長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

おめでとう、モナミ~  ドラマ『名探偵ポワロ』シリーズの堂々完結をうらやむ ≪7年ぶりの本文……≫

2021年09月12日 21時57分42秒 | ミステリーまわり
 いや~、ひどいもんでございますよ。
 これ、元の記事が2014年に出したやつなんですよ。7年越しの2021年にようやっと本文ってわけよ! まぁ、待ってたという超奇特なお人もそうそうはおられないだろうし、特にどうってこともないとは思うのですが。

 当時2014年3月に、あの『名探偵ポワロ』シリーズに関するあれこれをまとめてみたのは、その前年2013年にイギリス本国でついにポワロ最後の事件である『カーテン』を最終話とする第13シーズンが堂々放送されたというニュースを受けてのもので、この記事の約半年後、2014年9~10月に NHKで放送された日本語吹替え版については、放送されていないので当然まったく触れていません。まぁいずれ放送されるんだろうけど、ポワロ役の熊倉一雄さんのお歳もお歳(当時87歳!)だしなるべく早く吹替え版を作ってほしいなぁ~、と思っていたのでした。
 結局、記事を出してすぐ熊倉版の『カーテン』も無事に世に出て、日本における『名探偵ポワロ』シリーズも終わってホッと一安心とはなったのですが、まるでこのお仕事をもって肩の重い荷が下りたとでも言わんばかりに、熊倉一雄さんは翌2015年10月12日にご遠行。まさしく『名探偵ポワロ』シリーズは、私立探偵エルキュール=ポワロの生涯を描き切ったと同時に、俳優デイヴィッド=スーシェと声優・熊倉一雄にとってもライフワークとなった伝説のドラマだったのですな。スーシェさんはまだまだご健在ですが!

 んで、あそこまで資料をずらずら~っと載っけておきながら、肝心かなめの第13シーズン(というか『カーテン』)を観てないという重大な欠陥があったことと、まぁなんやかやで忙しかったこともありまして、2014年当時はついにたどり着けなかった本文に、今回やっとたどり着いたと! いや、NHK版が初放送された秋ごろに本文出せばよかったのに、そのタイミングを逃したから7年後にやっと書いたという、このザマです。

 そうなんですよ。今回突然、思いだしたかのように『名探偵ポワロ』に関するつれづれを書こうと思い立ったのは、その熊倉一雄さんがお亡くなりになった2015年10月12日の直後となる10月24日から、NHK BSプレミアムで放送が開始された『名探偵ポワロ』シリーズの「ハイビジョン・リマスター版」が、つい昨日の2021年9月12日の最終話『カーテン』放送をもって完結したことがきっかけなのです。いや~、長かったですね! 毎週土曜日夕方に1話ずつやってたから、まるまる6年かかったわけですな。途中で、ポワロが出ない全く別口のクリスティ原作ドラマとか、ジョン=マルコビッチのポワロとかもやってましたよね?
 いや~、毎週毎週、この再放送は楽しみにして観てました。ほんと、毎回毎回必ずチェックしていた唯一のテレビ番組でしたよ。それがついに昨日で終わってしまった……一体これから何を楽しみにして生きていけばよいのだ!? 来週からこの枠なにをやるんだろ。

