長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

狂犬か!? 小林版犬神家、いろいろ噛みつきすぎ!! ~『犬神家の一族』2023エディション~

2023年04月30日 22時31分49秒 | ミステリーまわり
 ゴールデンウィーク!! みなさま、どうもこんばんは、そうだいでございます。
 いや~、皆さんいかがですか、ゴールデンウィークですよ。奇跡の9連休いただいてる方、いらっしゃいますか? 幸せそうですねぇ。
 私はと言いますと、カレンダー通りに月火はお仕事があるので飛び石連休になっちゃうんですが、でももう40歳を過ぎちゃうと、度を過ぎる連休も逆にキツくなっちゃうんですよねぇ。やることも無くなってきちゃうし、第一、仕事が始まる初日というか、その前日の連休最終日の気分がロー&ローになるのがイヤでイヤで、ほんとイヤ! なので、まぁまぁこのくらいでいいかなぁって感じですね。
 ゴールデンウィークと言えば、昨年はわたくし、山形県の米沢市に行って、あの伝統の「上杉まつり」の川中島合戦再現に参加したのですが、まことに遺憾ながら、今年はお客さんとして観に行くつもりです。応募締め切りを完全に見逃しちゃって……来年こそは、再びいくさ場へ!! 身体の備えは万端だったのになぁ。それにしても、合戦の日の米沢ってほんとに天気がいいですよね、毎年毎年! 昨年は寒いくらいに風が吹いていましたが、確かにピーカンでした。

 さてさて、今回の記事はお待ちかね、全国800万人くらいの横溝正史ファンが首を長~くして楽しみにしていた、まさしく黄金週間の口火を切るのにふさわしいビッグイベントを目の当たりにしての感想記でございます。
 いや~、定番中の定番、もう見飽きたよってくらいに展開が読めている超メジャーな作品といくら言っても、やっぱ、最新バージョンをやるとなったら、観ちゃうよねぇ。実家に帰ったような安心感というか、『金曜ロードショー』でジブリ作品を観るような「しあわせ」に包まれながら鑑賞いたしました。

 だが、しかし……!?


ドラマ『犬神家の一族』(2023年4月22・29日放送 NHK BS プレミアム 180分)
 34代目・金田一耕助 …… 吉岡 秀隆(52歳)
 16代目・磯川常次郎 …… 小市 慢太郎(54歳)

 『犬神家の一族(いぬがみけのいちぞく)』は、横溝正史の長編推理小説。「金田一耕助シリーズ」の一作で、1949年12月~51年4月に連載された。
 本作を原作として、これまで映画3本・TVドラマ8本(2023年版を含む)・舞台2作が制作された。また、コミカライズもされている。
 作者自身は本作を、「金田一もの自選ベスト10」の第3位に推している(第1位『獄門島』、第2位『本陣殺人事件』、第4位『悪魔の手毬唄』、第5位『八つ墓村』)。
 2016年から NHKが制作を手がける「金田一耕助シリーズ(長谷川博己版『獄門島』、吉岡版『悪魔が来りて笛を吹く』、同『八つ墓村』)」の第4弾として前・後編形式で放送された。
 今回の2023年ドラマ版の内容についてはおおむね原作どおりであるが、主に以下のような変更点がある。

・犬神家の三姉妹やその子たちは戸籍上は佐兵衛の親族とみなされておらず、佐兵衛の遺言で規定されなければ相続権が無い。
・岡山県警の磯川警部が栄転して長野県警の那須署長になっている。
・冒頭で転覆しかけたボートから珠世を救出するのは金田一で、猿蔵は間に合っていない。
・犬神佐武の殺害現場が原作小説の犬神邸の那須湖畔に面した展望台でなく、湖岸の庭地になっている。
・金田一は手形押捺の場にはおらず、その時は佐武の胴体を運んだボートを別のボートで探して発見し、電話を借りようと旅館柏屋を訪ねたところ、復員兵の情報を尋ねていた磯川署長たちに遭遇していた。
・犬神佐智の遺体の状況が原作小説と異なる。また発見された廃屋は那須湖畔の単なる空き家ではなく、佐兵衛が青沼菊乃を住まわせていた家だった。
・原作小説と違って佐智は以前から珠世に好意を寄せており、そのために物語の冒頭で珠世に加えられた数件の危害事件の犯人が原作小説と異なる。
・佐智の遺体発見後の物語の重要な展開の順番が原作小説と異なる。
・原作小説と違って青沼静馬は母・菊乃を幼い時に失っており、犬神家への恨みを動機に行動していない。
・生後間もない静馬に火傷を負わせたのは原作小説では犬神梅子だが本作では松子になっており、そのことがきっかけで松子は静馬の正体に気付く。
・一連の事件の解決後、金田一はある人物の行動に疑問を抱き、その人物と対話するエピソードが付け加えられる。

