がん放置とか薬は害毒とかのたぐいの本をほぼ信奉していた、かつ折り目正しい知人(70代)が、年賀状を欠き、様子を尋ねる電話には明るい声で元気だと答えた。
愛娘(40代)が急性のがんで、緊急手術を受け入れ、今は抗がん剤の変更がないことを祈るだけだという。調査能力も人脈も豊かなひとだから秀逸な医師との連携による適切な対処であろうと想像する──命のかかる判断に期限をつけられることのきつさは想像に余る。
人生を延ばすための、死期を早める可能性を含む治療の選択。
話は少し違うことになるのかもしれないが、元気でぼっくりが理想と年配者の多くが言う。認知症にはなりたくないとも言う。その一方、認知症の人はがんにならない、と、二、三の人から聞いた覚えがある。そんなばかな、と私は思ったが私は知らない。
がんに痛みがなければどうなのだろう。
看取りを重ねてきたグループホーム管理者は、淡々と言う。認知症のひとは痛みがわからないの。
あなたも知ってるよね、Aさん。入所されたときに緩く進行中の乳癌に罹患していた。左胸をじかに見れば誰しも認識できたものだった。数年後に看取るまでに、皮膚面レベルでは痕跡程度になっていた。と。