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長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

ヨーロッパの映画なのになんでこんなに気持ち悪いの!? 『薔薇の名前』  後段

2012年10月08日 14時24分51秒 | ふつうじゃない映画
 どうもこんにちは! そうだいでございます~。今日も寒い秋の休日になりましたなぁ……もうそろそろ、半袖ものも片づけちゃっていい頃合いなんでしょうか。

 いや~、最近のニュース、「他人のパソコンをウィルスで乗っ取り犯行予告メール」ね。
 できる技術はもうとっくの昔に発見されていたんでしょうが、こう実際に世間を騒がせる事件に発展してしまうと、なんちゅうか……

 21世紀よねェ~。

 いや、私もこうやってオッサンはオッサンなりにパーソナルコンピウタを使用している者なので対岸の火事ではないわけなのですが、いよいよ『攻殻機動隊』みたいな世の中になり始めてきたってことなんでしょうか。でも、『攻殻機動隊』の世界って確か、物語がスタートする前に「第3次世界大戦」みたいな大戦争があったっていう設定ですよね……それだけは真っ平御免こうむります。

 でも、やっぱあれですよね。よく、「いざ21世紀になってみたら、SF映画とかマンガみたいな感じじゃなくてフツーだよね。」とかっていう声も耳にしますけど、西暦2000年という21世紀最後の年だって、すでに10年以上昔の時代なんですよね。

 他人のパソコン乗っ取り犯罪でしょ、スマートフォンでしょ、超薄型ハイビジョンテレビでしょ、自動掃除ロボットでしょ……
 なんだかんだ言って、けっこう21世紀21世紀してますよね。こういう感じで、来たるべき2020年代もたぶん、新しいなにかがいつの間にか生活に入りこんでくるんでしょうねぇ。楽しい未来であるといいですなぁ~!


 さてさて、そんな世間の未来派野郎なニュースはここまでにしておきまして、我が『長岡京エイリアン』は今日も今日とて、20世紀に制作された、14世紀のヨーロッパ世界を舞台にした宗教哲学ミステリー映画のことをつづっていきたいと思います。ふるくさ~!!
 いやいや、でも、この映画はいちがいに「古臭い」とも言えない、時代を超えた魅力に満ち溢れている作品なんですなぁ。時代をへても色あせないオンリーワンというものは、「真似できない特有の空気」を持っている。こういう、当たり前だけどなかなか実現することが難しいポイントを如実に示しているのが、この映画『薔薇の名前』なのです。

 この映画版の『薔薇の名前』にかんする情報は、あらかた先回の前段にまとめたので繰り返さないのですが、私自身、この映画はごく最近に初めて観ておもしろかったから今回のテーマにした、ということなのではなく、10年以上前から大好きで大好きでしかたない、他の作品にはかえられない思い出と愛着を持っています。

 そもそも、私は小学校時代からミステリー小説というジャンルに味を占めていた薄気味悪い子どもだったのですが、小説から、それを映像化したミステリー方面の映画や TVドラマもこの目で観てみたいという欲求に駆られることは当然の流れでした。いうまでもなく、そのあらわれの主流が以前にも取りあげた「金田一耕助シリーズ」とか「明智小五郎シリーズ」とか、それからずいぶん昔にちょっとだけ触れた「イギリスのグラナダTV 版のシャーロック=ホームズ・シリーズ」であるわけです。「グラナダ・ホームズ」の話題は、ぜひともまた改めて本腰を入れてやってみたいですねぇ! 新しいホームズシリーズは映画にドラマに(日本ではとんでもないアニメにも)始まっているというのに、なぜ今さらグラナダ!? でも、そこが『長岡京エイリアン』品質。消費期限キレッキレです。

 まぁそんな呪わしい青春を送っていたわたくしだったのですが、確か当時、文春文庫から出版されていた『読者が選ぶ世界のミステリー映画ベスト100 』みたいな本を手に入れて、それをテキストにレンタルビデオ店に通いつめて名作映画の数々を観ていくという、ベタでピュアな日々をすごしていました。勉強もしろよ!

 ただねぇ、ここで問題になるのが、「なにをもってミステリーとするのか」ということなんですよね。
 当時から、私はミステリー全体が好きではあるものの、その中では特に「読者も推理すれば犯人を当てることができる事件解決もの」という、いわゆる「本格もの」ミステリーが好きでした。でも、それだけがミステリーというジャンル全体を占めているわけではないのです。

 現に、私が愛読したその文春文庫版の『ベスト100 』は、ランキングの上位のほとんどを「ヒッチコックのスリラー映画」が占めていたり、『007 シリーズ』(1962年~)や『恐怖の報酬』(1953年)や『フレンチ・コネクション』(1971年)や『ゴッドファーザー3部作』(1972~90年)がランクインしていたりしたのです。コン・ゲームものの大傑作といわれる『スティング』(1973年)もあったかしらねぇ。その本自体は10年以上前に実家に置いてきてしまったので私の手元にはなく確たることは言えないのですが、たしかあれ、『ジョーズ』(1975年)もランクインしてましたよね!? 『ジョーズ』ってあんた、サメが犯人に決まってるじゃねぇかァ!!

 要するに、「観るものをドキドキさせる展開と驚きのラストを用意している映画」、これがこの本での「ミステリー」の基準となっていたわけなのです。当然そこには、私の愛する「本格もの」だけでなく「スリラー」も「サスペンス」も「冒険」も「サイコホラー」も入っていたということだし、私もそれは正しいことだと思います。そのうちのどれかだけに限定ってことになっちゃうと線引きが難しいし、つまんなくなっちゃうから。
 ただ、そうなっちゃうと、「本格もの」の名作映画がいかに少ないかってことが目立つんですよね。日本では『犬神家の一族』(1976年)とか『悪魔の手毬唄』(1977年)といったあたりがランクインされていたのですが(実相寺昭雄監督の明智小五郎シリーズはまだ始まっていなかったと思います)、世界広しといえども、洋画で「本格もの」の作品がランクインされていたのは『オリエント急行殺人事件』(1974年)くらいしかなかったんじゃないでしょうか。「本格もの」とは言えないのですが、物語全体に「大きな謎」がわだかまって、クライマックスに衝撃的でありながらも非常に論理的なラストが襲いかかってくるという点では、『悪魔のような女』(1955年)も見逃せませんね。

 そういう感じの中で、私の頭に強烈なインパクトを刻み込んでくれたのが、かの『薔薇の名前』だったというわけ。

 「なぬなぬ、『中世ヨーロッパの閉鎖された修道院で発生する謎の連続殺人事件にショーン=コネリー演じる名探偵がいどむ』!? 洋画には珍しいどストライクの本格ものでねぇが。これはどうにがして観でぇな。」

 こういう思いをいだいた当時の私でしたが、なぜか行動範囲の中にあるレンタル店ではどこに行っても『薔薇の名前』が置いておらず、結局、私が作品そのものを観るのは数年後、千葉に引っ越してからに持ちこしになってしまいました。

 いや~、うれしかったですね、新宿の TSUTAYAでこれの VHSビデオを見つけて買ってきたときは。あの伝説の作品がついに解禁! みたいな。15年ちかく昔、首都圏での生活の何もかもに驚きの感情を隠せないでいた、挙動不審な「EVERYDAY おのぼりさん」だったころのことです。

 そして、その時に私が目の当たりにした『薔薇の名前』の世界は、数年ごしの初見で自分の中での「名作ハードル」が最高レベルに高くなっていたのにもかかわらず、それを悠々と、陸上走り高跳び競技でいう「はさみ跳び」の要領で跳び越えるクオリティを誇っていたのです。「背面跳び」でも「ベリーロール」でもなく「はさみ跳び」でよ!? 超よゆー!!

 映画『薔薇の名前』は、先ほども言ったとおりに「閉鎖された場所で発生する謎の連続殺人事件」というかっこうのミステリー仕立てになっており、「意外な真犯人」「意外な凶器」「意外な犯行動機」と三拍子がしっかりそろった、本格ものファンにとってはたまらない作品になっています。しかも、この事件が「中世ヨーロッパの修道院で発生する」ということの意味と説得力がちゃんとあるわけなんですよ。金田一耕助シリーズの傑作『本陣殺人事件』もそうでしたが、その時代にその事件が発生する悲劇性みたいなものが強くうち出されている作品というものは、なにか時間や社会を超えたルールの存在と、それに対しての人間のどうしようもない小ささみたいなものを感じさせるものがありますよね。


 『薔薇の名前』のミステリー作品としてのおもしろさは、それだけに限定しても1回分の内容になってしまうような豊かさを持っているのですが、そっちのほうは今回はここまでにしておきまして、いっぽうでの「映画作品としての魅力」について、ここからは考えていきたいと思います。こっちもちゃんと成立してなきゃ、後世に名を残す名作映画にはならないんですよねェ~!

 映画『薔薇の名前』の魅力。それはもうなんと言いましても、以下のような言葉に集約できるのではないでしょうか。


アメリカとヨーロッパ、大西洋と国境を越えた「実力派ものすごい顔アクター」たちの競演!!


 ベタな観点になっちゃうんですけど、やっぱりこのポイントは見逃せない。

 先回のスタッフとキャスト陣の国籍を見てもわかるように、この作品には本当に多くの国籍の方々が関わっています。
 だいたいの感じをざっくり解析するのならば、まずドイツの国際派プロデューサーであるアイヒンガー氏が「アメリカのハリウッド級のクオリティを持った大作映画」の企画を立ち上げ、すでにハリウッドで活躍していたアノー監督の起用からコネリー、エイブラハムといった大スターのキャスティングまでをおこない、アノー監督の母国であるフランスの歴史学者ルゴフが詳細な時代考証を練り上げ、イタリア伝統の映画界を中心としたスタッフがあのリアルな修道院セットなどでの撮影を敢行したと、こうなりますでしょうか。

 キャストの中にはこれら西欧諸国とはちょっと毛色の違う国出身の俳優さんもいらっしゃるのですが、紅一点のチリ出身のヴァレンティーナさんと、「高田純二さんから2割ぶん『男前』を抜いてかわりに『ディズニーアニメ風味』を入れたような顔つき」で有名なラトビア出身のイリヤ=バスキンさんはすでにアメリカで活躍していてオーディションに合格した方々です。
 「70代で俳優デビュー」という、本編での外見と同じくらいに異色のプロフィールを持っていたフョードル=シャリアピンJr さんはその名の通り、20世紀前半に世界を股にかけて活躍したオペラ歌手のフョードル=シャリアピンの息子だったのですが、1921年にその親父さんがソヴィエト連邦からフランスに亡命したため、16歳のころはからずっと西欧で生活されていたようです。数奇な運命ね~。


 ところで、今回のブログにこの『薔薇の名前』を取りあげた直接のきっかけは、私が最近になってやっと DVD版のソフトを購入したことでした。うちのテレビデオはすでに数年前に物故していたため、いいかげんにそろそろ『薔薇の名前』も観たくなってきちゃったなぁ、と思い立っての買い物でした。
 そして今さらながら改めて感じたんですけど、 DVDは VHSにはない特典映像がいぃ~っぱい!! 2012年も後半に入ったという時期におめおめとこんな発言をしているわたくしって……バカ?

 つまり、画像がよりクリアになった本編はもとより、私が手に入れた DVD版の特典映像には「公開当時に制作されたドイツの TV局による撮影背景ドキュメンタリー番組」と、「アノー監督によるオーディオコメンタリーとインタビュー」が収録されていたわけなのです。も~サービス特盛り!

 そんなわけだったので、すでに映画本編の中での映像マジックに心酔していた私は、今回の DVD購入によって「舞台裏から見た『薔薇の名前』」といったあたりも初めて知ることとなり、思いを新たにするようになったのでした。

 そして、これらの映像特典を観て「やっぱりそうだったのか……!!」と最も強く再認識したのが、アノー監督の「ものすごい顔の役者さん重視体制」なんですよ。

 もしかして、まだこの映画『薔薇の名前』をご覧になっていないうちにこの文章を読んでいる方って、いますかね?
 いるとしたら、声を「音量 MAX」にしてこう叫びたいです。「いいから観て! 出てくる役者さんの顔がいちいちすごいから!!」と。

 もちろん、磐石の作品世界と役者自身の強固な演技力がなければ、「ヘンな顔」というものはただ悪目立ちするだけで物語に集中することに支障をきたしかねない邪魔な要素になってしまいます。しかも、本来ならば主要な部分は若々しい二枚目や美女でかためてワンポイントリリーフにお笑い役をさしこむというのが大方のセオリーなのですから、「ヘンな顔のおっさん俳優」を多量に投入するという手段は大きなリスクをともなう賭けになってしまうと断言してしまってもいいでしょう。

 しかし、その賭けにアノー監督は打って出た!!

 この物語の主人公である名探偵ウィリアムと助手のアドソくんは、ここはまぁやっぱり観客の感情移入を考慮してか、50代も半ばに入って渋みの増したショーン=コネリーと、一方で本格的な銀幕デビューとなる10代ピチピチのクリスチャン=スレーターが演じています。この2人は当然ながら二枚目と言ってさしつかえないわけなのですが、どちらも申し分ない演技力を作品の中で発揮しています。クリスチャンさんは子役出身ですから。まぁ、2012年現在の状況はかなりアレですけど……

 ところが! 安心できる顔つきはこの2人と「名もなき村娘」役のヒロイン(外見がリアルに小汚いけど……)ヴァレンティーナさんにとどまり、それ以外の修道院の面々はまぁ~すごいすごい。
 絶対に何かくわだてている修道院長、盲目で両目が真っ白ににごっている老師、ガリガリに痩せて常に上から目線で人を見くだしている図書館司書、丸々とふとって肌は蒼白、しかも頭髪も眉毛もまったく生えていないという「人間白玉だんご」みたいな副司書。そして、修道院の外には原始人みたいな顔で背中にコブのついた知恵の足りない下僕がうろうろ!

