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司令塔後部 サブ・ファクトIII〜シカゴ科学産業博物館U-505展示

2023-05-12 | 軍艦

歴代艦長のエンブレムの話から、
第二代艦長ペーター・ツェッへ中尉の悲惨な自死にそれてしまいましたが、
気を取り直して、「サブ・フェクト」三日目をお送りします。

今日はU-505の司令塔、コニングタワー周辺についてです。
ここは他でもないそのツェッヒ中尉が自決をした現場なのですが、
ほとんどの展示と同じく、司令塔は公開されていません。

■ 艦体の銃痕



黄色い丸で囲まれた部分、そのほかにも
点々とU-505の艦体にはアメリカ軍から受けた銃弾の痕が確認できます。



赤い丸で銃痕を囲んでおきました。

爆雷によってU-505が浮上したあと、
タスクフォースの駆逐艦3隻が一斉に弾丸を発射し、
同時に戦闘機が50口径の航空機中で射撃を行いました。

最初からできるだけ完全な形で捕獲することが目的であり、
攻撃で沈むようなことがあっては元も子もないので、
司令官、ダン・ギャラリー大佐は、艦体に大きな穴を開けないように
対人弾薬のみを使用することを命じたということです。

人はどうなってもいいからボートに大きな穴開けるなですかそうですか。

赤丸で囲んだところを見ていただくと、銃痕の大きさが
20ミリ、40ミリ、50口径と3種類確認できます。
(司令塔上側は20ミリ、その他は40か50口径)



対人弾薬ってこんな強力なものなんですね。
てか、本当に対人弾薬しか使ってないの?

■デコイ



連合国のレーダー技術が進歩するにつれ、
ドイツ軍はレーダーデコイを配備し対抗するようになりました。

レーダーデコイは風船や浮きブイで展開され、
レーダー波を反射すると浮上したUボートに見えるよう設計されていました。

使用されるタイプによって、標準的な魚雷発射管から発射されるか、
デッキで手作業で組み立てられるかのいずれかでした。

多くのUボートが30個ものデコイを搭載していました。

デコイ作戦が始まると、潜水艦はデコイを放出したのち
素早く駆逐艦の動きと反対方向に移動して脱出をします。

この図では「A」「B」で記されているところにデコイがあります。


【A アフロディーテ・デコイ
Aphrodite Decoy】



よくわからんのですが、多分黄色い丸で囲んだ部分、



これがアフロディーテという美の女神的なデコイ製造機のようです。



”アフロディーテ発射!”(厨二的だのう)の図

1943年9月に配備されたアフロディーテ・デコイとは、
なんのことはない直径約25インチの大きさのゴム風船で、
水面上に浮かび、浮き筏で海面に固定された状態で漂いました。

ラインの長さは50メートルで、ラインには
レーダー反射板として3枚のアルミホイルが取り付けられていました。

一般的に、装置は上甲板で組み立てる必要があり、
そこで水素を充填した缶で風船を膨らませていましたが、
U-505の場合は、このバルブから甲板の下のタンクに貯蔵された
水素ガスを使用して風船を膨らませていました。

バルーンからぶら下がるアルミホイルのストリップが
ちょうど水面の近くに垂れ下がると、連合国のレーダーは
これを浮上したUボートと検出して、だまされてくれるというわけです。

展開後のバルーンの寿命は3〜6時間といったところでした。

ちなみになぜアフロディーテなどという名前かわたしなりに考えたのですが、

アフロディーテ=アプロディーテ=Ἀφροδίτη
=泡の女神

であり、泡(アプロスaphros)から生まれたのち、
西風(ゼフィルス)が彼女をキュプロス島に運んでいった、
という起源を、泡(ガスですが)で水に浮かぶ様子とかけたのかも・・。