 今回のハイビジョン再放送版は6年間も放送していたのですが、そもそもイギリス本国の13シーズン全70話(1989~2013年)も、その日本語吹替え版(1990~2014年)もおよそ四半世紀もの歴史があったわけですから、そこから見ればかなりの駆け足でスーシェポワロの生涯を(おもに定年後の後半生ですが)堪能するという幸せな時間なのでございました。1930~40年代のアール・デコ美術、落ち着いた俳優たちの名演対決、クリストファー=ガニングのオシャレすぎるテーマ曲、もう最高の休日~!!
 ちょうど折も折、私が実家の山形に帰ってきて現在の生活を始めたのが2015年だったので、NHK版の初放送時に見逃していたエピソードも含めて、ほぼ全てのポワロ探偵譚を楽しむことができました。1990年代まで放送されていた約50分の短編エピソードはなつかしく軽快、それ以降の最終話まで続く約100分の長編エピソードは濃密なドラマと老いたるポワロの寂寥感たっぷり……リアルにお歳をとっていくスーシェポワロの魅力の変遷を観るだけでもう充分! 正直、肝心の原作のおもしろさがイマイチだったとしても、まぁまぁスーシェの立ち居振る舞いやゲストヒロインの美しさを眺めるだけで合格点はいけるというとてつもないドラマシリーズなのでした。
 それで、計画通りに主要な原作はほぼ全部無事に映像化しおおせてるんだもんなぁ~!! ほんとにうらやましい、うらやましい!! なにはなくとも、私はグラナダ版『シャーロック・ホームズの冒険』シリーズ(1984~94年)の信奉者なんですから、うらやましいったらないよコンチクショ~!!
 なにがうらやましいって、挙げればたくさんあるんですが、特に素晴らしいのは以下の3点ですよね。

・原作小説をさらにおもしろくしながら放送時間に収めるアグレッシブな姿勢と、その成功率の高さ
・主演スーシェの心身ともに健康な演技
・最終話『カーテン』への収束を意識した、シリーズを通底する計画性の高さ

 うらやましいよ……これらぜ~んぶ、グラナダホームズで欲しかったやつ! でも、かなわなかった……

 原作小説をさらにおもしろく、という点で、ほんとに感心して私も画面を観ながら「うをを!」と思わずうなってしまったのは、なんと言っても第56話『葬儀を終えて』(2006年 第10シーズン)のクライマックスにおける犯人の「あの行動」でしたね! いや~あれはすごかった!!
 あの振る舞い、原作小説にはぜんぜん無くて、ポワロに犯行動機を言い当てられたことに半ば満足したような落ち着きをもって退場するはずだったのですが、まさか、あの場にいた人全員が凍りつくような、あんな感じのオリジナルアレンジをブッこんでくるなんて……あれをもって、犯人もまた、自分が計画的に作り出したはずの犯罪に、逆に心を蝕まれてしまった犠牲者なんだな、というサイコサスペンスな味わいを見事に残しているんですよね。トリックもよくよく想像すれば噴飯すれすれなアブないワンアイデアものなのですが、もう一度、いや何度でもドラマを最初から観返してみたくなる犯人役の方の凄絶な演技でした。
 もっと言うと、あの時の犯人の演技を、本人のしゃべる原語版と日本人の声優さんの吹替え版とで見比べてみたのですが、淡々とリアルに演じている原語版よりも、ややオーバーにキャラクターを誇張している吹替え版のほうが数倍こわかったです。いろんなおもしろ要素があるので軽々には言えないのですが、私個人としては、『名探偵ポワロ』シリーズのベストエピソードは、やっぱりこの『葬儀を終えて』と、同じくクライマックスでの犯人の立ち居振る舞いに、その人の業がまとわりつきすぎている第50話『五匹の子豚』(2003年 第9シーズン)の2作が同率トップでしょうか。いや~すごすぎる。
 いろいろ、100分の枠におさめるためのアレンジ&簡略化がきつすぎるとか、同性愛などの現代的な問題の盛り込み方が強引だとかいう批判もあるかとは思うのですが、果敢なチャレンジだと思うし、現に成功率も高かったような気はしています。はぁ~、グラナダホームズも、後期の長編ものはチャレンジはしているんですけれども、成功かというと、それは……でもでも、私がいちばん好きなグラナダホームズのエピソードは『サセックスの吸血鬼』ですよ! いや、ホントホント、無理してないってば!!