 とんでもない修道院です。これで殺人事件が起こらないほうがおかしい。こういう状況で『らき☆すた』みたいな日常あるあるコメディしか展開しない映画であるわけがないんです。いや、そんなやつもあったら観てみたいけど。

 中でも、私はやっぱり真っ白けっけの副司書ベレンガーリオを演じたマイケル=ハーベックさんと、下僕サルヴァトーレを演じたロン=パールマンさんに注目したいですね。
 ロン=パールマンは現在でもハリウッドで大活躍している「すごい顔」界最高峰の役者さんであるわけなんですが、その長いキャリアの中でも、やっぱりこのサルヴァトーレ役はひときわギラッギラに輝いていると言っていいでしょう。愛さずにはいられないバカさと、実は異端派の信仰に手を染めているという禍々しさとを両立させている演技には脱帽ものです。「役者さんじゃなくて、この人……ホントにアレな人?」と思わせてしまう容貌がものすごいです。これほどまでに「ネズミが大好物」という情報にリアリティを持たせられる俳優さんがいるでしょうか。

 いっぽうで、気持ち悪いにもほどがある白玉だんごを演じたハーベックさんもまったくひけをとってはおらず、「修道院の図書館」という本作最大のキーワードゾーンに隠された重大な秘密を握りながらも、物語中盤で事件第3の被害者として驚くべき死にっぷりを遂げてしまうその姿は、観る者に強い印象を刻み込んでくれます。
 そしてあの、ある意味で『薔薇の名前』最大のインパクトともいえる、物語の前半になんの前ぶれもなく挿入される「深夜に自分ムチ打ち100回をやっているベレンガーリオ」のシーン!!
 もちろん、これは趣味ではなく「なんらかの良心の呵責を背負っているベレンガーリオ」を描写している重要なヒントでもあるわけなのですが、その後にベレンガーリオ本人が被害者となってしまい、名探偵ウィリアムも特になんの推理も加えないでスルーしてしまっているため、この自分ムチ打ちシーンは完全なる「ベレンガーリオのやりすぎ」みたいな感じになってしまっています。

 こういった感じで、はっきり言って「ふだんの20世紀の社会でちゃんとやっていけているのかが他人事ながら心配になってしまう」お2人であるわけなのですが、オーディオコメンタリーの中で、アノー監督は彼らを俳優としても人間としても激しく絶賛しています。
 同時に、ロン=パールマンは背中のコブにちょっと鼻を大きく見せるメイク、マイケル=ハーベックは頭髪と眉毛を剃るという処置を施してはいるものの、他の俳優さんも全員含めて、なるべくそれぞれの顔をそのまま作品に生かすことによってそれぞれのキャラクターを強調させることを狙っている、ということも明言していたのです。

 確かに、よくよく考えてみると、『薔薇の名前』の登場人物はほとんど全員、いつ何時でも黒かベージュ色の没個性な修道服に身を包んでいます。これはまったくもって当時の中世キリスト教世界では至極当然のことで、坊さん1人1人の個性を大事にする、なんていう宗教団体は現代の日本でもそうそうないでしょう。
 つまり、普通の映画のように衣装でキャラクター分けができない以上、『薔薇の名前』が顔や挙動重視の人選になることはごくごくまっとうな判断だったというわけなのです。もっともやわ~。

 余談ですが、『薔薇の名前』の中ではあんなに気持ち悪かった白玉だんごのハーベックさんは、ふだんの俳優としてのプロフィール写真を検索してみると、白髪にひげにふくよかな笑顔の似合う、とっても人のよさそうなおじさんでした。昨年に亡くなられていたのが残念で仕方ないのですが、本国ドイツでは俳優の他に声優としても著名な方だったようです。やっぱり頭髪と眉毛って、けっこうその人の印象をはかるうえで重要な要素なのねェ~。

 そのほか、映像特典の中には、「聖歌の歌唱シーンのために歌唱指導を受ける国際ベテラン俳優たち」というひとこまもあり、ハリウッドのコネリーとフランスのマイケル=ロンズデール(この方は仏英ハーフ)とドイツのフォルカー=プレシュテルと例のシャリアピンJr おじいちゃんというとんでもない顔ぶれが、みなさん揃って裏声を出しながら苦戦しているというほほえましい国際交流のもようも展開されていました。聖歌は唄うの難しそうですねぇ!

 今回のような撮影オフ時の俳優の姿というものは、実は本編と同じかそれ以上に興味深い味わいを持っているものが多くて、たとえばあの、『薔薇の名前』とならび立つ「怖い顔無双」映画として知られるスタンリー=キューブリック監督の至宝『シャイニング』(1980年)でも、鼻歌を唄いながらひげをそり、上機嫌なステップでスタッフに「ようっ☆」とか声をかけながら撮影現場に向かう舞台裏でのジャック=ニコルソンの姿がとらえられている特典映像を観てしまうと、たとえようもない幸せなお得感におそわれてしまいますね。その切りかえ力のハンパなさ!!

 ただ、このような「作品外」のギャップの大きさを感じるにつけて改めて認識してしまうのが、そこまでのギャップを作りうる「作品内」のマジックの完璧さなんですよね。

 『薔薇の名前』の場合で言うのならば、それはもうあの中世ヨーロッパの修道院という「結界」の強さでもあるわけです。あそこの中にいる坊さんたちは全員、アノー監督がヨーロッパ中にエージェントを派遣して集めてきた名もなき俳優たちであるそうなのですが、セリフのない役1人1人にいたるまで、それぞれの顔が語る情報量がものすごいです。20人くらいの人数がひしめいている図書室のシーンなんかもう、マンガみたいな顔の大図鑑ですよ! でも、それが単なる「ヘン顔の集合」ではなく、「奇怪な事件の容疑者たちの視線の飛び交うさま」にちゃんと見えているのだから素晴らしい。もちろん、そこには映画の撮影のために修道服を着ている20世紀の俳優という実情を思い起こさせるスキはまったくありません。みなさん、カメラの中では見事なまでの中世人になりおおせているのです。

 『薔薇の名前』の撮影現場の時代考証完璧主義を物語るエピソードのひとつとして、アノー監督のオーディオコメンタリーで語られているのが、この映画の音声がほぼ100% 「アフレコ」で録音されている、という事実です。
 これはまたどうしてなのかといいますと、国際的な映画美術家であるダンテ=フェレッティがヨーロッパ中の現存する修道院やそれに関する史料を研究し、腕によりをかけて作り上げたあの映画の中の修道院は、予算の許すかぎり中世当時の建材や建築工法を活用した大規模なセットでした。そのため、床もしっかりと木造になっていたということで、映画のスタッフや撮影カメラなどの重い機材が移動するたびにギッチギッチと板のきしむ音が響きわたってしまい、室内シーンでのセリフの同時録音は不可能という状況になっていたのです! やりおるわい。

 それに加えて、修道院のセットは撮影時期が秋から冬にかけてだったために日を追うごとに寒くなっていったものの、現場に20世紀レベルの暖房器具が持ち込まれることは禁止されており、役者さんたちは粗末な僧服(粗末と言っても、その粗末な服の作り方は現代ではかなり貴重な伝統技術になっていたため服そのものは非常に高価)に、サンダルかうっすい革靴をはだしで直ばきという大変厳しい現場になっていたのだそうです。
 もちろんこれも、「当時の寒さを実感していなければ中世の物語なんて再現できるわけもない!」というアノー監督のこだわりでした。実際に、監督は事前のオーディションでも、特別な暖房な医療器具などを用意しなければ撮影に入れなかった当時の大御所俳優からの出演希望の申し出を断っています。なんという体育会系な現場か!

 そのほかにも、撮影中から現場で盗難事件が続出したという、中世伝統の技術で製作された100% 本物の羊皮紙による宗教書、日常の小道具、門を装飾する聖邪さまざまな偶像彫刻など、この映画の背景美術に賭ける気合いは生半可なものではありません。
 でもそれは、すべてに万全を期すつもりではあったものの、スケジュールと予算の都合でアノー監督がしぶしぶセットに入れてしまった「中世らしくないある彫像」たった1つのために、映画公開後に全世界から2000通ほどの抗議を受けてしまったというエピソードが示すとおり、『薔薇の名前』という世界的なベストセラーの満を持しての映画化、そして、現代の西欧諸国の共通のルーツと言ってもいい世界を描くということの重大さを十二分に理解した上での、製作スタッフ側のプロとしての覚悟のあらわれだったのです。このくらいに規格外な執着を持たなければ、名作は生まれないんですねぇ。


 これは、人をアッと言わせるミステリー小説ならばよくあることなのかも知れませんが、衝撃のトリックというものはフタを開けてみれば意外に単純明快なものが多く、映画『薔薇の名前』の連続殺人事件の真相も、観る人によっては「えぇ~、そんなことで殺すの?」「オレだったら、その凶器にはひっかからないけどなぁ。」などという思いをいだくものであるかも知れません。

 しかし、とてつもないスタッフたちの気合いと役者陣の本気によって映像化された中世修道院の世界のリアルさは、そのあたりのフィクションの荒唐無稽さを見事にカヴァーしてあまりある魅力に満ち溢れているのです。ミステリー映画でありながらそこだけに頼らない別の見どころをふんだんに用意している。その大盤振る舞い感が、いいんですよね~。


 映画『薔薇の名前』は、やっぱりいい!!

 ところで、アフレコ映画になったもうひとつの理由としては、あの修道院セットがイタリアのローマの市街地から車で10分ほどの距離しかない場所に建てられていたために、近くを通る高速道路の車の音がうるさくてしかたなかったから、ということもあったのだとか!
 えぇ~、あの現場、そんなに現代っぽい場所だったんすかぁ!? 完全にだまされておりました……あんな映像の雰囲気を見たら、そりゃあもう山の中の電気もひいてない陸の孤島みたいな土地しか想像できませんよね。役者の皆さんはローマのホテルからあの修道院にかよっておられたそうです。意外と都会っ子。

 ウソの世界をウソっぽくなく作り上げるのがフィクション。こんな基本中の基本を楽しく教えてくれるのが、この映画『薔薇の名前』なんですね。おっもしれぇなぁ~、やっぱ!
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ヨーロッパの映画なのになんでこんなに気持ち悪いの!? 『薔薇の名前』  前段

2012年10月04日 15時00分47秒 | ふつうじゃない映画
 どうもこんにちは! そうだいでございまする~。

 あの~、今回は大好きなある映画のことについてをつぶやこうかと思っていたんですが……
 この映画、前置きの情報が多すぎる!

 ということで、まずはいろんな情報をのっけるだけでいったんおいて、詳しいつれづれは次回に持ち越させていただきたいと思いま~っす。
 調べものだけで、なっがいなっがい!!


映画『薔薇の名前』(1986年9月24日公開 フランス・イタリア・西ドイツ合作 131分)

監督   …… ジャンジャック=アノー(42歳 フランス)
原作   …… ウンベルト=エーコ
脚本   …… アンドリュー=バーキン(40歳 イギリス)他
美術   …… ダンテ=フェレッティ(43歳 イタリア)
撮影   …… トニーノ=デリコッリ(63歳 2005年没 イタリア)
音楽   …… ジェイムズ=ホーナー(33歳 アメリカ)
製作   …… ベルント=アイヒンガー(37歳 2011年没 西ドイツ)
時代考証 …… ジャック=ルゴフ(62歳 フランスの中世歴史家)

おもなキャスティング
バスカヴィルのウィリアム      …… ショーン・コネリー(56歳 アイルランド)
メルクのアドソ(ウィリアムの弟子) …… クリスチャン=スレーター(16歳 アメリカ)
修道院長アッボーネ         …… マイケル=ロンズデール(55歳 フランス)
盲目の老師ブルゴスのホルヘ     …… フョードル=シャリアピンJr (80歳 1992年没 ソヴィエト連邦)
修道士マラキーア(図書室司書)   …… フォルカー=プレシュテル(45歳 1997年没 西ドイツ)
修道士ベレンガーリオ(図書室副司書)…… マイケル=ハーベック(42歳 2011年没 西ドイツ)
修道士レミージオ(物資係)     …… ヘルムート=クヴァルティンガー(57歳 同年没 オーストリア)
レミージオの下僕サルヴァトーレ   …… ロン=パールマン(36歳 アメリカ)
修道士セヴェリーノ(薬草係)    …… イリヤ=バスキン(36歳 ラトビア)
フランシスコ会の老師ウベルティーノ …… ウィリアム=ヒッキー(59歳 1997年没 アメリカ)
フランシスコ会の指導者ミケーレ   …… レオポルド=トリエステ(69歳 2003年没 イタリア)
フランシスコ会の修道士ヒュー    …… ヴァーノン=ドブチェフ(52歳 イギリス)
ベルトランド枢機卿         …… リュシアン=ボダール(72歳 1998年没 フランス)
名もなき村娘            …… ヴァレンティーナ=ヴァルガス(21歳 チリ)
異端審問官ベルナール=ギー     …… ファリド=マーレイ=エイブラハム(46歳 アメリカ)