まあ、いずれにしてもデコイを開発した人が、ロマンチストで
なかなかの詩人であったことが窺い知れますね。


【B BOLD キャニスター】

艦体の写真を何度も見たのですが、それらしいものは見つからず。

U-505の場合は、後部魚雷室のトイレにある
「Pillenwerfer(ピル)  Port」から投入されていました。



綴りも「bold」「bolde」と2種類あって
どちらが正解かわかりませんが、とにかくソナーデコイの種類です。

これは直径3.9インチほどの金属製の容器の中に、
海水と混ざると大量のガスを発生する水素化カルシウムを入れたもので、
特殊なチューブから発射され、放出されると
海水が特殊なバルブに染み込み、化学物質と反応します。

このバルブが開閉することで、水素が泡を発生するので、
約20~25分で化合物が枯渇するまで、キャニスターは一定の深さに留まり、
ソナーなどの水中探知機では、この泡の雲は
水没したUボートと誤認
されることができました。

しかもこれ、ソナーオペレーターがよっぽど熟練していない限り、
実際のターゲットと区別することは、ほぼ困難だったそうです。

連合国はこれを「潜水艦バブルターゲット」(SBT)と呼んでいました。
BOLDは1942年以降、広く使用され、終戦まで改良を続けていましたが
最後のものはBOLD 5で、水深200mまでの使用を想定するものでした。

U-505がタスクグループに捕捉された時、
ボールドデコイを多数放ちましたが、この時の米軍は騙されませんでした。

デコイが装備され始めた頃、連合国側はかなり混乱し、
Uボートがレーダー・デコイを使って追っ手を振り切ることに
成功したことも少なからずありましたが、
この頃は対抗策は十分に開発されていたのかもしれません。

Uボートの使用したデコイには他に次のようなものがありました。

【ジークリンデ Sieglinde】

Uボートの側面に設置され、かなりの距離まで射出することができた

電気モーターを搭載しており、6ノット(時速11km、6.9mph)で移動し、
周期的に上昇または潜行することで、実際の潜水艦の動きを模倣した


これにより、本物のUボートは追撃してくる艦船から逃げることができた

通常、ピレンヴェルファー(またはボールド)デコイ
と組み合わせて使用された

「ジークリンデ」はドイツではよくある女性名ですが、
やはりわたしはワーグナーの「ワルキューレ」を思い出します。

もしこの名前を取ったとすれば、彼女は人妻でありながら
そうと知りながら双子の兄ジークムントとの間に子供を作ってしまい、
夫から彼を逃したというところが命名のポイントかと思います。

さすがはドイツ、武器にワーグナーの楽劇の登場人物の名前をつけるとは。


【ジークムント Siegmund】

耳をつん裂くような爆音を連続して発するたいソナー装置で、
敵の聴音機をブラックアウトさせることを目的としていた
Uボートはこれを鳴らすや否や、短時間の間に逃走することができた


というわけで、このジークムントという名前があることからも、
ジークリンデは間違いなく「ワルキューレ」から取られており、
こちらもジークリンデの双子の兄から取られているとわかりますね。

ジークムントは早めに死んでしまうので、
単に「ジークリンド」の双子の兄というだけでつけられたかと。

【テティス Thetis】

1944年2月に就役

浮遊ブイ、金属板、鋼管で構成されたやや小さな帆のような形のもの
魚雷発射管から発射することができた

一度に数ヶ月間浮遊させることができるため、戦略的意図としては、
各Uボートがビスケー湾を横断する際にこのデコイを放ち、
連合軍のASW部隊を混乱させることが期待された


ここまできたらテティスもそれなりの意味があるはず。
と思って調べたところ、Thethisはギリシャ神話の「海の女神」でした。

かつて彼女は、夫ペーレウスの間にできた子供の不死性を確かめるため
赤子を水の満ちた大釜に投じては溺死させる
というDQN行動ですっかり夫から距離を置かれていたのですが、
ペーレウスがアルゴー船の冒険に参加したとき、
ヘーラー(誰?)に説得され、彼と子供(DQN行動で生き残った唯一の子)
の乗った船を荒波と岩礁から救ったという話がありました。