 あとはもう、もちろん42歳からポワロ役を始めて最後は67歳になっていたわけですから、スーシェさんも相応にお歳を重ねてはいたのですが、ポワロ自体がもう本業(警察官)を定年退職した後の私立探偵業ですから、そんなに激しいアクションがあるはずもなく、かなり肉体的&精神的な余裕をもって計画的かつ健康的にポワロの「老い」と「死」を表現しきることができた点に、このシリーズの幸運があったのではないでしょうか。裏方の制作に関しては相当な紆余曲折があったようなのですが、スーシェポワロがいるんだから大丈夫!という安心感は絶大だったのではないでしょうか。スーシェさんより20歳も年上の熊倉一雄さんも、さすがにシリーズ後半は滑舌に多少の変化こそありましたが、演技に支障が出るという程ではなかったかと思います。人間、やっぱり健康が第一だ!!
 満を持して完成したスーシェ版『カーテン』は、24年も続いたシリーズの最終話というよりは、ひとりの天才ポワロが、ついに「生身の人間」となってその生涯を終えたという原作『カーテン』をかなり忠実に映像化したという点が強く、せっかく最終シーズンで再集結したジャップ警部もレモンさんも、オリヴァ夫人も登場することなく、きわめてしめやかに放送されました。もちろん、ヘイスティングズとの別れはしっかり描かれているのですが、あの最後の事件の犯人が末期に見せた表情は、ポワロ最後の事件が決して勝利で終わったものではないことを如実に示しています。後味がよくないんですよね!
 ただし、ポワロの大いなる苦悩は『カーテン』にいたるまで様々なエピソードでその伏線が張られており、特にあの第64話『オリエント急行の殺人』(2010年 第12シーズン)なんかはその最たるもので、1974年の絢爛豪華な映画版を知っている人にとっては、なんでそんなに辛気臭くすんの!?という暗さと深刻さに満ち満ちていたと思います。でも、『名探偵ポワロ』シリーズとしては絶対に避けられない選択だったんでしょうね。後期エピソードに共通している、徐々に老いていくポワロを丁寧に見つめる描写こそが、最終話『カーテン』へと通ずる確とした伏線だったわけなんです! 『北の国から』の黒板五郎みたい!!

 われらがグラナダホームズもそうでしたが、天才探偵が快刀乱麻を断つスタイリッシュな前期が良いか、それとも人間として老い、他人を裁くという行為に探偵が苦悩する重厚な後期が良いか。同じシリーズでありながらも味わいが全く違う部分が出てくるのが、上質な長期ドラマシリーズの魅力なんですよね!

 第65話『複数の時計』(2011年 第12シーズン)で、ポワロの「ワトスン役」が、あのデイヴィッド=バーク(グラナダホームズの初代ワトスン!)の息子トム=バークだったり、特別ゲストでデイヴィッド=バークや2代目ワトスンのエドワード=ハードウィックが出たり、ジェレミー=ブレットの元嫁さん(アンナ=マッセイ 『フレンジー』)が出たりと、『名探偵ポワロ』シリーズは、まるで「グラナダホームズを偲ぶつどい」のような様相も呈していました。うれしすぎるサービス!
 先述した『葬儀を終えて』では、グラナダホームズシリーズでも随一の鬼畜っぷりを誇る殺人鬼グルーナー男爵を演じていたアンソニー=ヴァレンタインが、陽気なイタリア人のおっちゃん役で出てきていたし、ネタバレになるので名前は出せませんが、第63話『ハロウィーン・パーティ』(2010年 第12シーズン)では、ある人によるグラナダホームズのファンならば思わず爆笑してしまう演技がクライマックスで炸裂してしまいます。「おいおい、この人またおんなじことやってるよ~!!」みたいな。でも、本人はふざけてるつもりでなく100%本気で演じてるからいいんですよね。ダチョウ倶楽部みたいな伝統芸能的名演技。

 デイヴィッド=スーシェの『名探偵ポワロ』シリーズ、語りたいことはもっとも~っとタケモットあるのですが、ともかく、この奇跡の傑作群を世に出した製作スタッフ陣に大いに感謝したいと思います。大人のドラマづくりを最後まで貫いてくださったその姿勢に、敬礼!また再放送してくださ~い!!

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