主なキャスティング
犬神 松子   …… 大竹 しのぶ(65歳)
犬神 竹子   …… 南 果歩(59歳)
犬神 梅子   …… 堀内 敬子(51歳)
犬神 佐清   …… 金子 大地(26歳)
犬神 佐智   …… 渋谷 謙人(34歳)
犬神 佐武   …… 今井 悠貴(24歳)
犬神 小夜子  …… 菅野 莉央(29歳)
犬神 寅之助  …… 遠山 俊也(60歳)
犬神 幸吉   …… 坂田 聡(51歳)
野々宮 珠世  …… 古川 琴音(26歳)
猿蔵      …… 芹澤 興人(42歳)
古館 恭三   …… 皆川 猿時(52歳)
若林 豊一郎  …… 松川 尚瑠輝(なるき 31歳)
大山 泰輔   …… 野間口 徹(49歳)
宮川 香琴   …… 田根 楽子(76歳)
犬神家の女中  …… 野々目 良子(46歳)
吉井刑事    …… 大津 尋葵(ひろき 36歳)
沢田刑事    …… 永沼 伊久也(31歳)
藤崎鑑識課員  …… 木原 勝利(41歳)
志摩 久平   …… 川島 潤哉(43歳)
那須ホテルの女中・加代 …… 久間田 琳加(22歳)
那須湖の船着き場の管理人 …… 華井 二等兵(45歳)
野々宮 大弐  …… 柾 賢志(38歳)
野々宮 晴世  …… 羽瀬川 なぎ(24歳)
青沼 菊乃   …… 喜多 乃愛(22歳)
犬神 佐兵衛  …… 栗田 芳宏(65歳)
せつ子     …… 倍賞 美津子(76歳)

主なスタッフ
演出 …… 吉田 照幸(53歳)
脚本 …… 小林 靖子(58歳)


 はい~、というわけで、なんだかんだ言って、令和の御世にも数年に一度のペースで映像化されている「金田一耕助もの」作品の中でも、とりわけ世に出る機会の多いビッグタイトル『犬神家の一族』、ついに11度目のバージョンのご出来でございます。
 我が『長岡京エイリアン』でもたびたび取り上げているように、横溝正史先生の金田一耕助シリーズの中で映像化の最多を争っているのは、今回の『犬神家の一族』と、10回映像化された『八つ墓村』の両巨頭でありまして、特にここ数年来は、2018年にフジテレビで加藤シゲアキ金田一版の『犬神家』が来たと思ったら2019年に吉岡金田一版の『八つ墓村』、そうかと思ったら2020年にまさかの池松壮亮金田一で30分の短縮『犬神家』と、あたかも映画『ロッキー』のロッキー=バルボア VS アポロ=クリード戦を彷彿とさせる激しい打ち合いを繰り広げているのです。となると、次は池松金田一による30分バージョン『八つ墓村』ということになってしまうのか……!? やめて~! そんなおふざけやってるヒマがあるんだったら、私の大好きな『三つ首塔』を映像化してやってよ!! 全身黒タイツオトネ~!!