というわけで、航空攻撃から逃れるため、
その技術力と信頼を厨二病満載のネームにこめたデコイを装備し、
当初はそれなりに効果を上げていたUボート軍団ですが、
その頃連合国は新しい空中レーダーASV Mark IIIを導入しており、
デコイのシグネチャーには全く反応しなくなっていたため、
ドイツ軍は、この取り組みが完全に時間の無駄だったことを悟りました。

Radar, Air-to-Surface Vessel, Mark III 
(ASV Mk.III)

は、第二次大戦中にRAFが使用していた水上捜索レーダーシステムで、
1943年春から終戦まで、沿岸司令部の主要レーダーとして活躍しました。

RAFがレーダーを使ってUボートを探知していることに気づいたドイツ軍は、
1942年夏、Metoxレーダー探知機を導入しました。

これにより、潜水艦が航空機のレーダーに表示されるよりもずっと前に、
航空機の接近を警告することができるようになります。

秋口には、潜水艦が近づくと消えてしまうという報告が頻発し、
すぐさまこれに気づいた英国空軍は、
新しいマイクロ波で動作するASVを開発しMk.IIをIIIに置き換えていきました。

同時期に導入された他の対潜技術も相まって、
1943年の晩春にはUボートの損失が急増していきました。
ドイツ軍がイギリスの新しい武器の功績に気づいた時には、
Uボート部隊はほぼ壊滅し、大西洋の戦いは最終局面を迎えていました。

1943年10月にはマイクロ波探知機ナクソスが導入されましたが、
感度はメトックスに遠く及ばず、ほとんど影響を与えませんでした。


■ 司令塔後部



さて、さくさくと次に進み、次に
司令塔の後ろ側にあるものを紹介していきます。



わかりにくいので日本語で図を作り直してみました。

【対空砲】



航空機は潜水艦の天敵です。

なんなら同じ海軍の中でも、航空機と潜水艦は天敵同士だったりします。
これは模擬演習などで戦ったりする関係で自然とそうなるようです。

いわんや敵味方においてをや。

潜水艦にとって、航空機の恐ろしさは、駆動の素早さの違い。
安全に潜水する前に攻撃を加えてくることです。


というわけで、U-505にも浮上した時に航空機と戦うため
3門の対空銃が装備されていました。


 twin 2 cm FlaK 30 AA guns

2センチ砲(ドイツはインチではない。清々しい)の発射速度は毎分240発。


3.7センチ自動砲FlaKは毎分50発連射できました。
FlaKはFlugabwehrkanone、ドイツ語で対空砲のことです。



射撃手ができるだけ素早く発砲できるように、銃座の近くに
耐圧性(水に潜るので)の弾薬貯蔵容器が配置されていました。

この写真に写っているかどうかは自信がないので言及しません。

【フリー・フラッド・ポート】



フリーフラッドポートFree Flood Portは、Uボート特有の仕組みなのか、
アメリカ海軍の潜水艦では見たことも聞いたこともありませんが、
直訳すると「洪水しないようにするポート」という意味なので、
水&空気抜き穴といったらいいいでしょうか。

ボートが浮上または潜水した後、とじ込められた水と空気を
メインデッキの下部分から素早く排出するための穴だそうです。


この写真があったので、これがそのフリー・フラッド・ポート(かもしれん)

この仕組みはトリミング、あるいは艦体を水平にするために役立ちます。

潜航する際はつねにボートは「トリム(ツリム)」を行いますが、
ツリムが良好とは、浮力と重量が一致し、
前後左右の釣り合いが取れているという状態です。



大体その辺の艦体図を上げておきました。

【司令塔の変更】


戦争が激化するに従い、ますます激しさを増す連合軍の空の脅威に対し、
ドイツ海軍はより一層の防御を重ねていきます。

U-505の司令塔前方にはもともと10.5センチ甲板砲がありましたが、
これは取り除かれて新しく対空砲に置き換えられました。

ますます高まる火力の必要性に対応するために、
司令塔自体も何度も再建が重ねられていきます。



何の説明もありませんが、この2枚の写真がもし
同じ潜水艦の使用前使用後だとすると、
それはかなりの改装が加えられたことがわかりますね。



続く。




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4 Comments

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フリー・フラッド・ポート (お節介船屋)
2023-05-13 10:12:38
フリー・フラッド・ホールとも言われ、図に示された白いスリットが船首尾に並んでいます。この白い二つだけでなく船首部方向に並んでいるスリットです。両舷にあります。