※『愛人 ラマン』(1992年)、『スターリングラード』(2001年)などで知られるジャンジャック=アノーの監督第3作
※イタリアの哲学者で中世研究家のウンベルト=エーコ(1932年~)が1980年に発表した処女長編小説を原作とする
※エーコの原作では、現代の中世研究家(エーコ本人?)がアドソの残した手記を発見したことから物語が始まる
※作中の登場人物ホルヘは、エーコが強く尊敬しているアルゼンチンの盲目の作家ホルヘ=ルイス=ボルヘス(1899~1986年)をモデルにしているといわれる
※日本では翌1987年12月の劇場公開
※映画の撮影はイタリアのローマ郊外や撮影都市チネチッタなどで行われ、修道院の内装の一部は西ドイツ中部に現存するエーベルバッハ修道院を改装して撮影された
※ CMディレクター出身のジャンジャック=アノーは1976年に映画監督デビューしており、2作目の『人類創世』(1981年)ではセリフのいっさいない長編映画を監督した
※脚本を担当したアンドリュー=バーキンは歌手のジェーン=バーキンの兄で、本作にはフランシスコ会修道士の1人として出演もしている
※中世カトリック世界の再現を担当したダンテ=フェレッティは、『ドラキュラ』(1992年)や『スウィーニー・トッド』(2007年)などでも活躍している国際的な映画美術家
※撮影監督のトニーノ=デリコッリは第2次世界大戦以前から活躍していたイタリア映画界のベテランで、ピエルパオロ=パゾリーニやフェデリコ=フェリーニの監督作品にも数多く参加していた
※音楽のジェイムズ=ホーナーは『タイタニック』(1997年)や『アバター』(2009年)なども担当したジェイムズ=キャメロン監督作品の常連で、『薔薇の名前』と同年の1986年には『エイリアン2』の音楽も担当していた
※製作のベルント=アイヒンガーは『ネバーエンディング・ストーリー』(1984年)、『ヒトラー 最後の12日間』(2004年)、『バイオハザード』シリーズ(2002~10年)なども手がけていた国際的映画プロデューサーだった
※異端審問官ギーを演じたファリド=マーレイ=エイブラハムは、1984年の『アマデウス』で主役のアントニオ=サリエリを演じて一躍有名となっていた
※アッボーネ修道院長役のマイケル=ロンズデールは、1973年の『ジャッカルの日』でのクロード=ルベル警視役でも有名
※アドソ役のクリスチャン=スレーターは TVドラマの子役として活躍しており、前年に映画俳優デビューしたばかりだった
※修道士レミージオを演じたヘルムート=クヴァルティンガーはオーストリアの国民的な喜劇俳優で歌手だったが、『薔薇の名前』の撮影時にはすでに肝硬変の闘病中であり、本作の公開直後の1986年9月29日に死去したため、『薔薇の名前』が遺作となった
※ホルヘ役のフョードル=シャリアピンJr は70代で俳優デビューしたという映画界ではほぼ無名の人物だったが、「有名な俳優をホルヘ役に起用したくない」というアノー監督の意図に沿ったものだった
※ベルトランド枢機卿役のリュシアン=ボダールは俳優ではなく著名なジャーナリストなのだが、演技のしろうととはとても信じられないナイスヴォイスを披露している
※映画の中で会話に使われる言語は英語で統一されている


 ショーン=コネリーさんって、2006年に俳優業を引退されてたんだ……知らなかった。まだまだやれると思うんだけどなぁ~。若山弦蔵さんも現役なんだし。


『薔薇の名前』の作品世界 …… 1327年のイタリア北部のカトリック修道院
・この時代、カトリックの総本山である教皇庁はフランス王国の干渉によって王国領内のアヴィニョン(フランス南部)に遷都させられており、もともと教皇庁のあったローマはフランス王国と対立する神聖ローマ帝国(ドイツ)によって占領されていた
・物語の主人公であるウィリアムとアドソはフランス王国およびアヴィニョン教皇庁の特使として修道院を訪れており、のちに修道院に参集する教皇庁使節団と、神聖ローマ帝国の息のかかったフランシスコ派修道会との「清貧論争」の調停をつとめる目的があった
・清貧論争とは、ざっくり言えば「キリスト教を布教する者が蓄財していいのかどうか?」という論争であり、突き詰めれば強大な権力を有する教皇庁の存在そのものに疑問を投げかける大問題だった
・登場する異端審問官ベルナール=ギーは実在した人物だったが(1261?~1331年)、『薔薇の名前』で描写されるような拷問や火刑を好む冷酷な異端審問官ではなかったらしく、フランス南部のロデーヴで天寿を全うしている
・『薔薇の名前』で名探偵役をつとめるバスカヴィルのウィリアムは、実在したフランシスコ会修道士で「オッカムの剃刀」でも知られる唯名論哲学者のオッカムのウィリアム(1288~1348年)がモデルになっている
・バスカヴィルのウィリアムも、オッカムのウィリアムと同じく「イギリス出身」という設定になっている
・オッカムのウィリアムは清貧論争で教皇庁を批判する立場をとったため、1326年にアヴィニョン教皇庁によって破門宣告を受け神聖ローマ帝国に亡命している

タイトルの『薔薇の名前』 …… 中世カトリックの修道士モルレーのベルナールの残した説教詩の中の「昨日の薔薇はただその名のみ、むなしきその名をわれらは持つ」(訳・堀越孝一)という一文からとられている


 ひえ~、さすがは中世ヨーロッパ! 我が『長岡京エイリアン』は神聖ローマ帝国を応援します。映画には1秒も出てきてねぇけど。

 そんなこんなで、まったじっかい~☆
 ベレンガーリオさんの自分ムチ打ち100回はもう、伝説的な唐突さですね……
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ノーラン番長 VS 猫娘!! 闘いの末に立つ者は  映画『ダークナイト ライジング』

2012年08月12日 16時56分09秒 | ふつうじゃない映画
 うぅわおわお~!! どうもこんにちは、そうだいでございます。いやぁ、今日も関東は暑いですねぇ。

 夏まっさかり! 私の近所でも盆踊り、やってましたねぇ~。私も花火大会に行きたいもんなんですが、今年はなんだかんだ言って行かないまんま秋かな~。次の夏は遊ぶ余裕もできたらいいんですけどね~。今年はとにかく忙しいんでい!っと。

 あの~、月をまたいで「明智小五郎特集」をやってるうちに、いろいろありました!! 試験があったり、その結果に一喜一憂したり、そのあと親しい人と語り合ってストレスをぼかーんと発散したりしてねぇ。

 いろいろあったんですけれども! 今回はササッと本題に入ってしまいたいと思います。映画を観たってお話。
 なんてったって、観た映画が映画なんでねェ~。言いたいことがいぃ~っぱいあるんでい!

 まずは、基本的なスタッフ&キャスティング情報をのっけてみましょう。


映画『ダークナイト ライジング』(2012年7月公開 165分)
監督 …… クリストファー=ノーラン(42歳)
原案 …… デヴィッド=S=ゴイヤー(46歳 『バットマン ビギンズ』の脚本、『ダークナイト』の原案も担当)
脚本 …… クリストファー&ジョナサン=ノーラン兄弟(ジョナサンは『ダークナイト』から参加)

いつもの面々
ブルース=ウェイン    …… クリスチャン=ベール(38歳)
執事アルフレッド     …… マイケル=ケイン(79歳)
ゴードン市警本部長    …… ゲイリー=オールドマン(54歳)
ルシアス=フォックス社長 …… モーガン=フリーマン(75歳)

楽しいゲスト陣
巨漢ベイン      …… トム=ハーディ(34歳)
セリーナ=カイル   …… アン=ハサウェイ(29歳)
ミランダ=テイト   …… マリオン=コティヤール(36歳)
ジョン=ブレイク巡査 …… ジョゼフ=ゴードンレヴィット(31歳)

わたしく的に気になったボイズンガール
謎の会社員フィリップ     …… バーン=ゴーマン(37歳)
セリーナのくされ縁親友ジェン …… ジュノー=テンプル(23歳)
やっぱりいるよこの人!!   …… キリアン=マーフィ(36歳)


 いや~……ついに公開されてしまいました。私そうだいが勝手に「硬派で女っ気のかけらもないイギリス番長」と名づけている俊英ノーラン監督の送る、『バットマン ビギンズ』(2005年)『ダークナイト』(2008年)に続く「ノーラン・バットマン3部作」の最終作であります!

 このシリーズの前の、ティム=バートン監督の『バットマン』から始まる「旧4部作」(1989~97年)はぜんぶ映像ソフトでしか観ていない私なのですが、ノーラン3部作はいちおうバットマン好きになってから始まったシリーズでもありましたので、今回で3つとも映画館で観たことになりますね。

 特に前作の『ダークナイト』は! 3回観ました、映画館で。
 別に観た回数が多いから「人生最高の映画」だというわけでもないんですけど、3回観て3回ともおもしろかったですねぇ、『ダークナイト』は。まず、同じシーンでも、必ずどこかに「前に観たときに見落としていた要素」があるということが多かったんです。
 個人的に大好きなキャラクターの「ジョーカー」が登場するということで初回からけっこう気合いを入れて観たつもりだったんですが、それでも1回だけでは取り落としてしまう「おいしいポイント」がいっぱいあったんですね。まぁそれは映像ソフトがリリースされたあとでたっぷり見返せばいいかもしれない話なんですけど、やっぱり大きなスクリーンで観たほうがいいわけですよ! 序盤の銀行強盗、中盤の護送車カーアクション、そして全編にわたるバットマン、ゴッサム市警、ジョーカー組の三つ巴のだましあいは本当に密度が濃くてよかったですねぇ。

 さて、そんな『ダークナイト』をへての、『ダークナイト ライジング』であります。

 最初にちょっと、本題とは関係のない話題から。
 あの~、なんで原題どおりの『ダークナイト ライゼズ』じゃないんでしょうか? 『ライジング』? なにゆえ現在進行形?
 本編を最後までご覧いただいた方なら納得いただけると思うんですが、この映画のタイトルはどうしても『ライゼズ』じゃないといけないんじゃないかと思うんです。『ライジング』だとなんつうか、作中で語られる「バットマンの復活」が予定調和な前提になっちゃうような気がするんだよなぁ。いや、復活してもらわなきゃ困るからそれは確かに用意されているシナリオなんですけども!
 『ライジング』だと、もうバットマンがライズしちゃってんじゃん! 違うんだなぁ、バットマンが落ちきった奈落の底から復活する、その前の段階の「失墜」も含めての「ライゼズ」なんですから。「ライゼズ」の中には、復活できるかどうかもわからずに、それでもその可能性に命を賭けて天を見あげるバットマンの姿も込められているんですよ。そこらへんのカッコ悪さが、「ライジング」には決定的に欠けているんじゃなかろうかと! このニュアンス、わかりますかね?

 ということで、我が『長岡京エイリアン』では、これ以降はタイトルを『ダークナイト ライゼズ』にもどして話を進めていきたいと思います。『ライジング』にしちゃうのって、やっぱり「ライゼズ」だとわかりにくいからっていう日本人の英語力をかんがみた判断なんですかね……どっちもどっちじゃない? だったら最初の『バットマン ビギンズ』も『バットマン ビギニング』にしろって話ですよ! ほ~ら、とたんにB級臭がただよってきちゃった。

 さて、さっそく話の中身に入っていきたいのですが、まずはこの『ダークナイト ライゼズ』、なにはなくともおもしろかったです!!

 とにかく、映画館に行ってチケット代を払って観て、エンドロールが終わって、「いや~、楽しかったなぁ!」と興奮しながら家路につくことはできたわけです。

 ところが!! そこまでなんだなぁ……

 いや、いいんです! ふつうの映画だったら、そこまで保証されてたらもういいの。充分におもしろかったわけなんですから。
 でもさぁ、いかんせん『ダークナイト』の次の作品にして、3部作の最終作だったわけですから、ね……私の「期待値」が勝手に上がってしまっていたことが一番いけないんでしょうけど!