 ともあれ、令和に入って数年、今もシリーズ継続の気炎を吐いているのは、どちらも NHK BS プレミアムで制作されている吉岡金田一の長編ドラマシリーズと、池松金田一の短編ドラマシリーズにとどまっているのですが、そのうちの吉岡金田一による『犬神家の一族』が、満を持して今回、2夜連続計180分という大ボリュームで誕生したわけだったのです。前回映像化された池松金田一版の6倍の長さよ!? あらためて、池松版の「30分で『犬神家』」という企画の異常性が際立ちますね……

 ただ、今回の吉岡金田一版を最後まで観てみますと、果たしてほんとうに「異常」なのはどっちなのかと!
 見終えてから数日う~んと首をひねりまくり、「なんであそこ、そうしたん!?」と思いを巡らすだに、かつて映像化された諸バージョンの『犬神家』、例えばド定番の1976年石坂浩二版もそうですし、池松版、加藤版、そして、犯人の演技インパクトがもはや伝説の域にまで到達しているわたくし個人的にベスト犬神家の2004年稲垣吾郎版でさえもが、「あぁ、ふつうに原作小説を映像化してくれていたんだな。」と感じてしまうものがあるのです。

 おかしい! 今回の『犬神家の一族』は、な~んかおかしいぞ!!

 いやいや、横溝先生の金田一ものに限った話でなく、小説の映像化なんて、いろんな事情により「あ、そこ、そうするんだ。」という意図的なアレンジ、改変はあって当たり前の話ですし、今回もや~っぱり映像化されなかった「スキー板を履いた金田一耕助の雪山チェイスシーン」が示す如く、100% 小説の文面を映像化することなんてどだいYS 無理な話なんであります。
 ですので、多少、原作小説と違った解釈や、登場人物の行動の変更があったって全然問題ありませんし、ましてや金田一シリーズの場合、推理小説である以上、物語の根幹に関わってくるはずの「犯人が誰か」までもが、「小説と違ってたらお客さんがびっくりするから。」というムチャクチャな動機でゴリっと改変されてしまうことだって、けっこうあったわけなのです。しかも、横溝先生のご存命中に……いや~、こういうのをニコニコして「よろしいんとちゃいます?」と寛恕していた横溝先生は、ほんとうに仏さまだ!!

 ただ、今回の吉岡版『犬神家』における、特にラスト45分になってからの「あれ、あのイベント、この後にやるんだ?」という微妙な違和感から始まるドミノ倒し式の改変は、まさに観終わった後の印象を、これまでのどのバージョンとも違う「ビョーキとしか思えない」狂ったものにしているのでした。もちろん、原作小説を読んでもこんな読後感には普通ならないと思うので、そういう意味では、今回の吉岡版は、ドラマが始まってからほぼ4分の3ほど原作小説に忠実ですよ~みたいな顔をしておきながら、ラスト4分の1になって突如として全く異なる表情を見せて牙をむいてくるという、オオカミに先祖返りしたかのような狂暴きわまりない別作品に変貌してしまっていたのです。前回の池松版は、チャカチャカうるさいながらもかわいげのあるチワワみたいな『犬神家』だったのに、なぜ!?

 この異常さの原因はもう、「脚本・小林靖子」、脚本・小林靖子!! この一点につきますよね。アマゾォオン!!

 現在の日本特撮&アニメ界において、不動の地位を築く大脚本家・小林靖子。その業績のすさまじさ、特異さは、もはや言い尽くされている感もあるのでいちいち触れません。というか、実は私も全作品を観ているわけではなく、むしろどっちかというと門外漢に近い疎さなのですが、そんな私でも、あの伝説『仮面ライダーアマゾンズ』2シーズン(2016~17年)で心の臓を見事に射抜かれてしまいました。とんでもなく過酷な設定のオンパレード! それなのに、なぜか憂鬱な気分にならない、登場人物ひとりひとりの生きようとする魂の輝き!! 小林作品は、観るのにそれ相当なエネルギーを要しますが、それに倍する衝撃と感動を呼び覚ましてくれる世界なのです。

