影 …… 中井 朝一(48歳)
照明 …… 石井 長四郎(31歳)
録音 …… 矢野口 文雄(32歳)
美術 …… 松山 崇(41歳)
音楽 …… 早坂 文雄(35歳)
助監督 …… 本多 猪四郎(38歳)
B班撮影 …… 山田 一夫(30歳)
美術助手 …… 村木 与四郎(25歳)
音響効果 …… 三縄 一郎(31歳)
おもなキャスティング
村上刑事 …… 三船 敏郎(29歳)
佐藤刑事 …… 志村 喬(44歳)
並木 ハルミ …… 淡路 惠子(16歳)
ハルミの母 …… 三好 栄子(55歳)
ピストル屋のヒモ …… 千石 規子(27歳)
市川刑事 …… 河村 黎吉(52歳)
光月の女将 …… 飯田 蝶子(52歳)
桶屋の親父 …… 東野 英治郎(42歳)
阿部捜査主任 …… 永田 靖(42歳)
呑屋の親父 …… 松本 克平(44歳)
特攻隊あがりの復員兵・遊佐 …… 木村 功(26歳)
遊佐の姉 …… 本間 文子(37歳)
スリのお銀 …… 岸 輝子(44歳)
レビュー劇場の演出家 …… 千秋 実(32歳)
レビュー劇場の支配人 …… 伊藤 雄之助(30歳)
ホテル弥生の支配人 …… 菅井 一郎(42歳)
支配人の妻 …… 三條 利喜江(37歳)
中島係長 …… 清水 元(42歳)
水撒きをする巡査 …… 柳谷 寛(37歳)
拳銃の闇ブローカー・本多 …… 山本 礼三郎(47歳)
鑑識課員 …… 伊豆 肇(32歳)
被害者・中村の夫 …… 清水 将夫(41歳)
アパートの管理人 …… 高堂 国典(62歳)
若い警察医 …… 生方 明(32歳)
さくらホテルの支配人 …… 長浜 藤夫(38歳)
老いた町医者 …… 田中 栄三(62歳)
あづまホテルのマダム …… 戸田 春子(41歳)
レビュー劇場の客 …… 堺 左千夫(24歳)
ピアノを弾く主婦 …… 辻 伊万里(28歳)
スリの男 …… 宇野 晃司(25歳)
新聞記者 …… 松尾 文人(33歳)
ナレーション …… 本木 荘二郎(35歳)
≪さぁて、本文はいつになるのやら……気長にお待ちを!!≫
千秋実さん、いいですよね~!! 『蜘蛛巣城』の亡霊はほんとにコワい! 生前あんなに人間的で饒舌な武将だっただけに、なおさら死後の固まった表情と沈黙が恐ろしいんですよね。まさに能面!
千秋さんの出ている名作を挙げればキリがないのですが、私が生まれて初めて名優・千秋実のすごみを感じたのは、黒澤映画ではなく特撮の『ゴジラの逆襲』(1955年)における副主人公である、魚群探査機パイロット・小林の役ででした。
やっぱり、非常に人間的で明るい性格の小林なのですが、クライマックスでなかば特攻のような形でゴジラに敗れ墜死するときに、コックピットで絶叫するでもなく、婚約者の名前を呼ぶでもなく、ただ操縦桿を握って一点を見つめるだけで、派手な演技を一切せず散っていく姿に、ものすごいリアリティを感じました。『ゴジラの逆襲』をレンタルして観た当時、確か私は小学生だったのですが、子ども心に「あぁ、死ぬ瞬間って、案外そんなもんなのかもな。」と感じ入ったものです。実際、事故る瞬間って、叫び声なんか出ませんよね…
カッコよさでは勝負しない(超失礼ですが)、正真正銘の名優・千秋実! 三船敏郎とともに、黒澤映画全盛期の車の両輪となる逸材ですよね。
まぁ、『野良犬』ではほんのチョイ役ですが…
藤原釜足さんがC-3POのモデルで千秋実さんはR2-D2のモデルでしたね。
しかし、半透明の亡霊役でニコニコして所作をしながら座っているだけで『存在感がある』って凄い役者さんだなって、つくづく思いました。
大変に申し訳ございません、私、なんとも不勉強なことに、『スターウォーズ』シリーズはいろいろと観ているつもりなのですが、肝心の『隠し砦の三悪人』をまだちゃんと観ていないというていたらくなのです……でも、今年中に必ず見る予定はありますので! 観てない私でも知っている、世界映画史上に残る千秋さんと釜足さんの凸凹コンビっぷりが、今から楽しみであります。
『蜘蛛巣城』での千秋さん演じる武将・三木義明の亡霊の笑顔の恐ろしさは、能面のような「感情が全く推し量れない笑顔」だから生まれるのではないでしょうか。だいいち、それを見ている鷲津武時にとっては、死後の三木が笑っているわけがないことは明白なので、なおさら意味が読み取れないわけです。
思えば、黒澤作品でもそれ以外でも数多くの役を演じてきた千秋さんなのですが、「怖い千秋さん」が観られる作品って、この『蜘蛛巣城』くらいなんじゃないでしょうか。そういう意味でも、かなり希少価値のある作品ですね!