 かいつまんで話しますとこの『ダークナイト ライゼズ』は、もちろん要所要所の重要シーンをちゃんとおもしろく見せてくれる「娯楽作品」であるわけなんですが、そこにいくまでの滑走路となる「それほど力を入れてないシーン」がたまらなく凡庸なんです。

 これはあくまでも私の感じた主観なんですが、『ダークナイト ライゼズ』は、確かに3部作のラストを飾るにふさわしい興奮は味わえた! 味わえたのは確かなんですが、それは全体のうち、序盤の飛行機のスペクタクルと終盤の「バットマンの復活」以降のアクション、そして大いなる「はじまり」の可能性を秘めたラストシーン、これらトータル3~40分ほどの部分だけのことだったんです。それに対して、映画全体のボリュームは「165分」! 3時間ちかくですってよ奥さん! 廃棄率どんだけ~!? ウニかお前は。

 でも、ここは作り手側にも言い分はあると思うんです。
 まず、このお話は『ダークナイト』の「8年後」のゴッサム市が舞台となっていて、前作であのジョーカーが巻き起こした「恐怖のズンドコ節」もすでに過去のものとなっており、ゴッサム市警の努力により街も平和を謳歌し、我らがバットマンも「諸事情により」8年間の沈黙を続けていたのでありました。こういうタルみきった状況の中で、「ゴッサム市を滅ぼし、絶望の中でバットマンを殺す!」という決意を胸に秘めた最強の敵ベインがやってくるというのが、だいたいのストーリーラインです。

 つまり、『ダークナイト』のラストの「決断」により、変身することの動力源のようなものを失ってしまったバットマンつまりブルース=ウェインが闘いに引っぱりだされ、「意志のある力を持った」敵に1度コテンパンにぶちのめされ、そのあとで再び「バットマンになる理由」を見いだして復活するという物語であるわけなのですから、前半の「ダルンダルン感」というか、「バットマンの負けフラグ」のようなものからくるつまらなさは、作り手側による確信犯的犯行になるわけです。

 でもさぁ、それが観ている側にもわかることなのだとしても! 序盤アクションのあと~前半~中盤~終盤のちょっと手前はホンットにつらいんですよ! ありゃりゃ、ほとんど全部じゃないの。

 つまらない原因は、まずはなんといっても「画面の密度の低さ」にあります。
 つまり、画面の中心にいる人がやっている行動しか伝える情報がないんですね。それなのに、その行動自体もそんなにおもしろいわけじゃないの。たとえば『ダークナイト』は登場人物のセリフ以外にも、そのしぐさや雰囲気、周囲の状況や小道具、メカに見どころがたくさんありました。ちょっと古い話をするのならば、ティム=バートン監督の初期2部作、特に『バットマン リターンズ』のほうは、登場キャラクターにあわせた「持ち物やインテリアデザイン」に、ついつい目がいってしまうおもしろさが盛り込まれていたわけなのです。

 そこらへんの「余裕」というか「サービス精神」が、『ライゼズ』には欠乏しているような気がしてなりません。

 もうひとつ。『ダークナイト』がおもしろかったのは、中心キャラで作品の地震源になっていたジョーカーの「凶悪な飽きっぽさ」というか、「次から次へと悪事を思いつき即決行していくベンチャー魂」があったからなんです。これは要するに、ひとつひとつの悪事は脈絡がなくて小規模でも、それをやっているジョーカーがいるという緊迫感があったから、観客はついつい目を離すことができずに152分という長丁場をつきあわされることになってたんじゃないかと思うんですね。

 確かに、『ライゼズ』でベインがたくらんだ悪事の具体的内容は、ジョーカーの規模をはるかに超えたものとなっていました。その意味ではベインの方が数倍、悪人としての格が上なはずなんです。
 それなのに! ベインは最初っからその「超巨大な悪事」1つをやるために全身全霊をそそいでしまったあまり、「映画の悪役」としての魅力作りが哀しいくらいにヘタな「いいひと。」になっちゃったんだなぁ!

 例を挙げれば、『ライゼズ』は「序盤のはったり犯行~中盤のほどほど犯行~クライマックスのドカドカ犯行」という文法においては、『ダークナイト』を完全に踏襲したものとなっています。そこに「バットマンの失墜……かぁらぁの~!復活」という大テーマがトッピングされているわけです。
 だが、しかし……ベインの「中盤のほどほど犯行」は見る影もなくつまんない! つまんないのは当然で、それは目的が「ウェイン財団の破産」だからなんです。しけてやがるなぁ!! いくら画面に緊迫感があっても、ショボいものはショボい。

 こういうところからもきてるんですけど、『ライゼズ』観た人ならわかりますよね? ベインって、今回もかわいそうなキャラでしたねぇ~! 『バットマン&ロビン』のときの「筋肉バカ扱い」もヒドかったけど、ほぼメイン敵になった今回でも、これはこれでヒドすぎる!! 不器用な男の悲哀よ……

 話は変わりますが、この『ダークナイト ライゼズ』は、前2作の中でも、「ラーズ・アル・グール」という敵キャラとバットマンとの関係がクローズアップされるという点で、第1作『バットマン ビギンズ』に非常にリンクした部分の多い作品になっています。
 ラーズ・アル・グールというのは『ビギンズ』のラスボスだった敵キャラ(故人)なんですが、そこから見て「愛弟子どうし」の関係となるバットマンとベインの因縁の対決、という要素もあるわけなんですね。

 も~男っぽいですねぇ!! 「一番弟子 VS 破門された危険な弟子」ですって! ノーラン監督、あんたはやっぱり硬派番長だわ。

 さてみなさん、ここに「人に言えない過去を消去するために悪事を続けている女怪盗」っていう新要素が入り込んできたら、いったいどんなことになっちゃうと思います?

 はい、そうですね。「女怪盗のほうが一瞬でジュジュジュワ~と蒸発しちゃう」。それが正解です!

 そうなんです、私がいちばん言いたい『ダークナイト ライゼズ』の残念なところはここ!
 「不器用なベインに代わる中盤の引っぱり要素として機能するはずだったキャットウーマン(セリーナ=カイル)が、キャラクターとしてまったく立ち上がってこなかった。」
 これなんだなぁ~。まぁ、なんてったって番長の映画なんだから、予想はついたけど……

 ここは低評価してはいけないところなんですが、今回の新生キャットウーマンを演じておられたアン=ハサウェイさんは、非常に良かったです。1960年代の TVシリーズの頃を実にうまくリファインしたコスチュームデザインもとってもスマートで魅力的でしたね。
 完全に「頭のいかれた愉快犯」になっちゃってた『バットマン リターンズ』のミシェル=ファイファー版も当然いいわけなんですが、原典にたち返って「自由気ままに犯行を重ねる義賊怪盗キャットウーマン」をスクリーンに復活させることとなったアンさんの身のこなしと意志のあるまなざしは非常にカッコ良かったです。

 ただ、出た作品が悪かったっちゅうかなんちゅうか……『ライゼズ』のキャットウーマンって、完全に「ベインかバットマンのどっちかにいいように利用されるアシスタントの女の子」になってませんでした!?
 これは哀しいですね……なにが哀しいって、キャットさん本人は自由にやってるつもりなのに気づかないうちにいいなりになっちゃってるんですからね。そういう意味でも今回の姐さんは、見てくれこそカッコ良くはなったものの、実情は「飼い猫」同然だったということで。残念!!

 結論から言ってしまえば、案の定、今回の『ダークナイト ライゼズ』でも、ノーラン監督は女性を「生きているキャラクター」として描きだすことはできませんでした。ど~してこうも窮屈な生き方をしたお姉さんしか出てこないんでしょうか……なにせ、正真正銘の「自由人」であるはずのキャットウーマンだってこのていたらくなんですから、もはやこれは治療不可能ですな。

 いえいえ、別に私そうだいは小栗旬さんや石田純一さんのようなプレイボーイではありませんし、ましてや「本当の女性がちゃんと描けている、いない」なんてことを大口たたいて批評できる資格のある人間ではさらさらございません。
 ございませんが、もしそれが虚構なのだとしても、男どものくだらない思惑を超越した理屈にもとづいてふ~わ、ふ~わと気ままに生きている女性を観るのがとっても好きなんですね! まぁそらぁ、身近にそんなネコ科レディが何人もいらっしゃったら困るわけなんですが、だからこそ、そういったカッコイイ女性が爽快に跳びまわりはねまわる「あで姿」をフィクションの世界に求めたくなるんですよ。

 それがどうだい、今回もまた……
 キャットさんは今言ったとおりだし、もうひとりのヒロインであるミランダさんも……まぁ、はっきりとは言えないいろいろがあるわけですが、結局は「他人の遺志」のあやつり人形の人生でしかなかったわけです。
 あとは『ライゼズ』、どんな女性が出てました? いつもろれつがまわってないフラフラしたジェンっていう小娘と、ベインの暴力を恐れるあまりに、フォーリー副本部長に警察官としての職務を放棄させていっしょに自宅に引きこもる「弱い市民の代表」みたいなフォーリーの嫁。あとはブルース=ウェインの死んだ恋人・レイチェルの「遺影」くらいじゃないっすか! この、女っ気のなさ……もう、気持ちいいくらいに番長は一貫してますな。

 私は、『バットマン リターンズ』のキャットウーマンが「女性の本質をあらわしてる!」みたいな大バカタリンコなことは言いません。言いませんが、あの完成されていない人格を持ったキャラクターがクライマックス手前で、「自分でも自分がわからない……」と、泣き笑いの表情でブルースに対して告白したシーンはまさしく、正解が出ていなくとも「自分の意思で考え、悩んでいる1人の女性」を活き活きと描写せしめていたと感じています。
 それはもう、そういう演技をミシェルさんから引き出したティム=バートンの才能ですよね。そういう手腕を、今回のキャットウーマン復活でノーラン監督にも見いだせたら素敵だな、と思っていたのですが……ムリでしたねぇ~! 確かにアンさんのキャットウーマンも涙するシーンはあるにはあったのですが、非常にありきたりな「映画のヒロインとしての定型」の涙だったような気がする。それじゃいかんわぁ。

 あら、字数もかさんできちゃった!? じゃあ、そろそろ要点の整理に入りましょうか。

 今回の『ダークナイト ライゼズ』は、ファンにとってはたまらないプレゼントとなる、壮大な「新章」の始まりを予感させるラストなど、「バットマン好きにとっては合格点以上」の出来となっていました。とにかく、おもしろかったことは事実なんです。
 だが、しかし。今までバットマンのことを知らなかった、予備知識のまったくない方がこの映画を観たときに、同じような感動を味わうことができるかというと、はなはだ心もとないです。はっきり言っちゃうと、私は特別にファンじゃない人にはこの作品は勧めません。とにかくなげぇんだもん!!

 私はよく、前作の『ダークナイト』がきっかけでバットマン・サーガ全体のファンになり始めた、という意見を目にしたり耳にします。そしてそれは至極当然のことだとも思います。
 でも、純粋に『ライゼズ』の内容だけからバットマンに興味を持ち始める人って、果たしているんだろうか……もちろんゼロじゃないでしょうけど、私の中でのここらへんの不安感は、これまた「ビミョ~」と評価されることの多い第1作『バットマン ビギンズ』のそれをはるかにしのぐレベルになっています。なんだかんだいっても、『ビギンズ』は「バットマン誕生秘話」という、旧4部作では語られることの少なかった大きなテーマがあったし、スケアクロウ役のキリアン=マーフィもおもしろかったし。

 ピンときていただけるかどうかわからないのですが、クリストファー=ノーランという映画監督は「頑固一徹なラーメン屋のおやじ」なんじゃないでしょうか。

 とにかく自分のやり方に確固たる哲学を持っていて、あんまりその時々の客側のニーズというものには耳を傾けない人なんだと思います。
 んで、基本的には自分の好きな味しか出さないので常連客も限定されるわけなんですが、たま~に食材に新鮮なものが入って「激うま!」な日があると。『ダークナイト』のジョーカーとか、『インセプション』の発想アイデアとかがそうですよね。
 でも、やっぱり根っこは「作ったものがおもしろいものかどうかにはそれほどこだわらない」人なんですね、たぶん。どちらかというと、自分の構築したい作品世界をどのくらい精巧に映像化するか、それだけにこだわっている職人なんじゃなかろうかと。

 そして、今回の『ライゼズ』の場合はもろもろが「うまく転がらなかった」。ただそれだけのことなんですね。おそらく、ノーラン監督自身にそれほどの失敗作を作っちゃった感触はないと思うし、撮影中に修正したいと感じることもなかったんじゃないでしょうか。すべては監督の頭の中で完成していたわけですから。

 なので、私は当然、「ノーラン・バットマン3部作」という素晴らしい贈り物をくれた監督には感謝の言葉もないわけなのですが、だからといって、今後のノーラン監督の新作にむやみやたらと期待することはやめておきたいと思うんですね。『ダークナイト』とか『インセプション』といったあたりは、まず「まぐれ」の域の産物だと考えたほうがいいと。

 だってさぁ……映像作家としてはすごいかもしれないけど、私が今回の『ライゼズ』を観て感じた不満ポイントって、ぜ~んぶノーラン監督の「役者やキャラクターのあつかい」が原因なんだもの!! はっきり言っちゃうと、監督は本当に役者さんに演技指導をしたり脚本にダメ出しをしているのかどうか疑わしくてしょうがないとこばっかなの。
 もうだいぶ長くなってしまったので、各ポイントは箇条書きにしちゃうんですけど、ざっと思いつくだけでもこれだけ問題はあるんですよ。


『ダークナイト ライゼズ』の大部分のつまらなさの原因

1、とにかく「165分」! なのに中身がうっすいうっすい

2、長いくせに、中盤の「ベインの地下帝国」と「キャットウーマンの暗躍」と「ウェイン財団の内紛」の関係描写がセリフだけで説明されるので、話が急だし緊迫感がないしでぜんぜんピンとこない

3、「8年間活動しなかったバットマン」という時の流れを表現するには、主演のクリスチャン=ベールの復帰がスムースすぎ&外見が若々しすぎて説得力がない(その点、ゲイリー=オールドマンの老けかたは流石なものがあるのだが……ちょっと今回のゲイリーはかっこ悪い)

4、顔をあわせれば主人のブルースに説教する執事アルフレッドのセリフが、今回はホントに長ったらしくてうざったい(『ダークナイト』のころの「うまいことを言おう」という意志すら感じられない、ただの老人のグチになっている)

5、「ウェイン財団の乗っ取りをはかる重役ダゲット」「バットマンを悪人だと勘違いしているゴッサム市警のフォーリー副本部長」「自分では何もしていないのにゴッサム市政をのうのうと続けているガルシア市長」という、3人の重要なアホキャラを演じている役者の魅力がゼロなので、この3人が顔を出すシーンがのきなみつまんない(これは役者さんの問題じゃなくて、どこからどう見ても脚本と演出の責任だと思います!)