 そんな小林さんが、ついに金田一耕助ものを手がける! 期待感は嫌がおうにも高まりますが、NHK 金田一長編シリーズの4作目から途中参戦する形になるので、いったいどんな影響をシリーズに与えるのかが、非常に気になるところではありました。
 その結果として、今回の吉岡……というか小林版『犬神家』は、「はいはい、役割わかってますよ~。わかってるっつってんだろがオラァあ!!」みたいな気迫をムンムンにさせて、いろいろやたらにアグレッシブな作品に仕上がっていたのではないでしょうか。ラスト4分の1で、いきなり展開にオリジナリティが入ってくるんですよね。
 ただそのオリジナリティは、非常にさりげなく、かつ巧妙に差し込まれてくるもんですから、過去の映像化作品を何作か観ている人には「ん~? なんか違う感じかな?」とにおわせる程度ですし、原作小説を読んでいる人も「あれ、この人、そんな感じだっけ?」と、思わず本を読み返してしまうような自然な感じなのです。きわめてサイレントに、横溝先生の『犬神家』が小林靖子の『犬神家』になりおおせている!

 原作小説と小林版との見た目上の差異は先述した通りなのですが、特に私が注目する小林オリジナルのポイントは以下のとおり。

1、冒頭の野々宮珠世に対する諸々のいやがらせが、犬神佐兵衛の遺言書と全く関係の無い動機で行われている。
2、犯人が若林殺害を決意したきっかけが違っている。
3、犬神佐清が確保された経緯がオリジナル展開。
4、青沼静馬が犬神家に接近する動機が違う。
5、なにはなくともエピローグの対話シーンの追加!

 最初に、我が『長岡京エイリアン』としての、今回の小林版に対する姿勢をはっきり言ってしまいますが、

おもしろいけど、やや空回り気味か。原作小説の良さとケンカしている部分多し!

 という感じになります。
 字数の関係もありますし、今回の作品を観て良いと感じたところ、良くないと感じたところを逐一並べ立てるわけにもいきませんので、私がこれからメインで触れたいのは脚本のことになります。なので、もう一方の俳優さんがたの演技についてのことを先にざっくり言ってしまいますと、まず松子役の大竹さんと金田一役の吉岡さんの存在感と実力は、本当に素晴らしかったと思いました。
 かつて、天下の珍品と謳われるサイコホラー映画『黒い家』(1999年 監督・森田芳光!)で、あんな大爆発っぷりを見せつけ、蜷川幸雄の『メディア』をはじめとする多くの演劇作品でも凄絶かつパワフルな演技を見せつける大竹さんですから、むしろ今まで松子やってなかったんだ!とビックリしてしまうほどジャストフィットなキャスティングなのですが、あえてそこらへんの猛獣性を、最後の最後の佐清との会話まで抑えていたところに、大竹さんらしい勘の鋭さを感じました。やろうと思えば、最初っから最後まで母性だだもれの鬼子母神みたいなキャラにもなりかねない松子をあえて抑制させて、今目の前にいる仮面の男が本当に佐清なのか信じきれないでいる、実に人間的な「揺れ動き」を濃厚に漂わせるからこそ、今回の松子は一瞬たりとも目を離せない緊張感と人間臭さをはらんでいるんですね。やや天然っぽいチャーミングさのある高峰三枝子さんや、堂々たる女優力で押し切る三田佳子さんとは全く違う令和の松子像を打ち出していたと思います。ラストカットの、列車中での哀しそうなまなざしが最高でしたね。
 吉岡さんのほうは、もう、ね……吉岡さん専売特許の「目の動きが超怖い金田一」が、今回の小林脚本によって、あの長谷川博己版『獄門島』の金田一像ともリンクして、サイコっぽい方向に怖さを深化させている気がしました。あの、クライマックスの事件解明シーンでの、泣き叫ぶ梅子に対して笑いながら言う「あの、この先こういう話ばっかりなので~草」というセリフに象徴される、気遣いに全然なってない気遣いのしかたね! 金田一が周囲の人達から浮いてしまう原因は、生き方が不器用だからではでなく、もしかしたら人間性の欠如から来ているのではなかろうかと思わせてしまう言動の危険さ、笑い方の気持ち悪さに、吉岡さんの金田一解釈の現代性を感じました。「金田一は天使」などとのたまっていた市川崑監督がご存命だったら、いったいどう反応されていたことやら……天使のような悪魔の笑顔!! 宝生舞さんはおげんきでせうか。