メインバラストタンクの空気を素早く抜いて潜航するため舷側両舷に数多く設置してあります。

甲板部の上部構造物内の空気は甲板の木板がすのこにしてあり、潜航で素早く抜けます。

現代の潜水艦でも舷側にロシア、中国の潜水艦に数多く見られますが、西欧や日本の潜水艦は長い形状で水の流れを阻害しないような形状となっています。

2次大戦までは急速潜航が日常茶飯事で素早く空気を抜いて所在が分からない様にする必要がありましたがこのスリットを短く数多く設置しますと縦桟等が潜航航行で水の流れを阻害し、渦が出来たり甚だしい場合は潜水艦が一番嫌う音が発生したりします。
フリー・フラッド・ポートの形状は現代は十分水がスムースに流れるよう考慮され渦や音がしないような形状で少なく設置されます。

>この写真があったので、
この写真は蓋が付いており、中に取っ手の付いたこし器のようなものが設置してあり真水か燃料の搭載口のように見えますが回りをグレーチングで保護してあり違うかもしれません。フリー・フラッド・ポートではありません。
返信する
12.7㎜機銃 (お節介船屋)
2023-05-13 10:32:57
>同時に戦闘機が50口径の航空機中で射撃を

米海軍はF4F,F6F,F4U戦闘機全て12.7㎜機銃6門でした。
またSBD,TBF攻撃機も主翼に固定の12.7㎜機銃2門と可動式の7.6㎜旋回機銃を後部に、SB2C攻撃機は主翼に固定20㎜機銃2門と旋回可動式12,7㎜機銃を後部に装備していました。

参照海人社「世界の艦船」No291
返信する
対物弾薬 (Unknown)
2023-05-14 06:08:01
>銃痕の大きさが20ミリ、40ミリ、50口径(12.7ミリ)と3種類確認できます。

一般的には「対人」弾薬は5.56ミや7.62ミリ(小銃弾)と9ミリ(拳銃弾)までで、12.7ミリ以上の口径は「対物」(戦闘車両や航空機、掩体等構造物が対象)弾薬なので「20ミリ、40ミリ、50口径」は対人弾薬ではありません。

「対人」弾薬の有効射距離は200メートル程度で、潜水艦を水上艦や航空機から撃つには射程不足なので「20ミリ、40ミリ、50口径」弾を使ったのだと思います。U-505も対空戦闘用に20ミリと37ミリを積んでいるようですね。
返信する
対空機銃 (お節介船屋)
2023-05-16 15:08:08
>ますます高まる火力の必要性に対応するために、
>司令塔自体も何度も再建が重ねられていきます。
ⅨC型は建造時10.5㎝砲1基、37㎜単装機銃1基等でしたが1942年以降対空脅威に対抗するため砲は撤去し、セイル後部を増設して20㎜連装機銃を増備しました。
37㎜単装機銃をセイル後部から後方に大型銃座設置移動し、37㎜機銃のあった位置に20㎜連装機銃2基を設置しています。
1942,43年以降はこの組み合わせが多かったようです。

Ⅶ型も8.8㎝単装砲1基、20㎜単装機銃1基から同じく砲撤去、37㎜単装機銃1基、20㎜連装機銃2基に変更されこれが標準となりました。

なおレーダー、逆探装備、シュノーケル装備等もあり、セイル形状も変更されたりしました。
ただセイルが大きくなり潜航秒時が悪化し、艦首部の上部構造物を狭めたりして改善を図った艦もありました。

参照海人社「世界の艦船」No926
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