6、『ダークナイト』同様に残酷・暴力描写の規制が厳しいのだが、今回はベインが人を殺すたんびにカメラがベインの手元からはずれたり不自然な遠景ショットに切り換わったりする処理のオンパレードで、途中からすっかり飽きてベインの凶悪性がまったく身に迫ってこない(『ダークナイト』でのジョーカーの「鉛筆マジック」みたいなアイデアなんてゼロよ!? 客をなめてんのかって話よ!!)

7、『ダークナイト』の終盤では、「無名のゴッサム市民の勇気ある決断にジョーカーが敗れる」というシーンがあったのだが、今回の『ライゼズ』では、無名の市民は完全にベインの圧政に屈している。勇気を出したのはバットマンとゴッサム市警という構図になっているため、クライマックスのゴッサム市の解放について、前作ほどの爽快感がない


 ざっとこんなもんなんですけどね。
 とにかく、全ての問題はノーラン監督の手腕次第でどうにでもなることだったんじゃないでしょうか?
 もちろん、世界的にヒットする映画を作り続けているお人を相手に「映画監督の才、なし!」と叫ぶつもりは毛頭ないんですけれども、少なくとも、こういったポイントにこだわる人ではないんだ、ということはしっかり認識しておくべきだと思います。けっこう大事なことだと思うんだけどなぁ……

 まぁ、とにかくいろいろと言ってしまいましたが、こういったつれづれを差し引いても、あのラストシーンを用意してくれた『ダークナイト ライゼズ』には感謝したいですねぇ。「あぁ、やっぱりこの人はアレだったんだ!」という事実が発覚し、また新たな伝説が始まろうとする、その確かな鼓動を響かせながら終わるノーラン3部作……すばらしい。
 少なくとも、バットマンの大いなる復活と、アン=ハサウェイがぴっちりキャットスーツでバットポッドにまたがるその勇姿、そしてなんと言っても強い意志をともなった正義を貫き通す警官役のジョゼフ=ゴードンレヴィットの名演はとってもよかったです。
 それなのに、「興味があったら、ぜひ……」という腰の引けまくった文句しか言えない自分が情けないわ! くく、悔しい~。


 最後にひとつだけ。

 バットマンのクライマックスでのあの「勇気ある行動」って、およそ40年前に、ある「日本の超有名な仮面ヒーロー」がすでにやってたこととまんま同じでしたよね。

 やっぱり「正義の味方」っていうのは、つきつめれば世界共通なのよねぇ……

 でも、こんなブログをやってるわたくしですから、そういった勇気と同じくらいに、身体に核爆弾を内蔵してヒーローに特攻するカメバズーカの決死の姿にも想いをはせちゃうという、このゆがみ具合ね。


 ひとまずはノーラン監督、お疲れさまでした。本当にありがとう!

 そして、見知らぬどなたかによる新たなる「バットマン・サーガ」、今から楽しみにしておりますよ~。
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最近ハマってます  ビタミンさんの『ソウトーーク』シリーズにドイツ名優たちの魂を見た  無条件降伏

2012年07月05日 18時14分05秒 | ふつうじゃない映画
 むっしむし~!! どうもこんにちは、そうだいでございまする~。いや~、千葉は今日も蒸し暑かった……

 ヤバいです……勉強する時間が足りません。タイムリミットは確実に近づきつつあるのに……
 頭に入れなきゃならんことは山ほどあるんですが、テキストに集中しようとすればするほど眠気が……眠って目覚めれば時間がまた足りなくなってる! やってみると1ヶ月は意外と長いような短いような。ちゃんと寝てコンディションを整えてからの長期戦型か、寝る間も惜しんで詰め込む短期戦型か、それが問題だ!!
 まぁ、それと並行して今のお仕事と次の職探しもやってるんでねぇ。とにかく忙しいんですけど、体調を崩してどれも実を結ばないという最悪のシナリオだけは避けねばなりません。

 体調といえば、3ヶ月前に結婚式に出たときに撮影していただいた集合写真を、そのとき結婚された大学時代の先輩からメールで送ってもらったんですけど。
 ちょっと自分でびっくりするくらいにやつれてましたね、今年の春は。思い出せば確かに生活的に大変な時期ではあったんですけど。
 頬がげっそり、こけてましたねぇ~! 今はおかげさまでいくぶん安定した中でいろいろやってるんですけど、やっぱり無理はしちゃいけませんな、30こえたら。イケメンじゃあもちろんないんですけど、一時期の玉木宏さんみたいな顔つきになってたようです。戦争映画にでも出るんですか!? みたいな。
 そういえば、2~3人の知り合いの方から「大丈夫!? ちゃんと食べてる?」とか言われてたわぁ。
 もともと甘いものが好きなほうではなかったので、食生活でなんとなくやせたのかな~、なんて思ってたんですけど。

 今年の夏も身体と脳みそをフル回転させて乗り切らなきゃいけないっていうのに……うなぎでも食べますかぁ~。すき家とかで。


 んま、そんなオッサンの近況はさておきまして、昨日7月4日はいよいよ! あの日本歌謡界の最高峰に輝き続けるアイドルグループ・モーニング娘。の、記念すべきなんと「50枚目」のシングルとなる最新作『One・Two・Three 』がリリース開始となった日でありました。

 いや~、ついに出てしまいましたね~。我が『長岡京エイリアン』は、第8代リーダー・道重さゆみさん率いる新生モーニング娘。を、わけても歴代メンバー史上最高の「まるさ」を誇りつつある鈴木香音(かのん)さんを強く応援します。あこがれるなぁ~。

 みなさん、私は確かに観たんです。今年春の日本武道館コンサートで、1万人の観客を相手にして仁王立ちになったズッキさんのぶあつい背中を!! ほんとに13歳か!?
 その力強さ、その中に秘めた燃えるような熱い決意。私はそこに、ゲーム『信長の野望』でいうところの「上泉信綱」や「ももち三太夫」が配下についてくれた時に匹敵するほどの絶大な信頼感をいだいたのです。伊賀の地を踏みにじる者は、なんぴとたりとも許さないニャン♡

 そういえば、夕べはそのリリースにあわせてYou Tube のユーストリーム放送で『モーニング娘。生田衣梨奈(いくた えりな)セルフプロデュース 生祭り(いくまつり)!』なる番組も放送されていました。
 これはもう、モーニング娘。第9期メンバーきってのベルセルク(狂戦士)と畏れられる生田さんが1人で進行していくという驚愕のトーク番組だったのですが、ゲスト出演した元メンバーで先代・第7代リーダーの新垣里沙さんを信頼できるストッパーに迎えて送られた内容はまさしく唯我独尊、生田さんの生田さんによる新垣さんのための放送に仕上がっていました。新曲紹介そっちのけ!

 ただし、新作PV をご覧いただいてもおわかりの通り、生田さんはかなりぶっとい筋がズンと通った「男前なまなざし」の持ち主でありまして、そんな彼女が今よりももっと魅力的で安定した歌唱力を身につけたとき、彼女自身と、彼女の属する第9期、そして第9期のいるモーニング娘。が過去のどの時代にもなかった新境地に突入していくことは間違いないでしょう。
 今後の日本芸能界の趨勢が、いかほどの試練を彼女たちに突きつけるのかはわかりません。おそらくは楽なだけではない、生半可な気持ちでは踏破できないような苦難の道行きとなることでしょう。
 まして今年は、ともに「芸能界デビュー10周年」をむかえることなった、同じハロー!プロジェクトのお姉さんグループのBerryz工房と℃-uteがかつてない盛り上がりを見せているアニバーサリーイヤーでもあるのですからもうタイヘン! このアイドル戦国時代、強敵は外にいるばかりではないのだ!!

 でも……まぁ、たいていのトラブルにはみまわれてきたモーニング娘。でありますから! 大丈夫でしょうよ。逆に私なんかは、応援するだけでなく彼女たちから勇気をもらわなきゃいけないくらいです。

 最新シングル『One・Two・Three 』も、決して「カッコイイ」や「かわいい」といった言葉だけではかたづけられない奥深い魅力に満ちた作品ですが、これからも果敢にハイレベルな世界に挑戦していっていただきたいです。求めよ、さらば与えられん!!

 とね、ともあれこんな感じで「通算50枚目シングル」という大快挙も達成したことなので、次回あたりにはそれにからめた企画みたいなことを、例によって誰からも頼まれていないのにやってみようかなぁ、なんて考えております。これも息抜き、息抜き~。


 さて、で、先月から引き継いでいる今回のお題はといいますと……熱きオッサンたちの終わりなき闘い!!
 私が最近になってやっと夢中になった「総統閣下×けいおん!」系 MAD動画シリーズの雄『ソウトーーク』シリーズ(作・ビタミンさん)についてのあれこれでございます~。

 前回の資料にあげたように、『ソウトーーク』が属している「総統閣下×けいおん!」系は、もとをただせば「ヒトラー総統が現代日本で話題になっているなにかに憤慨する」というルールにのっとって、映画『ヒトラー 最期の12日間』のワンシーンに投稿者各自のセンスによる嘘字幕が差し込まれていくという内容の「総統閣下シリーズ」の派生作品として誕生しました。
 しかし、今になって正調の「総統閣下シリーズ」の作品と比較してみると、『ソウトーーク』はまったく別物と言っていい独自の進化&深化を遂げており、「思えばかなり遠くへ来たもんだ……」という感慨を観る者にいだかせてくれるのです。はなれすぎ!!

 今年のはじめまでに私が使っていたパソコンがニコニコ動画も視聴できないほどの旧式「Me 型」だったこともありまして、私自身が「総統閣下シリーズ」に接することになったのはそうとう最近で、その存在を人づてに聞いたのも、去年2011年3月の東日本大震災直後のことだったかと思います。
 その時は確か、「なんでも映画のヒトラー総統がスーパーの買い占め騒動(当時)にブチギレしている変な動画があるらしい」といううわさを聞いてビックラこいていたものです。
 その当時は、混乱する日本中で巻き起こっていた買い占めや、あまり役に立たない物資の被災地への過剰な殺到ぶり、そしてついには政府の対策の立ち遅れにまで、まったく縁もゆかりもないはずのヒトラー総統が激怒して、「買ってどうすんだ!! ホントに必要な人の邪魔するな!」や、「もっと相手のことを思いやれ!!」と、人が違ったような漢気あふれる喝を連発するというところに異様なセンスを感じて、「不思議なモンがはやってるんだなぁ……」と思っていました。

 そんな「人の道をさとす」系の他にも、「総統閣下シリーズ」はリアルタイムで世に出ている映画、アニメ、マンガといった作品のどこかに閣下がブチキレるシリーズが陸続と生みだされていっており、特に昨今の「オールスター総登場祭りでなんとかやってます」という感じの『仮面ライダーシリーズ』や『スーパー戦隊シリーズ』、そして『プリキュアオールスターシリーズ』の風潮に一石を投じる提言を披露する作品には毎回、私も瞠目させられていました。ただ作品そのもののバタバタぶりを批判するだけでなく、そんな作品を観てもいないのに批判するファンの態度さえをも批判する総統閣下の慧眼ぶり……いや、ただのおたくなんですけど。

 ところで、こういった無数の「総統閣下シリーズ」にはいちおうの共通ルールのようなものがあるようで、まずおおもとの大前提として、ドイツ映画『ヒトラー 最期の12日間』のワンシーンである、「作戦本部のヒトラー総統が、自軍の戦闘力の致命的な減衰を隠していた部下の将軍たちにブチギレし憔悴する」という、ヒトラー総統を演じる名優・ブルーノ=ガンツの実力がいかんなく発揮された約3分ほどの場面を利用して嘘字幕を入れていくという要件があります。
 もちろん、これに投稿者が自分の意図で別の作品のシーンやBGM を挿入したりすることも自由なのですが、もともと無音の中で激しいセリフの攻防だけが展開され、カット割りも実に巧妙に配置されているこのシーンにオリジナリティを入れていくのは、投稿者のセンスが試されるそうとうにリスクの高い采配になります。
 つまり、約3分間の「定型のシーン」を利用して笑いを生み出していくこの「総統閣下シリーズ」は、差し込む嘘字幕に、観る人の多くを「ほほう……」とうならせるクオリティが要求されることもさることながら、いっぽうで投稿者が自由にアレンジをきかせた時点でスベるリスクが格段に上がってしまうという、非常にバランスのとり方が難しいジャンルになっているのです。

 そういう意味では、もともとの原型となった「総統閣下シリーズ」は、「あえて厳しく限定された条件の中から自分のセンスを提示していく」という、まるで俳句か短歌のようなストイックさを要する笑いのジャンルになっているんですね。日本人が好きそうだねぇコリャ。


 さて、そういった母体に対して、そこから生を受けた「総統閣下×けいおん!」系の1作である『ソウトーーク』シリーズはどんなことになっているのでありましょうか。

 『ソウトーーク』の魅力。それはすなはち、「定型を重んじながらも、時として不動明王のごとき果断さで定型をも微塵に破壊してしまう緊張感」!! ここ! ここなんですなぁ。大げさな言い方でなく、本当にここがすごいんだ。

 『ソウトーーク』の大前提はと言いますと、もうこれはなんといっても、「リアルタイムで放送されているというアニメ『けいおん!』や『けいおん!!』を、総統地下壕作戦本部に陣取る閣下と部下たちがワイワイガヤガヤ騒ぎながら視聴する」という、その男子中学生の部室のような雑多感にあります。冗談でなく、視聴するときには音量調整に気をつけなければなりません。

 だいたいの大すじとしては、地上では血で血を洗うソ連軍とのベルリン攻防戦が展開されている真っ最中だというのに、毎週火曜日深夜1時30分に作戦本部に集まって、真剣なおももちで『けいおん!』『けいおん!!』の放送を待ち受ける総統閣下たちというくだりから『ソウトーーク』は始まっていきます。そう考えると不謹慎極まりないオッサンたちなのですが、まるで別の戦争に挑むかのような真剣さで『けいおん!』に立ち向かっていく皆さんの気迫に圧倒されてしまい、思わずツッコむタイミングを失ってしまいます。

 たま~に、映画本編と違わない字幕で本気の作戦会議が繰り広げられたりもしているのですが、肝心のところで脱線が始まってしまい、


ヨードル 「総統閣下、なにか対策を!」

閣下   「何もないに決まってるだろ!!」

ヨードル 「ですよね~。」

閣下   「つか、貴様ら普通に作戦会議してるが、アニメより戦争が好きなのか!?」

部下一同 「アニメのほうが好きに決まってますよ!!」

閣下   「それなら、『けいおん!』を観るぞ!」


 閣下、逆ギレ……なんなんでしょうか、この正々堂々とした逃避っぷり。これを青筋をたてた一流のヨーロッパ俳優陣が精魂こめて演じているのです。

 そして、いざ放送が始まると、『けいおん!』や『けいおん!!』本編の映像と、「TV の前に集まっている」という設定の『ヒトラー 最期の12日間』の面々の映像とがテレコで展開されていくわけなのですが……この時のナチス首脳陣の反応がいちいちうるさい!!