 その他のキャスティングに関しても言いますと、やはり、原作小説でどどどんと「第一章 絶世の美人」とまで作者に太鼓判を押されていた珠世さんを古川さんが演じているという点が物議をかもしているようなのですが、そりゃまぁ、美人の基準は人それぞれでありますので……ここにも「横溝ワールドのロマン成分を親の仇のように除去する吉田演出」の端緒を観た思いがしますね。それなのに、那須ホテルの女中さんだけは1976年版を踏襲してやけにかわいいという、このアンビバレンツさ加減よ……関係ありませんが、女中さんは出てきても那須ホテルの番頭さんは画面に登場しないという部分に、そこはかとない大横溝への配慮を感じました。三谷幸喜がしゃしゃり出てくる余地は1平方mm もございません。
 古川さんに同じく、原作から大幅にパワーダウンした猿蔵のキャスティングも徹底していましたね。ご丁寧にボートの珠世さんを助けられてないんだもの! こういうところから逆に1976年版の『犬神家』を振り返ってみますと、いかにかの作品がロマンティックきわまりない始まり方をしていたのかがわかります。演出もそうですが、大音量で流れる大野雄二さんの音楽が単純明快でいいんですよね。大野サウンドの功績は大きい!! それ以降の市川金田一シリーズでも、あれほどわかりやすい音響演出はありませんから。
 ま、前回の池松版『犬神家』の猿蔵がロマンというか男汁だだもれでしたからね。たまには弁当の隅っこに取り残されたひじきみたいな猿蔵もいいんじゃないでしょうか。
 「岡山県警から長野県警の署長に栄転していた」という、磯川さんの強引な登場っぷりも話題となりましたが、「なんだチミは? 探偵ぃ~!?」みたいな序盤の警察関係者と金田一とのいざこざをスキップするシステムとしては妙案だったかと思います。小市さんの堂に入ったパートナーっぷりも良かったですしね。また、おそらくは NHK長編金田一シリーズの次回作へのフックとなるはずの「かの『本陣殺人事件』をうんぬん」発言のためには最適な人選だったわけで、特にご都合主義だなんだと目くじら立てて怒ることもないかと思います。
 脱線しますが、もし本当に次回作が『本陣殺人事件』になるとすると、金田一役が吉岡さんには、さすがになりませんよね……? かといって長谷川さんがカムバックするとも思えないし。正直なところ、池松さんが演じるのがいちばん「ヤング金田一」っぽくていい気がしますけどね。まさか、加藤シゲアキさんをさしおいて道枝くんが金田一耕助を演じちゃったりして……NHK じゃ、ありえないか。

 あと、なにはなくとも皆川さん、皆川さん!! 皆川猿時さんの古舘弁護士、最高だったなぁ。真面目だしプロフェッショナルだし一生懸命なんだけど、若林の怪しい挙動には激甘スルーというおっちょこちょいな愛嬌あるキャラクターを好演していたと思います。大河ドラマ『いだてん』でもかなり良い味を出していましたし、伊達に10年間のながきにわたり、明るい家庭を築きつつキッチン戦隊と血みどろ(トマト味)の闘争を続けていませんね。

 すみません、「俳優さんについてざっと」と言いながら、ずいぶんと字数を割いてしまいました!!

 肝心の、いろいろアグレッシブな今回の小林脚本に関して触れてみたいのですが、原作小説から大幅に改変されている要素として、「松子&犬神家」と「青沼静馬」、この2つの性質がだいぶ変わっており、その帰結として佐清もあんな感じになってしまった、という意図的な物語の「現代化」があったかと思います。そしてそれは、今回のドラマを原作小説とは全く違う土俵で戦うお話にしてしまっていたのではないでしょうか。原作と小林版とでどっちが面白いのかは人それぞれかとは思うのですが、原作小説の世界が大好きな私としましては、あまり良い気分にはなりませんでした。じゃあ、小林脚本による全く別の作品でいいんじゃないっすか、みたいな……

 具体的に言うと、まず大前提として今回の小林版では、「犬神家の一族」が「一族」とは言えない烏合の衆までに解体されてしまっています。それは生前の犬神佐兵衛が自分の愛人と私生児の一家(×3)を「親族として認めていない」という小林版オリジナルの設定が原因となっていて、それはそれで佐兵衛の底の知れない心の闇を象徴する要素として非常に効果的なものになってはいるのですが、その反面として、「じゃあ遺言書でどんなにクソミソに書かれようが文句は言えないね、佐兵衛だから……」という空気にもつながってしまうので、ドラマのように遺言書を聞いて「私たちのこと軽く扱いすぎ! ムキー!!」と三姉妹が激高する反応がむしろ不自然になってしまうのです。一族ともみなされていなかったのに何を今さら、って感じですよね。そこらへん、原作小説では「確かに好かれてはいなかったけど、さすがに遺産の何分の一かはもらえるでしょ。」という空気もたもつ絶妙な距離感が佐兵衛と三姉妹との間にはあったはずなのですが、そこをけっこう簡単に断絶させてしまう小林版の判断はどうなんでしょう。しょっぱなからタイトル全否定って……そもそも、佐兵衛以外に『犬神家の一族』なんかどこにもいねぇ!!
 だいいち、松子夫人の家庭も佐兵衛に認められていないとなると、仮面の男が佐清かどうかの手形判定をつっぱねる時の、松子の「この佐清は、かりにも犬神家の総本家ですよ。総本家の跡取り息子ですよ。」という口ぶりともだいぶ矛盾してきやしないでしょうか。1976年版での高峰三枝子さんの傲岸不遜な演技も印象的なこのシーンが、今作ではなんとも白々しく迫力の無いものになっていましたね。まさに「ちょっと早く生まれたくらいで、何言ってんだか……」みたいな感じ。小林版の設定に言わせれば、三姉妹の重要性はどんぐりの背比べであるはずなのです。原作の設定を強化したはずが、オーバー過ぎて元も子もなくなっちゃったという図式ですね。
 ついでに今回は、松子自身が「犬神の名前さえもらえなかった」という原作に無い発言もしているので、あの三姉妹は平常「犬神」という名字さえ使わせてもらっていなかった可能性すらある徹底ぶりです。例えば、夫の名字に従って「山田松子」と「中村竹子」と「小川梅子」とか……サマにならないこと山のごとし!

 続いて、小林版では序盤の「ボートに穴」だとか「ベッドにヘビ」だとか「上からレンガがドスッ」だとかいう珠世さんへの嫌がらせの犯人も原作小説とは別人になっているのですが、これも、ドラマ版で嫌がらせの犯人になった人物のキャラクターに厚みを持たせる効果にはなっていたかと思うのですが、「若林が嫌がらせの犯人を、若林に遺言書の盗み読みを依頼した人間(原作小説の犯人)と同一だと勘違いして動揺した」→「だから若林の暴露を恐れて殺した」という筋立ても、なんかおかしいような気がします。だって、佐兵衛の遺言書を盗み読みさせた時点で、犯人は若林にそれをネタに一生ゆすられかねない共犯関係を築いてしまっていたわけなので、盗み読みを依頼した時点で若林を始末することは既定路線になっていたはずなのです。それを、今さら若林が動揺したから困ったとかなんとか……一連の事件の犯人が「ひとりじゃない」という意外性は別にあっても良いとは思うのですが、今回の「嫌がらせの犯人だけ別人」という小林版のかじ取りは、まず原作小説の犯人の冷徹無比な思考力を行きあたりばったりなもろさのあるものに貶めているし、「遺言書を聞いたとたんに小夜子を捨てて珠世に鞍替えする」という佐智のクズ性を「前から珠世LOVE だった」というだいぶマイルドなものにするマイナス作用が大きいと感じました。令和の佐智は、女性層の人気に色目を遣っとるのか!? 不甲斐なしィ!!