閣下      「澪タン、めがっさ可愛いにょろ!!」

カイテル    「和(のどか)の寝起きのシーンなんてのも観てみたいな。」

閣下      「和などどうでもいい! それより澪のほうが可愛いに決まってる。」

ゲッベルス   「ムギのほうが可愛いに決まってるだろ、ちょび髭ナチ野郎!!」

閣下      「うるせえ!! お前もナチだろうが、ムギ厨!!!」

(唯が律に   「あ。何みてんの~?」)

フェーゲライン 「もちろん俺のことを見ているんだよ!!」

閣下      「んな訳ないだろ!!!」

(唯がギターの練習中に 「あ、いてっ。指の皮むけちゃった。」)

ブルクドルフ  「おい! 唯ちゃん!! 大丈夫か!!!
         俺の唯ちゃんを傷つけるギターなんて、ダサいし!!!」

閣下      「ギターにキレんな!!!」

(さわ子先生が唯に 「あら~……この分じゃあ、またすぐ皮むけるわよ。」)

ヨードル    「俺の皮も……」

閣下      「下ネタ自重しろ!!」

クレープス   「てか、マジかわ唯なんですけど!!」

(唯      「うう……ギターを弾きながら歌が唄えない……」)
(さわ子先生  「仕方ないわね。先生が特訓してあげる。」)

部下一同    「俺が教えます!!」「いろいろ教えちゃうぞ~。」

閣下      「あ~も!! 貴様らは関わろうとするな!!!」


 こんなていたらくでありまして……こんなの、ほんの序の口なんですよ!?
 うるさいし、それに盛り上がるコメントの弾幕で画面は真っ白になるしで、『ソウトーーク』はとにかくにぎやかなんです。

 しかも、『アメトーーク』をモデルにしたと思われるこのタイトルにも実は大きな偽りがありまして、『ソウトーーク』では、総統閣下本人はまるでトークに参加できません。
 上の例からもおわかりのように、も~ほとんどの閣下の発言がツッコミ! ただひたすらに部下の暴走を食い止めることしかできない時間が続くんです。そりゃ寿命も縮むわ…… 

 ところがそれに対して、従来の「総統閣下シリーズ」では閣下の憤怒に恐れをなすことしかできなかったゲッベルス以下の部下たちは、この『ソウトーーク』ではその恨みとばかりに、閣下を閣下と見ない暴言の応酬で一致団結してしまいます。


閣下      「京アニは狂ってしまったのか……」

クレープス   「『ハルヒ』の話すんな! クソじじい!!」

ブルクドルフ  「今、『けいおん!』の話以外のやつをするなんて、ダサいし!!!」

ヨードル    「お前、総統の職を」

フェーゲライン 「辞めて♡ 」


 んも~、むちゃくちゃ。


 とにかくこんな感じで『ソウトーーク』は、ほんわかした『けいおん!』『けいおん!!』を視聴しているのに開始数秒でテンションが MAXに達してしまう閣下とその部下たちのうるささが特色となったオンリーワンな激烈シリーズになっているのです。

 現在、28話ぶんが公開されている『ソウトーーク』なのですが、その魅力をすべて語るのはちょっと、この回だけではできそうにありません。とにかく百聞に一見は如かずで、まだご覧になっていない方にはとにかく一度観ていただくことをおすすめしたいのですが、まずそのとっかかりとして、私はこの稀代のおもしろ動画シリーズの魅力を2つだけあげておきたいと思います。


 まず1つめは、これはもうなにはなくとも「投稿者であるビタミンさんの全センスを総動員した作品世界の完成度の高さ」ですね。

 たとえば、上のようなにぎやかなやりとりは、まず『けいおん!』の萌えポイントとなるシーンと、それに激しく反応する閣下たちのやり取りとのバランスのとり方が、先行する「総統閣下シリーズ」とは比較にならない難易度となっているはずなのです。3分間の定型を守る必要はなくなったのですが、今度はゼロからビタミンさんが作っていかなければならなくなるわけで、これはもう、『ヒトラー 最期の12日間』や『けいおん!』シリーズの映像を素材にしてはいつつも、ほぼ完全にオリジナルな作品になっているといっても過言ではないでしょう。ここを、独自の編集センスとギャグ感覚でコンスタントに2年にわたってシリーズ化しているのがものすごいんですよ。

 むむ~、残念ですが、上のようなセリフの抜き出しだけじゃあ『ソウトーーク』のおもしろさはわからない! とにかくカット割りのあざやかさが笑いにつながっているんです。

 たとえば、ビタミンさんは2回にわたって、「静かに語っている総統閣下」と「激高する総統閣下」という2つのカットを切れ目なくつなげることによって、「ノリツッコミをする総統閣下」という驚天動地の進化を現出せしめています。


ヨードル  「こうなることを想定してすでに、閣下の澪コレクションをヤフオクに出品しておきました。(キリッ」

閣下    「さすが、仕事が早いな……って何してるんだ貴様ら!! つか、イラッとするから(キリッ を使うな!」
                                                   (第2期第21話鑑賞回より)

クレープス 「今日は水着回です! (地図を指して)先ほど、ここらへんの防衛部隊が壊滅したそうですが、もうすぐ『けいおん!』が始まる時間なので、そのことはキレイさっぱり忘れましょう!」

閣下    「そうだな、嫌なことは忘れて……って忘れようとするな!!」
                                                   (第1期第4話鑑賞回より)


 また、第1期第8話と第2期第15話の2回にわたって、総統閣下がベルリン放映ヴァージョンの『けいおん!』での主人公・平沢唯の声優に挑戦したために、終始「バーカ!!」や「おっぱいぷるんぷるん!!」などとしか絶叫しない主人公になってしまうなど、とにかく『ソウトーーク』は全編にわたって、ビタミンさんの「おもてなしスピリッツ」がいかんなく炸裂した、おもちゃ箱をひっくり返したようなワクワク間に満ち溢れているのです。
 特に私は、第2期『けいおん!!』の第13話の放送が見送りになってしまったために閣下一同が騒然となる鑑賞回の「オチ」には、本気で「うわ~、やられた!!」とうなってしまいました。これはもう、ビタミンさんという映像作家の独立したオリジナル作品ですよ。だってひっかかっちゃったんだから。もう降参!

 もうひとつ、ビタミンさんのテクニックを語る上で忘れてならないのは、素材にしている2作品以外に臨時で引用される映像作品の「昭和くささ」で、もちろん福留さんが司会をしていた時代の『アメリカ横断ウルトラクイズ』や TVシリーズ版の『スパイ大作戦』、『ファミコンウォーズ』のTVCM に『アタック25』のBGM に『日光テレビショッピング』のよりにもよって「入れ歯洗浄剤・がんばれおじいちゃん」など、閣下たちが見ているTV の中から流れる他の番組のセレクトがいちいち古臭い! も~最高ですね。

 ビタミンさん……いったいどんなおじさまなんですか? 『相棒』シリーズが好きらしいことはわかるんですが……30代前半の私よりは年上ですよね?


 ビタミンさんの話が長くなりましたが、『ソウトーーク』の魅力はそれだけではありません。

 もう1つの大きな魅力は、それはもうやっぱり、『ヒトラー 最期の12日間』に出演したガンツさん以下の役者陣のクオリティのハンパない高さですね。

 よく考えてみれば、2時間ちょいある長編映画といっても、出てくる役者陣の「表情」といったものは普通は限定されるもので、特に『ヒトラー 最期の12日間』は「敗戦目前」という最悪の極限状態に置かれた人々が延々と映し出されていく物語であるわけなのですから、登場人物の「喜怒哀楽」を切り貼りしてまったく別の物語を創るということはむしろ他の映画よりも至難のわざであるはずなのです。ましてや、「総統閣下シリーズ」にいたってはたったの3分間だけ!

 ところが、『ヒトラー 最期の12日間』は素材が豊富なんです……しかも、怒り狂っているおじさんの姿なんて、そこらへんにいる役者さんがやっているのを観ても2~3回観たら飽きてしまうのが普通のはずなんですが、ガンツさんの「怒り」は、何度観ても、どのパターンを観ても飽きがこない!! それはもう、その怒りの中に「帝国の滅亡を一身に背負わなければならない老人の断末魔」が克明に再現されているからなのです。そこまで極限に追い詰められた人間が「めがっさ可愛いにょろ!!」「好きでもいいじゃなイカ!!」と語っているというところに、『ソウトーーク』ならではの、残酷さと裏返しの笑いがあるんですよ。

 また、そんな怒りっぱなし、絶望しっぱなしの総統閣下だからこそきいてくる、あのワンカットだけの「ニヤけ顔」のチャーミングさといったら!! こういうこともできるから、ブルーノ=ガンツという役者さんはいいんですよねぇ~。ほんとにいい笑顔。

 おそらく、「総統閣下シリーズ」や『ソウトーーク』のおもしろさの核心には、間違いなく「渾身の力をこめて『ヒトラー 最期の12日間』の撮影に臨んだ俳優陣の真剣度」が大いに関わっています。おそらくこれは、おもしろ動画に使われる、などとは夢にも思っていないガンツさん以下の「命を燃やした仕事」だからこそ、はからずもユーモアがにじみ出てしまっているという、人間ならではの逆転現象なんですよね。
 人間っていうのは本当におもしろいもので、ブルクドルフ陸軍大将役のユストゥス=フォン=ドホナーニさんの「ダサいし!!!」と聞こえる絶叫は本当に味わい深いものがあるんですよねぇ。『ソウトーーク』ではさんざん変態キャラ扱いされている「ハゲ」ことヨードル陸軍上級大将役のクリスチャン=レドルさんも、ちゃんと観れば相当に密度の高い演技をしているんですよ。それなのに、そこがなんともおかしいんだ。

 残念ながら、日本でもその名が知れ渡っているのはヒトラー役のガンツさんとユンゲ女史役のアレクサンドラ=マリア=ララさんくらいなのかも知れませんが、ドイツ初の「アドルフ=ヒトラーを人間として描いた映画」というふれこみにもあるように、尋常でないプレッシャーの中で制作されたこの『ヒトラー 最期の12日間』に出演した俳優さんは、セリフのない役まで全員が自身最高の演技をもって撮影にのぞんだという緊張感がビンビン伝わってくる気迫に満ち満ちているのです。

 もうホントに全員の演技が素晴らしいのですが私はここで、あえて『ソウトーーク』の中ではセリフがゼロに等しいマルティン=ボルマン官房長役のトマス=ティーメさんの、圧倒的な「目の泳ぎ演技」をたたえたいですね。この人が部屋の隅っこでオロオロしているのとしていないのとでは、現場の切迫感の伝わり方がまるで違うんですよ! セリフがあろうがなかろうがしっかり「仕事」はする。これ、名優の最低条件なりィ!!

 とにかく、こういった最高峰の演技合戦を、本人たちのあずかり知らぬところでしめしめと「活用」しているからこそ、ビタミンさんの『ソウトーーク』はいいんですねぇ。おそらく、事前に「そういうおもしろコントをする。」といって俳優ご本人たちが同じ条件下で撮影したとしても、これほどまでのおもしろさを生み出すことは不可能だったでしょう。

 「意図しない笑いを意図的に創り出す」。これこそがビタミンさんの『ソウトーーク』の魅力の根本なのです。


 ただし、私としてはひとつだけ意見を言わせていただきたいことがありまして、役者さんではないアドルフ=ヒトラー本人や閣僚たちの本物の資料映像をさしこむのはいいとしても、それらの本人たち、『ソウトーーク』でいうのならばヨーゼフ=ゲッベルス宣伝大臣などのニュース映像における肉声にまで嘘字幕をつけるのは、ちょっと個人的には好きじゃないんだなぁ。
 やっぱり、『ヒトラー 最期の12日間』で熱演している役者さんの演技がおもしろいから『ソウトーーク』はいいのでありまして、そこに実際の戦争犯罪者である人間たちの「生の声」を差し込むのは、私としては急に醒めるというか、素直に笑えないものを感じてしまうのです。
 私は「ナチス・ドイツの失敗」をそういう形で笑い飛ばすのは正しい歴史の解釈にはつながらないと思うし、そういう観点から、アドルフ=ヒトラーの本物の演説に嘘字幕を入れている別の投稿者さんのシリーズには少なからぬ違和感をおぼえてしまうのです。

 あくまでも、「総統閣下シリーズ」は『ヒトラー 最後の12日間』というフィクション作品からの創作。私はそこには明確な線引きが必要なんじゃないかと考えていますが、どうでしょうかね?