 それに加えて決定的な小林版の改変として、「青沼静馬が犬神家をそんなに恨んでない」というポイントにはビックラこきました。なにしろ、やっぱり1976年版の「おれは犬神一族に、勝ったんだァアー!!」のインパクトは絶大ですからね……
 ただしこれに関して言うと、実は原作小説でも静馬が犬神家への母譲りの恨みを吐露するというシーンは存在しておりません。それは、何を隠そう原作小説において青沼静馬の母である青沼菊乃が困窮の末に死亡しておらず「存命している」というサプライズもありますし、何よりも静馬にとって復讐心以上に困る事態となって自分の正体を明かした結果、逆上した犯人に殺されるという展開があったからなのです。1976年版に比べると随分と人間臭い最期を遂げる原作版静馬ではあるのですが、さすがに「松子の献身的な介護に、記憶の果てにいる母の幻影を重ねて愛を求める」とまで軟化してしまう小林版の静馬は、ちょ~っと菊乃の怨恨エピソードを無駄にしすぎなのではないでしょうか。あまりにも静馬が頭お花畑というか、一時の感情にとらわれ過ぎて肩すかしもいいとこのような気がするのですが……そこも過酷な従軍体験ゆえの PTSDってことにしちゃうのか。
 またしても余談なのですが、原作小説で静馬の正体がバレる直接の原因となった「急に珠世と結婚したくなくなった理由」なのですが、これこそ、『本陣殺人事件』の犯行動機と同じかそれ以上に現代の日本人にとってはピンとこない隔世の感がありますよね。いや、それ自体は現在でも解決しえない大変な障害なのですが、だからといって絶対的に珠世と結婚できない理由にはならないんじゃないかっていう……少なくとも、自分が殺されかねない「正体の暴露」と天秤にかけるものではないような気がします。そこらへんの倫理観というか社会的価値観は、原作小説の発表から約30年が経過した昭和中期の時点で風化していたようで、だからこそ、1976年版の段階でこのくだりはカットされてしまったのでしょう。でも、あれだけ犬神家を恨んでいた一方で、いっぱしに珠世との明るい家庭の甘い夢も抱いていた原作の静馬も、それはそれで人間的でチャーミングですね。
 果たして、これから「生きている青沼菊乃」が登場する『犬神家の一族』の映像化作品は生まれるのでありましょうか……これも、「珠世と結婚したくない静馬」や「スキー板を履いた金田一の雪山チェイスシーン」と同じく、きわめてはかない望みですよね。だって、いくらなんでも、ねぇ……やっぱり、横溝ワールドはロマンに満ち溢れているなぁ!

 そんでま、私が決定的に今回の小林版に疑義を抱いたのは、やっぱり「ラストの対話シーンの論拠が原作小説を元にしていない創作」になっていること! これに尽きるんですよね。
 はっきり申しますと、金田一が事件解決にたどり着いたにも関わらず、その後ある人物の行動に疑惑を抱く、そのきっかけとなる最重要アイテムが「手紙」なのですが、その手紙の使われ方が原作小説と全く違う小林オリジナルの設定なのです。

 いや、それ、いくらなんでもルール違反じゃない? 大相撲の千秋楽だけ特設リングでボクシングルールにするっていうレベルの!!

 わたし、たぶん今作の衝撃的なラストの対話に比較されることも多いであろう、長谷川版『獄門島』の金田一 VS 犯人の異様なテンションの口論シーン、あれは全く問題ないと思うんです。あれは立脚している事件の諸要素が原作小説と矛盾していないので、「もしかしたらああいう闘いが2人の間にあったのかも知れないし、それを金田一が伝記作家の横溝先生にあえて言わなかったのかも知れない。」という解釈(妄想)が成り立つからです。
 でも、今回の「手紙」は、原作小説の記述と全く違う、「そこらへんのガキンチョに託す」という重大な改変を経ているのです。これ、どうしようもない「捻じ曲げ」じゃないのかな~と。ダメじゃない!? 少なくとも、ある先行作品を原作にして、後からきてお話を考えるプロの人間がやっていい手段じゃないと思う。フェアじゃないんですよね。だから、同じ衝撃的アレンジだったとしても長谷川版『獄門島』とは全く似て非なる物だと思うのです。
 細かいことですかね……でも、原作小説が大好きな私は、オンエアを観た瞬間からモヤモヤしたものを抱える原因になったのでした。
 大竹さんや吉岡さんの演技が素晴らしかったからこそ、なおさらね……第一、この事件で犯人の自殺をみすみす見逃してしまったという金田一の大失敗が、これじゃあ全然きわだってこないじゃないですか。ていうか、映像では死なせてしまった数日後には東京でのほほんと新聞記事を読んでるという非常に悪意のある編集になってしまっているので、サイコパスとは違う意味で金田一の人間性が疑われる雑な扱いになってしまいましたよね、「しまったー!!」が。まぁ、金田一の「しまったー!!」は、こと映像化される事件の中では、よくある風景なんですけどね……

 くだくだと申しましたが、要するに今回の小林版『犬神家の一族』は、登場人物の個々の生きざまを小林流に掘り下げんと勇躍挑んだのは良いものの、その噛みつき具合いがあまりに苛烈で現代的であったがために、大前提の「一族」のつながりを徹底的に破壊してしまったのではなかろうかと。やっぱこれ、喰い合わせが悪かったのでありましょうか。これだったら、一族の崩壊がテーマとなっている『本陣殺人事件』のほうが小林ワールドの展開には向いているのかも知れないし、もっと言えば、一族だなんだという価値観が完全に消滅した先にお話が始まっている『仮面舞踏会』や『白と黒』のほうが断然ピッタリだったのではないでしょうか。ほらほらきたきた、『白と黒』の初映像化~!! 小林さま NHK BSプレミアムさま、どうぞよろしくお願い致し奉りまする~!!

 長い! 長いよー!! また記事が長くなってしまったのでここらへんでお開きとしたいのですが、まぁ、ともかく今回も金田一ものの映像化、ほんとうにありがとうございました!! コストパフォーマンス、非常にたこうございました。原作小説と小林版、どっちが心に刺さったのかは、観た人それぞれの話ですからね。まぁどないでもよろしいんとちゃいますのん?という、大横溝の仏の心をみならおう!!
 一番嫌なのは、可もなく不可もない無難なダイジェスト映像化よ。その期待通りにいろんな意味で超攻撃的なものではありましたが、小林靖子×横溝正史、また観てみたいですね~!

 次回は、ほんとに予告通りに『本陣殺人事件』なのかしら!? 中尾彬金田一による伝説の1975年映画版を超える最新映像化、なるか!? 実に楽しみですね。
 景気づけに、今年の秋にもやるかもしれない岡山の「1000人の金田一耕助」イベントに参加してみようかな!? それまでは、わしゃ死なんぞ☆

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2 コメント

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Unknown (mobilis-in-mobil)
2023-05-03 23:07:57
最初に大竹しのぶが松子役で登場したとき『これ絶対ミスキャストやろ❕』と思いました。
大竹しのぶがやった時点で誰だって『コイツが犯人だ❗』そう思っちゃいますよね~。
しかし終わりまで観て『これ絶対確信犯的に大竹しのぶを使ったな❕』そう思いました。イチバン悪いのは松子でした。静馬は記憶も定かでなくなりさまよっていたところを松子に見つかって佐清に仕立てあげられたのでしょう。松子にとっては佐清でなくても、それらしければ誰でも良かったのです。
そして正体を知った松子に殺される。
『あれは只の化け物でしたよ』
松子の捨て台詞にただただ静馬が哀れでした。
返信する
本当に悪いのは誰か? (そうだい)
2023-05-04 21:01:55
 mobilis-in-mobil さま、いつもコメントをありがとうございます! すみません、今回も羊腸のごとく長ったらしい記事になってしまいました……

 まぁ、この『犬神家の一族』って、その絶大的な知名度の高さと引き換えに「誰が犯人なのか?」っていう要素をほぼ捨ててますよね。『忠臣蔵』で吉良さまが最後に討ち取られるっていうのとほぼ同じバレバレ事項ですから!

 おっしゃる通り、松子が諸悪の根源であることは確かなのですが、大竹さんが演じることで、松子が人の道を外れた背景に説得力が増していた気はしました。ただ、今回はそれのやりすぎで犬神家が家庭崩壊してしまったような……
 静馬の哀れさを強調するのも今回のドラマ版の特徴でしたが、せっかくの金子くんなので、あおい輝彦さんばりの大爆発も観たかった気はします。

 いったい誰が「化け物」なのか……今回の『犬神家の一族』は、原作の推理小説とは全く違う、非常にモダンなヒューマンサスペンスドラマになっていましたね!
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