 でもまぁ~、もう30話ちかく作ってるなんて、ビタミンさんも大変ねぇ……
 シリーズ最新作の「第1期第13話鑑賞回」(2012年4月 UP)なんて、公開までに「8ヶ月」もかけてるんですからね! 早く次回作が観たいという期待の声も高いとは思うのですが、ビタミンさんご本人の納得のいく新作の完成を気長に待ちたいと思います。


 ……え? 『けいおん!』のおもしろさはどうなんだって?

 実は、私はまだよくわかんない!! たぶん『けいおん!』単体だけだったら、私がハマることは今までもこれからも、ないだろうね!!

 女の子たちのバンド話はほどほどでいいから、もっとおじさんを出せ、おじさんを~!!
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最近ハマってます  ビタミンさんの『ソウトーーク』シリーズにドイツ名優たちの魂を見た  宣戦布告

2012年06月29日 14時55分00秒 | ふつうじゃない映画
 HEY! どうもこんにちは、そうだいでございます~。
 いや~なんか、バランスはあやういですが、いいお天気が続いておりますな。千葉はそんなにひどい雨はしばらく降ってませんね。
 このまま夏になってくれればうれしいんですけど、そうもいかないだろうね! やっぱ梅雨だから。

 あっ、そういえば、この前に足利義昭公の話題をやったかと思ったら、その後タイムリーなことにこんな大ニュースが。


旧二条城西の堀跡発見……規模解明につながる
 (読売新聞 YOMIURI ONLINE 2012年6月28日の記事より)


 戦国大名・織田信長が室町幕府15代将軍・足利義昭のために1569年に築いた旧二条城の一部とみられる堀跡が京都市上京区で見つかり、民間調査会社「古代文化調査会」(神戸市)が28日、発表した。二重に巡らされた堀のうち、内堀の西側にあたる場所という。旧二条城跡は1970年代の別の調査で、北側と南側の外堀と内堀各1か所が見つかっており、同調査会は「旧二条城の規模解明につながる成果」としている。
 調査は、マンション建設に伴い5月から実施。今回発見された堀跡は長さ8メートル、深さ2.4メートルで、最大幅が6.5メートル。西側の堀としては初の出土で、周辺から16世紀後半のものとみられる土師器(はじき)も見つかった。

 旧二条城は足利義昭の居所として建てられ、城郭造りの邸宅だったとされる。その周りを囲む堀は、城郭に多い正方形に近いものとすれば、外堀は約380メートル四方、内堀が約160メートル四方で、約1キロ南西の世界遺産・二条城より一回り小さいサイズだったと推定される。

 当時、宣教師ルイス・フロイスは旧二条城について「内部に狭い堀があり、後ろには甚だ完全に作られた非常に美しく、広い中庭があった。」と記録した。旧二条城は義昭が信長と対立して敗戦した後の1576年に壊され、堀も埋められたと伝わる。現地説明会は30日午前10時から。


 すばらしいですね~。現在ある、徳川将軍家が築城した天下御免の「国宝&世界遺産」二条城ももちろんいいんですけど、できればこっちの足利義昭公の「烏丸(からすま)二条御所」もぜひ再建して……ムリかなぁ~!?
 でも、外堀と内堀の間の距離をずいぶんとしっかりとってありますね。やっぱり、「城郭」というよりは「政庁」として多くの機能をそなえた場所だったんですかねぇ。
 ちなみに、足利将軍家の住んでいる「二条御所」のネーミングは、初代将軍の足利尊氏が住んでいた御所が「二条高倉」にあったことから始まった慣例で、当時は御所が二条通りになかったのだとしても、足利家が住んでいる邸宅は「二条御所」と呼ばれていたんですって。へ~。


 まぁ、そうこうしているうちに6月もおしまいになろうとしているんですが……

 なんか最近、この『長岡京エイリアン』、暑苦しいね。
 なんとなく、やたら熱っぽく語ってるのが続いてるような気もするし、だいいち長い!! 1万字オーバー、アタリマエ~。


 っつうことなんで、今回はできれば気軽にトークできるお題にしたいなぁ、なんて思いました。
 それで選んだのが、最近私がハマりにハマっている、某動画サイトでのあるシリーズだったんですけど……

 ンギャ~!! こっちはこっちで、説明しておきたい情報が多すぎ! チクショウメ~イ☆

 そんなこんなで、結局は今回も資料の説明だけでご勘弁のほどを。
 このシリーズがどうしてそんなにおもしろいのか、その考察は月をまたいで次回に持ち越しで~い。

 そんじゃま、資料をどうぞ!!



総統閣下シリーズ
 (ニコニコ大百科より)

 「総統閣下シリーズ」とは、映画『ヒトラー 最期の12日間』(2004年 監督・オリヴァー=ヒルシュビーゲル)における、ナチス・ドイツ総統アドルフ=ヒトラーを中心とした登場人物たちのセリフに嘘字幕をつけたMAD動画シリーズである。
 ネタ元となっている『ヒトラー 最期の12日間』は、ヒトラーの秘書であったユンゲ女史の証言をもとに、第2次世界大戦末期の1945年4月、ソ連軍の圧倒的物量の前に敗北を待つだけとなったナチス政権首脳陣の真実の姿を鮮烈に描き出したとされる傑作映画である。総統閣下はスイス出身の世界的名優ブルーノ=ガンツ(当時63歳)が演じている。なお、この「総統閣下シリーズ」という名前は、一説によると、「総統閣下が相当かっかしている」さまから名付けられたとか。


総統閣下×けいおん!(そうとう!)
 「総統閣下×けいおん!」(「そうとう!」)とは、アニメ『けいおん!』『けいおん!!』を題材にした総統閣下シリーズである。

概要
 総統閣下シリーズで初めて『けいおん!』がネタにされたのは、登場人物・秋山澪の登場する18禁同人誌に怒った総統がそれらを焼き払うものだった。第1期『けいおん!』が放送された当時、まだそれほど数は多くなかったが、第2期『けいおん!!』が放送されるやいなや多くの動画がUpされた。中には、毎回意趣を凝らした非常にレベルの高い傑作も多く登場し、それまでブチキレる総統閣下ばかりネタにされていた総統閣下シリーズにおいて、閣下の愉快な部下たちやスターリンなど、他の登場人物も注目を集めるようになった。

※特定の動画に他うp主が投稿した動画の話題などを持ち込むことは、控えてください
 たとえば、多くの動画ではスターリンは「あずにゃんペロペロ(^ω^)」だが、下記のわぐさんのシリーズのみ「唯が好き」という設定になっている。このため、「スターリンが好きなのが梓じゃないのはおかしい」などのコメントなど徐々にエスカレートし、一時問題となってしまった(わぐさんの設定の方が先に作られている)。スターリンのみならず、各シリーズによって好みのキャラクターが異なっているので、あくまでパラレルワールドとして考えていただきたい。


人気シリーズの動画

『いつも怒る人のトーク番組 ソウトーーク』
 ビタミンさんのシリーズ。閣下やハゲのみならず、愉快な部下達全員の暴走に定評があるのがこちら。第1作では第2期『けいおん!!』第7話『お茶会!』を見るのに失敗して閣下が怒りだしたため、実質上は第8話『進路!』からが本編になっている。他のシリーズに比べ、『ヒトラー 最期の12日間』の映像はあまり使われていないが、アニメ本編の視聴中ずっと部下達がワイワイ騒いでおり、そのうるささに閣下は総統お怒りになられている。おまけに閣下は、部下達から「アドルフ」「チョビ髭」などと散々な言われようで、はっきり言って総統の威厳はどこにもない。部下の主な特徴としては、大のムギ(琴吹紬)好きのあまり閣下を差し置いて番組を乗っ取るゲッベルス、すぐ下ネタに走るハゲ、口喧嘩になると「ダサいし!」と発言するブルクドルフ、「オンオン!」という空耳でインパクトを与えるクレープス、いつも「夜店のタンメン」を食べたがる律ちゃん隊員のフェーゲラインSS中将、なぜか御坂妹口調のモーンケSS少将などアクの強い連中ばかり。好評につき、現在は少し時間を遡って第1期『けいおん!』の実況シリーズを制作している。
 制作当初は10~15分程度の内容となっていたが、しだいに登場人物それぞれのキャラクターができあがって論争が激化していくにつれて『ヒトラー 最期の12日間』と『けいおん!』『けいおん!!』以外の映像資料も積極的に加えられていくようになり、最長で「33分」という大作(『けいおん!』第5話の鑑賞会)も UPされるようになった。

UP のあゆみ
・第2期『けいおん!!』の第7話から、「日本での本放送の2週間後にベルリンで放送される本編を総統地下壕で鑑賞する閣下たち」という設定でシリーズが開始された。2012年6月時点では、第11話の鑑賞会(2010年6月 UP)からが視聴可能となっている
・2010年9月の第2期『けいおん!!』の放送終了とともに『ソウトーーク』もいったん終了したが、すかさず2010年11月からは、第1期『けいおん!』を鑑賞していた時期の閣下たちを振り返るという内容で UPが再開されている。
・2012年4月まで不定期にシリーズが更新されていて、次回に UPされる予定の第1期『けいおん!』の第11・12(最終回)話の鑑賞会をもって『ソウトーーク』も終了するという予告がアナウンスされている。
・2012年6月時点では、第1期『けいおん!』の第3・11・12(最終回)・14(番外編)話と、第2期『けいおん!!』の第2~6・21話ぶん、そして映画版『けいおん!』の『ソウトーーク』が制作されておらず、『けいおん!!』第7~10話ぶんの『ソウトーーク』は視聴不可能となっている。


その他の人気動画シリーズ
『真鍋和スキー』&『ベルリンオフ会演説』
 わぐさんのシリーズ
『とある総統のけいおん!!』
 antecn さんのシリーズ
『ホメント会議』シリーズ
 うp主のハンドルネームは不明
『50分大長編ランキング』
 奈良両津さん(通称・50分の人)のシリーズ


総統閣下と愉快な部下たち

アドルフ=ヒトラー(1889~1945 演・ブルーノ=ガンツ)
 言わずと知れた総統閣下。真面目な政治ネタから、アニメや日常の些細な出来事に至るまで、いつも何かしらに怒っていなければ気が済まない。
 『ソウトーーク』シリーズでは『けいおん!』の第2話から登場人物・秋山澪(黒髪ストレート・つり目)のファンになっている。
 ベルリンで放送された『けいおん!』第8話と『けいおん!!』第15話で主人公・平沢唯の声優に挑戦して部下たちの不評を買った。
 『けいおん!』『けいおん!!』以外では、『涼宮ハルヒ』シリーズの鶴屋さんと『侵略!イカ娘』のイカ娘が好きらしい。

ハンス=クレープス(1898~1945 演・ロルフ=カニース)
 陸軍大将。いつも閣下から居残りを命じられる4人組の1人で、通称カルピス。総統閣下シリーズの大まかな流れでは、まず彼が話題を提供し、それに閣下が質問を求めると、オロオロと動揺している所を、欠かさず上司のヨードルがフォロー、居残り組以外が退出して閣下がブチキレるという筋書きになっている。動画の大まかな内容の説明役であるため、普段は丁寧口調だが、時々閣下にタメ口で話す事もある。
 『ソウトーーク』シリーズでは『けいおん!』の第1話から登場人物・平沢唯(茶髪セミロングにヘアピン・主人公)のファンになっている。

アルフレート=ヨードル(1890~1946 演・クリスチャン=レドル)
 陸軍上級大将。いつもの4人組の1人で、通称ハゲ。先述の通り、クレープスの説明に補足し、閣下の期待を裏切る真相を伝えて怒りに火をつける役回り。その容貌からたびたび変態キャラにされ、自重しない下ネタコメをすることもしばしば。
 『ソウトーーク』シリーズでは『けいおん!』のキャラクター全員に下ネタをかっとばす万能選手だが、第13話(特別編)あたりから登場人物・中野梓(黒髪ツインテール・軽音部の後輩)のファンになっている。

ヴィルヘルム=ブルクドルフ(1895~1945 演・ユストゥス=フォン=ドホナーニ)
 陸軍大将。いつもの4人組の1人で、通称アンポンタン。居残りを命じられた時に画面からはみ出てしまうため時々その存在を忘れられるが、閣下の八つ当たりにただひとり反論するなどなかなか肝の据わったやつ。クレープスとは仲が良く、酒を飲む時も死ぬ時も一緒。
 『ソウトーーク』シリーズでは『けいおん!』の第7話から登場人物・平沢憂(茶髪ポニーテール・唯の妹)のファンになっている。

ヴィルヘルム=カイテル (1882~1946 演・ディーター=マン)
 陸軍元帥。いつもの4人組の1人で、最年長格。階級が最も高く、立派な口ひげをたくわえた外見とは裏腹に、大人しい性格のため全く目立たない。史実でもお飾りのようなポジションだったらしい。
 『ソウトーーク』シリーズでは『けいおん!』の第2話から登場人物・真鍋和(メガネ・生徒会長)のファンになっている。

ヨーゼフ=ゲッベルス(1897~1945 演・ウルリッヒ=マテス)
 宣伝大臣。「プロパガンダの天才」と呼ばれた、閣下の側近中の側近。いつも閣下に付いている。ドヤ顔で将軍たちをにらみつけ、鉤十字腕章を付けている方の人。閣下が激高するシーンでは喋らないため出番は無いが、それ以外のシーンでは宣伝相の本領発揮とばかりに、閣下に劣らぬ演説を披露。同僚と口喧嘩したり、閣下の秘書のユンゲに愚痴をこぼして泣き出すなど、なかなかネタが豊富。ボケにもツッコミにも使える、総統閣下シリーズきっての逸材である。
 『ソウトーーク』シリーズでは『けいおん!』の第2話から登場人物・琴吹紬(明るい色の髪・タクアンみたいな眉毛)のファンになっている。

ヘルマン=フェーゲライン(1906~1945 演・トーマス=クレッチマン)
 親衛隊中将。キザでイヤミなリア充のくせに、よそで作った愛人と一緒に逃げようとしたため粛清される。総統閣下シリーズでは余計な事を言って始末されるケースが多いが、未遂に終わって助かる事も。
 『ソウトーーク』シリーズでは『けいおん!』の第2話から登場人物・田井中律(茶髪カチューシャ・軽音部長)のファンになっている。

ヴィルヘルム=モーンケ(1911~2001 演・アンドレ=ヘンニッケ)
 親衛隊少将。他の映画では横暴な悪役にされたりもするが、本編『ヒトラー 最期の12日間』では良心的で真面目な軍人として描かれている。礼儀正しく、淡々としたツッコミに定評がある。
 『ソウトーーク』シリーズではなぜか口調がアニメ『とある魔術の禁書目録(インデックス)』の登場人物・御坂妹ふうになっていて、『けいおん!』『けいおん!!』を独自のセンスで再編集するという特異な才能を発揮する。

ヘルムート=ヴァイトリング(1891~1955 演・ミヒャエル=メンドル)
 陸軍大将兼ベルリン防衛軍司令官。無口であまり目立たない老将軍だが、たまに閣僚たちの熱論に参加してヒートアップする。
 『ソウトーーク』シリーズでは『けいおん!』の第2話から登場人物・田井中律のファンになっている。

トラウドゥル=ユンゲ(1920~2002 演・アレクサンドラ=マリア=ララ)
 閣下の秘書。『ヒトラー 最期の12日間』の原作者で、ナチス・ドイツ滅亡の証言者となった。才色兼備の美女だが、閣下とその部下たちに対してはかなり辛辣な毒舌家。特技はタイプライターの早打ち。
 『ソウトーーク』シリーズでは『けいおん!』の第13話で登場人物・田井中聡(中学生男子・律の弟)のファンであることが判明している。

ゲルダ=クリスティアン(1913~1997 演・ビルギット=ミニヒマイアー)
 閣下の秘書。閣下の暴走に呆れ果て、後輩のユンゲに慰められながらいつも泣いてばかりいる人。
 『ソウトーーク』シリーズでは『けいおん!』の第13話に登場する田井中聡のイケメンな友達(中学生男子・名前がない)のファンであることが判明している。

エヴァ=ブラウン(1912~1945 演・ユリアーネ=ケーラー)
 閣下の愛人……とは名ばかりで、当の閣下は2次元のアニメキャラを嫁にしたがっているため、身も蓋もない立場に追いやられている。それでも閣下を見捨てぬ健気な女性。それもあってか、怒ってばかりの閣下も彼女だけには思わずにやけた顔を見せる事もある。
 『ソウトーーク』シリーズでは『けいおん!』の第13話で登場人物・田井中聡のファンであることが判明している。

マグダ=ゲッベルス(1901~1945 演・コリンナ=ハルフォーフ)
 ゲッベルス夫人。閣下にすがりついて号泣するおばさん。腐女子にされるケースが多い。
 『ソウトーーク』シリーズでは、『けいおん!』『けいおん!!』のために家族を一切かえりみない夫に悩み、シュペーア大臣と不倫関係になったことがある。

カール=コラー(1898~1951 演・ハンス=シュタインベルク)
 空軍参謀長。シリーズ全般で閣下の抗議電話に対応するのがこの人。閣下の怒りを華麗にスルーするスキルの持ち主で、時々、逆に閣下を挑発しているのでは?と思える発言が見受けられる。
 『ソウトーーク』シリーズでは『けいおん!』の第13話で登場人物・鈴木純(クセっ毛ツインテール・憂のクラスメイト)のファンであることが判明している。

マルティン=ボルマン(1900~1945 演・トーマス=ティーメ)
 ナチス党官房長。ゲッベルスと共に、後方で待機して閣下の話を聞いている太った方の人。末期のナチスの牛耳った大物だが、総統閣下シリーズではこれといった活躍もなく、ただいるだけの存在。

ヘルマン=ゲーリング(1893~1946 演・マティアス=グネーディンガー)
 帝国元帥。会議中、閣僚達の言い争いを聞きながら腕時計の時間を気にしているが何もしゃべらない。見るも無惨な肥満体。
 『ソウトーーク』シリーズでは『けいおん!』の登場人物・山中さわ子(ロングヘアにメガネ・軽音部顧問教師)のファンらしい。

アルベルト=シュペーア(1905~1981 演・ハイノ=フェルヒ)
 軍需大臣。数少ない常識人で、ユンゲから閣下の状況を聞いて呆れかえっている。

ハインリヒ=ヒムラー(1900~1945 演・ウルリッヒ=ネーテン)
 親衛隊長官。ユダヤ人大虐殺「ホロコースト」を行った元凶であり、ある意味閣下以上の戦犯。フェーゲラインに後始末を全て押しつけて逃亡、閣下の怒りを買う。
 『ソウトーーク』シリーズでは『けいおん!』『けいおん!!』にはさほどの興味はなく、『涼宮ハルヒ』シリーズの朝比奈みくるのファンらしい。ドッキリ企画でアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』の主人公・鹿目(かなめ)まどかのコスプレをしたことがある。

フェリックス=シュタイナー(1896~1966)
 親衛隊大将。閣下がマジギレした本当の理由は、彼が率いる兵力がほとんど残っておらず、ベルリン市街を援護する力を失っていた(つまり孤立無援になった)事を知ったため。実は映画本編に全く登場していないのだが、以上の理由から総統閣下シリーズではかなりの重要人物。とは言え、閣下からCDやDVDなどのアニメグッズの買い物を押しつけられたり、嘘字幕ではロクな扱いを受けていない。

ヨシフ=スターリン(1878~1953)
 ソビエト連邦の第2代最高指導者にして、閣下最大の宿敵。物語の舞台がベルリン市内だけなので基本的に直接は登場しないが、嘘字幕では欠かせないキーパーソン。嫁論争など、くだらない理由で閣下率いるナチスと戦争しているネタも数多くあり、本当はお前ら仲が良いんじゃないか?と思いたくなる節もある。
 『ソウトーーク』シリーズでは『けいおん!』の第9話から登場人物・中野梓のファンになっていて、『けいおん!』『けいおん!!』の話題に限ってはモスクワで閣下と一晩中語り明かしたほどの友好関係を築いている。


主な空耳一覧
 閣下以外の空耳は、()内にその人物名を記した。

「アンポンタン」「ボルシチ」「あ痛たたたたた!はふん!」「大嫌いだ!」「バーカ!」「ちくしょーめ!」「ガンバレ」「HEY!」「運、足らんかった」「おっぱいぷるんぷるん!」「うんたん♪」「コラッ」「青二才」「日村」「アーッ!嫌イヤイヤイヤイヤーッ」「ドーン!」「ちょー!エロいかも」「待ってってば!」

「パン食う?」「おんおん!」(クレープス)
「やめて!」「夜店のタンメン」(フェーゲライン)
「ダサいし!」(ブルクドルフ)
「煮ます!」(カイテル)


動画の削除について

 このようにニコニコ動画で大変人気のある総統閣下シリーズは、日本だけの現象ではない。ヒトラーがいろんなものにマジギレするという意外性から世界的で流行しており、YouTubeではさまざまな言語の嘘字幕の付いた動画を数多く見ることができる。しかし著作権者の目に余ったのか、YouTubeでは2010年4月頃から目立つ動画が次々と消されていった。しかし、削除される動画とされない動画の基準は不明で、総統閣下シリーズは今もYouTubeに多数残っている。

 その削除の波は、約1年遅れの2011年4月頃になってようやくニコニコ動画にも押し寄せてきたようである。この「第1次削除大戦」では約1ヶ月に渡り、実に800近くの動画が削除され、総統閣下シリーズの衰退を予感させた。
 そして2011年8月に再び「第2次削除大戦」が開戦し、まだまだ戦争は続くと思われるので注意が必要である。



『けいおん!』『けいおん!!』について

 『けいおん!』とは、男性マンガ家・かきふらいによりマンガ雑誌『月刊まんがタイムきらら』(芳文社)などで2007年4月~2010年9月および2011年4月~2012年7月に連載されていた、女子学生のガールズバンドを題材とした「空気系」ストーリー4コママンガと、それを原作としてメディアミックスで製作されている作品の総称。2003年からマンガ家として活動しているかきふらいにとっては初の連載作品となる。

 マンガ『けいおん!』を原作としたアニメ作品は、2009年4~6月に TBS系列の深夜時間帯で放映された第1期(全12話+番外編2話)が『けいおん!』で、2010年4~9月に同局で放映された第2期(全24話+番外編3話)が『けいおん!!』となっており、タイトルの「!」の数が変わっている。ともに監督は山田尚子、制作は京都アニメーション(通称・京アニ)。
 第2期『けいおん!!』の続編となる内容の映画『けいおん!』(監督・山田尚子)も2011年12月に公開された(興行収入19億円)。

 廃部寸前の私立・桜が丘女子高校軽音楽部で4人の生徒たちがバンドを組み、ゼロから部活動を始めていくストーリー。途中から新入生が加わり5人となった。軽音楽部の結成からメンバー4人の大学進学までの3年間の部活動を描く。『まんがタイムきらら』2010年10月号への掲載をもっていったん連載を終了。
 その後、『まんがタイムきらら』2011年5月号より唯・澪・律・紬の卒業生4人の大学進学後を描いた「大学編」となって連載を再開し、同時に『まんがタイムきららキャラット』2011年6月号より梓・憂・純の在校生3人を描いた「高校編」の連載が開始された。大学編は『まんがタイムきらら』2012年7月号(唯・澪・律・紬の大学1年での大学祭ライヴ)で、高校編は『まんがタイムきららキャラット』2012年8月号(梓・憂・純の学園祭ライヴ終了後の軽音部卒業)でそれぞれ連載終了した。単行本は現在4巻まで発売されている。
 本格的なバンド活動の描写よりも、メンバーたちののんびりとした日常を描写することに視点が置かれている「空気系」作品。
 2009年4月から TVアニメの放送が開始されると、作中に登場する楽器や関連楽曲にも注目が集まるなどの大きな反響が起こり、第2期の放映や映画化などを含めて社会現象ともいえる大ブームとなった。

主なキャスティング
平沢 唯   …… 豊崎 愛生(あき 『めだかボックス』黒神めだか役など)
秋山 澪   …… 日笠 陽子(『妖狐×僕SS 』雪小路野ばら役など)
田井中 律  …… 佐藤 聡美(『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』田村麻奈実役など)
琴吹 紬   …… 寿 美菜子(『夏色キセキ』逢沢夏海役など)
中野 梓   …… 竹達 彩奈(『この中に1人、妹がいる!』国立凜香役など)
山中 さわ子 …… 真田 アサミ(『さよなら絶望先生』常月まとい役など)
平沢 憂   …… 米澤 円(まどか 『Another 』赤沢泉美役など)
真鍋 和   …… 藤東 知夏(ふじとう ちか)
鈴木 純   …… 永田 依子
田井中 聡  …… 伊藤 実華



 ひえ~、今回も長い、長い、長すぎよ~!

 詳しいお話はまた次回にしますが、ハッキリ言って、私は『けいおん!』ブームにはまったくのれなかった人間でした。したがいまして、この『ソウトーーク』をもって初めて『けいおん!』にふれたくらいだったのです。

 だからこそ断言しましょう。
 『ソウトーーク』はもう、独立したひとつの作品としておもしろい!! これを『けいおん!』ファンだけに独り占めさせるのは余りにももったいなさすぎる。

 そしてその魅力の根底には、『けいおん!』への愛もさることながら、『ヒトラー 最期の12日間』の数々の名シーンをいろどるドイツ最高峰の名優たちのハイレベルな演技合戦。そこへの作者・ビタミンさんの限りない敬意を込めた愛も、欠かせない要素として厳然と存在していたのであります。

 そんなこんなで、具体的なあれこれは、まったじっかい~。今年の7月もアツくなりそうです……


 こんなに代替不能なオリジナリティにあふれている『ソウトーーク』を、ただのオタクしろうとのパロディ作品だとかたづけて観ようとしないなんて、DA ☆ SA ☆ I ☆ SHI !!!
コメント
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